新橋駅(概説) - 総武・東京トンネル(19)
公開日:2008年08月08日21:18

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■新橋駅:1km633m50~1km954m00(上り線L=320m50),1km950m00(下り線L=316m50)
▼参考
工事誌(東海道線) 4・14~18・326~340・382~388ページ
●概説

新橋地下駅の位置 ※クリックで拡大
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和59年)に筆者が加筆
上り線のトンネルがJR線の高架橋と交差し、下り線と合流すると新橋駅に入る。東海道線の線増という建前から、東京トンネルでは唯一の途中駅であり、最深部は27.0mと馬喰町駅には及ばないもののこの当時の地下駅としてはかなり深い部類となっている。新橋駅は東京寄りから「新橋換気所(立坑)」「メガネトンネル」「開削部」「パイプルーフトンネル」の4ブロックに分類できる。

新橋駅縦断面図
一番東京寄りの「新橋換気所」は外堀通りが東京高速道路会社線(KK線)を超えてすぐの交差点の地下にあり、建設時はシールドの発進・到達立坑として機能し、完成後はその名が示すとおり有楽町トンネル及び新橋駅の換気立坑として使用されている。換気ダクトは交差点の地下からJR線の高架下へ入った後、東海道線上りと京浜東北線南行の線路の間に垂直に立ち上っている。

「メガネトンネル」の工法3案 ※クリックで拡大
ここから先が新橋駅の本体である。東京寄り85mは2本のシールドトンネルの間を切広げてホームを建設しており、工事誌や国鉄の部内では「メガネトンネル」と通称されている。このような構造となったのは新橋駅を頻繁に利用する方ならお分かりだと思うが、この上部に東京メトロ銀座線が通っているためである。シールドの中間部はホーム部分に加え、給排気・空調のダクトを納めるスペースが必要となる。工事誌によるとこの部分の工法は上図のように3案が検討されたようだ。
A案「ルーフシールド」:半円形のシールド(ルーフシールド)を使って天井部を掘削した後、ホーム高さまで掘り下げる。ルーフシールド自体は東京メトロ丸ノ内線国会議事堂前駅付近などで実績あり。
B案「馬蹄型トンネル」:線路部分のシールドに密着する形で山岳トンネル工法のトンネルを掘削した後、ホーム高さまで掘り下げる。
C案「ホーム下ダクト」:シールド間を切広げた後、その下部に箱型のダクト用トンネルを掘削する。
また、現地で要求される条件として地盤が軟弱である、ホームの幅が途中で変わるという2点があった。これら条件を検討した結果、A案は幅が広がる構造に対応できないとして却下、C案はホーム下の掘削量が多くシールドトンネルが変形する可能性があるとされ、B案+C案の複合型に決定した。これにより、給気・排気ダクトを分離し、ホーム下の掘削量を減らすことが可能となるわけである。

実際に建設された「メガネトンネル」の断面
実際に建設されたトンネルの寸法概略は以下の通りである。
・シールドトンネルの外径:7.76m、内径:7.16m(セグメント厚さ:30cm)
・線路間隔:12.2~13m
・カーブ半径:400m、カント(遠心力を打ち消すための線路の傾き):30mm
・ホームの床面から天井までの高さ:2.7m(うち0.3mは内装仕上げ)
・ホーム端と柱の離れ:1m以上
・ホーム柱間隔:6.67m(113系1000番台電車のドアに干渉しない位置)
施工の順序は
1、上部トンネル(給気ダクト)を山岳トンネル方式で掘削(薬液注入で止水)
2、2本のシールドトンネルを掘削(無圧気。開削部から発進し、新橋換気所でUターンする。)
3、トンネル中間部の切広げ(上半分・下半分の2段階)
4、ホーム下トンネル(排気ダクト)の掘削
となっている。地上には新幹線の高架橋、地下には銀座線のトンネルと重要な構造物が近接するため、施工に先立ちそれぞれ薬液注入により念入りな補強がなされた。また、シールドトンネルはカーブしていて形状が極めて複雑になることと、切欠きによる強度不足を防止するためダクタイル鋳鉄※1製(FCD45※2)のセグメントを使用している。さらに、上部構造を支える柱の下には9mの深さまで杭が打ち込まれており、何重にも渡る沈下防止策がとられていることが伺える。
※1:鋳鉄は溶かした鉄を型に流し込んで造る。鋳鉄には炭素が含まれているが通常の鋳鉄(ねずみ鋳鉄)は炭素が細長い結晶(サツマイモ状)となって析出しており、ここに応力集中が発生し脆いという欠点があった。ダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄)はマグネシウム・セリウムなどを加えることで炭素の結晶を球状にし、その欠点を改良したものである。ダクタイル鋳鉄が用いられているもっとも身近な製品の例が「マンホールの蓋」である。
※2:この規格は重力単位系からSI単位系への変更に伴い現在のJIS(日本工業規格)には存在しない。現在のJISでもっとも近い規格は「FCD450-10(JIS G 5502)」となる。
▼参考:鋳鉄に関する解説
浅井鋳造 - 「鋳人(いものびと)講座」 - 鋳物の作り方・鋳物の知識(目次)
次の220mは地下5層(一部4層)構造の開削工法で建設されている。東京寄り、品川寄りのトンネルの一部はそれぞれ「第三光和ビル」「新橋駅前ビル2号館(工事誌では『新橋第二改造ビルディング』と書かれている)」の下に入るため鉄骨によるアンダーピニング(受け替え)が行われた。また、駅前広場の地下となる中央部は隣接する地下街(現在の「京急ウイング」)・地下駐車場と一体的に建設されている。
着工前、この予定線上には1909(明治42)年の新橋駅(烏森駅)開業時から使われていたレンガ造りの駅舎があったが、東海道新幹線建設の際に後半分が削られていた上、高度成長期真っただ中にあって保存の気運も全く高まらず、あえなく解体となった。跡地には地下駅と一体構造の3階建ての駅舎が建設され、事務室や地下駅の空調熱交換器などが置かれている。同じ条件であった東京駅で多大な費用と労力をかけてアンダーピニングを行ったのとは対照的だ。
▼参考:取り壊し前の新橋駅レンガ駅舎について
「JTBキャンブックス『東京電車のある風景今昔Ⅰ』」 著者:吉川文夫 JTB2001年

品川方15mのトンネル断面
残る品川方15mは民有地と道路の下に入る。この部分は開削やアンダーピニングではなく、「パイプルーフ工法」が用いられた。パイプルーフ工法とはその名の通り、トンネル天井部分にパイプ(鋼管)を隙間無く埋め込み、その下にトンネルを掘る工法であり、この部分はトンネル断面が楕円を2つ並べたような形状となっている。この先は立坑が無く、隣接する汐留トンネルのシールドトンネルが接している。
(つづく)
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