茨城交通湊線「廃線は回避へ・・・」

※この記事はYahoo!ブログから移行したものです。

水戸駅で昼食の後隣の勝田駅へ移動し、今回の旅の目標茨城交通湊線に乗りました。

かつては上野から直通列車


キハ205。勝田駅にて。

茨城交通は湊線(部内では湊鉄道線とも言われる)と水戸市域を中心に展開する路線バス・高速バスの事業を行っている会社です。地元の豪商竹内家が代々経営を行っており、廃止されてしまった日立電鉄の経営にもかかわっていたということです。しかし、茨城交通は債務返済のため整理回収機構のもとで経営再建中であり、資産は銀行によって管理されているという状況です。



阿字ヶ浦駅。

今回はこのうちの「湊線」に乗車しました。
茨城交通湊線はひたちなか市の中心である勝田駅からひたちなか市合併前に存在した那珂湊市の中心である那珂湊駅を経由し、夏場は海水浴客で賑わう阿字ヶ浦海岸そばの阿字ヶ浦駅までを結ぶ全長14.3kmの路線です。全線非電化ですが、1990年までは夏に常磐線上野駅からの直通列車もあったそうで、勝田駅は常磐線と同じホームを共有する形になっており、常磐線とつながるポイントも残されています(現在は車両搬出入の際に使用)。
沿線は那珂湊駅付近を除くと田畑の中を一直線に線路が走る形になっています。全線単線で、那珂湊駅で上下線の交換をする形になっています。かつて上野までの直通列車が走っているほど重要な路線だったためか、線路は大半がPC枕木化されており、他の地方私鉄のような「つかまっていないと立っていられない」というような軌道の整備状態ではありません。ワンマン運転ということで放送はテープで流す形になっています。どこかで聞いたことのある声の放送だと思ったら、前日に乗った東急多摩川線7700系の放送と同じ人の声でした。昨年身延線に乗った際も感じたことですが、車載用の放送機器はメーカーが少ないようです。
走っている車両は保守に好都合ということから全国からかき集めたキハ20形とその類似車が7両(ただし部品取り車になっているものも含む)、平成になって自社発注したキハ3710形が2両、キハ37100形が1両という体制です。(形式名の「3710」は「湊(みなと)」が由来。)キハ20形は大半が非冷房車のため夏はほとんど使用されません。このほか那珂湊駅構内にも放置された廃車体がいくつかあります。(これについては別記事作成予定。)

自治体の支援で存続へ
「おらが湊鐵道応援団」ののぼり。那珂湊駅にて。

昨年、茨城交通湊線は最大の危機を迎えました。茨城交通が経営難を理由にひたちなか市に対して、2008年3月で湊線を廃線にする意向を示したのです。これは地方私鉄の存廃問題では必ず出てくる「自家用車の普及に伴う乗客減少」が主因となっています。この発表を受け、ひたちなか市では「湊鉄道対策協議会」を設置し、財政面を含め湊線の存続を支援していくことを決めました。これにより茨城交通側も国交省への廃止届の提出を見合わせ、来年3月の廃線はひとまず回避されました。さらに、地元住民が中心となって「おらが湊鐵道応援団」を組織し、存続に向けたPRを行っています。
平成19年度は一連のPRの効果もあり、全体の利用客減に歯止めがかかっています。しかし、定期券利用者の減少には歯止めがかからず7月は利用者全体の4割を占める通学定期で-2160人、通勤定期で-840人となっており、自治体では高校生に通学定期の利用促進のPRに努めています。

ただ、高校生に関してはこの先大きな利用者増加はありえないと言えそうです。地方での通学の実態はわかりませんが、自家用車で送り迎えをしてもらっているという学生は多くは無いはずで、この先さらに激しい少子化が続く以上、長期的な学生の利用者増加はもはや期待できないからです。この先も湊線は厳しい状況に置かれるに違いありません。

地方鉄道の未来へ向けて
湊線に限らず地方の鉄道はどこも厳しい環境におかれています。これらの経営再建にはただ闇雲に「使ってください」を言うのではなく具体的な行動が必要です。以下は私の考えです。

1、鉄道を街のシステムの中にきちんと組み入れる
鉄道の廃止は既存の駅前商店などの存廃、ひいてはそこに住む住民の生活にも直結する。存続には鉄道を「街のシステムのひとつ」として扱う必要がある。これには行政主導の街づくりが欠かせない。また、それに先立っては自動車でのアクセスを前提とした大規模商業施設の出店規制など法令関係も考慮する必要がある。

2、バリアフリー化
駅まで行くのに車椅子が通れないような段差がたくさんある、駅の跨線橋のに階段しかない、列車の乗降口に大きな段差があるという状況では高齢者・障害者は利用ができない。駅の外に関して言えば行政がきちんと対処する必要があるし、駅構内に関して「交通バリアフリー法」が施行された以上、鉄道会社が責任を持って改善を遂行する必要がある。鉄道会社にそれだけの財力が無ければ行政が支援する必要もあるだろう。

3、付加価値をつける
鉄道よりも自動車の方が安い・速い・便利となれば当然利用者は流出する。そのような弱点をものともせず利用者を獲得するにはそれなりの付加価値をつける必要がある。割引乗車券(ただしこれは経営に打撃を与えない程度に)・周辺施設との連携などが必須。さらに1の街づくりとの連携も欠かせない。

4、「使って残す」という利用者の意識改革
2000年に鉄道事業法が改正され、廃線に際しては1年前に国交省に届出をするだけで済むようになった。これは「市場原理(会社間での競争)」の導入が主目的だった一方、「黙っていても列車は走る」という時代は終わったということを意味する。利用者が元々少ない地域では「使って残す」という行動に出ない限りどんどん鉄道は衰退していく。

5、もっとアピールすること
以上のことを実現するには積極的なPRが欠かせない。紙媒体(新聞・書籍)・電波(ラジオ・テレビ)・インターネットなどあらゆる手段が利用できる。鉄道がどれだけ優れているのか(CO2排出が少ない・排ガスによる公害が少ないなど)、どれだけ自分たちにとって有利なのか(1両のキャパシティの大きさ・ダイヤの定時性など)をPRしなければ利用者は減るに任せるしかない。

これでは「大都市だけが恩恵を受けているようで納得できない」という意見も聞こえてきそうですが、それは日本が都市一極集中、地方軽視で発展してしまったという過去がある以上仕方がありません。政府は今後も「規制緩和」の姿勢を崩すことは無いと思われ、努力しない地方自治体は見捨てられるということにもなりかねません。今後待ち受けている高齢社会・超高齢社会におい鉄道は貴重な公共交通機関となるはずです。しかし、地方の公共交通機関は行政・鉄道・利用者全てが連携しない限り生き残っていくことはできないといえます。


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