京急蒲田駅高架化工事(2015・2016年取材その2:京急蒲田・糀谷・雑色)【終】

今年3月に完成した京急蒲田駅東口駅前広場

2006年より約10年間にわたりお届けしてきた京急蒲田駅高架化工事レポートの最終回、2回目の今回は駅前広場が完成した京急蒲田駅、改札口が完成した雑色駅・糀谷駅の様子をお届けします。

「その1:大森町・梅屋敷」はこちら

■駅舎が完成・駅前広場の整備が進む(つづき)

●京急蒲田駅
長らく工事中だったホーム横浜寄り端の改札口~上りホームの階段は2015年春に完成した
長らく工事中だったホーム横浜寄り端の改札口~上りホームの階段は2015年春に完成した

 京急蒲田駅構内の施設のうち、改札階(中2階)と2階上り線ホーム(5番線)を結ぶ階段は2010(平成22)年のホーム使用開始以来長らく工事中となっていました。昨年春にようやくこの部分も使用開始となり、改札内の施設は全て完成しました。

京急蒲田駅改札口周辺の1階・中2階にオープンした「ウイングキッチン京急蒲田」 京急蒲田駅改札口周辺の1階・中2階にオープンした「ウイングキッチン京急蒲田」
京急蒲田駅改札口周辺の1階・中2階にオープンした「ウイングキッチン京急蒲田」

 昨年春から年末にかけて、後述する京急蒲田駅東口・西口の駅前広場整備に合わせて、京急蒲田駅改札口周辺の中2階コンコースが拡張されました。昨年12月11日(金)には、この中2階コンコースやその下のフロアに駅ビル「ウイングキッチン京急蒲田」がオープンしました。ウイングキッチン京急蒲田は、1階が京急ストア(スーパー)と各種食料品専門店から構成される食品物販ゾーンと大戸屋、タリーズコーヒーなどから構成される飲食店ゾーン、中2階がカメラのキタムラ(写真・Apple製品の修理・販売)、くまざわ書店、GU(ファストファッション)、大田区の観光案内所などから構成されるサービスゾーンとなっています。観光案内所は、近年急増しているインバウンド観光に対応するため、英語・中国語・韓国語に対応できるスタッフが常駐し、茶道・華道・着物の着付けなど日本文化の体験イベントも開催されています。
 一方、第一京浜を挟んだ反対側の空港線高架下にもセブンイレブン、クリーニング店などがオープンしています。

完成した京急蒲田駅西口駅前広場
再開発ビルの2階と京急蒲田駅中2階改札口はデッキで直結されている 再開発ビルの2階と京急蒲田駅中2階改札口はデッキで直結されている
上(1):完成した京急蒲田駅西口駅前広場(同じ場所の2014年1月3日/2015年7月20日の様子)
下(2・3):再開発ビルの2階と京急蒲田駅中2階改札口はデッキで直結されている


 京急蒲田駅西口は、これまで古い商業施設が立ち並んでおり、道路が狭く自動車の通行が困難となっていました。2013(平成25)年頃これらの古い商業施設は解体され、跡地に代替となる高層マンションと駅前広場を整備する再開発(京急蒲田西口駅前地区第一種市街地再開発事業)が開始されました。再開発対象区域は1.0haで、高層マンションの低層階は元々あった商業施設の移転先となり、地下には駐輪場も併設されました。また、駅前広場の上空には京急蒲田駅中2階の改札口とマンション低層階の商業施設を接続する屋根付きのペデストリアンデッキも設けられました。商業施設の名称は「あすとウィズ」で、昨年12月11日に駅前広場・「ウイングキッチン京急蒲田」とともにオープンしました。

京急蒲田駅とあすとウィズの間を通る道路 2車線に拡幅された弾正橋
左(1):京急蒲田駅とあすとウィズの間を通る道路
右(2):2車線に拡幅された弾正橋


 京急蒲田駅西口と駅北側を通る多摩堤通り(都道11号大田調布線)を結ぶ道路は、呑川に架かる「弾正橋」を含め1車線分しか幅がなく、バスなどの大型自動車の乗り入れが困難でした。このため、2013年の再開発に合わせて歩道を備えた2~3車線の道路へ拡張する工事が行われました。弾正橋については、道路の向きが変化することから旧橋は撤去して新しい橋梁に架け替えが実施されました。4月1日(金)からは京急バス蒲31・33・35・36の4系統がこの道路を通じて西口駅前広場に乗り入れを開始しています。

京急蒲田駅中2階から東口へ向かう歩道橋
京急蒲田駅中2階から東口へ向かう歩道橋

 一方、第一京浜(国道15号)が通る東口側は2012(平成24)年に空港線踏切南側にあった古い歩道橋が撤去され、代わりにやや南側に新しい歩道橋が作られていました。その後撤去された古い歩道橋の跡地にももう1本新しい歩道橋が作られ、完成済みの新しい歩道橋と京急蒲田駅中2階コンコースが「コの字型」に接続するペデストリアンデッキとなり、昨年3月31日(火)より全面的に使用が開始されました。

京急蒲田駅東口のペデストリアンデッキ。手前(今立っている場所)は2012年に完成済みの部分、奥が昨年3月に完成した部分。右奥の階段にはエスカレータ・エレベータが併設されている。
京急蒲田駅東口のペデストリアンデッキ。手前(今立っている場所)は2012年に完成済みの部分、奥が昨年3月に完成した部分。右奥の階段にはエスカレータ・エレベータが併設されている。

 この歩道橋は京急蒲田駅中2階コンコースよりもわずかに高くなっていますが、段差がある個所にはすべてエレベータが設置されています。(地上へ降りるエレベータも兼用)また、昨年3月に使用開始となった北側歩道橋の東側の階段にはエスカレータも併設されており、第一京浜東側との間を段差なしで移動することができるようになりました。第一京浜東側は、空港線高架下の立体駐輪場にも直結しています。第一京浜東側には、数多くの見本市が開催される大田区産業プラザPiOもあり、駅から会場までの移動の際横断歩道で信号待ちの必要がなくなるなど利便性が向上しました。

今年3月31日より使用が開始された京急蒲田駅東口駅前広場
今年3月31日より使用が開始された京急蒲田駅東口駅前広場(同じ場所の2015年7月20日の様子

 歩道橋が完成してさらに1年後の今年3月31日(木)には、これまで高架化工事の資材置き場などに使用されていた場所に駅前広場が完成しました。使用開始翌日の4月1日からは京急バス蒲30・31・33・35・36の5系統(蒲30以外は前述の西口も経由)が乗り入れを開始しています。この東口駅前広場の使用開始をもって京急蒲田駅に接続する施設の工事は全て完成しました。

●雑色駅
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2015年6月に使用を開始した雑色駅の新改札口 改札内コンコース
左(1):2015年6月に使用を開始した雑色駅の新改札口
右(2):改札内コンコース


 高架化後も地上時代の上下線両側に設置されていた改札口を使用していた雑色駅は、昨年6月27日(土)に旧線路敷跡地に設置した新しい改札口の使用を開始しました。同時に改札内コンコースの内装の仕上げも完了し、全ての施設が完成しました。改札内コンコースの内装は他の駅と同様のデザインになっています。コンコース中央の天井は、高さを確保して開放感を演出するためか、それとも高架橋躯体のメンテナンスを考慮したのかは不明ですが、化粧パネルが設置されておらず高架橋底面のコンクリートが露出しています。雑色駅の新改札口は、地上時代よりもやや奥(横浜方)に設置されており、空いたスペースには今後小規模な駅前広場が作られる予定です。

●雑色~六郷土手(新旧接続部)
六郷土手駅のホームから見た新旧接続点。
六郷土手駅のホームから見た新旧接続点。

 平和島~大森町間の新旧接続部は、平和島駅側と同様に上り線外側に仮設高架橋を設置して双方の高架橋を接続しており、90km/hの速度制限がありました。下り線高架化後は、地上へ降りていた線路跡地を塞ぐ形で双方の高架橋をつなぐ高架橋の建設が行われ、2014年10~11月にかけて線路を正規の位置(元の位置)に戻す工事が行われました。これにより、高架化工事着工前と同様最高速度(120km/h)での通過が可能となっています。現在は仮設高架橋の解体や高欄の仕上げも完了しています。

●糀谷駅
完成した糀谷駅の駅舎
完成した糀谷駅の駅舎

 糀谷駅は2010年の上り線高架化時点では地上の線路と高架の線路が単線並列となっており、列車の行き先と発着ホームが固定されていないことから、両ホームを同一の改札内にする必要がありました。そのため、本線の各駅とは異なり下り線ホームを先に使用開始しました。糀谷駅は敷地が全体的に狭く、下り線側は地上ホームと高架ホームの階段やエスカレータを共存させることができなかったため、全面高架化後もしばらくの間ホーム外側に仮設の階段とエレベータを設置して地上へのルートを確保していました。同じ理由からしばらくの間高架橋の支柱なども正規の位置に設置できず、高架下の駅施設の工事も他の駅と比べて進捗が遅れていました。

▼脚注
※詳細は2010年5月の上り線高架化時の「その2」の記事にある「空港線~本線を直通する列車の走行経路」の項を参照。


2014年12月に使用を開始した糀谷駅新改札口
改札口を入ったところ 下り線ホームのエスカレータ
上(1):2014年12月に使用を開始した糀谷駅新改札口
左下(2):改札口を入ったところ
右下(3):下り線ホームのエスカレータ


 全面高架化から2年が経過してようやく地上の片付けもひと段落したことから、前回訪問直後の2014年7月19日(土)に下り線ホームへ通じるエスカレータ1機(上り)、本設エレベータ、本設階段の使用を開始しました。この時点でもまだ高架下は工事が続いており、改札口は駅敷地外の仮設駅舎にありました。
 続いて同年12月20日(土)には高架下の新しい改札口と下り線ホームへ通じるもう1機のエスカレータ(下り)の使用を開始し、全ての施設が完成しました。前述の通り、糀谷駅は敷地が狭くホームの幅も限られていることから、エスカレータ・階段・エレベータはホームの長さ方向へ分散して設置されています。

糀谷駅前で進むマンション建設
糀谷駅前で進むマンション建設

 糀谷駅前でも駅前広場の新設と再開発(糀谷駅前地区第一種市街地再開発事業)が進められています。再開発対象区域は駅と環状8号線に挟まれた1.3haで、高層マンション2棟が建設されることになっており、駅前広場はマンション2棟の間に新設されることになっています。

■次の大舞台は品川
高架化が完了した京急蒲田駅と箱根駅伝が行われている第一京浜。
高架化が完了した京急蒲田駅と箱根駅伝が行われている第一京浜。2016年1月3日撮影

 京急蒲田駅の前を通る第一京浜は、毎年正月に開催される箱根駅伝のコースになっています。踏切が存在した時代には、コースを走る選手への影響を極力減らすため、空港線の減便や行先変更(京急川崎折り返しへの変更など)が実施されていました。高架化工事中の2008(平成20)年には、踏切を選手が通過する際レールの溝に足を取られて負傷し、途中棄権するというアクシデントも発生しました。踏切の解消により、これらの苦労も過去の話となりました。
 京急電鉄はここ数年のインバウンド需要急増が追い風となり、今年3月期の決算では鉄道事業の輸送人員が過去最高を記録するなど交通事業は堅調に推移しています。しかし、今期は長年に渡り棚上げとなっていた久里浜線三崎口~油壺間の延伸とその沿線での大規模宅地開発を、人口減少等の理由により凍結することを決定したため、グループ連結決算は130億円の黒字予想から一転して40億円の赤字へ転落することとなりました。赤字を計上するのは京急電鉄創業以来初の出来事です。(ただし、これはある種の「戦略的撤退」であるという見方もある。)
 今月23日に発表された京急電鉄の中期経営計画では、今後の人口減少社会に備えた「将来の土台づくり」を経営戦略と位置付けており、具体的にはJR車両基地の再開発が進められている品川駅の大規模改良(ホーム地平化・2面4線化・八ツ山橋付近の踏切解消・駅周辺の所有地再開発など)を2019年度に着手することが盛り込まれました。この準備として、現在品川にある本社を横浜のみなとみらいへ移転することも発表されています。品川地区の再開発については当ブログでも以前から追っているところではありますが、今後は京急品川駅や泉岳寺駅の動向についても注目してまいりたいと思います。

京浜急行本線及び同空港線(京急蒲田駅付近)連続立体交差事業
工期:2000(平成12)年度~2014(平成26)年度
距離:京急本線平和島~六郷土手間約4.7km・京急空港線京急蒲田~大鳥居間約1.3km
総工費:約1892億円

▼参考
大田区ホームページ:京浜急行線の連続立体交差事業と関連する街路事業
京急蒲田西口駅前地区第一種市街地再開発事業 | keikama-saikaihatsu.com」(ドメイン失効に伴い第三者のサイトに改変されているため削除)
京急の駅チカ商業施設に新ブランドが誕生!「ウィングキッチン京急蒲田」12月11日グランドオープン! |ニュースリリース | 【KEIKYU WEB】京急電鉄オフィシャルサイト
京急ショッピングプラザ ウィングキッチン京急蒲田
【記者発表】京急蒲田駅東口に駅と直結する歩道橋が完成します。《利用開始日時》平成27年3月31日(火)午後3時から - 国土交通省関東地方整備局川崎国道事務所(PDF/374KB)
2016年3月期決算および京急グループ総合経営計画説明会(京急電鉄企業・IR情報)(PDF/3.0MB)
みなとみらい21 中央地区56-1 街区における事業予定者への決定に関するお知らせ(京急電鉄ニュースリリース)(PDF/159KB)

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