東北縦貫線「上野東京ライン」建設工事(2014年5・6月取材)

秋葉原駅総武線ホームから見た東北縦貫線の線路

JR東日本では来年春の開業を目指して東京駅と上野駅の間に「東北縦貫線」(愛称:上野東京ライン)の建設を進めています。開業まで残り1年を切り、地上設備の方はおおむね完成を迎えました。2か月前のやや古いデータになりますが、5月初めに再度現地の様子を調査しましたので、開業が近い新線区間の様子を見てまいりたいと思います。

▼関連記事
東北縦貫線「上野東京ライン」建設工事(2013年11月・2014年3月取材)(2014年3月31日作成)

東北縦貫線の概要

東北縦貫線の位置
東北縦貫線の位置

 東北縦貫線は東海道線の東京駅と宇都宮・高崎・常磐線の上野駅を接続する新線で、2000(平成12)年に発表された運輸政策審議会(現・通政策審議会)第18号答申で2015(平成27)年までに整備するべき路線として位置づけられています。この区間には現在山手線・京浜東北線が走っていますが、その混雑率は着工前の2006年の数字で218%と国内トップを誇っていました。その後、湘南新宿ラインの新設やつくばエクスプレス線開通などの影響により、2009(平成21)年には最混雑路線の座を総武緩行線(錦糸町→両国)に譲ったものの、現在も混雑率は依然として200%を超えており、対策が急務となっています。東北縦貫線が完成すると、東京止まりとなっている東海道線と、上野止まりとなっている宇都宮線・高崎線・常磐線の列車を直通運転することが可能となり、山手線・京浜東北線への乗り換えが不要になるため混雑率は180%以下へ大幅に緩和される見込みです。

神田駅脇の東北新幹線の橋脚は将来の回送線復活に対応した構造だった。 回送線時代の名残である御徒町駅付近の留置線。
左:神田駅脇の東北新幹線の橋脚は将来の回送線復活に対応した構造だった。2006年5月4日撮影
右:回送線時代の名残である御徒町駅付近の留置線。2010年2月6日撮影


 東北縦貫線の建設工事は大きく分けて「重層高架部分」「線路改良部分」の2種類に分類できます。
 「重層高架部分」は神田駅付近が該当するもので、東北新幹線の高架橋の上に縦貫線用の高架橋を継ぎ足し、二重高架に増築します。東北新幹線の開業前、東京~上野間には「回送線」と呼ばれる線路が存在していましたが、用地節約のため回送線を取り壊したうえで新幹線が建設されました。この際、新幹線の高架橋は将来の回送線復活を想定して継ぎ足し可能か構造で建設されており、今回の縦貫線はその構造を活用して建設されていることから、「40年ぶりの回送線の復活」とみなすこともできます。しかし、重層化に関しては沿線で反対運動が展開されたことから、桁の一部を在来線側に寄せるなどの配慮がなされており、耐震性向上のため橋脚に補強を施したり、桁を軽量化するなどの工夫も行われています。
 「線路改良部分」は東京駅付近と秋葉原~上野間が該当するものです。この区間は「回送線」時代の線路の一部が残されており、前者は東京駅止まりの東海道線の引上げ線、後者は上野駅止まりの宇都宮・高崎・常磐線の留置線として使用されていました。縦貫線はこの線路の一部を本線用に改修したうえで流用します。
 この東北縦貫線は当初2009(平成21)年度の完成が予定されていましたが、前記した神田駅付近での反対運動により着工が遅れたことや、2011(平成23)年に発生した東日本大震災の影響により各種安全対策を図る必要が生じたことから、完成予定が2014年度中に変更されました。昨年12月には、正式な開業時期が2014年度末(2015年3月)であること、路線愛称が「上野東京ライン」になることが発表されました。総工費は約400億円で、JR東日本が全額を自己負担しています。

工事の様子(2014年5月2・6日・6月3日取材)

 3月の調査から2カ月が経過した5月のゴールデンウィーク中と6月上旬にに東京~上野間の全線に渡り再度工事の状況を調査してまいりました。調査日は東京駅付近が6月3日、神田~秋葉原間が5月2日、それ以外の区間が5月6日です。

●東京駅
東京駅東海道線ホーム上野方。速度制限標識が黒いビニールに隠蔽された状態で設置された。
東京駅東海道線ホーム上野方。速度制限標識が黒いビニールに隠蔽された状態で設置された。2014年6月3日撮影

 東京駅付近は東海道線ホーム7~10番線上野方にあった引上線を改修して東北縦貫線の本線に流用します。東海道線ホームは今年初めまでに信号設備を含めた東北縦貫線の乗り入れ準備がおおむね完了しており、6月の調査時には新たに上野方のポイント付近に速度制限標識が多数設置されました。現在はまだ営業列車が走行しないため、標識は全て黒いビニールで覆われています。この標識の設置と前後して7・8番線の先にあった車止めが撤去され、東北縦貫線開業後は本線となる上野方の引上線が2線とも使用可能となっています。

●神田駅付近
神田駅ホーム端から東京方面を見る。縦貫線の架線の設置が完了した。 縦貫線の高架橋上に設置された中継信号機
左(1):神田駅ホーム端から東京方面を見る。縦貫線の架線の設置が完了した。
(同じ場所の2010年2月6日/2011年3月6日/2011年10月30日/2012年6月15日の様子)
右(2):縦貫線の高架橋上に設置された中継信号機


 東京~神田間の重層高架区間は、既存の東北新幹線の橋脚の上にさらに橋脚を継ぎ足した後、東京駅側から順番にでき上がった橋脚の上を自走式の架設機が走行しながら桁を設置していく方法により東北縦貫線の高架橋を建設しました。高架橋本体の工事は昨年夏までに完了しており、以後は軌道敷設、架線敷設、信号機の設置などの工事が進められてきました。5月の調査時には電源は入っていないものの信号機や架線の設置は完了し、神田駅のホーム上からも重層高架の上層階に設置された中継信号機を見ることができるようになりました。

神田駅のホーム端から上野方面を見る。 神田駅の下を通る昭和通りから工事が完了した高架橋を見る。
左(1):神田駅のホーム端から上野方面を見る。
(同じ場所の2012年3月3日/2012年6月15日/2013年1月2日/2013年7月6日の様子)
右(2):神田駅の下を通る昭和通りから工事が完了した高架橋を見る。


 重層高架の建設は2010年春に始まりました。神田駅の脇を通過したのは2012年春~夏にかけてで、その後も特に停滞することなく上野方面へ順調に工事が進んで行きました。神田駅の脇の区間は3月の調査時に架線の一部が取り付け作業中でしたが、現在は全て完了しています。

神田~秋葉原間の重層高架。架線の設置が完了した。 靖国通りとの交差部分も同様に架線の設置が完了。
左(1):神田~秋葉原間の重層高架。架線の設置が完了した。
右(2):靖国通りとの交差部分も同様に架線の設置が完了。
(同じ場所の2013年1月2日/2013年4月14日/2013年7月6日の様子)

 架設機による桁の設置作業のハイライトとなったのが昨年4月末の靖国通りとの交差部分です。桁の設置作業の完了後は夏頃にかけて架設機の解体が行われ、その後は軌道敷設や架線の設置作業が急ピッチで行われました。3月調査時点では未設置だった架線のトロリ線の敷設も完了し、試運転の開始を待つばかりとなっています。



●秋葉原駅付近
秋葉原駅総武線ホーム5番線から見た東北縦貫線の高架橋
秋葉原駅総武線ホーム5番線から見た東北縦貫線の高架橋

 秋葉原駅付近は東北新幹線着工前に存在した回送線の名残で留置線が2線存在したため、その高架橋をかさ上げまたは改築した上で重層高架への接続区間(スロープ)を建設しています。この付近は2013年秋頃までに軌道敷設が完了し、以後架線や信号設備の設置が進められてきました。

秋葉原駅ホーム東京寄りから見た縦貫線の高架橋。消音バラストが散布され、架線も設置済。 秋葉原駅ホーム上野寄りから見た縦貫線の線路。同様に完成済みとなっている。
左(1):秋葉原駅ホーム東京寄りから見た縦貫線の高架橋。消音バラストが散布され、架線も設置済。
右(2):秋葉原駅ホーム上野寄りから見た縦貫線の線路。同様に完成済みとなっている。


 3月調査時は神田駅付近と同様架線の設置や軌道への消音バラスト散布などわずかな作業が残っていましたが、今回これらの工事は全て完了し試運転に向けた準備が完了しました。なお、東北縦貫線の架線設置に合わせて秋葉原駅構内は、山手線・京浜東北線に跨って設置されていた架線柱の腐食が進んでいたことから、鋼管を用いた新しい架線柱に交換されています。同時に架線自体もコンパウンドカテナリ式からき電吊架式(インテグレート架線)に更新されています。

●御徒町駅付近
御徒町駅付近の東北縦貫線と留置線の入出庫線。3月の時点で架線敷設も完了しており変化は無い。 御徒町駅のホーム端から上野駅を見る。
左(1):御徒町駅付近の東北縦貫線と留置線の入出庫線。3月の時点で架線敷設も完了しており変化は無い。
右(2):御徒町駅のホーム端から上野駅を見る。


 御徒町駅付近は秋葉原駅付近と同様、回送線の名残で留置線が3本あったため、改修の上でこのうち2本を東北縦貫線に流用します。線路の流用にあたっては列車本数が増加するため、防音壁を高さ4mにかさ上げしています。防音壁はその高さゆえに強風時に作用する風圧が相当なものになるため、その圧力に耐えられるよう線路下までL字型の支柱を埋め込んだ構造になっています。この付近は上野駅に出入りするための渡り線も多数設置されており、結果としてフローティングラダー軌道や合成まくらぎ直結軌道など様々な軌道が複雑に入り組む構造となっています。
 東北縦貫線への転用工事は秋葉原駅付近にある留置線への入出庫線を残しながら行う必要があったため、1線ずつ使用停止にしながら工事が進められ、今年初めに工事が完了しました。完成した線路は留置線への入出庫を兼ねた試運転も既に実施されており、信号機の電源も入れた状態になっています。(営業運転区間ではないため現在は白い×印で隠蔽)

●上野駅
上野駅7・8番線のホーム端から東京方面を見る。 7~9番線の先にある分岐器は4月中旬に全交換された。
左(1):上野駅7・8番線のホーム端から東京方面を見る。
右(2):7~9番線の先にある分岐器は4月中旬に全交換された。


 東北縦貫線に接続する上野駅5~9番線はホームの形状や線形に大きな変更はありませんが、列車本数が増えるため軌道強化や信号設備の増設(閉塞の細分化)が実施されています。4月中旬には夜間帯の一部列車の発着番線を変更した上で7~9番線の東京方にある分岐器(ポイント)を新品に交換する工事が行われました。交換後の分岐器はスペースの関係で線形こそ変わっていませんが、レールや転轍機は最新仕様(次世代分岐器)となっており、列車本数の増加に対する耐久性の向上が図られています。一方、その隣にある6番線の先は一旦軌道をすべて剥がして新しい部品に交換する工事が行われています。

使用を開始した上野駅常磐線(新)第二場内信号機とその中継信号機 その先にあった第二場内信号機は第三場内に名称を変更し、信号機の数も整理された。
左(1):使用を開始した上野駅常磐線(新)第二場内信号機とその中継信号機
右(2):その先にあった第二場内信号機は第三場内に名称を変更し、信号機の数も整理された。
2013年11月24日の同じ場所の様子


 3月調査時の記事でお伝えした常磐線の上野駅入口にある場内信号機の配置変更ですが、今回現物の写真を撮影できましたので掲載しておきます。地上ホームとの分岐の直後に現れるのが2月に使用を開始した(新)第二場内信号機で、急カーブ上にあることから手前には中継信号機も増設されています。そのすぐ先に現れるのが以前第二場内信号機だった第三場内信号機です。旧第二場内信号機は「7・8番線用」「9番線用」「10番線用」「11・12番線用」の4基の信号機が並べて設置されましたが、2月の配置変更後は数字式の進路表示器を下に新設した上で7~10番線用が1基に統合されています。

7月末から試運転が開始に

 この調査の約1カ月後の6月4日(水)には神田駅付近の高架橋上で東北縦貫線の完成を記念したレール締結式が開催されました。続いて7月12日には沿線住民を対象にした内覧会が実施され、今月末にはいよいよ実際の電車列車を使用した試運転が開始される予定となっています。東京駅や上野駅のホーム上に掲出されている業務用時刻表には、3月のダイヤ改正時より東北縦貫線の試運転ダイヤが盛り込まれているという話も耳にします。開業まであと半年ほどありますので、試運転についても機会を伺いながら調査を行いたいと考えております。
 次回はこの東北縦貫線建設と深い関係にある品川駅の再開発事業についてお伝えします。今回は先日発表された品川~田町間の新駅設置正式発表に加え、新たに入手した品川駅の配線変更に関する情報をお届けします。お楽しみに。

▼参考
宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れについて(東海道線との相互直通運転) - JR東日本(2002年3月27日発表)
宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れ工事の着手について - JR東日本(PDF)(2008年3月26日発表)
東北縦貫線の開業時期、愛称について - JR東日本(PDF)(2013年12月9日発表)
August 2010:特集「新幹線直上に架けるJR東北縦貫線」| KAJIMAダイジェスト | 鹿島建設株式会社
東北縦貫線プロジェクトの概要と架設計画 - 橋と基礎2009年8月号77~79ページ
東北縦貫線プロジェクト[計画概要・施工報告] - 土木施工2012年8月号115~126ページ

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東北縦貫線建設工事(2013年7月6日取材)(2013年9月6日作成)
東北縦貫線「上野東京ライン」建設工事(2013年11月・2014年3月取材)(2014年3月31日作成)
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