東京駅~新橋駅(概説) - 総武・東京トンネル(17)
公開日:2008年08月06日16:37

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■有楽町トンネル:0km395m00~1km616m00(上り線L=1km221m00),1km607m00(下り線L=1km212m00)
▼参考
工事誌(東海道線):3・4・14~18・257・265~274・290・302~311ページ
●概説

有楽町トンネル位置 ※クリックで拡大
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和59年)に筆者が加筆
東京駅構内の分岐器群を抜けると再び上下線が独立したシールドトンネルとなった「有楽町トンネル」に入る。トンネルは丸の内トンネル(東京駅)南端の「第1立坑」から開始され、新橋駅北端の「新橋換気所」まで続く。区間前半は全体的に脆い地質であったため、切羽の崩壊のみならず、酷い時はシールドマシンそのものが破損し、2ヶ月で50mしか掘削できない時期もあったと言う。(通常は1ヶ月で数百メートル掘削できる。)
有楽町駅手前まで都道の下を走るのは市販の地図にも書かれており、ご存知の方も多いだろう。問題はその先のルートである。東京都庁があった東京国際フォーラムの脇で、上下線のトンネルが離れるのだ。これは国土地理院の地図を含め、通常我々が目にする地図には載っておらず、このトンネルの工事に携わった者もしくは工事誌を読んだ者のみが知り得る「真実」であると言っても過言ではない。
実際のルートであるが、下り線はそのまま都道の下をまっすぐ進み、有楽町駅に達すると半径800mでカーブし、東海道新幹線の高架の東側を進む。一方、上り線は半径600mでカーブしながら都道脇の新有楽町ビル・有楽町ビルの下や有楽町電気ビルの敷地に少し入り込んだ後、反対向きに半径600mでカーブし、山手・京浜東北線の高架の西側を進む。そして、帝国ホテル脇あたりから高架下を斜めに縦断し、東海道新幹線の東側に出て下り線と合流し、新橋駅に至る。

レンガアーチの補強
新有楽町ビルは建設直前に地下の有楽町トンネル通過が決まったため、区分地上権(※1)を設定し地階の一部の設計を変更している。また、上下線のトンネルはともに国電(現在はJR線)高架の下を通るが、この高架橋は明治時代にできたレンガアーチ、鉄筋コンクリートラーメン構造、鋼製橋梁と構造が多岐にわたっている。レンガアーチは関東大震災によるクラック(亀裂)の発生が見られたため、トンネル掘削時の沈下による破損を防ぐためアーチの内側に厚さ50~70cmのコンクリート壁を設置した。一方東海道線の鉄筋コンクリート高架の基礎杭の下端はシールドトンネル上端と4mの距離まで接近する。この部分は薬液注入を迅速かつ確実に行うため、本トンネルの掘削に先立ち、直径4mの「パイロットトンネル」という小トンネルを建設し、底から薬液注入を行った上で本トンネルを建設している。
※1 区分地上権:民法では土地の所有権は上空・地下にも及ぶものとされている。区分地上権はそれを一定の範囲に制限し、トンネル・高架橋など他者が利用できるようにするものである。

有楽町排水所(左が計画、右が実際施工されたもの)。立坑内はらせん階段があるが、書くのが大変なため省略した。 ※クリックで拡大
有楽町トンネルは前述の国電高架橋の基礎を避けるため20~25パーミルの勾配でV字型にくぼんだ構造となっており、谷底部分はGL(地表面下)36.5mと地味ながら総武・東京の両トンネルを通して最も低い地点となっている。この谷底部分(東京起点0km950m付近)に「有楽町排水所」と称する本トンネルへ人の出入りができない排水ポンプ専用の立坑を設置し、下りトンネル内に設置したパイプを通じてトンネル内の漏水を港区の新芝運河へ排水することとした。この立坑は1968(昭和43)年に東京トンネル建設に先立ち、薬液注入の検証用として東海道線高架下に設置した直径3m、GL34mの縦穴(深礎)をGL44.2mまで掘り下げるもので、当初本トンネルへの接続は立坑底部から本トンネル直近まで山岳ずい道方式の小トンネルを掘削し、穴を開けてパイプを通す計画であった。これは1968年の施工時に湧水がほとんど無く、地下水位が低いと判断されたためである。だが、1973(昭和48)年6月に工事開始となり、坑底に穴を開けたところ、立坑が冠水するほどの湧水が発生し、そのままでは掘削不能となってしまった。
この5年間に一体何があったのだろうか?
それは東京都の地下水汲み上げ規制である。当時、首都圏では急速に進む都市化に伴い、地下水の汲み上げ量が急増していた。この結果、広範囲にわたり地盤沈下が発生し、建物の不等沈下、ライフラインの機能喪失、水害に弱いゼロメートル地帯の拡大など都市機能を脅かす問題が次々と発生していたのである。そこで行政は「工業用水法」「建築物用地下水の採取の規制に関する法律(通称:ビル用水法)」や各種条例を制定し、地下水の汲み上げを厳しく規制した。有楽町付近でも1970(昭和45)年11月からこの規制が適用され、その効果が現れて地下水位が上昇・回復し始めていた。
▼参考:東京都の地下水位の変遷
「東京都の地盤沈下と地下水の現況検証」について|東京都
地下水位の上昇に対してはディープウェル(※2)、ウェルポイント(※3)により地下水位を低下させることとしたが、それでも度々立坑内が冠水することがあったようだ。また、高架下であり大規模な止水注入が不可能であったため、本トンネルへの接続は小トンネルを諦め、本トンネル内から水平ボーリングを行う工法に変更し、苦心の末着工から1年後に完成した。
一方、本トンネルは「低い地下水位」を前提に止水はほとんど考慮されずに建設された。そのため、地下水位上昇に伴い完成前にして多量の漏水が発生するにいたり、応急処置としてセグメント目地やボルトに樋を被せたり、樹脂を注入するなどの追加工事が行われた。だが、この地下水位上昇は総武・東京の両トンネルをこの後も永きに渡って苦しめることとなる。
※2 ディープウェル:地下工事を行う最、工事範囲のみの地下水位を下げるために設置する深井戸
※3 ウェルポイント:目的はディープウェルと同じだが、真空ポンプを使い揚水能力を高めたもの
(つづく)
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