常磐線利根川橋梁架け替え工事(2014年7月6日取材)

取手駅を通過して新利根川橋梁に向かうE657系

常磐線利根川橋梁は老朽化に伴い、現在架け替え事業が進められており、昨年12月に上り線が新橋梁に切り替えられました。今月初めにようやく再調査することができましたので、今回はこの新上り線を中心に現地の様子をお伝えいたします。

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常磐線利根川橋梁架け替え工事(2013年9月9日取材)(2013年11月25日作成)

常磐線利根川橋梁の現状と架け替えの概要



 現在快速下り線のみが使用している4代目常磐線利根川橋梁(全長964m)は、1958(昭和33)~1963(昭和38)年に利根川の治水事業に伴い架け替えられたもので、架橋から半世紀以上の年月が経過しています。昨年末に使用を終了した上り線の橋梁のうち、中央を構成するトラス橋は、1920(大正9)年に架設されたものの一部を補強・流用したもので、製作されてから実に90年以上もの年月が経過しています。このため、橋桁には老朽化に伴う疲労亀裂などの損傷が多数発生しており、補修が繰り返されています。
 また、高水敷(河川敷)に架かるガーター橋の橋脚は、原地盤に直接基礎を置く形となっているため完成以来沈下が続いており、これまで数度桁のかさ上げが行われているほか、大規模地震時に液状化による橋梁全体の倒壊も危惧されています。(2011年3月の東日本大震災では幸い大きな被害は無かった。)このように、常磐快速線の利根川橋梁は老朽化が激しく継続使用が困難な状態となっていることから、JR東日本は全面的な架け替えを行うことを決定し、2009(平成21)年11月より工事が開始されました。

新橋梁の位置
新橋梁の位置

 新橋梁は隣接する緩行線の橋梁と現在の橋梁の間に架設されます。新橋梁の橋桁は緩行線と同じ上下線が一体となった複線トラス橋で、騒音防止と強風対策のため閉床式(有道床)桁となっています。橋脚は河川全体の阻害率を5%未満にすることが条件とされたため、緩行線より3径間少ない9径間のスパン割とし、設置位置は緩行線の橋脚と流路方向に対して同一線上に配置されています。
 なお、新橋梁の予定地は明治時代の橋梁があった場所で地中にはその基礎の一部が残存していますが、河川内で作業ができるのは渇水期となる11~5月の7ヶ月間しかありませんでした。このため、新橋梁の橋脚基礎は旧橋脚基礎を取り囲むように杭や矢板を配置し、残存物の取り壊し量が極力少なくなるよう配慮されています。
 新橋梁と既存の線路を接続する両側のアプローチ部分は上野側が盛土+鉄筋コンクリート製高架橋を新設、取手側が既存の盛土を改良することになっています。取手側のアプローチ部分は取り付け曲線を橋梁内にも延長しており、特急列車でも速度制限がかからないよう130km/hで走行可能な線形となっています。
 工事のスケジュールは2009(平成21)年から延べ10年間で予定されており、具体的には以下のようになっています。

2009年4月~:準備工事(完了)
2009年11月~2010年5月(第1渇水期):橋脚施工(完了)
2010年5月~:上野方アプローチ部分の建設開始(2012年11月まで)(完了)
2010年11月~2011年5月(第2渇水期):橋脚施工+高水敷の橋梁架設(橋脚完成部分)(完了)
2011年11月~2012年5月(第3渇水期):高水敷の橋梁架設(完了)
2012年2月~:軌道敷設・電気設備施工(下り線側で進行中)
2012年5月~2013年3月(出水期):・低水敷の橋梁架設(トラベラークレーン使用)(完了)
2013年秋:上り線切替(完了)
2014年秋:下り線切替
切替~2019年:旧橋梁撤去



上り線が新橋梁に切り替え(2014年7月6日取材)

下り線側は現在も旧橋梁を使用中 使用を終了した旧橋梁の上り線は両端のみ架線が取り外されている
左(1):下り線側は現在も旧橋梁を使用中
右(2):使用を終了した旧橋梁の上り線は両端のみ架線が取り外されている


 常磐線利根川橋梁では昨年12月7日夜に上り線を旧橋梁から新橋梁に切り替える工事が実施されました。当日は常磐線の我孫子~藤代間が運休となり、常磐緩行線およびバスによる代行輸送が実施されました。
 使用を終了した上り線の旧橋梁は新橋梁と現在も使用中の下り線の旧橋梁の間に挟まれているため、現時点では両端の切替部分の架線が一部取り外された以外は手つかずの状態となっています。旧橋梁の撤去工事は今年秋に予定されている下り線の新橋梁切替完了後に約5年間かけて実施される計画となっています。

取手駅入口にある浜街道架道橋。手前が新上り線の橋桁。 既存の橋桁は旧上り線(新下り線)側のみ落橋防止装置が追加された。
左(1):取手駅入口にある浜街道架道橋。手前が新上り線の橋桁。
右(2):既存の橋桁は旧上り線(新下り線)側のみ落橋防止装置が追加された。


 利根川と取手駅の間にある浜街道架道橋は上り線の線路の位置が大幅に変わるため、2012年末から2013年春にかけて保守用側線の桁を撤去し、上り線用の複線幅の新しい桁を設置しました。新橋梁への切替により、従来上り線が使用していた桁は今後下り線が使用する予定となっており、今回桁と橋台の接合部に大規模地震の際の桁の落下を防止する落橋防止装置が追加されました。落橋防止装置は隣にある現在下り線が使用中の桁には取り付けが行われていないことから、こちらの桁は下り線の新橋梁切替後は撤去されるものとみられます。

▼脚注
※:落橋防止装置は橋梁の桁同士もしくは橋脚・橋台と桁を接続する金属製の枠と極太のケーブルやチェーンにより構成される装置で、大規模地震の際橋台がずれても桁が落下しないよう引き留める働きがある。阪神・淡路大震災で橋梁の落下が相次いだことを教訓に導入された器具の一つ。


緩行線ホームから見た快速上り線ホーム。線形が変わったため3番線の先端が拡幅された。
3番線はホーム全長にわたり直線に付け替えられた。 同じ場所の昨年9月9日の様子。3番線の上野寄りは急カーブになっており75km/h制限になっていた。
上(1):緩行線ホームから見た快速上り線ホーム。線形が変わったため3番線の先端が拡幅された。
左下(2):3番線はホーム全長にわたり直線に付け替えられた。
右下(3):同じ場所の昨年9月9日の様子。3番線の上野寄りは急カーブになっており75km/h制限になっていた。


 旧橋梁時代は橋梁につながる取り付け曲線を強引に陸地に押し込んだ形となっており、上野方(天王台駅側)は上下線とも半径1000m(制限速度100~120km/h)前後のS字カーブ、取手駅側は上り本線(3番線)がホームの途中から半径400m(制限速度75km/)の急カーブとなっており、特に上りの特急列車は大きな減速を強いられていました。新橋梁では双方とも特急列車の最高速度である130km/hで走行可能なよう極力半径の大きな曲線が採用されており、取手駅3番線の上野方はホーム先端を拡幅した上で構内全長に渡り直線に近い線形に修正されました。緩行線ホームから見ると3番線の上野寄りの拡幅した部分のみホームが桁式になっていることが確認できます。

3・4番線上野寄りのホーム端から新橋梁を見る。
3・4番線上野寄りのホーム端から新橋梁を見る。(同じ場所の2010年9月5日/2012年7月28日の様子)

 上り本線はホームの先端から橋梁にかけてはレールやまくらぎなどが全て新品に交換されています。副本線(4番線)は大きな線形の変更はありませんが、本線の曲線半径を大きく取るため、本線との合流位置が従来よりも橋梁に近い位置に移設されています。
 なお、上り線の新橋梁切替と前後して、取手駅周辺ではATS-SN関係の地上子が全て撤去されています。ATS-SNの地上子はこれまで貨物列車用に残されていましたが、首都圏に乗り入れる電気機関車に関してはATS-PFの搭載がおおむね完了したことから、ここ1、2年の間に各路線でATS-SNの地上装置の撤去が急速に進んでおり、ATS-P非搭載車両の乗り入れが不可能になりつつあります。

旧上り線の跡地では新下り線の軌道敷設が進んでいる。
6番線のホーム端から橋梁を見る。 同じ場所でさらにズームしたところ。新下り線はカーブしながら手前にある現在線と合流する。
上(1):旧上り線の跡地では新下り線の軌道敷設が進んでいる。
左下(2):6番線のホーム端から橋梁を見る。
右下(3):同じ場所でさらにズームしたところ。新下り線はカーブしながら手前にある現在線と合流する。


 取手駅から旧橋梁につながっていた旧上り線の軌道の撤去は完了しており、跡地では新下り線の軌道敷設が進んでいます。新下り線の取手駅側は橋梁の途中から取り付け曲線が始まっており、大きくS字にカーブしながら6番線のホーム端付近で現在線に合流する模様です。S字カーブの途中には5番線へ接続されるポイントが準備されていますが、現在下り本線から分岐して5番線に向かっている線路とは向きが大きくずれていることから、4・5番線の入口にあるシーサスクロッシングの一部を交換して向きを合わせる必要がありそうです。
 ここから先は上り列車に乗りながら新橋梁を通過する様子を見てまいります。

取手駅5番線に停車中。右下のシーサスの付け根を直進に交換する必要があることが分かる。 取手駅を発車。上り本線との合流部分は制限速度が35km/hから45km/hに向上した。
左(1) :取手駅5番線に停車中。右下のシーサスの付け根を直進に交換する必要があることが分かる。
右(2) :取手駅を発車。上り本線との合流部分は制限速度が35km/hから45km/hに向上した。


 は取手駅5番線に停車中の状態です。正面のやや右下に見える新下り線から生えている5番線分岐用のポイントは手前に向かって直進してくることを前提にした位置になっており、さらに手前に見えるシーサスの付け根には直接接続できない状態であることが分かります。このため、下り線の新橋梁切替時にこの付け根のポイントを振分分岐から片開き分岐に交換するものとみられます。
 は取手駅5番線発車直後で、左に折れながら上り本線に合流します。上り本線との合流部分はポイントが従来よりも角度が大きい12番分岐器(制限速度45km/h)となっており、少し早い段階で再加速を始めることができます。

新橋梁の入口には下り線の取手駅第一場内信号機が設置済。 新橋梁上り線の閉塞信号機の配置は旧橋梁時代とほぼ同等。
左 :新橋梁の入口には下り線の取手駅第一場内信号機が設置済。
右 :新橋梁上り線の閉塞信号機の配置は旧橋梁時代とほぼ同等。


 は新橋梁入口で、いよいよここから12月に使用を開始したばかりの新しい橋梁を走行します。新橋梁は非常に背の高いトラス橋になっており、軌道はロングレール・弾性まくらぎ直結軌道(D型軌道)で、全長に渡り消音バラストが散布されています。これにより旧橋梁時代に比べて格段に乗り心地が良くなり、静かに走行するようになっています。一言で表すならば「滑るような乗り心地です。また、線路の両側には防風柵が張り巡らされており、強風による遅延・運休の低減が期待されます。来年3月の東北縦貫線(上野東京ライン)の直通開始後は広域での安定運行に貢献することでしょう。
 橋梁に入ると右側から工事中の新下り線が合流してきます。合流する途中には新下り線の取手駅第一場内信号機が設置済みとなっており、そのほかの部分も架線の設置作業が進んでいます。
 は新上り線の第9閉塞信号機です。信号機の配置は旧橋梁時代とほぼ同等になっており、取手駅から離れるに従って徐々に信号機の間隔が長くなっていきます。(駅から離れて速度が上がるにつれて1閉塞を通過するのにかかる時間が短くなるため)奥には新下り線の第1閉塞(下に進路指示器付き)、さらに奥には新上り線の第8閉塞が見えます。

天王台駅側の取り付け部分は半径1800mのS字カーブとなっており速度制限は無い。 新旧接続部分。右側の下り線も切替準備がほぼ完了している。
左 :天王台駅側の取り付け部分は半径1800mのS字カーブとなっており速度制限は無い。
右 :新旧接続部分。右側の下り線も切替準備がほぼ完了している。


 は橋梁を抜けた直後で、ここから先は快速線と緩行線の間に新設された高架橋の上をS字にカーブしながら走行します。S字カーブの曲線半径は1800mで、特急列車でも速度制限を受けることなく走行可能です。住宅地に近接しているため、線路の左右は高い防音壁で囲まれています。
 そしての地点で既存の線路に合流します。右側の新下り線は新旧接続部分の直前まで軌道敷設が完了しており、当初計画通り今年秋に切替工事が実施されることが確実となっています。

取手駅で写真展を開催中

取手駅東西連絡通路での写真展の告知ポスター
取手駅東西連絡通路での写真展の告知ポスター

 7月16日~29日の2週間(今週水曜日から再来週の火曜日まで)、取手駅の下を通る東西横断地下道(ギャラリーロード)において、常磐線利根川橋梁架け替え工事の写真展が開催されています。(これをお知らせするためにあえてこの記事を前倒しして公開することに致しました…)
 2009年の着工以来、常磐線利根川橋梁架け替え工事は極めて順調に進んでおり、今秋にはいよいよ上下線の新橋梁切替完了という節目を迎えます。下り線の切替完了後は再度現地の様子を調査する予定ですのでしばらくお待ちください。

▼参考
吉川・滝澤・水野・土屋 - 常磐線利根川橋梁改良(計画) - 日本鉄道施設協会誌2010年7月号50~52ページ
常磐快速線利根川橋りょう改良その1工事を受注 - 東鉄工業株式会社トピックス(PDF)

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