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京急蒲田駅上り線高架化(2010年5月16日取材)その1
公開日:2010年05月19日01:41

2001(平成13)年から工事が開始された東京都大田区の京急蒲田駅周辺の連続立体交差化事業(高架化)ですが、いよいよ上り線の高架橋が完成し、先週末の5月16日(日)の始発から使用が開始されました。この事業についてはYahoo!ブログ時代の2006年から継続してお伝えしていますが、各記事とも読者の皆様の関心が大変高いことから、今回急遽計画を組み直し、上り高架線の供用開始初日である16日に取材を敢行いたしました。写真の量が多いため、今回は2記事に分割した上でお送りいたします。1記事の今回は事業の概要の再確認と京急本線(六郷土手~平和島間)について解説いたします。
■事業の概要とこれまでの軌跡

高架橋建設前の第一京浜踏切。2006年10月28日撮影
京急蒲田駅周辺の連続立体交差事業は京急本線の六郷土手~平和島間5.4km(事業区間4.7km)と京急空港線京急蒲田~大鳥居間2.1km(同1.3km)を高架化するものです。
着工前の京急線は両線とも線路が地上にあり、多数の踏切が存在し交通渋滞や地域の分断が大きな問題となっていました。特に深刻なのが京急蒲田駅付近にある国道15号線(第一京浜)と都道311号線(環状8号線)の踏切で、1日当たりの交通量はどちらも約2万3千台となっており、京急線の過密ダイヤともあいまって都内でワースト3に入る激しい交通渋滞が発生する「開かずの踏切」となっていました。
一方、本線と空港線が分岐する京急蒲田駅は列車本数が非常に多いにもかかわらず2面3線のホームとなっており、空港線に至っては単線かつ平面交差で本線と分岐・合流するという極めて狭小な設備となっていました。このため、品川~羽田空港間の最大運行本数は1時間に6本に制限されたほか、横浜方面から羽田空港へ直通できないという致命的な問題を抱えることとなりました(これに関しては高架化工事の過程で連絡線が新設され解消した)。今後、羽田空港では新しい滑走路(D滑走路)の供用開始や国際線ターミナル整備が進められており、現在の駅設備ではこれら整備による利用客増加に対応できないことが予想されました。

高架化前後の配線図(2010年5月8日作成の記事で使用したものを再掲)
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このような複数の問題を解決すべく行われているのが今回の連続立体交差事業、線路の高架化です。この事業が完成すると区間内に存在する計28箇所の踏切が廃止され、交通渋滞や地域の分断といった問題が一気に解決できることになります。また、京急蒲田駅については上下線のホームが2層に重なる構造となり、上下列車が完全に分離されるため列車同士の平面交差が無くなるほか、本線側では切欠きホームを併用することで列車の追い抜きを可能にするなど現在よりもダイヤの自由度が格段に向上することが期待されています。京急の公式Webでは品川~羽田空港間の運行間隔は現在の10分から6~7分へ、横浜~羽田空港間の運行間隔は現在の20分から10分へそれぞれ短縮されることが発表されています。
本事業ではこのように「高架化による踏切の解消」と「駅設備の拡張による羽田空港アクセスの改善」という2つの側面を持っています。このため、国・自治体からの補助についても道路整備の一環である「連続立体交差事業」(道路特定財源を充当)と鉄道整備の一環である「駅総合改善事業」の2種類の対象事業として扱われています。総工費は1650億円※1で、国が660億円、東京都が460億円、大田区が200億円、京浜急行電鉄が330億円をそれぞれ負担しています。
▼脚注
※1:駅総合改善事業の総事業費は113億円で、補助の割合はこの事業費の20%以内、負担の内訳は国、地方自公共団体(東京都・大田区・神奈川県・横浜市・川崎市)の2者が20%ずつ、京急電鉄が60%となっている。(参考資料(4)(5))連続立体交差事業については詳しい資料が見つからないため内訳は不明。



左:下り線が仮線に移動した直後の京急蒲田駅。2007年4月15日撮影
中:直接高架方式で高架橋を建設中の大森町駅構内。2009年1月6日撮影
右:仮設高架橋により上り線の高架化が完成した環状8号線の踏切。2008年8月23日撮影
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高架橋の建設工事は2005(平成17)年頃から本格的に開始されました。この京急蒲田駅の高架化工事では仮線敷設による用地買収の増大や工期の長期化を可能な限り抑えるため、京急蒲田駅構内以外の区間については現在ある線路の上空に移動式の作業台を設置して高架橋を建設する「直接高架方式」が採用されました。また、高架橋の構造物についてもほとんどが鋼製となっており、従来多く用いられてきたコンクリート製の高架橋と比較して後期の短縮と省スペース化が図られています。
なお、京急蒲田駅の西側にある環状8号線の踏切については渋滞解消の緊急性が極めて高いことから、本来の高架橋とは別に単線幅の仮設高架橋が設置され、2008年5月に上り線のみ高架化されています。これにより同踏切の遮断時間は従来と比べ4割減少し、環状8号線の渋滞は大きく改善することとなりました。
これまでの工事については以前作成した記事でも解説しておりますのでご覧ください。
▼関連記事
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■完成した上り高架線(京急本線)
前置きが長くなりましたが、ここから先は今回の記事のメインである上り高架線の状況を順に解説したいと思います。なお、各駅の詳しい構内図については京急電鉄の公式Webで公開されておりますので、そちらも合わせてご覧ください。
●新旧接続点(六郷土手~雑色間・大森町~平和島間)


左:六郷土手駅下りホームから新旧接続点を見る
右:平和島駅上りホームから新旧接続点を見る
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六郷土手~雑色間と大森町~平和島間にそれぞれある新旧接続地点では、旧上り線の脇に新しい高架橋を建設して新上り線と接続しています。いずれの地点も合流部は明らかに仮設であると感じさせる急カーブとなっており、下り線の高架橋が完成した後線路を若干ずらしてカーブを解消するものと思われます。切替初日の5月16日はまだ軌道の調整が不完全であるためどちらの地点も40km/hの速度制限が行われていました。
●雑色駅


左:雑色駅の高架上りホーム。右の仮囲いの部分は今後エスカレータになる予定。
右:下り線のみとなった地上ホーム(駅前の踏切より撮影)。旧上り線の線路上には新ホームへの通路が新設された。
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高架化後の雑色駅は地上時代と同じく片面ホーム2面2線の構造となっています。現時点ではまだ地上ホームが残っているため、高架上りホームと地上を連絡する昇降設備は京急川崎寄りの階段とエレベータに限られています。廃止された地上の旧上りホームはこの階段と品川寄りの地上にある駅舎を連絡する通路として使用されており、その一部は旧上り線の線路上に張り出しています。地上ホームにあった上下線ホームを連絡する地下通路は今後新設される高架ホームへ続くエスカレータに支障するため上り線高架化前日の5月15日(土)終電を持って閉鎖されました。このため、現在の雑色駅は上下線で独立した駅舎を持つ形となっています。
高架下りホームについてはホームの躯体は完成していますが、真下の地上下りホームがまだ使用中であるため昇降設備は一切設置されていません。
●京急蒲田駅

京急蒲田駅の高架上りホームの設備配置図
京急蒲田駅は上下線ホームが2層に重なる構造で、いずれのホームも島式ホームと切欠きホームの複合型となっています。今回使用が開始された高架上りホームのうち、切欠きホームについては軌道は完成していますが現在のダイヤではまだ使用しないため、一部に蓋をしたうえで島式ホームの一部として使用しています。各ホームの有効長は島式ホームの本線側(6番線)が12両、空港線側(4番線)が8両(12両分の長さがあるが、品川寄り4両分は柵が設置されている。)となっており、未使用の切欠きホーム(5番線)は8両分がそれぞれ確保されています。
地上との連絡設備は階段が4箇所、エスカレータが上り1箇所、エレベータが1箇所となっています。階段4箇所のうち3箇所は踏み板が仮のものとなっており、旧上りホームを撤去した後に再構築もしくは移設されるものと思われます。エレベータは下りホームまで通じるものがすでに設置されていますが、地上の旧上りホームに干渉するためまだ使用されておらず、脇に高架上りホームのみに通じる仮設のエレベータを設置して対応しています。閉鎖された地上の旧上りホームは雑色駅と同様改札内通路の一部として使用しています。
なお、高架上りホーム上には上階の下りホームに通じる階段・エスカレータがすでに完成していますが、まだ使用が開始されていないため当然のことながら柵で塞がれており入ることはできません。また、駅前後の上下線が1層~2層に移行する部分のうち、品川寄りの高架橋はほぼ全て完成していますが、横浜寄りについては地上の線路が支障となっているため一部が未完成となっています。

京急蒲田駅の高架上りホーム。新1000形は本線の6番線に停車中。左の線路は空港線へ通じる5番線。




左上:高架上りホームの横浜寄り。切欠きホームの上に蓋をしてホームとして使用している。
右上:その奥の切欠きホーム。左のホーム上には既に下りホームへのエスカレータ・階段が完成している。
左下:今回使用が開始された部分にも下りホームへの昇降設備が設置されている。
右下:閉鎖された地上の旧上りホーム。改札内通路の一部として使用されている。
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今回の上り線高架化により上下線のホームが別々になったことから、空港線へ直通する列車の線路の使用方法が大幅に変更されました。これについては次回の記事で詳しく解説することとします。
●梅屋敷駅


左:梅屋敷駅の高架上りホーム。下りホームを拡幅して上りホームとして使用。
右:地上の下りホーム。左が閉鎖された旧上りホームで、高架ホームへ通じる階段は骨組みのみができていることがわかる。
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梅屋敷駅は雑色駅と同様片面ホーム2面2線の構造です。地上時代の梅屋敷駅はホーム両端が踏切となってたため、4両分しか長さが確保できず6両編成の列車については横浜寄り2両のドアを締め切りとしていました。高架ホームでは上下線とも6両分の長さが確保されており、今回上り線の高架ホームの使用が開始されたことで上り列車についてはドアの締め切りが解消されました。
高架ホームと地上を連絡する昇降設備については地上の旧上り線ホームの幅が狭かったため、階段を追加することができず、今回の上り線高架化ではやむを得ず下り線ホームを暫定的に拡幅して上り線ホームとして使用することとなりました。地上への連絡通路は下り線ホームへ接続する形態となっていますが、こちらについても用地幅が非常に限られていることから、途中で駅敷地外に設置した仮設階段へ迂回する構造となっており、狭い空間の中で工事を進めていく上での苦労を垣間見ることができます。
●大森町駅

大森町駅高架上りホームに停車中の京急新1000形ステンレス車。
大森町駅も雑色駅と同様片面ホーム2面2線の構造です。昇降設備についても雑色駅と同様で、改札口も上下線で完全に独立した構造となっています。
ここまでで今回の高架化工事と本線の各駅の概要についての解説が終わりました。次回は空港線の各駅の概要と今回の上り線高架化に伴うダイヤ改正で新設された「エアポート急行」の運転経路などについて解説する予定です。
▼参考
(1)都市高速鉄道京浜急行電鉄本線及び同空港線の連続立体交差事業について - 京浜急行電鉄(PDF)
(2)京浜急行電鉄|報道発表資料 - [京急蒲田駅付近連続立体交差事業]の進捗に伴い、上り線を高架化します
(3)大田区ホームページ:京浜急行線の連続立体交差事業と関連する街路事業
(4)鉄道助成業務の実施状況に関する事項 - 平成20年度第1回「鉄道助成業務の審査等に関する第三者委員会」資料 - 鉄道・運輸機構(PDF)
(5)横浜市道路局民間度チェック(平成17年度) - 鉄道駅総合改善事業(PDF)
→文中に京急蒲田駅駅総合改善事業の負担内訳が記述されている
(6)京浜急行本線 京急蒲田駅付近上り線を立体化|東京都
→2008年の環状8号線踏切上り線仮立体化時の発表文
(7)〔京急蒲田駅付近連続立体交差事業〕第4工区工事 - KAJIMAダイジェスト
(8)京浜急行電鉄本線、空港線連続立体交差プロジェクトの概要 - (社)建設コンサルタンツ協会会報誌No.236(PDF)
(つづく)
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