カテゴリ:鉄道:建設・工事
新線区間と空港第2ビル・成田空港駅…成田スカイアクセスまもなく開業!(3)
公開日:2010年07月01日01:40

先週水曜日からお届けしている7月17日開業予定の成田スカイアクセスのレポートの続きです。今回は北総線印旛日本医大駅から終点成田空港駅までの工事の概要と状況、さらにトピックとして現在進められている空港第2ビル・成田空港駅のセキュリティエリア廃止の検討についてお伝えします。なお、ここから先の内容については特に記載がない限り2010年6月12日に取材したものとなります。
▼関連記事
成田スカイアクセスの概要…成田スカイアクセスまもなく開業!(1)(2010年6月23日作成)
北総線の改良工事と運賃問題…成田スカイアクセスまもなく開業!(2)(2010年6月25日作成)
■印旛日本医大~空港第2ビル間の線路新設

印旛日本医大~成田空港間の配線図
印旛日本医大駅から成田市土屋の旧成田新幹線路盤接続点までの10.7kmはゼロから構造物を建設する完全な新設区間となります。この区間の建設は成田高速鉄道アクセス株式会社が直接行い(施工は鉄道建設・運輸施設整備支援機構に委託)、開業後も引き続き同社が設備の保有を行います。また、線路に並行する形で国道464号線(北千葉道路)の整備が同時並行で行われています。一方、旧成田新幹線路盤接続点から先の区間は成田新幹線用として建設された路盤(成田空港高速鉄道)に軌道を敷設します。この区間は片側がすでに片側がJR成田線として使用されており、建設からおよそ30年のときを経てようやく全ての構造物が営業線として使用されることになります。


左:印旛日本医大駅成田空港方の出発信号機。試運転中のスカイライナー接近中で高速進行を現示。
右:印旛捷水路橋梁付近のコンパウンドカテナリ架線。2010年4月18日撮影。
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この線路新設区間については可能な限りの所要時間短縮を実現するため、国内の在来線では最速となる160km/h走行が可能な用設計されいます。このため、軌道については全区間で60kgレールとD型直結軌道を採用しており、まくらぎなど軌道構造が変化する地点では衝撃防止のため軌道の硬さ(ばね定数)を段階的に変化させるなどの配慮がなされています。また、架線についても新幹線で実績のあるコンパウンドカテナリ架線を採用、さらに信号設備については北越急行ほくほく線で使用されている高速進行現示(青2灯)を採用※1するなど高速運転の実現に向けてあらゆる面において格別の配慮がなされています。
▼脚注
※1:このためこの区間の信号機は全て6灯式となっている。なお、高速進行現示は160km/h走行が可能な特急スカイライナー(AE形)のみに対して行われる。信号機手前には地上子が2個設置されており、ここで130km/h以上の高速走行が可能かどうかを判別して現示を出す模様である。
以下、各区間の工事の概要や現在の状況を解説していきます。
●印旛日本医大駅の東側


左:北総線の引き上げ線2線の両側に延びるのが成田スカイアクセスの線路(前回の記事の写真を再掲)
右:左写真奥のトンネル上から成田空港方面を見る。
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印旛日本医大駅の成田空港寄りにある北総線の引き上げ線の両脇から成田スカイアクセスの線路新設区間は始まります。ここから先は軌道や架線が北総線とは違う構造となり、見た目だけで160km/hの高速走行を行う区間であることを知ることができます。北総線の引き上げ線が終わり、道路のトンネルをくぐり桜で有名な吉高の丘陵を掘割で抜けると、印旛沼沿いの平野に出ます。
●印旛沼付近

印旛捷水路橋梁。手前の作りかけの丸いコンクリート柱は北千葉道路用。2010年4月18日撮影
印旛沼の北部調整池と西部調整池を結ぶ印旛捷水路(しょうすいろ)をトラス橋で渡ると、そこから成田湯川駅までは印旛沼沿いの田畑の中を高架橋で一直線に進んでいきます。この区間については環境面への配慮からシールド工法を用いたトンネル構造とすることも検討されましたが、地上~地下のアプローチ区間による生活道路の分断やトンネル建設に伴う印旛沼の水質汚染(薬液注入)などが懸念されることからやむを得ず高架構造を採用しました。高架構造の採用にあたってはエクストラドーズド橋(ケーブルで桁を支える)からPC箱桁へ変更し、桁の高さも極力抑えるなど豊富に残された自然の風景を壊さないよう最大限の配慮がなされています。
●成田湯川駅

JR成田線の車内から見た成田湯川駅
成田線(我孫子支線)との交差地点には成田スカイアクセス唯一の新駅である成田湯川駅(工事中の仮称は成田ニュータウン北駅)が設置されます。この成田湯川駅は特急「スカイライナー」が160km/hで通過するため、中央に通過線2線が通りその両側に停車線と片面ホームが1本ずつ設置される新幹線の駅に準じた構造となっています。ホームの有効長は上下線とも8両分で、開業後は成田スカイアクセスの一般特急のみが停車する予定です。駅施設はすでにほとんどが完成しており、現在は駅前広場の整備が行われています。
なお、成田市ではJR東日本に対して成田線側にも駅を新設するよう働きかけていますが、今のところこちらに駅が新設される予定はありません。(この点は北総線の東松戸駅に類似しているといえる。)
成田湯川駅から先は複線の線路が単線へ合流します。この合流する分岐器(ポイント)には直進側・分岐側ともに160km/hで通過が可能な38番分岐器※2が採用されています。この38番分岐器は高崎駅北方の上越新幹線・長野新幹線の分岐点(下り)で初めて採用されたもので、国内では2例目の設置となります。直進線と分岐線の分岐角度は1度30分28秒、分岐器全体の長さは実に135m(電車7両分)という巨大な分岐器となっています。
▼脚注
※2:この数が大きくなるほど分岐角度が小さくなり、高速での通過が可能となる。在来線では12~20程度が一般的。
●旧成田新幹線路盤接続点(成田市土屋)


左:JR成田線下り列車から見た成田スカイアクセス高架橋の取り付け部分
右:同じく上り列車から見た成田新幹線高架橋上の成田スカイアクセスの軌道
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JR成田線(佐原・銚子方面)と交差すると直後に旧成田新幹線の高架橋に取り付きます。この付近の成田スカイアクセスは成田新幹線の計画ルートよりも若干北側を通っており、成田新幹線の高架橋には大きくカーブしながら取り付いています。取り付け部分の高架橋は特に改造や補強などはされておらず以前から存在する構造物をそのまま利用しています。
なお、この接続点付近にも周辺住民から新駅(土屋駅)の設置が要望されていますが、現在のところ目立った動きはありません。
●新根古屋信号場(京成)・堀之内信号場(JR)


左:JR成田線上り列車から見た新根古屋信号場。
右:同じ列車から見た堀之内信号場。カーブの途中にある。
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この区間は片側がすでにJR成田線として使用されており、その途中には未使用だったもう片方の路盤に張り出す形で上下列車の行き違い設備である根古屋信号場が設置されていました。成田スカイアクセスの新設に際してはこの根古屋信号場が支障となるため、代替として約1km成田空港寄りの地点に新たに堀之内信号場を新設し、昨年3月のダイヤ改正より使用を開始しました。(これに伴い根古屋信号場は廃止。)この堀之内信号場はカーブの途中に新設されたもので、両端の分岐器部分は線路を強引に直線化して挿入するなど若干線形に無理があるため、信号場内には100km/hの速度制限が設けられています。
一方、根古屋信号場付近ではJR成田線と同様に単線となる成田スカイアクセスの上下列車の行き違い設備として新根古屋信号場が既存の高架橋を拡幅する形で設置されています。信号場の有効長は8両分となっており、両端の分岐器の制限速度は80km/hと高速で進出入が可能となっています。
■空港第2ビル・成田空港駅の改良
空港第2ビル駅の手前で成田スカイアクセスの線路は既設の京成線の線路に合流します。空港第2ビル駅はJR・京成ともに単線でその両側に片面ホームが1面ずつ付く構造で、終点成田空港駅はJR・京成ともに1面2線のホームとなっていました。しかし、京成側については成田スカイアクセス開業に伴い列車本数が増加することや京成本線と成田スカイアクセスでは運賃体系が異なるため両線の利用者を分離する必要が生じることからホームを増設することになりました。以下、空港第2ビル駅、成田空港駅の順に両駅の改良工事の概要と状況について解説します。
●空港第2ビル駅

空港第2ビル駅の増設ホーム
空港第2ビル駅では供用中のホームの外側に新たに単線分のトンネルを増築し、既設ホームと接続してホームを1面2線化しました。トンネルの強度上の兼ね合いのためか、この新旧ホームはホーム全長ではなく所々壁に穴を開ける形で接続されています。成田スカイアクセス開業後は16両分ある長いホームの中央に壁を設置して2分割し、成田空港寄りを成田スカイアクセス線用(1・2番線)、上野寄りを京成本線用(3・4番線)として使用する予定です。このため地下1階のコンコースには両線の利用客を分離する中間改札が設置される予定です。


左:下り線専用となった既設のホーム
右:既設ホームと増設ホームを接続する通路の例
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増設ホームは2009(平成21)年11月より使用が開始されました。以後、上り列車は全てこの増設線側から発車するようになり、既設の線路は下り列車専用に変更されています。既設ホームはもともと成田新幹線用として建設されていたため、トンネルの幅・高さともに大きいのに対し、増設線側は通常の在来線規格で建設されているため実際に見比べると大きさの違いがよくわかります。既設ホームと増設ホームを接続する通路は階段付近を中心に合計10箇所設置されています。
地下1階のコンコースについては大きな変化はありませんが、京成電鉄のチケットカウンターは今回の成田スカイアクセス開業に合わせて青をベースにした外観にリニューアルされています。
●成田空港駅

成田空港駅ホーム。こちらは照明がかなり暗めに設定されている。
成田空港駅は既存のホームはそのままに現在の構造物の外側に完全に独立したトンネルを構築しホーム1面1線を新設します。このホームは成田スカイアクセスを経由する一般特急専用ホーム(1番線)として使用します。一方、既存のホームについては空港第2ビル駅と同じ16両分に延長した上で空港第2ビル駅と同様の使用方法がとられる予定です。


左:2番線から分岐する成田スカイアクセス一般特急用ホームへの線路
右:地下1階コンコースで準備中の成田スカイアクセス一般特急用ホーム(1番線)への通路
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左:第二場内信号機から終端側半分のホームは壁で仕切られていて入れない。この裏側は…
右:準備中の成田スカイアクセス線用ホーム(4・5番線)。JR線ホームから見たところ。
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成田空港駅はすでにホーム中央に仕切りが設置されており現在は上野寄り半分(成田スカイアクセス開業後は2・3番線となる)のみを使用して列車が発着しています。JR線のホームからは成田スカイアクセス線専用となる終端側半分のホーム(4・5番線)を見ることができますが、こちらも内装などの工事は終了しており来る7月17日の開業に向けた準備はほぼ完了している模様です。なお、京成本線用ホームと成田スカイアクセス線用ホームの境界付近の線路は出発・場内信号機により完全に閉塞が分割されており、成田スカイアクセス線のホームに列車が在線中であっても京成本線の列車が誘導信号機を使用して極端に速度を落として進入するといった必要はない模様です。
地下1階のコンコースは中央付近に成田スカイアクセス一般特急用ホームへの通路が新設されており、現在はいつでも撤去できる仮設の柵で仕切られた状態となっています。コンコース自体は全て既存のホーム上部にあるため特に大きな改造は行われていないようです。
▼参考
成田高速鉄道(成田高速鉄道アクセス株式会社)
成田空港への新しい鉄道アクセス線の開業に向けて「成田新高速鉄道プロジェクト」 - 日本鉄道施設協会誌2010年1月号48~51ページ
成田新高速鉄道プロジェクト「『160㎞/h』線路の建設」 - 交友社鉄道ファン2010年3月号(通巻587号)
■セキュリティエリア(検問所)を廃止?
成田空港ではすべての入場者に対して空港入口での身分証明書の提示などを求めており、空港第2ビル駅・成田空港駅ともに改札口に「セキュリティエリア」と称する検問所が設けられています。また、駅構内には常時多数の警察官・警備員が常駐し、不審な行動をとる者に対して職務質問※3などを行っています。このような異常ともいえる厳重な警備体制は国内の他の空港では見られないものです。このような体制が取られているのは成田空港開港時に建設反対運動へ便乗する形で過激派によりテロ行為が繰り返されたという経緯があるためです。
このセキュリティエリアの存在により開港直後を除いて成田空港ではテロ行為といった重大な事件は起きていません。しかし一方で、利用者の増加に伴い検問所の通過に時間がかかるようになり、来る2010年7月17日の成田スカイアクセス開業後はさらに混雑が激しくなると予想されています。これでは都心・空港間の所要時間短縮の効果が発揮できなくなってしまうことから、成田国際空港株式会社では空港第2ビル・成田空港駅のセキュリティエリアの廃止を現在検討しています。
しかし、成田空港を所轄する千葉県警では前述のような歴史的経緯から「簡単に検問撤廃は容認できない」との立場をとっており、セキュリティエリアの廃止がすぐに実現するかは微妙なところと言えそうです。
▼脚注
※3:実は今回成田空港駅の取材中(駅構内の写真撮影中)に筆者も職務質問を受けてしまった。筆者は上記のような経緯を知っていたためポケットには学生証と保険証(顔写真・住所・氏名が同時に分かるということで免許証が望ましいがあいにく筆者は免許を持っていなかった)を携帯しており、それを提示するとすぐに職務質問は終了となった。
▼参考
成田空港が検問廃止を検討 開港から31年、初の警備体制見直し - MSN産経ニュース
成田の厳重警備、世界的にも「異例」 - MSN産経ニュース
(ともに2009年11月29日配信)
次回はこの成田スカイアクセス開業にあわせてデビューする予定の特急「スカイライナー」の新型車両について解説する予定です。
(つづく)
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