京急蒲田駅上り線高架化(2010年5月16日取材)その2

第一京浜上の空港線高架橋。都営5300形が通過中。

5月16日(日)に高架化された京急蒲田駅、2記事目の今回は空港線内の状況と今回の高架化に際して行われたダイヤ改正で新設された「エアポート急行」について解説したいと思います。

▼関連記事:高架化工事の概要と京急本線の各駅の状況
京急蒲田駅上り線高架化(2010年5月16日取材)その1(2010年5月19日作成)

■完成した上り高架線(京急空港線)
京急空港線には品川方面へ向かう列車と横浜方面へ向かう列車の2種類の列車が走っています。このうち、横浜方面へ向かう列車についてはこれまで京急蒲田駅のホーム上で折り返す形で横浜方面と羽田空港方面の間を直通していましたが、今回上り線が高架化されたことで上下列車のホームが分離されこのような運行ができなくなりました。そこで、空港線の糀谷~大鳥居間にX字のポイントを設置し、京急蒲田~大鳥居間を単線並列とすることで両方面に直通可能にしています。

●京急蒲田駅
京急蒲田駅高架上りホームの設備配置
京急蒲田駅高架上りホームの設備配置

京急蒲田駅の上り高架ホームの途中で分岐する空港線上り。 空港線ホーム(4番線)の品川寄りは使用しないため柵が設置されている。
左:京急蒲田駅の上り高架ホームの途中で分岐する空港線上り。
右:空港線ホーム(4番線)の品川寄りは使用しないため柵が設置されている。

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京急蒲田駅の高架上りホームは前回の記事で解説したとおり島式ホームと切り欠きホームが直列に並んでいますが、空港線のホーム(4番線)はこのうちの島式ホーム側にあります。この島式ホームは本線側の列車が最大12両であるため、12両分の長さがありますが、空港線は線内の各駅のホームが最大8両対応となっているため8両編成の列車までしか入線することがありません。そのため、使用しない品川寄りの4両分は柵が設置されています。また、羽田空港寄りは線形の関係で空港線の線路が島式ホームと切り欠きホームの境付近で分岐しており、この分岐点から横浜寄り(切欠きホーム(5番線)の空港線側)はホームとして使用できないため全面的に柵で覆われています。

第一京浜上の高架線を行く京急2000形
第一京浜上の高架線を行く京急2000形
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第一京浜(国道15号線)を越える空港線の高架橋は地上時代と同様半径100m前後の「超」急カーブとなっており、レールと車輪の摩擦音を軽減するためレールに潤滑油を塗る装置が設置されています。第一京浜を越えると、上下線で2層になっていた高架橋が1層へ合流します。この合流地点に将来品川方面と横浜方面の列車を振り分けることになるX字のポイントが設置されていますが、京急蒲田駅は3階ホームが未供用、後述する糀谷駅の高架ホームは上り線の線路のみを使用しているため、「糀谷駅上り線→京急蒲田駅上り線(2階)」の進路に固定した状態で使用されています。

糀谷~京急蒲田間のポイント。左の京急蒲田駅下りホームへ通じる高架橋も軌道敷設は完了済み。
糀谷~京急蒲田間のポイント。左の京急蒲田駅下りホームへ通じる高架橋も軌道敷設は完了済み。
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●糀谷駅
糀谷駅の高架ホーム。複線断面の半分のみを使用しているのがわかる。 糀谷駅の地上ホーム。左は閉鎖された旧上りホーム。
左:糀谷駅の高架ホーム。複線断面の半分のみを使用しているのがわかる。
右:糀谷駅の地上ホーム。左は閉鎖された旧上りホーム。

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糀谷駅の高架ホームは本線の梅屋敷駅と同様本来下り線となるホームを拡幅して暫定的に上り線ホームとして使用しています。このような構造となった理由は地上の旧上り線がカーブしているため、高架ホームへの昇降設備が設置できなかったこともありますが、もう1つの理由としては空港線の京急蒲田~大鳥居間は単線並列なっていることが考えられます。つまり、糀谷駅では列車の行き先とホームの関係が固定されていないため、本線の雑色駅や大森町駅のように上下線で改札口を分離してしまうと、間違ったホームに入場してしまった場合目的の方面へ向かう列車に乗車できなくなってしまいます。そこで、地上・高架双方の改札口を1つの改札口に接続して改札内で両ホームを行き来できるようにしたのです。
なお、高架ホームへの昇降設備は本来設置するべき位置に地上ホームがあるため、梅屋敷駅と同様駅の敷地外に設置した仮設の階段・エレベータで代用しています。

糀谷~大鳥居間にあるX字のポイント。
糀谷~大鳥居間にあるX字のポイント。

糀谷駅の次の大鳥居駅は地下にあるため、上り線は糀谷~大鳥居間で地上に降りています。この地上に降りた地点に上下線を分岐・合流するX字のポイントが設置されており、このポイントと京急蒲田駅の間が単線並列となっています。

■空港線~本線を直通する列車の走行経路
京急蒲田駅構内の階段。発着ホームと行き先を案内するカラーラインが設置された。
京急蒲田駅構内の階段。発着ホームと行き先を案内するカラーラインが設置された。

以上のように今回の上り線高架化に伴い、空港線の京急蒲田~大鳥居間は単線並列という特殊な線路形態となったわけですが、文章だけではイマイチイメージしにくいだろうということでここで今回のダイヤ改正で新設された新しい種別の列車である「エアポート急行」と京急蒲田が通過となった「エアポート快特」を例にその走行経路を開設したいと思います。

●エアポート急行(新逗子~羽田空港)
「エアポート急行 羽田空港行き」の行き先表示。京急川崎駅で撮影。 「エアポート急行」停車に伴い8両分に延伸された仲木戸駅のホーム。
左:「エアポート急行 羽田空港行き」の行き先表示。京急川崎駅で撮影。
右:「エアポート急行」停車に伴い8両分に延伸された仲木戸駅のホーム。

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エアポート急行」は横浜方面から羽田空港へのアクセス改善を目的に今回のダイヤ改正で新設された種別です。この列車は逗子線新逗子駅を始発に金沢文庫までの各駅に停車し、本線に入ってからは能見台、杉田、上大岡、弘明寺、井土ヶ谷、日ノ出町、横浜、仲木戸、神奈川新町、京急鶴見、京急川崎、京急蒲田に停車します。(このうち、杉田仲木戸についてはホームが6両分しかなかったためダイヤ改正に先立ちホームの延伸工事が行われています。)そして京急蒲田で進行方向を変え、空港線内の各駅に停車しながら羽田空港へ向かいます。従来でも逗子線から羽田空港へ向かう列車は運行されていましたが、この列車の場合金沢文庫までは普通、金沢文庫~京急川崎で快特と併結運転、京急川崎から先は特急と2回も種別を変更しており、慣れない利用者にはいささか難解な列車となっていました。今回の「エアポート急行」新設は運行途中での種別の変更や連結・切り離しを廃止することにより、利用者にわかりやすいダイヤ構成を目指したものといえます。
この「エアポート急行」の京急蒲田駅付近における走行経路を図で示すと以下のようになります。

エアポート急行 横浜方面→羽田空港
エアポート急行(横浜方面→羽田空港)の走行経路

1、横浜方面から京急蒲田駅高架上りホームの空港線(4番線)に停車。
2、折り返して空港線に入り、糀谷駅の高架ホームに停車。
3、糀谷~大鳥居間のポイントで下り線に転線し、羽田空港へ向かう。

エアポート急行 羽田空港→横浜方面
エアポートエアポート急行(羽田空港→横浜方面)の走行経路

1、羽田空港方面から上り線を走行してきた列車は糀谷~大鳥居間のポイントで地上線に転線
2、糀谷駅の地上ホームの空港線(1番線)に停車。
3、京急蒲田駅の地上下りホームに停車。折り返して横浜方面へ向かう。

なお、今回のダイヤ改正に伴い従来から運行されている品川方面(都営浅草線・京成線を経由して北総線に直通)から羽田空港へ直通する急行についても列車名が「エアポート急行」に改称されていますが、停車駅など特に変更された点はありません。

●エアポート快特(羽田空港~品川方面)
従来の「エアポート快特」は品川方面~羽田空港間を直通する列車として40分間隔で運転されていました。今回のダイヤ改正ではこの列車を20分間隔に増便した上で京急線内唯一の途中停車駅であった京急蒲田を通過とし、品川~羽田空港間をノンストップで走るよう改められました。(この件をめぐって大田区が抗議する事態となっているのは5月8日作成の記事で述べたとおりです。)この「エアポート快特」の走行経路を先ほどの「エアポート急行」と同じく図で示すと以下のようになります。

エアポート快特 品川方面→羽田空港
エアポート快特(品川方面→羽田空港)の走行経路

1、品川方面から下り線を走行してきた列車は京急蒲田駅地上下りホームの空港線(1番線)通過
2、糀谷駅の地上ホームを通過。
3、糀谷~大鳥居間にあるポイントをそのまま直進して下り線に入り羽田空港へ向かう。

エアポート快特 羽田空港→品川方面
エアポート快特(羽田空港→品川方面)の走行経路

1、羽田空港から上り線を走行してきた列車は糀谷~大鳥居間にあるポイントをそのまま直進
2、糀谷駅の高架ホームを通過。
3、京急蒲田駅の高架上りホームの空港線(4番線)通過し、品川方面へ向かう。

前述の品川方面から羽田空港へ向かう「エアポート急行」についてもこの「エアポート快特」と同じ走行経路となっています。したがって、京急蒲田駅では羽田空港行きの列車が1番線と4番線の2つのホームから発車することになります。

以上をまとめると

●羽田空港~横浜方面の列車
糀谷~大鳥居間のポイントで転線する。京急蒲田~大鳥居間は上下線をそれぞれ逆走する。

●羽田空港~品川方面の列車
糀谷~大鳥居間のポイントは使用せず上下線の区別にそれぞれ従い走行する。

という走行経路をとることがわかります。なお、下り線の高架化完成後、糀谷~大鳥居間のポイントの役割は前述の糀谷~京急蒲田間のポイントに移す形で廃止される予定です。

■上り線高架化でできたものその他
フローティングラダー軌道 線路上にある謎の白い板
待合室 駅ナンバリング?
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写真左上:フローティングラダー軌道
今回高架化された区間のうち、両端の既存の高架橋との取り付け部分以外の区間についてはコンクリート製の長いまくらぎ(ラダーまくらぎ)でレールを浮かせた「フローティングラダー軌道」が採用されています。この軌道ではまくらぎと高架橋の間に防振ゴムを挟むことで騒音・振動を低減させています。フローティングラダー軌道自体は横浜駅などですでに採用実績がありますが、今回高架化された区間についてはまくらぎを前後左右に拘束するL字形の黒い金具(ダクタイル鋳鉄製※1)が多数設置されているのが特徴です。これは当区間が最高速度120キロの高速運転を行う区間であることやカーブが多く存在することから、列車走行のよりまくらぎがずれてしまうのを防ぐ目的があるものと思われます。

写真右上:線路上にある謎の白い板
このフローティングラダー軌道では数十メートル間隔(一定ではない)で線路中央にコンクリートの突起があり、その頂部にはこのように白い板が設置されています。形状から推測するとRFIDタグではないかと思われますが、詳しいことは不明です。

写真左下:待合室
高架化された駅のうち、雑色・梅屋敷・大森町・糀谷の4駅ではホーム上に冷暖房つきの待合室が新設されました。これらの駅では通過列車が多く、冬の寒さや夏の暑さを避けることが可能となり、快適性が向上したことになります。

写真右下:駅ナンバリング?
京急蒲田駅のホーム上に設置されている駅名板です。白いテープで隠された部分が2箇所がありますが、この部分を良く見ると下に「KQxx(xxは数字)」の文字が隠れているのがわかります。この記事を執筆した時点ではまだ公表されていませんが、京急でも近いうちに地下鉄各線ですでに一般的となっている「駅ナンバリング」を導入するものと思われます。


上り線の高架化という1つの節目を迎えたこの京急蒲田駅の連続立体交差事業。下り線の高架化は2年後の2012(平成24)年が予定されています。京急線の線路が21世紀にふさわしい姿になるまであと少しのところまで来たといえそうです。

▼脚注
※1:参考資料(5)による

▼参考
(1)都市高速鉄道京浜急行電鉄本線及び同空港線の連続立体交差事業について - 京浜急行電鉄(PDF)
(2)京浜急行電鉄|報道発表資料 - [京急蒲田駅付近連続立体交差事業]の進捗に伴い、上り線を高架化します
(3)京浜急行電鉄|報道発表資料 - 5月16日(日)ダイヤ改正を実施します
(4)大田区ホームページ:京浜急行線の連続立体交差事業と関連する街路事業
(5)ラダー軌道 - 清田軌道工業株式会社

▼関連記事
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京急蒲田駅上り線高架化(2010年5月16日取材)その1(2010年5月19日作成)
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