カテゴリ:鉄道:建設・工事
交通博物館の跡地再開発(2010年3月28日取材)
公開日:2010年06月07日01:02

今年3月、JR東日本は東京都千代田区の交通博物館跡地の再開発計画について発表しました。現在、交通博物館跡地ではこの再開発事業に向けた準備が行われています。ここでは交通博物館移転の経緯、再開発の概要、現在の工事の様子について解説することとします。
■交通博物館移転の経緯

閉館直前の交通博物館。2006年5月4日撮影
交通博物館の歴史は1912(明治45)年、当地に現在の中央線の前身である甲武鉄道の万世橋駅が開設されたことに始まります。1912年に開業した万世橋駅は当初甲武鉄道の東京都心側のターミナル駅でしたが、5年後には同鉄道が東京駅まで延伸すると中間駅となり利用者数が減少、1923(大正12)年には関東大震災が発生し、開業当時に建設された辰野金吾・葛西万司(2人とも東京駅赤レンガ駅舎の設計者)設計の赤レンガ駅舎が焼失してしまいます。焼け残った部分を利用して駅施設は1925(大正14)年に復旧しましたが、周辺の鉄道路線の拡充が進んだ(同年、当駅の北に東北本線の秋葉原駅の開業した)ため利用者の減少は続き、1936(昭和11)年には旧駅舎の基礎を流用して「鉄道博物館」と併設する形で再スタートするものの、万世橋駅は太平洋戦争中の1943(昭和18)年に廃止となりました。(このとき生じた資材の一部は京浜東北線新子安駅に流用したといわれている。)
当初は鉄道省(国鉄の前身)の直営だったこの交通博物館ですが、戦後は運営主体が日本交通公社(現在のJTB)に移管され、1971(昭和46)年にはさらに交通文化振興財団へと再度移管され国鉄分割民営化後もそのままの形で運営が続けられました。国内産業の発展とともに展示物の拡充も進められ、鉄道のみならず自動車・航空機など交通分野の総合博物館として永きにわたり日本の交通産業の歴史を伝えてきましたが、それにともなう施設の手狭さや建設から半世紀以上が経過した建物の老朽化は覆いがたいものとなり、移転の必要性が議論されるようになりました。そしてJR東日本発足20周年記念事業の1つとして埼玉県さいたま市へ移転することが決定し、2006(平成18)年5月14日、惜しまれながらその歴史に幕を下ろしました。
なお、万世橋駅としての機能を失ってから長い年月が経過していたこの交通博物館ですが、当時の駅施設の一部は壁の裏に隠れた形で残されており、閉館直前の一時期には特別公開としてこれらの遺構を周ることができるツアーが開催されました。
※ギャラリー:在りし日の交通博物館









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写真の解説
1段目左から…
1、交通博物館エントランスを西側(地下鉄小川町駅側)から見る。(2006,05,04)
2、「さよなら交通博物館」のヘッドマークが装着された蒸気機関車。(2006,05,04)
3、解説が名物となっていた鉄道模型のジオラマ(2006,02,25)
2段目左から…
4、館内の展示物(信号機)。高架下のため、通路数本に分かれて展示されていた。(2006,02,25)
5、本館屋上から通過中の中央線を見下ろす。201系電車もこの夏で完全引退となる。(2006,05,04)
6、2の9850形蒸気機関車に装着のヘッドマークを拡大。(2006,05,04)
3段目左から…
7、特別公開された旧万世橋駅のホームと公開に先立ち仮設された特製の駅名板。(2006,02,25)
8、旧万世橋駅の通路。階段の滑り止めは戦時中の金属供出で外されたまま。(2006,02,25)
9、館内中央のもう1つの階段跡。こちらは途中で閉塞されている。(2006,05,04)
▼参考
「旧万世橋駅のうつりかわり - 交通博物館 解説シートNo.102-2」
など交通博物館閉館直前に配布されていた資料各種
▼関連記事
交通博物館 その1(2006年2月27日作成)
交通博物館 その2(2006年2月27日作成)
交通博物館にEF55 1(2006年3月26日作成)
交通博物館Part???(2006年5月4日作成)
閉館後の交通博物館(2006年6月17日作成)
交通博物館の跡(2007年7月5日作成)
鉄道博物館(2月18日訪問)その1(2008年3月11日作成)
鉄道博物館(2月18日訪問)その2 (2008年3月12日作成)
■再開発の概要と現在の状況(2010年3月28日取材)
2006年の閉館後、交通博物館ではさいたま市の鉄道博物館へ収蔵品を移設するためすぐに一部建物が撤去されましたが、その後は特段の変化が無く現在まで施設が半ば「放置」された状態となっていました。しかし今年に入り、残っていた建物の取り壊しが開始されるとともに3月に冒頭で触れた再開発計画が正式に発表されました。それによると、新しく建設される施設の概要は以下のようになっています。
●施設名称
神田万世橋ビル(仮称)
●構造
鉄骨 地上20階(高さ100m)・地下2階
●施設構成
低層部(1~4F):店舗・ビジネススクール・カルチャースクール
高層部(5F~20F):賃貸オフィス
●スケジュール
2010年6月着工、2012年12月完成(予定)
以上のようにこの交通博物館の跡地には最近主流の高層オフィスビルが建設されるわけですが、当地は前述の通り交通博物館や万世橋駅といった東京の鉄道が発展していく上で重要な施設があったことから、これらの遺構を生かし後世にその歴史を語り継いでいくことも意識したデザインがなされることになっています。具体的には再開発ビルと中央線のレンガ高架橋の間に通路を設け、ビルの低層部に入居する店舗(喫茶店などを想定?)との一体性の確保や地中に保存されている旧万世橋駅の基礎が見学できるよう窓を設けるといった設計が取り入れられる模様です。
また、時代の求めに応じて建物の断熱性の向上や開閉可能な窓の設置による空調設備への負荷低減、建物の屋上・壁面緑化、さらには自転車通勤の促進に向けた駐輪場の整備やシャワー室の完備といった環境性能の一段の向上が図られる計画となっています。
▼参考
神田万世橋ビル(仮称)の建設について - JR東日本(PDF)


左:かつて0系の先頭部が展示されていた交通博物館エントランス付近。
右:西側(都営新宿線小川町駅側)から見た解体中の交通博物館
※クリックで拡大
すでに2ヶ月前となってしまいますが、3月28日時点では収蔵品の搬出完了後残されていた本館の建物の解体作業が進められていました。この時点ではエントランス側半分程度のみの解体が済んだところ、中央通り側からは中途半端に壊された建物の断面が露になった状態となっていました。本館の数メートル脇には最短2分間隔で電車が走る中央線が通っており、線路への影響を防止するため建物の解体は慎重に進められている模様です。
■歩行者天国の再開へ…変わるアキバの街

7月から歩行者天国が再開されることになった秋葉原の中央通り
おまけとして、この夏予定されている秋葉原を語る上で重要なイベントについてもう1つ。そう、7月に予定されている中央通りの歩行者天国の再開についてです。
2008(平成20)年6月8日、歩行者天国となっていた秋葉原の中央通りにトラックが突入、歩行者を次々とはねた上刃物を持った運転手が降りるや否や歩行者に次々と切りかかり7人が死亡、10人が負傷する「通り魔事件」が発生しました。秋葉原の歩行者天国ではこの事件以前から無許可での路上ライブや過激な露出行為など風紀の乱れが指摘されていましたが、この事件により各方面の「安全上問題あり」という見方が一致し、当面の間歩行者天国が中止される事態となりました。
その後、町内への防犯カメラの整備が進んだことや歩行者天国の廃止により中央通りの歩道の混雑が激しくなったことから幾たびにも渡り歩行者天国の再開についての議論が行われ、最終的に今年7月の再開が正式に決定されました。再開にあたっては商店会や住民により定められた「秋葉原協定」により、路上でのパフォーマンスや道路の不法占拠などの防止に取り組む方針が示されています。
交通博物館の閉館から丸4年が経過した秋葉原の街は当時大勢だったのパソコンや電子部品関連の店がほとんど姿を消し、その跡にアニメや同人誌関連の店が入るという状況となっています。また、最近ではこれまで「オタク文化」についてある意味蔑視の目しか向けてこなかったテレビなどマスコミが、秋葉原の街について(良い意味か悪い意味かは別として)積極的に取り上げるようになった結果、遠方から観光のために秋葉原に訪れるといったケースも多く見られるようになっています。このため、休日の中央通りの歩道は身動きが取れないほど混雑することもあり、「通行空間の確保」という面において歩行者天国の再開は懸案となっていたと言っても過言ではありません。今後は商店会・住民のみならず秋葉原を訪れる者全員がこの歩行者天国を守っていく必要があります。
言うなれば「アキバのホコ天を生かすも殺すも我々次第」なのです。
▼参考
秋葉原の「ホコ天」7月にも再開へ…地元合意 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
秋葉原歩行者天国再開で地元が一致 夏休み中を要望 - MSN産経ニュース
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