つくばエクスプレス守谷駅追抜き設備・入出庫線増設工事(2014年7月6日取材)

総合車両基地から守谷駅3番線に進入するTX-1000系

つくばエクスプレスではダイヤ構成の柔軟性向上と安定輸送確保を目的とした守谷駅の改良工事を現在進めています。今年7月に現地調査は済ませていましたが、この度専門誌の資料が手に入りましたので現在の工事の様子とともに解説いたします。

■つくばエクスプレスの概要と現状
つくばエクスプレスのTX-1000系(手前2本)とTX-2000系(奥2本)。前者は直流専用、後者は交直流両用で、ナンバープレートの色により区別できる。
つくばエクスプレスのTX-1000系(手前2本)とTX-2000系(奥2本)。前者は直流専用、後者は交直流両用で、ナンバープレートの色により区別できる。2007年11月3日、つくばエクスプレスまつり(総合基地公開イベント)にて撮影。

首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス線(以下「つくばエクスプレス」)は、鉄道空白地帯となっていた茨城県つくば市の筑波研究学園都市と東京都心を結ぶルートの確保や、輸送量が飽和状態となっていた常磐線の救済を目的として2005(平成17)年に開業した全長58.3kmの民鉄線(第三セクター)です。つくばエクスプレスの元となった「常磐新線」の計画は、1985(昭和60)年の運輸政策審議会(現・交通政策審議会)第7号答申「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備」の中で喫緊の課題であると位置づけられており、その後首都圏の鉄道整備の中で最優先で進められてきました。
 つくばエクスプレスの特徴としては、鉄道建設と沿線の都市開発を同時並行で行う「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」(通称:一体化法)の制定が挙げられます。この法律は、郊外での宅地開発と交通機関の確保が十分に連携されず住民が交通難民化してしまったり、逆に鉄道の規模に見合った居住が進まずに事業者が経営に行き詰るなどの事態を避ける意図がありました。制定の背景には、利用者数が計画通りに伸びず、今なお厳しい経営を強いられている千葉県の北総鉄道や東葉高速鉄道での経験があるといわれています。

先頭車停止位置にあるホーム監視用モニター。ATOとホームドアによりワンマン運転を行う。 流山おおたかの森駅前にあるショッピングモール「流山おおたかの森S.C.」。
左(1):先頭車停止位置にあるホーム監視用モニター。ATOとホームドアによりワンマン運転を行う。
右(2):流山おおたかの森駅前にあるショッピングモール「流山おおたかの森S.C.」。2007年7月1日撮影


 つくばエクスプレスでは、この他に自動列車運転装置(ATO)によるワンマン運転、全駅ホームドアへのホームドア設置が開業当初よりなされており、最高速度130km/hでの安定輸送を保証しています。また、茨城県内には気象庁の柿岡地磁気観測所があり、観測所のデータに影響を及ぼさないようにするため、守谷駅以南が直流1,500V、同駅以北が交流20,000Vにより電化がなされています。車両については直流区間のみ走行可能なTX-1000系と両区間を直通可能なTX-2000系の2形式を用意し、コストを削減しています。
 このような周到な計画と準備の末開業したつくばエクスプレスの利用者数は、開業前の予測を大きく超えるペースで増加を続けており、2009(平成21)年度には計画を15年も前倒しして黒字転換を達成しました。その後も利用者数は順調に増加しており、2013(平成25)年度の1日当たりの利用者数(輸送人員)は32万4千人に達しています。

ホーム両端が2両分ずつ延伸され、上下線で停止位置が変更された南流山駅。 以前使用していたホームドアはそのまま残されているが、将来の8両化の準備だろうか?
左(1):ホーム両端が2両分ずつ延伸され、上下線で停止位置が変更された南流山駅。
右(2):以前使用していたホームドアはそのまま残されているが、将来の8両化の準備だろうか?


 利用者数の増加により混雑が激しくなってきているため、2008(平成20)年度以降は車両の増備、秋葉原駅の通路増設、南流山駅のホーム延伸(上下線で列車の停止位置を変更し、ホーム上の混雑を緩和)などの改良工事が散発的に行われています。また、2012年10月のダイヤ改正では通勤時間帯の混雑緩和を目的とした新種別列車(通勤快速)の新設されるなど、運行ダイヤの改善も進められています。

■守谷駅改良工事の概要
つくばエクスプレス・関東鉄道守谷駅(中央西口より)。
つくばエクスプレス・関東鉄道守谷駅(中央西口より)。

 つくばエクスプレスが茨城県に入って最初に停車する駅が守谷駅です。守谷駅では関東鉄道常総線と交差しており、1日の利用者数(乗車人員)はつくばエクスプレス内で5位の約2万4千人となっています。守谷駅の北約1.5kmの地点に総合基地(車両基地)が併設されていることから、ホームは島式2面4線となっており、当駅始発・終着列車が多数設定されています。
 守谷駅では今年2月より、以下の2つの改良工事が開始されました。

守谷駅改良工事の概要
守谷駅改良工事の概要

①優等列車の追抜き設備新設(2・3番線からつくば方面への出入りを可能にする)
 現在、守谷駅のつくば方は外側2線(1・4番線)はつくば方面・総合基地双方に出入りできるのに対し、内側2線(2・3番線)は総合基地にしか出入りできない配線となっています。このため、当駅で優等列車が普通列車を追い抜くことはできず、内側線は当駅終着・始発列車専用となっています。守谷以北においても宅地開発の進捗により利用者数の増加が著しい駅があり、当駅止まりの列車の延長が急務となっています。
 そこで、内側線からつくば方面に出入りできるよう片渡り線を2組新設し、当駅での追い抜きを可能にします。渡り線の設置位置は外側線から総合基地へ出入りする渡り線が終了した直後の地点ですが、この部分の高架橋は、将来線路を追加することを考慮した設計にはなっておらず、一部床が無かったり橋脚の強度が十分ではない箇所があります。そのため、桁の追加や補強が行われます。また、外側線はそのままポイントだけを追加した場合、ポイントがホームに出入りする取り付け曲線の中に位置し、速度制限がかかってしまいます。そこで、曲線半径を少し小さくし、曲線の長さを短縮してポイントの設置スペースを捻出します。一方、内側線は折返し線(5・6番線)となっている部分が渡り線の設置スペースに使われてしまうため、折返し線の区間を総合基地寄りに数十m移設し、合わせて内側線同士を結ぶ渡り線がもう1組追加されます。

②総合基地入出庫線複線化(車両故障対策)
 守谷駅の北にあるつくばエクスプレスの総合基地(車両基地)へつながる約1.5kmの入出庫線は、現在単線となっています。現行のダイヤでは守谷駅終着列車は、一部を除きつくば方の折返し線は使用せずに一旦総合基地まで回送する運行方法が採られており、昼夜を問わず入出庫線は非常に高い利用率となっています。このような状況下で万一入出庫線を走行中の車両が故障により走行不能になった場合、総合基地から車両の出し入れができなくなり、本線の運行にも深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
 そこで、守谷駅から総合基地の間の入出庫線をもう1線増設し、予備の走行ルートを確保することにしました。元々この区間は将来入出庫線複線化することを一応想定はしていたようで、全区間に渡り入出庫線と上り本線の間に線路を増設できるスペースが準備されていました。増設線はこのスペースを利用して建設されます。

■現在の工事の状況




より大きな地図で つくばエクスプレス守谷駅改良工事 を表示

 今年2月の着工後は、まず守谷駅つくば方の高架橋の桁増設・補強工事や、入出庫線の新しい高架橋の基礎部分を建設する工事が進められています。以下は7月6日に調査した各地点の状況です。

●守谷駅追抜き設備新設(航空写真の緑色の部分)
守谷駅のホーム端からつくば方面を見る。手前は将来の8両化に備えたホーム延伸スペース。
守谷駅のホーム端からつくば方面を見る。手前は将来の8両化に備えたホーム延伸スペース。

守谷駅のホーム両端は1両分ずつ何も無い空間が続いています。これは将来利用者が増加した際、列車を8両編成に増車できるようにするためのものです。今回、追抜き設備増設にあたり、すでに高架橋の床面があって工事が容易なこの部分を使わなかったのは、近い将来8両化する計画があることを示している見ることもできます。

外側線と内側線の間に見える白いプレハブ小屋のようなものが桁の増設・補強部分。 桁の増設・補強部分を高架下から見たところ。コンクリートを流し込む木枠が設置されている。
左(1):外側線と内側線の間に見える白いプレハブ小屋のようなものが桁の増設・補強部分。
右(2):桁の増設・補強部分を高架下から見たところ。コンクリートを流し込む木枠が設置されている。


 渡り線の追加に伴い桁が増設される箇所は営業線に極めて接近しているため、プレハブ状の壁で完全に囲まれており、列車との接触事故防止を図っています。この部分は斜めに線路が敷設されるため、新品の桁を増設することに加えて、既存の高架橋の床下に新たなコンクリートを打って床の厚みを増す工事も行われています。高架下から見上げると木製の型枠が設置されており、補強作業が行われていることを確認できます。

桁の増設部分の真下の橋脚。柱が鋼板巻きにより補強されている。 さらに先にある橋脚。柱は鋼板巻き、梁は炭素繊維巻きにより補強されている。
左(1):桁の増設部分の真下の橋脚。柱が鋼板巻きにより補強されている。
右(2):さらに先にある橋脚。柱は鋼板巻き、梁は炭素繊維巻きにより補強されている。


 桁を増設したり、床の厚みを増すことにより、高架橋全体の重量が重くなるため、それを支える橋脚についても補強が行われています。橋脚は柱(縦の部材)が鋼板巻き、梁(はり:横の部材)が炭素繊維巻きによりそれぞれ補強されています。

●総合車両基地入出庫線複線化(航空写真の赤色の部分)
高架下から入出庫線の増設予定スペースを見上げる。上り線と入出庫線の間にちょうど1線分の隙間があることがわかる。 高架下から入出庫線の増設予定スペースを見上げる。上り線と入出庫線の間にちょうど1線分の隙間があることがわかる。
高架下から入出庫線の増設予定スペースを見上げる。上り線と入出庫線の間にちょうど1線分の隙間があることがわかる。(左が秋葉原方面、右がつくば方面に向かってみたところ)

 守谷駅から総合基地までの間は、上り本線・入出庫線・下り本線の3線が並んでいます。このうち、上り線と入出庫線の間には全区間に渡り線路1本分の空きスペースがあり、当初から将来入出庫線を複線化することを考慮して土地が確保されていたことがわかります。入出庫線の複線化は、このスペースに新しい高架橋を1線分建設することにより行われます。

守谷駅のつくば方で行われている入出庫線複線化用の橋脚の新設工事。
守谷駅のつくば方で行われている入出庫線複線化用の橋脚の新設工事。

 守谷駅に近い部分は、基礎工事が終わって高架橋の本体工事が始まっており、沿線の道路からも足場の中にコンクリートの柱が出来上がりつつあるのが見えます。柱の間隔は既存の高架橋とは必ずしも一致しておらず、既存の柱と一体化されている部分や中途半端な位置に独立して柱が立っている部分など様々な形が見られます。また、守谷駅付近の高架橋地下にはつくばエクスプレスと並行している県道46号のバイパス(守谷トンネル)が橋脚に近接して設置されており、増設される高架橋の橋脚を1本柱とした場合、地震発生の際トンネルに強い力がかかり、破損する恐れがありました。そのため、トンネルに近接する部分は門型の橋脚として力を分散させる工夫もなされています。

新しい高架橋の基礎を埋め込むために地面に開けられた穴
新しい高架橋の基礎を埋め込むために地面に開けられた穴

 総合基地側の半分は高架橋の基礎工事が行われており、一定間隔で地面に大きな穴が開けられています。下り本線と県道をアンダーパスした先もこの工事が続いており、そのまま総合基地構内の行き止まりになっている線路に接続される模様です。


総合基地手前で進む新しい高架橋の基礎工事


 このつくばエクスプレス守谷駅の改良工事は2017(平成29)年度の完成が予定されています。第三セクター鉄道としては異例とも言える好調な経営が続くつくばエクスプレスの今後に注目してまいりたいと思います。

▼参考
「入出庫線の複線化」および「守谷駅追越設備の新設」工事を開始しました | 2014年 | ニュースリリース | 企業情報 | つくばエクスプレス
つくばエクスプレスにおける入出庫線複線化工事と追い越し設備新設工事 - JREA 2014年6月号 57~60ページ

▼関連記事
【速報】第3回つくばエクスプレスまつり(2007年11月3日作成)
つくばエクスプレスの混雑緩和に向けた改良工事(2012年3月17日取材)(2012年3月18日作成)
つくばエクスプレス南流山駅ホーム延伸(2012年7月28日取材)&ダイヤ改正の概要(2012年8月5日作成)
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