小田急線地下化・複々線化工事2014・2015(1:東北沢駅・下北沢駅)

東北沢駅のホーム端から地上出口を見る

2013年3月、小田急小田原線の代々木上原~梅ヶ丘間が地下化されました。同区間では、引き続き複々線化や駅舎の建設工事が行われており、東北沢駅では本設駅舎が使用を開始するなど進展がありました。昨年12月に工事の状況について調査をしましたが、時間が経ってしまったことから、先月末にも一部箇所について再度調査をしてまいりました。2回に分けて現在の状況をお伝えします。1回目の今回は東北沢駅と下北沢駅の様子です。

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小田急線地下化・複々線化工事(2013年10月12日取材)(2014年5月31日作成)

小田急線代々木上原~梅ヶ丘間地下化・複々線化の概要

千歳船橋駅付近の複々線区間。 地下化された成城学園前駅。
左(1):千歳船橋駅付近の複々線区間。2008年3月16日撮影
右(2):地下化された成城学園前駅。2008年10月19日撮影


 小田急線の連続立体交差化事業は小田急線代々木上原~向ヶ丘遊園間(約11km)を高架化・地下化し、区間内にある39の踏切を解消するものです。この事業により「開かずの踏切」解消による交通渋滞や地域分断が解消され、沿線の街の発展に寄与することとなります。また、高架化工事と並行して輸送力強化のため線路の複々線化も並行して行われています。この複々線化は、1962(昭和37)年に当時の運輸省内に設置されていた都市交通審議会の第6号答申で示された都市高速鉄道第9号線(現在の東京メトロ千代田線)の建設計画が原型となっているものです。
 事業区間のうち梅ヶ丘~登戸間は騒音公害の悪化を懸念した住民により起こされた訴訟などの影響により、当初計画より大幅に工事が遅延しましたが、2004(平成16)年までに高架化・複々線化ともに完成済みとなっています。また、登戸~向ヶ丘遊園間は複々線化に必要な川崎市の土地区画整理事業が遅れているため、取得済みの用地を利用する形で上り線のみ複線化することになり、2009(平成21)年に完成しています。

小田急線代々木上原~梅ヶ丘間の地下化前後の断面図
小田急線代々木上原~梅ヶ丘間の地下化前後の断面図

 残る代々木上原~梅ヶ丘間についてはこれまでの訴訟などの経験に鑑み、高架化ではなく地下化による立体化が選択され、2004(平成16)年に着工しました。用地買収を最小限にするため、同時に行われる複々線化にあたっては急行線と緩行線の線路を上下に重ね、さらに下層の急行線は地上を切り開かなくて済むシールド工法主体で建設することにより沿線への影響を最小限に抑えることとしました。地下化はシールドマシンの搬入や下北沢駅で交差する京王井の頭線の橋梁の改築の関係上、下層の急行線を先に開通させることになり、2013(平成25)年3月23日に地下線への切替が実施されました。これにより区間内の9箇所の踏切が解消され、代々木上原~和泉多摩川間の踏切39箇所の全廃が実現しました。現在は2018(平成30)年の完成を目標に緩行線のトンネル建設が行われています。完成後は混雑率が着工前の208%(現在は180%)から160%台へ大幅に緩和される見込みです。
 さらに、複々線化完成に合わせて、千代田線の直通運転区間拡大(小田急・JRの双方の相互直通)も予定されており、現在車両へのATSや列車無線の追加改造が進行しています(近日別途記事作成予定)。これにより、都心方向への利便性が飛躍的に高まることが期待されています。
 総事業費は3000億円を超える見込みとなっており、国の連続立体交差事業の財政補助に加え、特定都市鉄道整備事業など各種補助制度を組み合わせながらその調達が行われています。

駅舎の工事・緩行線のトンネル建設が進む

 今回は特に状況に変化が無かった代々木上原~東北沢間を除く各箇所の状況についてお伝えします。基本的には昨年12月6日に調査した内容になりますが、東北沢駅についてはその後本設駅舎が一部使用開始となったため、今年6月28日に追加調査を行いました。いつものことになりますが、調査から時間が建っている箇所もあるため、現状と異なっている場合があることをお断りしておきます。



●東北沢駅
東北沢駅の地下化前後の断面図
東北沢駅の地下化前後の断面図

 地下化前の東北沢駅は、対向式ホーム2面2線の間に通過線が2線挟まるレイアウトでした。地下化工事中は通過線を撤去してそこに仮設の島式ホームを建設し、順次直下にトンネルを建設しました。
 完成後の地下駅は地上時代とは逆に内側が緩行線の島式ホームとなり、その外側を急行線が走行します。現在は急行線のみが完成しているため、緩行線の線路上に仮設の床板を敷いて大きな島式ホームとして供用中です。急行線は窪地になっている下北沢駅で下層階に向かうため、駅の途中から35パーミルの下り勾配となっており、仮設ホームの一部は新宿寄りに3両分ほど飛び出して設置されています。

東北沢駅の本設改札口(西口)
東北沢駅の本設改札口(西口)

 東北沢駅は地下化後地上の旧駅施設の撤去と本設の駅舎の建設工事が続いており、線路北側に設けた仮の駅舎で営業をしていました。本設駅舎については一応外枠程度が完成したことから、今年5月16日(土)に一部が使用開始となり、仮設駅舎は閉鎖されました。本設駅舎は新宿寄り・小田原寄りの両端に改札口が設けられており、前者が「東口」、後者が「西口」という名称になっています。西口は2013年5月に線路跡を横切って設置された南北通路に接続しています。

解体中の仮設駅舎 西口の先には空調機器を格納する建物が建設された。
左(1):解体中の仮設駅舎
右(2):西口の先には空調機器を格納する建物が建設された。(同じ場所の2014年12月6日の様子


 本設駅舎の使用開始に伴い、仮設駅舎は使用を終了し6月訪問時には解体作業が進められていました。また、昨年12月訪問時に今回使用を開始した西口の先で大型の建物が建設されているのを確認していましたが、これについても6月には概ね外部は完成していました。この建物は工事計画図によると「機械室」となっており、駅構内の空調機器やトンネル換気用の送風機などが格納されているものとみられます。住宅地であることから、外壁は落ち着いたベージュのタイルで覆われており、温暖化対策として屋上緑化がされています。

東北沢駅の東口改札。 東口は都道鮫洲大山線から離れており、細い仮設通路で接続されている。中央やや左がその入口。
左(1):東北沢駅の東口改札。
右(2):東口は都道鮫洲大山線から離れており、細い仮設通路で接続されている。中央やや左がその入口。


 一方、東口は地上時代の新宿寄りのホーム端付近に改札口が設置されており、その先にある都道鮫洲大山線からは少し離れています。現在はまだ線路跡の整備が完全には終わっていないため、南側を迂回する細い仮設通路で道路と接続されています。鮫洲大山線の踏切跡はレールや鉄製の踏み板が完全に撤去され、アスファルトで整地されており、周囲の路面と完全に同化しています。

本設駅舎内の現状。内装がほとんど無く、骨組みがむき出しとなっている。 駅舎中央付近に設けられた吹き抜け。地上の光が降り注ぐ。
左(1):本設駅舎内の現状。内装がほとんど無く、骨組みがむき出しとなっている。
右(2):駅舎中央付近に設けられた吹き抜け。地上の光が降り注ぐ。


 本設駅舎は、現段階では外壁と屋根が完成した程度に過ぎず、内部は鉄骨やコンクリートがむき出しの状態になっています。今後内装については順次整備されていく予定です。
 なお、本設駅舎中央(エレベータ乗り口前)の床には地下ホームに通じる吹き抜けがあり、格子状のガラスで蓋がされています。地上を覆っていた仮設構造物が無くなったことにより、吹き抜けを通じて地上の光が地下ホームまで降り注ぐようになりました。この吹き抜けは地下を列車が走行する際の風圧を逃がす排気口も兼ねており、ホームから見上げると周囲の壁にルーバーが設けられているのが確認できます。

地下ホームでは緩行線の天井に仮設されていた空調ダクトの撤去が始まった。
地下ホームでは緩行線の天井に仮設されていた空調ダクトの撤去が始まった。

 地下ホームでは、緩行線の線路上に仮設の床面を設けて拡幅している部分の天井に設置されていた空調用ダクトの撤去が始まりました。緩行線は再来年の開通が予定されており、その準備がいよいよ開始されたことになります。この仮設ダクトの撤去開始に伴い、駅構内はホーム中央の待合室区画を除いて空調が停止しており、夏場ということもあって蒸し暑くなっています。

使用開始から2年が経ち、波状摩耗が進んだ剛体架線。
使用開始から2年が経ち、波状摩耗が進んだ剛体架線。

 東北沢駅から梅ヶ丘駅手前までの地下区間はアルミの型材に銅線をクリップで固定した「剛体架線」が採用されています。剛体架線は柔軟性が無いためパンタグラフが追従しにくく、離線によるスパークが発生しやすい傾向がありますが、東北沢駅は特にその現象が激しく出ており、使用開始から2年が経過した架線は写真の通り表面がうろこ状に摩耗してしまいました。この結果、さらにパンタグラフの追従が悪くなっており、地上へ出る急勾配が控えている上り線では通電電流が大きいことも相俟って、走行中火花が出続ける状態となっています。

▼脚注
※パンタグラフが架線に追従しきれずに一瞬架線から離れる現象


小田急線東北沢駅剛体架線のスパーク - YouTube 音量注意

●下北沢駅
下北沢駅の地下化前後の断面図
下北沢駅の地下化前後の断面図

 地下化前の下北沢駅は下り線用の島式ホームと上り線用の片面ホームがある2面2線の配置となっていました。ホーム中央の上部には京王井の頭線が通っており、井の頭線ホームと小田急線の各ホームは階段を上り下りするだけで行き来できました。(中間改札口は無し)
 地下化後の下北沢駅は、緩行線が地下2階、急行線が地下3階にそれぞれ島式ホームを持つ形態となります。先に使用を開始する急行線は、京王井の頭線の橋梁があるため建設の際地上を大きく切り開くことができず、線路部分をシールド工法で建設し、トンネル内からその間を切り広げてホームを作る工法が採用されました。急行線のホームは京王井の頭線の橋梁に重ならない位置に建設したことや、完成時に緩行線と急行線でエスカレータや階段を分けるため、地上時代よりも小田原寄りにずれて設置されています。地上のホーム跡地は全てコンコースとなり、小田原寄りにも改札口が増設されるほか、上部には商業施設が建設されます。
 現在は地下3階の急行線ホームのみが完成しており、地下2階の緩行線ホームの予定地はコンコースとして暫定的に利用されています。地下のコンコースから地上の間はトンネルの外側に設置された仮設階段・エスカレータで連結されています。

新宿寄りの旧東北沢6号踏切付近で行われている緩行線のトンネル建設工事。 同じ場所から駅本体側を見たところ。下北沢一番街の門が移設されている。
左(1):新宿寄りの旧東北沢6号踏切付近で行われている緩行線のトンネル建設工事。
右(2):同じ場所から駅本体側を見たところ。下北沢一番街の門が移設されている。


 東北沢~下北沢間のトンネルは2013年の地下化時点で緩行線部分もほぼ完成しており、下北沢駅新宿寄りの旧東北沢6号踏切付近で一部未完成だった一部トンネルの建設と、完成した部分の埋め戻しが行われていました。未完成だったトンネルもほぼ完成しており、地上では引き続きトンネルの埋め戻しや残っている鋼製杭の切断などが行われています。

改築中の京王井の頭線の橋梁 橋梁脇にある巨大なクレーン
左(1):改築中の京王井の頭線の橋梁(同じ場所の2013年10月12日の様子
右(2):橋梁脇にある巨大なクレーン


 小田急線の線路跡上空を横断する京王井の頭線は、短いスパンの橋桁が使用されており、そのままでは緩行線のトンネルの掘削ができません。そのため、線路跡を1本の橋桁で跨ぐよう改築する工事が進められています。合わせて、下北沢~池ノ上間の中央で交差する茶沢通りまでの盛土高架を、コンクリート製の高架橋に改築し、線路と並行して道路を通すスペースを確保する工事も進められています。小田急線の交差部分については、仮設の橋桁への移し替えが完了しており、古い橋脚や橋台を解体して新しい橋脚を立てる工事が行われています。その先の駅間の盛土高架はコンクリート製の高架橋への改築がほぼ完了し、高欄の取り付けなど仕上げ作業が行われています。
 なお、下北沢駅前は道路が非常に狭いため、橋桁などの大きな資材は周辺道路から直接搬入することができず、東北沢駅側から地上の線路跡を通じて搬入されています。井の頭線の橋梁脇には大型のクレーンも設置されており、橋梁の架け替え作業に使用されたようです。(現在このクレーンは撤去されている。)

井の頭線の下で行われている旧橋台の解体と新橋脚の構築作業
井の頭線の下で行われている旧橋台の解体と新橋脚の構築作業

小田原寄りではトンネル最上層部の構築が大詰め。右側の白い鉄骨は本設駅舎の一部。
小田原寄りではトンネル最上層部の構築が大詰め。右側の白い鉄骨は本設駅舎の一部。

 下北沢駅の小田原寄りは、12月訪問時にトンネル最上層階の構築作業が大詰めを迎えており、トンネル天井のコンクリートがが完成しつつありました。その脇では本設駅舎の鉄骨を組み立てる工事が始まっており、現在は線路跡を完全に覆う形にまで進捗しています。


続いて2回目の記事では、世田谷代田駅から梅が丘駅付近までの工事の様子と、参宮橋駅・代々木八幡駅の10両対応化についてお伝えします。

▼参考
複々線化事業|鉄道事業|事業案内|会社案内|企業・IR・採用情報|小田急電鉄
シモチカ ナビ(2020年5月31日サイト閉鎖)

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