京成押上線高架化工事(2013年11月23日取材)

京成曳舟駅新上り線ホーム

京成押上線では墨田区内の押上~八広間と葛飾区内の四ツ木~青砥間で高架化工事が進められています。このうち、墨田区内の区間では高架橋本体の工事が進められており、昨年8月24日に京成曳舟駅を含む上り線が高架化されました。11月にこの新上り線について調査を行いましたので、その様子をお届けいたします。

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京成押上線連続立体交差事業の概要

羽田~成田を直通する「アクセス特急」に充当される京成3050形。 羽田空港第2ターミナル。
左(1):羽田~成田を直通する「アクセス特急」に充当される京成3050形。2010年10月10日撮影
右(2):羽田空港第2ターミナル。2010年3月11日撮影


 京成押上線は東京スカイツリー直下の押上駅から京成本線と接する青砥駅までの全長5.7kmを結ぶ民鉄線です。押上駅から先は都営浅草線・京急線と相互直通運転を行っており、2010年に開業した成田スカイアクセス線とともに成田・羽田の両空港を直結するルートの一部となっています。このため、運行本数は昼夜を問わず多く、朝ラッシュ時は最短で2分間隔となっています。
 京成押上線は押上駅が地下、荒川を渡る前後の八広駅・四ツ木駅と終点の青砥駅が高架、京成曳舟駅と京成立石駅が地上となっています。このうち、地上を走行している京成曳舟駅付近では明治通り(環状4号線・都道306号線)、京成立石駅付近では平和橋通り〈都道308号線〉とそれぞれ踏切で交差しており、過密ダイヤと相まって激しい交通渋滞が発生しています。このため、東京都・墨田区・葛飾区と京成電鉄ではこの地上区間の高架化を行うこととし、1990年代後半から準備が進められてきました。



 このうち、墨田区側の押上~八広間については1998(平成10)念に都市計画決定がされており、2008(平成20)年夏より本格的な工事が開始されています。高架化されるのは押上駅側の東武亀戸線との交差部付近から八広駅直前までの約1.5kmで、完成すると明治通りをはじめとする8箇所の踏切が解消されます。総事業費は約310億円で、国が43%、東京都が30.1%、墨田区が12.9%、京成電鉄が14%をそれぞれ負担することとなっています。
 また、高架化に合わせて京成曳舟駅周辺では大規模な再開発が進められています。京成曳舟駅周辺の京島地区は、太平洋戦争で大きな被害を免れ、今日に至るまで戦前からの古い町並みが保存されてきました。しかし、それゆえに建物の構造が脆弱であり、道路も狭く緊急車両の乗り入れができないなど防災面で問題を抱えていました。再開発は細かく区切られている民家を高層の建物に集約するもので、京成曳舟駅周辺の約5.7ha(上の地図左下の黄緑色の部分)を6つのエリアに分割して行われており、現在までに3つのエリアが完成、2つのエリアが事業中となっています。昨年4月には「京成曳舟駅前東第三地区」の事業による道路の閉鎖に伴い、押上~京成曳舟間にあった踏切2箇所が高架化を待たずに廃止されています。

高架化された上り線の様子(2013年11月23日取材)

 墨田区側の京成押上線の高架化事業は完成予定を当初2011(平成23)年度から5年延期した2016(平成28)年度に変更し、現在も工事が進行中です。昨年8月24日(土)には京成曳舟駅を含む押上~八広間の上り線が高架線に切り替えられました。半年ほど経ってしまいましたが、昨年11月23日(土)にこの新上り線を中心に現地を再調査してまいりましたので、ここから先はその様子をお送りします。

●八広~京成曳舟間
八広駅下り線ホーム端から高架区間に進入する上り列車を見る。
八広駅下り線ホーム端から高架区間に進入する上り列車を見る。

 高架の八広駅から京成曳舟駅に向かって地上へ降りる部分は2009(平成21)年以降北側に設置した仮線を使用しており、旧上り線跡地の高架橋を改築もしくはかさ上げして新しい京成曳舟駅に接続する高架橋を建設しました。仮線は用地を節約するため急なS字カーブで八広駅につながっており、80km/hの速度制限がありました。昨年8月の上り線高架化により、上り線は以前とほぼ同じ直線に近い形に線路が戻り、速度制限も解消されました。

上り列車の前面展望。右の新下り線の高架橋は旧上り線が地上へ降りるのに使用していたものをジャッキアップして再利用している。 駅間の中央付近。線形は地上時代とさほど変わっていない。
左(1):上り列車の前面展望。右の新下り線の高架橋は旧上り線が地上へ降りるのに使用していたものをジャッキアップして再利用している。
右(2):駅間の中央付近。線形は地上時代とさほど変わっていない。


 八広駅のすぐ先の高架橋は一部旧来からある床面をジャッキアップして流用しているため、その部分はバラスト軌道やバラストラダー軌道(レールの位置に合わせた枠型のコンクリートまくらぎ)となっています。隣にあった上り仮線は11月訪問時には撤去が完了し、下り線の高架橋建設が開始されていました。上り仮線が地上へ降りるのに使用していた高架橋は完全には取り壊されておらず、一部が上り線と同じ高さまでジャッキアップされており、今後建設される下り線の高架橋に流用される模様です。
 駅間の高架橋は概ね着工前の上り線と同じ位置に建設されており、途中にあるカーブを含め大幅な線形の変化はありません。



●京成曳舟駅
高架化された京成曳舟駅上り線ホーム
高架化された京成曳舟駅上り線ホーム
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 京成曳舟駅の高架ホームは地上時代と同じ8両編成対応の対向式ホーム2面2線になります。地上時代のホームは用地に余裕が無く全長に渡り同じ幅となっていましたが、高架ホームではその制約が無くなったことから、階段やエレベータがあるホーム中央付近が広くなっています。
 ホーム屋根の支柱は架線の支持を兼ねて線路を跨ぐ形でアーチ型になっていますが、現時点では上り線側ではのみの完成であるため、下り線側は中途半端に鉄骨が途切れています。なお、下り線側は集合住宅が近接しているため、騒音防止や住民のプライバシー確保のため車両の高さに相当する仮設の防音壁が設置されており、ホーム上から外はほとんど見えません。

駅構内の線路はD型直結軌道が採用されている。 高架化された区間の架線はインテグレート架線になっている。
左(1):駅構内の線路はD型直結軌道が採用されている。
右(2):高架化された区間の架線はインテグレート架線になっている。


 京成曳舟駅周辺の高架区間の線路はPCまくらぎを防振ゴムを挟んで支える弾性まくらぎ直結軌道(D型直結軌道)が採用されています。地上時代と異なり、60kgロングレール化されたことから、騒音・振動が低減され、乗り心地も良くなっています。
 架線はJR東日本で最近主流となっている「インテグレート架線」となっており、部品数が少なく、メンテナンス性や見栄えが良くなっています。

京成曳舟駅2階のコンコース
青砥方にある東改札口 押上方にある西改札口
上:京成曳舟駅2階のコンコース
左下(2):青砥方にある東改札口
右下(3):押上方にある西改札口


 京成曳舟駅の高架橋はホームの下にもう一層床が設けられており、改札口はそのフロアに設置されています。改札口は、ホーム両端の下に東・西の2箇所設置しています。改札階の内装は白いタイルを主体にしたデザインとなっていますが、階段周辺の一部のみの完成にとどまっています。

東改札口から明治通りに続く仮設通路 明治通りから見た京成曳舟駅東口。今立っているのが旧上り線跡地。
左(1):東改札口から明治通りに続く仮設通路
右(2):明治通りから見た京成曳舟駅東口。今立っているのが旧上り線跡地。


 東改札口の先は完成時に明治通りの先まで改札階と同じ高さの通路が建設され、明治通りの東西両側に階段とエレベータが設置される計画となっています。高架橋の橋脚の一部はこの通路を積載可能な構造になっていますが、現時点ではまだ通路の床面は設置されておらず、改札口のすぐ先で地上の仮設通路に接続されています。

明治通りの踏切南側にある歩道橋から踏切と高架橋を見る。
明治通りの踏切南側にある歩道橋から踏切と高架橋を見る。
※クリックで拡大(1000×750px/125KB)

京成押上線京成曳舟1号踏切(明治通り・上り線高架化後) - YouTube 音量注意

 京成曳舟駅の東側にあるのが高架化区間の中で最も交通量が多く渋滞が激しい明治通り(環状4号線・都道306号線)の踏切(京成曳舟1号踏切)です。上り線の高架化によりこの踏切は概ね4割程度遮断時間が短縮されました。
 なお、踏切の南北両側には信号機付きの横断歩道が設置されています。これは明治通りの東側から駅へ向かう際の利便性を考慮して設置されている施設ですが、前記したとおり高架化完成時に高架橋の真下に道路を跨いで駅改札口につながる通路が設置されるため、渋滞防止の観点からいずれも廃止される計画となっています。

地上ホームの西端にある踏切から高架橋を見上げる。高架ホームの中心はこの踏切の真上。 高架ホームの西端はもうひとつ押上方の踏切付近にある。
左(1):地上ホームの西端にある踏切から高架橋を見上げる。高架ホームの中心はこの踏切の真上。
右(2):高架ホームの西端はもうひとつ押上方の踏切(曳舟たから通り)付近にある。


 高架化によりホームの設置位置が交差する道路の制約を受けなくなったことから、高架ホームは地上時代と比べて約100m西(押上方面)に移動しました。完成時の駅出入口は地上時代に改札口があった駅東端の明治通りと駅中央付近の墨田区曳舟文化センター裏手に加え、駅西端の曳舟たから通り付近にも設置される予定です。

南側から見た高架ホーム。手前の空地は将来駅前広場になる。 駅前広場の予定地から見た東京スカイツリー
左(1):南側から見た高架ホーム。手前の空地は将来駅前広場になる。
右(2):駅前広場の予定地から見た東京スカイツリー


 ホーム西端の南側は高架化に合わせて再開発が行われており、バスの乗り入れが可能な駅前広場が設置される計画です。このため、完成後の京成曳舟駅はこの駅前広場に最も近い駅西端の階段・エスカレータがメインの出入口となります。
 駅前広場の設置スペースは昨年の時点で概ね確保されており、砂が飛ばないようアスファルトで舗装された広大な空地となっています。駅前広場の予定地に隣接する京成曳舟駅前東第二南地区の再開発は2012(平成24)年10月に竣工し、曳舟たから通りを挟んで西の京成曳舟駅前東第三地区の再開発は2012年8月に権利変換計画が認可され、現在工事が進められています。再開発の過渡期ということで、駅周辺では細い路地を挟んで戦前からある古い木造家屋と最新の超高層マンションが並ぶ特異な光景が見られます。

●京成曳舟~押上間
再び上り列車の前面展望。この付近は急カーブのためバラストラダー軌道が採用されている。 押上駅に向かうトンネル入口手前の新旧接続点。
左(1):再び上り列車の前面展望。この付近は急カーブのためバラストラダー軌道が採用されている。
右(2):押上駅に向かうトンネル入口手前の新旧接続点。


 京成曳舟~押上間も地上時代の線形をほぼ踏襲しており、京成曳舟駅を出てすぐのところで半径300m前後の急カーブとなっています。急カーブ区間は騒音を低減するため、バラストラダー軌道となっています。カーブの途中から下り勾配となり、東武亀戸線をオーバークロスした直後に既存の線路に合流してそのまま地下に入り押上駅に到着します。

 着工から6年が経過した京成押上線の高架化工事は順調に進んでおり、現在は上り線の跡地で下り線の高架橋を建設する工事が進められています。墨田区内ではこのほかに京成曳舟駅の近隣を通る東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)のとうきょうスカイツリー~曳舟間でも1箇所残る踏切の解消を目的とした高架化事業が計画されており、2017(平成29)年度の着工を目指して準備が進められています。東京スカイツリーの完成を機に大きく様変わりする墨田区の交通事情に今後も注目です。、

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京成押上線連続立体交差事業(2009~2010年取材まとめ)(2010年3月24日作成)
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京成押上線高架化工事(2013年5月5日取材)(2013年7月14日作成)

▼参考
京成押上線(京成曳舟駅付近)の上り線を8月24日(土)から高架化します! - 京成電鉄ニュースリリース(PDF/1.35MB)
京成押上線(京成曳舟駅付近)の上り線を8月に高架化|東京都
京成押上線の上り線高架化による効果|東京都
京成電鉄押上線(押上駅―八広駅間)連続立体交差事業 墨田区公式ウェブサイト
京島・東向島地域 墨田区公式ウェブサイト(駅周辺の再開発計画)

※2016年2月26日一部修正
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