カテゴリ:鉄道:建設・工事
東京メトロ有楽町線豊洲駅改良工事(2010年3月31日取材)
公開日:2010年05月05日15:10

東京都江東区にある東京メトロ有楽町線豊洲駅は、近年駅周辺の開発が急激に進んだため混雑が著しくなっています。今年に入り、豊洲駅ではこの利用者の急増に対応すべく駅の拡張工事が開始されました。今回は公式資料を基にこの改良工事についてお伝えします。
■豊洲駅の概要と現状
東京メトロ有楽町線豊洲駅は1988(昭和63)年6月8日の新富町~新木場間開業に伴い新設されました。この豊洲駅は開削工法で建設された地下3層構造となっており、地下3階のホームは将来の地下鉄8号線(後述)の分岐に備えて2面4線の構造となっています。(現在は外側2線のみを使用。)開業当時、駅の周辺にはIHI(石川島播磨重工業)の東京造船所が広がっており、利用者はこの事業所へ向かう通勤客が中心であり、1日あたり5万人程度という利用者数であったため改札口は地下1階の新木場寄りにある1箇所のみというコンパクトな設備となっていました。

地下1階の改札口。写真には写っていないがこの左側にも4通路ある。
しかし、有楽町線開業直後にIHIの造船所が閉鎖され、跡地に高層のオフィスビルやマンションなどが次々と建設されるようになると状況は一変します。利用者数は2006(平成18)年度に前年比45%増の8万4千人という記録的な値となり、同年に新交通ゆりかもめの有明~豊洲間が延伸開業したこともあいまって年間を通じて激しい混雑が発生するようになりました。特にネックとなったのが1箇所しかない地下2階の改札内コンコースと地下1階の改札口を結ぶエスカレータで、最も混雑する朝の8~9時にかけてホームから改札口まで降車した乗客が“渋滞”し、次の列車が到着するまでに処理しきれずホーム上まで人が溢れかえるなどにいつ転落事故が起きてもおかしくない状況となっています。
■豊洲駅の改良計画

豊洲駅の利用者数のこれまでの推移と今後の予測※1 ※2
豊洲駅の周辺では現在も再開発が続いており、このまま利用者数の増加が続いた場合、2016(平成28)年には1日の利用者数が開業当時の4倍近い19万3千人に達すると予測されています。このため、現在の狭小な駅設備では毎日押し寄せる利用客を到底捌ききれないと判断されることから、東京メトロでは駅施設の大規模な改良を行うこととなりました。改良の内容は以下の通りです。

駅の断面図と改良箇所※3
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1、地下3階ホームから地下1階改札口を直結するエスカレータを新設する。(各ホーム2箇所)
2、新設エスカレータと干渉する階段・エスカレータ・エレベータを撤去・移設する。
3、駅の中央と池袋方に改札口を新設する。
4、改札口を新設するため池袋方の地下1階に躯体を増築する。
5、再開発で建設されたビルと地下で直結する。
この改良計画策定に際してはコンピュータにより駅構内の利用客流動をシミュレーションし、電車を降りてから改札口へたどり着くまでの時間が現状の半分以下になるという結果を得ています。また、現在の豊洲駅は地下1階と地下2階を結ぶルートが新木場寄りのエスカレータ1箇所しかないため、列車の発着の際このエスカレータ付近で10m/s近い強風が発生していますが、今回の改良工事に伴い地下3階のホームと地下1階を結ぶルートが3箇所に増えるため、風速が5m/s程度に緩和されるという副次的効果も得られると予測されています。
上記の1~5の項目のうち、1~4については既存の駅躯体に手を加えることになるため、地上掘削を伴う非常に大規模な工事となります。駅構内は昼夜を問わず非常に混雑しているため、作業ができるのは終電~初電までの間に限られており、工事は2012(平成24)年3月までかかる見込みです。
■2010年3月31日の状況


左:地下3階のホーム。床が灰色の部分が仮設ホーム。
右:着工前の8号線軌道敷はこのように柵で仕切られていた。2006年7月2日撮影
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改良工事は昨年秋から開始されており、地下3階のホームは仮囲いの設置に伴うホーム面積の減少分を補う目的で中央の地下鉄8号線用の軌道敷に板を渡して仮設ホーム化しています。(副都心線渋谷駅と同様の措置。)この仮設ホームは工事完了後は撤去し、軌道を敷設して留置線として使用する予定です。これは池袋側でダイヤが乱れた際、この留置線にとめておいた編成を臨時列車として使用することで列車間隔が極端に開くのを防止するためです。
なお、このスペースの本来の使用目的である地下鉄8号線(豊洲~住吉)は2000(平成12)年の運輸政策審議会第18号答申で「整備を検討するべきである」と位置づけられたものの、現在のところ目立った動きはありません。沿線となる自治体では東京メトロに対し繰り返し建設推進を働きかけていますが、東京メトロでは株式上場を優先するため副都心線をもって新線建設を終了する方針を打ち出しており、実現の可能性は現在のところ未知数といえます。

地下2階コンコース。右手の1番線へ続く階段は移設のため閉鎖中。(2枚合成)
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地下2階のコンコースは天井のパネルを剥がした程度で大きく手を加えた箇所はありませんが、1番線ホームへ下りる階段1箇所が移設のため閉鎖されています。この階段は今回柱1スパン分だけ移動させるという何とも微妙な工事が行われていますが、これはこの階段が地下1階の改札口へ向かうエスカレータの目の前にあるため降車客の滞留スペースを確保する目的があるものと思われます。

地上の晴海通りは中央に作業帯が設置されている。
地上の晴海通りは中央に作業帯が新設され、埋設管類の移設や掘削に必要な土留め壁の構築などが行われています。晴海通りは交通量が非常に多いため工事は夜間のみに限定されているようで、昼間はご覧の通り道路の中央に重機が並べて置かれたままになっています。
なお、今回の豊洲駅と同じ状況にある駅として都営地下鉄大江戸線の勝どき駅があげられます。こちらについても先日、ホーム増設を含む大規模改良計画が発表されました。こちらについても公式な資料が手に入り次第解説したいと思います。
▼脚注
※1:地下空間シンポジウム論文・報告書第14巻68ページ 図-2・図-3
※2:これは改良計画策定時の数値で、2008(平成20)年度の1日の利用者数はこれを上回る約12万3千人となっており駅設備の拡張が早急に必要な状況となっている。
※3:地下空間シンポジウム論文・報告書第14巻69ページ 図-5
▼参考
「東京メトロ有楽町線豊洲駅における駅改良計画について」地下空間シンポジウム論文・報告書第14巻67~74ページ - 土木学会
「現場から 副都心線開業後の取り組みについて」 - Subway(日本地下鉄協会報) - 43~46ページ
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