カテゴリ:鉄道:建設・工事
南武線稲城長沼駅高架化工事(2014年8月3日取材)
公開日:2014年10月03日23:14

南武線稲城長沼駅では現在高架化工事が進められてます。昨年12月に上下線線の高架化が完成しましたが、その後も稲城長沼駅の2面4線化など仕上げ工事が続いています。8月上旬にこの工事について再調査をしましたのでその様子をお伝えします。
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南武線稲城長沼駅付近の連続立体交差事業の概要
南武線連続立体交差事業は南武線稲田堤~府中本町間(4.3km)を高架化するものです。この区間では鶴川街道(都道19号町田調布線)、府中街道(都道9号川崎府中線)という2本の幹線道路が交差しており、双方の踏切を原因として激しい交通渋滞が発生していました。連続立体交差化にあたっては高架化と地下化の2種類の案が検討されましたが、南多摩駅のすぐ北で多摩川と交差していること、矢野口~稲城長沼間で交差する稲城大橋の連絡道が部分的に地下化されていること、南武線は貨物列車が走行するため急勾配が造れないことなどの各種制限を勘案し高架化を行う方針で決定されました。


左(1):矢野口駅の東側で交差する鶴川街道。
左(2):矢野口駅前広場。2011年1月15日撮影
工事は矢野口駅~稲城長沼駅東側(第1期区間)と稲城長沼駅東側~府中本町駅(第2期区間)の2つに分割して行われており、第1期区間は2005(平成17)年10月までに完成しました。これにより8箇所の踏切が廃止されたほか、直後に実施された鶴川街道の多摩川原橋の4車線化とバイパス新道(都道多摩3・1・6号線)への付け替えにより、懸案だった交通渋滞が解消されました。
続く第2期区間の工事は第1期区間完成直後の2006(平成18)年3月から開始され、2011(平成23)年12月に下り線、2013(平成25)年12月には上り線がそれぞれ高架化され、全線の高架化が完了しました。現在は稲城長沼駅の2面4線化などの仕上げが行われており、最終的な完成は2015(平成27)年春が予定されています。
<南武線連続立体交差事業の歴史>
1989年4月 建設省(現・国土交通省)の事業採択
1992年1月 都市計画決定
1993年3月 事業認可
1997年1月 第1期区間(稲田堤~稲城長沼間)着工
2005年10月 第1期区間完成
2006年3月 第2期区間(稲城長沼~府中本町間)着工
2007年3月 稲城長沼駅仮駅舎使用開始
2008年6月 第2期区間上り線(川崎方面)を仮線に切り替え
2009年10月 第2期区間下り線(立川方面)を仮線に切り替え
2011年12月 第2期区間下り線高架化完成
2013年12月 第2期区間上り線高架化完成(全線高架化完了)
2015年春 稲城長沼駅2面4線化完成予定
この事業は道路整備の一環として東京都が事業主体となり進められています。第1期区間・第2期区間をあわせた総事業費は約598億円で、その負担の内訳は国が45%、東京都が31%、稲城市が13%、JR東日本が11%となっています。
2014年8月3日の状況
昨年12月22日に矢野口~府中本町間の上り線が高架化されました。これにより、南武線稲城長沼駅付近は全線で高架化が完了しました。現在は稲城長沼駅の2面4線化(1番線の新設)工事や地上の線路跡地の整備が続いています。8月3日(日)に各地点の状況を調査しましたので順番に見てまいります。
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●稲城長沼駅

矢野口~稲城長沼間の新旧接続地点。仮設高架橋との間に防音壁が設置された。
稲城長沼駅の高架化工事は矢野口駅付近の第1期区間と稲城長沼駅付近の第2期区間の2回に分けて行われたため、矢野口~稲城長沼間では第2期区間完成まで地上に線路を降ろす区間が設けられました。この地上へ降りる勾配付きの高架橋は第1期区間完成時点より、将来第2期区間の高架橋として流用することを前提にした設計がなされていました。第2期区間の着工後は北側に仮設の高架橋を設置して地上への接続を維持する一方、従来使用していた高架橋は柱の一部を切断して水平になるまでジャッキアップし、当初の設計通り第2期区間へ続く高架橋に流用されています。この工夫により、高架橋の取り壊し・再構築が最小限に抑えられ、事業費の削減に貢献しています。
今回、上下線の全線高架化が完成したことにより、仮設高架橋は不要となったため、完成した本設の高架橋との間に防音壁が設置され、封鎖されました。今後仮設高架橋は取り壊され、跡地には側道が設置されます。なお、この地上~高架の接続区間は工事途上で稲城長沼駅折り返し列車用のポイントが設置されるなど、軌道の改変が何度か繰り返されてきたため、他の区間と異なり通常のバラスト軌道となっています。

使用を開始した稲城長沼駅上り線ホーム(2番線)。
(同じ場所の2012年8月19日/2013年1月5日/2013年7月7日の様子)
上り線の高架化に伴い、稲城長沼駅では北側の上り線ホームの使用を開始しました。ホームの構造やデザインなどは完成済みの下り線ホームとほぼ同等になっており、ホーム上には空調付きの待合室、高架下のコンコースとの間にはエスカレータ(上下)・エレベータが完備されています。



上(1):稲城長沼駅の現在の配線と上り列車の走行ルート
左下(2):ホーム端から川崎方面を見る。未完成の1番線の出発信号機も設置済み。
右下(3):立川方面から身をくねらせながら2番線に進入する上り列車。
高架化前の稲城長沼駅は島式ホーム1面2線+片面ホーム1面1線の周りを数本の留置線が取り巻く構内配線となっていました。高架化完成後は留置線を廃止する代わりに島式ホーム2面4線になる予定です。
このうち、一番北側の1番線は地上の線路が撤去し終わらないと建設が開始できなかったため、現在も工事が続いています。このため、本来上り副本線となる2番線を上り本線として暫定的に使用しています。1番線の完成までは1年ほどと短期間であるため、駅の前後の線路は完成時の配線で敷設されており、2番線に出入りする上り列車は必ずポイントの分岐側(制限速度45km/h)を通る配線となっています。(中央線国立駅の上り線高架化時と同じ方式)後述する通り1番線の工事は大詰めを迎えており、川崎方の駅端には1番線用の出発信号機が設置されるなど使用開始に向けた準備が進んでいます。


左(1):高架下に移転した改札口
右(2):上り線側にも拡張された高架下の改札内コンコース
高架橋の完成に伴い、今年2月23日より稲城長沼駅の改札口が高架下に移転しました。改札口は自動改札機3通路あり、その脇にガラスで囲まれたブース形式の有人通路、みどりの窓口、自動券売機が並ぶ一般的な配置となっています。改札口周辺の内装は床がベージュのつや消しタイル、壁や天井が白やグレーを基調にしたパネルとなっており、これも最近のJR東日本の駅では一般的なものです。電照式の案内板は節電のためバックライトにLEDを使用した最新型が多用されており、上り線ホームに関係するものは1番線の表記がシールで隠蔽された状態で準備されています。



上(1):上り線高架化と同時に開設された稲城長沼駅南口
左下(2):南口の駅前は区画整理が進行中で道路は暫定形となっている。
右下(3):高架橋脇に付け替えられた新堀水路。
高架下への改札口の移転に合わせて、駅の南側にも出入り口が開設され、あ高架下を南北に貫通する自由通路も新設されました。稲城長沼駅はこれまで北側にしか出入口が無く、南側へ向かう場合駅の両端にある踏切まで迂回しなければならない不便な状態となっていました。南口の前では現在稲城市主導により区画整理も進められており、駅から離れた場所を通っていた大丸用水新堀水路が高架橋脇の直線的な流路に付け替えられています。また、4月1日には川崎街道に通じる新しい道路が開通しており、今後も区画整理の進捗に合わせて道路形状が変化する予定です。


左(1):地上時代に使用していた北口の仮設駅舎は解体済み。(同じ場所の2011年1月15日の様子)
右(2):地上時代の仮設ホームもほぼ更地化された。
駅北側は地上時代の仮設ホームやプレハブ構造の仮設駅舎がありましたが、高架化から半年以上が経っていたため今回訪問時には全て解体され、ほぼ更地化が完了した状態となっていました。南側と同様にこちらでも区画整理が進行中となっており、地上ホームの跡地には将来駅前広場が設置されます。


上りホーム立川方の端では訪問時最後となる1番線の桁の架設作業が行われていた。
撤去が完了した地上ホームの跡地では、跨線橋と重なるなどの理由により一部未完成となっていた1番線の高架橋の構築作業が急ピッチで進められています。8月の訪問時は立川方の踏切跡で最後の高架橋本体の工事となるコンクリート桁のジャッキダウンが行われていました。
●南多摩駅

南多摩駅高架ホームに到着する川崎行き快速。今年3月のダイヤ改正より南武線では快速運転の区間が稲城長沼以東に延長された。
南多摩駅は地上時代は対向式ホーム2面2線でしたが、高架化後は島式ホーム1面2線にホームが集約されました。上り線の高架化により北側の1番線も使用を開始しました。


左(1):ホーム端から川崎方面を見る。
(同じ場所の2012年1月28日/2012年8月19日/2013年1月5日/2013年7月7日の様子)
右(2):ホーム端から立川方面を見る。
(同じ場所の2012年1月28日/2012年8月19日/2013年1月5日/2013年7月7日の様子)
南多摩駅の川崎方では府中街道、立川方では多摩川に架かる是政橋と駅南側を通る川崎街道を結ぶ新設道路(都市計画道路多摩3・3・7号線)が交差しており、後者の交差部分にはコンクリート製のアーチ橋が架けられています。双方の道路とも地上時代は踏切により激しい渋滞が発生していましたが、高架化によりそれも解消されました。


左(1):2013年8月に高架下に移転した改札口。稲城長沼駅と基本的なデザインに差は無い。
右(2):高架下の改札内コンコース。北側はガラス張りになっている。
南多摩駅の改札口は上り線高架化に先立つ昨年8月4日に高架下に移転済みとなっています。南多摩駅のコンコースは稲城長沼駅と異なりガラス張りの部分が多く、日光のみで十分な照度が確保できるため、昼間は写真のように節電も兼ねて蛍光灯を消灯していることもあります。


左(1):仮設駅舎が無くなり広くなった南口(同じ場所の2012年1月28日の様子
右(2):北口側は地上時代の仮設ホームは全て撤去済み。(同じ場所の2012年8月19日/2013年7月7日の様子)
高架下へ改札口が移転する前は南側に高架化着工以前からあった平屋で鉄骨構造の駅舎を使用していました。高架下への移転によりこの駅舎は取り壊し済みとなっており、若干ながら南口の駅前スペースが広くなりました。南多摩駅の南口は駅前広場などを設ける計画は無いため、これで完成形となります。
一方、北側は地上時代の仮設ホームが撤去されて更地化され、4月1日より改札口へ通じる暫定通路(北口)が新設されました。今後こちら側は高架化工事中に使用していた資材置場などを利用して新設道路に通じる駅前広場が新設されることになっています。

北側を通る道路上から見た南多摩駅の全景。手前の工事資材置場は今後駅前広場になる。


立川方のアーチ橋の下では地中に残っていた谷戸川の旧流路を撤去して道路を4車線化する工事が行われている。
立川方のアーチ橋の下を通る新設道路では踏切の撤去が完了したことから、移設されて使われなくなった旧谷戸川の河道を取り壊して道路の幅を計画通りの4車線に拡幅する工事が進められています。
稲城長沼駅の2面4線化は今年度中の完成が予定されています。稲城長沼駅の高架化完成に伴い、今年3月15日のダイヤ改正では従来登戸駅までだった南武線の快速運転の区間が稲城長沼駅まで拡大されました。稲城長沼駅が2面4線化されると快速の追い抜きが可能になるため、快速運転をする区間が全線に拡大されることも考えられます。
一方、今年8月には新型車両E233系8000番台の第1編成が総合車両製作所新津事業所で落成しました。先週末には登戸駅で展示会が開催されており、明日10月4日(土)よりいよいよ営業運転に投入される予定です。
目まぐるしく変化を続ける南武線に今後も注目したいと思います。
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南武線稲城長沼駅高架化工事(2011年1月15日取材)(2011年8月2日作成)
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▼参考
進めています JR南武線連続立体交差事業 稲城市ホームページ
市施行土地区画整理事業 稲城市ホームページ
JR南武線を12月に全線高架化|東京都
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