常磐線利根川橋梁架け替え工事(2013年9月9日取材)

利根川橋梁を渡るE531系

常磐線利根川橋梁は老朽化に伴い、現在架け替え事業が進められています。先日、JR東日本より12月に上り線の新橋梁への切り替えを実施することが発表されました。今回は9月上旬に調査した現地の様子と、12月の切替工事の概要についてを合わせてお伝えします。

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常磐線利根川橋梁の現状と架け替えの概要



 現在の常磐快速線利根川橋梁(全長964m)は1958(昭和33)~1963(昭和38)年に利根川の治水事業に伴い架け替えられた4代目のもので、架橋から半世紀以上の年月が経過しています。このうち、上り線の橋梁の中央を構成するトラス橋は、1920(大正9)年に架設された物を補強・流用したもので、製作されてから実に90年以上もの年月が経過しています。このため、橋桁には老朽化に伴う疲労亀裂などの損傷が多数発生しており、補修が繰り返されています。
 また、高水敷(河川敷)に架かるガーター橋の橋脚は、原地盤に直接基礎を置く形となっているため完成以来沈下が続いており、これまで数度桁のかさ上げが行われているほか、大規模地震時に液状化による橋梁全体の倒壊も危惧されています。(2011年3月の東日本大震災では幸い大きな被害は無かった。)このように、常磐快速線の利根川橋梁は継続使用が困難な状態となっていることから、JR東日本は全面的な架け替えを行うことを決定し、2009(平成21)年11月より工事が開始されました。

新橋梁の位置
新橋梁の位置

 新橋梁は隣接する緩行線の橋梁と現在の橋梁の間に架設されます。新橋梁の橋桁は緩行線と同じ上下線が一体となった複線トラス橋で、騒音防止と強風対策のため閉床式(有道床)桁となる計画です。橋脚は河川全体の阻害率を5%未満にすることが条件とされたため、緩行線より3径間少ない9径間のスパン割とし、設置位置は緩行線の橋脚と流路方向に対して同一線上に配置されています。
 なお、新橋梁の予定地は明治時代の橋梁があった場所で地中にはその基礎の一部が残存していますが、河川内で作業ができるのは渇水期となる11~5月の7ヶ月間しかありません。このため、新橋梁の橋脚基礎は旧橋脚基礎を取り囲むように杭や矢板を配置し、残存物の取り壊し量が極力少なくなるよう配慮されています。
 新橋梁と既存の線路を接続する両側のアプローチ部分は上野側が盛土+コンクリート製高架橋を新設、取手側が既存の盛土を改良することになっており、特急列車でも速度制限がかからないよう130km/hで走行可能な線形となる計画です。
 工事のスケジュールは2009(平成21)年から延べ10年間で予定されており、具体的には以下のようになっています。

2009年4月~:準備工事(完了)
2009年11月~2010年5月(第1渇水期):橋脚施工(完了)
2010年5月~:上野方アプローチ部分の建設開始(2012年11月まで)(完了)
2010年11月~2011年5月(第2渇水期):橋脚施工+高水敷の橋梁架設(橋脚完成部分)(完了)
2011年11月~2012年5月(第3渇水期):高水敷の橋梁架設(完了)
2012年2月~:軌道敷設・電気設備施工(完成した部分から)(進行中)
2012年5月~2013年3月(出水期):・低水敷の橋梁架設(トラベラークレーン使用)(完了)
2013年秋:上り線切替
2014年秋:下り線切替

切替~2019年:旧橋梁撤去



2013年9月9日の状況

取手駅側から見た常磐線利根川橋梁。
取手駅側から見た常磐線利根川橋梁。
(同じ場所の2010年9月5日/2012年7月28日の様子)

※クリックで拡大(1000*750px/138KB)

 昨年7月調査時に未完成だった低水敷(流路部分)のトラス桁は全て繋がり、橋梁本体は予定通り全て完成しました。桁の仮設に使用していたクレーンや足場などは全て撤去されており、橋梁上では昨年完成した部分から開始されていた軌道敷設が完了し、架線や信号設備の設置作業が進められていました。

新橋梁は両側が防風柵で完全に覆われている。
新橋梁は両側が防風柵で完全に覆われている。
(左の写真と同じ場所の2010年9月5日/2011年9月18日/2012年7月28日の様子)


 以前、河川を渡る長大鉄橋は温度変化による伸縮に対応するため、鉄桁の上に直接まくらぎとレールを置き、継ぎ目を多数設けることが一般的となっていました。この形式では線路が剥き出しであるため、激しい騒音が発生することや、強風時に線路の下から風が吹き上げるため、運転規制が発生しやすいといった欠点がありました。
 最近では継ぎ目の改良などが進み、長大なトラス橋上でもバラスト軌道やコンクリートの直結軌道を敷設することが可能になっており、近隣にあるつくばエクスプレス線の橋梁などで採用例があります。常磐線の新橋梁でもこの構造が取り入れられており、橋梁上はコンクリートの直結軌道(取手駅寄りの一部はバラスト軌道)となっています。さらに本橋梁では、橋梁の両側が防風柵で完全に覆われており、強風に対して万全な対策がなされています。

上野方の新旧接続部分。新上り線の軌道敷設がほぼ完了済み
上野方の新旧接続部分。新上り線の軌道敷設がほぼ完了済み。(同じ場所の2012年7月28日の様子

 上野方の橋梁取り付け部分は、現行の快速線と緩行線の間に新たに高架橋が建設されます。前回訪問時この部分で派高架橋の柱や床の建設が進められていましたが、今回この部分は軌道敷設まで完成し、信号設備や架線の設置が進められていました。上り線の新旧接続地点は、現在線が橋梁に向かってS字にカーブし始める所で、12月から使用される途切れたレールが敷設されているのが確認できます。新しい取り付け高架橋は現在線よりもカーブが緩くなっており、特急列車は最高速度(130km/h)での走行が可能となります。

快速線上り取手駅ホームの中央付近。新橋梁切替後は直線になる。
切替に備えて、上り線上野方の軌道はバラスト軌道に改修された。 駅構内は切替後に使用する新しい架線が設置済み。
上:快速線上り取手駅ホームの中央付近。新橋梁切替後は直線になる。
左下:切替に備えて、上り線上野方の軌道はバラスト軌道に改修された。
右下:駅構内は切替後に使用する新しい架線が設置済み。


 常磐快速線は取手から先が交流電化となるため、取手駅で折り返す列車が多数設定されており、快速線ホームは外側2線を本線とした島式ホーム2面4線となっています。上野側は駅への取り付け区間を強引に陸地内に押し込んだ形となっており、特にカーブがきつい上り線は75km/hという低速での走行を余儀なくされています。新橋梁ではこの急カーブを解消するため、駅への取り付け区間を橋梁上にも延長しており、速度制限はかからない線形となる予定です。
 現状の上り線の急カーブは取手駅ホームの途中から始まっており、ホームもそれに合わせて上野側の端がカーブしていますが、新橋梁切替後はこれが直線に近い形に変わります。取手駅構内の快速上り線(3番線)の軌道は幅広のPCまくらぎを使用した特殊な直結軌道となっていましたが、線形が変わる区間については今回線路の移動に備えてバラスト軌道に改修されました。取手駅構内の上り線にはこのほかに切替後に使用する架線も設置済みとなっており、現在は高さ調整可能なブラケット(固定用のボルト穴が複数開いた金具)を使用して高い位置に仮止めされています。

取手駅上野方の様子。緩行線は日中は我孫子止まりであるため、線路閉鎖をして作業スペースとして利用している。 浜街道架道橋は橋台の一部を流用して桁が載せかえられた。
左;取手駅上野方の様子。緩行線は日中は我孫子止まりであるため、線路閉鎖をして作業スペースとして利用している。
右:浜街道架道橋は橋台の一部を流用して桁が載せ替えられた。


 取手駅の端から橋梁までの間は12月の新橋梁切替時に上り線の位置が大幅に変わります。この部分には道路をオーバークロスする架道橋(浜街道架道橋)があります。新上り線の予定地にはこれまで1980年代に設置された保守側線用の単線幅の合成桁(鉄骨とコンクリートの複合桁)が架かっていましたが、上り本線と副本線(3番線と4番線)の合流地点が橋梁上に移動するため、桁を複線幅にする必要があり、そのまま流用することはできませんでした。そのため、昨年末から今年春にかけてこの桁を撤去し、複線幅の新しい桁に交換されました。桁を両端で支える橋台はまだ新しかったため、一部を切り取りって新しい桁に合う形状に改築した上で流用されています。
 浜街道架道橋の改築完了後はその上で軌道敷設や電気設備の設置工事が進められています。工事は常磐緩行線の線路に近接して行われていますが、緩行線の我孫子~取手間は平日・休日とも日中は列車が運行されないため、線路閉鎖を行い、緩行線の線路内にも作業エリアを拡張して工事が実施されています。

12月8日に上り線を新橋梁に切り替え

 このように常磐線利根川橋梁架け替え工事は順調に進捗していることから、来る2013年12月8日(日)に上り線を新橋梁への切り替えることが発表されました。切替工事が行われる12月7日(土)夕方から8日(日)の早朝にかけて常磐快速線・緩行線に以下のような運転変更が発生する予定です。

12/7・8の常磐線運転変更の概要
12/7・8の常磐線運転変更の概要

●常磐快速線
12月7日
17:30頃~終電の間、我孫子~取手間で運休し我孫子駅・取手駅で折り返し運転
(最終特急列車は上りがフレッシュひたち45号(上野発17時30分)以降、下りがフレッシュひたち52号(上野着18時07分)以降の全列車)
藤代駅に22:10以降到着する列車は藤代駅折り返しとなり、取手~藤代間はバス代行
22:10以降、終電までの間に取手駅始発の下り列車を4本運転

12月8日
初電~5:40頃の間我孫子~取手間で運休
取手以北の列車は初電から通常運転
上り列車の一部をバス代行

●常磐緩行線
12月7日
運休する快速線の代替として代替として17:30頃~22:10頃の間我孫子~取手間で増発・延長、22:10頃~終電の間我孫子~取手間で折り返し運転

12月8日
同じく初電~5:40頃の間我孫子~取手間で増発


2010年より調査を続けている常磐線利根川橋梁架け替え工事ですが、いよいよ完成の第一段階を迎えることになります。上り線切替後は速やかに再調査をする予定ですので続報をお待ちください。



▼参考
吉川・滝澤・水野・土屋 - 常磐線利根川橋梁改良(計画) - 日本鉄道施設協会誌2010年7月号50~52ページ
常磐快速線利根川橋りょう改良その1工事を受注 - 東鉄工業株式会社トピックス(PDF)

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