芝浦変電所~田町排煙所(概説) - 総武・東京トンネル(26)


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■芝浦トンネル1:4km024m00~5km043m00(L=1km019m00)
▼参考
工事誌(東海道線)655~658・663~665・679~683・817~821・1085ページ

●概説
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芝浦トンネル1位置図 ※クリックで拡大
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和54年)に筆者が加筆

第3立坑(芝浦換気所・変電所)を過ぎるとまた2本のシールドトンネルとなり、田町駅の南西400mほどのところに設けられたシールド到達用の立坑へ向かう。工事誌ではこの区間を「芝浦トンネル1」と称している。
ここで注目すべき点はそのルートである。国土地理院発行のものを含め日本で一般に出回っている地図では、この区間の横須賀線のトンネルは上の航空写真で水色で示したルートを通ることになっている。だが、私は以前からこの地図で示されたルートが本当にあっているのか疑問を感じていた。その理由は以下の3つによる。

、地図上のルートは竹芝橋付近で民有地を横切っているが、財政難に苦しんでいた国鉄がわざわざ多額の費用が掛かる用地買収をしてまで民有地の下にトンネルを通すか?
、地図上のルートが本当ならば竹芝橋付近で制限70km/h(半径400m)などという急カーブはできないはずではないか?
、トンネル内では列車内から判るほど大量の漏水が発生しているが、普通の地面の下を通っていればそんなことはありえないのではないか?

私が抱いていたこの疑問は的中していた。工事誌に書かれていたのは上の航空写真で赤色で示し新芝運河の直下を通るルートであったのだ。つまり地図が間違っているのである。一般に地図というのは現地(地上)での測量と航空写真の照合により製作される。そのため、今回の例に限らず地下にある構造物は正確な位置がわからないため、デタラメな位置に描かれる例が往々にして存在する。地図で書かれた地下鉄の線が普通の鉄道では到底ありえないような急カーブ(直角に近いなど)を描くことがあるのはそのためである。
工事誌によるとトンネルは竹芝橋付近で半径400mのカーブを描きながら新芝運河の下に入り、そのまま運河の下をまっすぐ西に進んで藻塩橋の先で陸地に突き当たったところに設置されたシールド到達用立坑に続く。トンネルと交差する「香取橋」「新芝橋」「藻塩橋」の3橋と東京モノレールの橋脚はいずれも薬液注入により補強した旨が示されており、この点からもトンネルが運河の直下を通っていることは確実であるといえる。
なお、この付近一帯は埋立地で地盤が極度に軟弱であるため、この芝浦トンネル1でも全機械化シールドを使用している。だが、前回の浜松町トンネルの件でも触れたとおり、上り線は切羽鏡止めの撤去時に、下り線のトンネルは第3立坑を発進してから38mでそれぞれ1.5t/minの異常出水が発生し、立坑周辺で地盤沈下などの被害が出た。また、トンネル内は止水のため建設当初より厚さ20~25cmの鉄筋コンクリートで二次覆工を施工している。

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田町排煙所と立坑位置
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和54年)に筆者が加筆

芝浦トンネル1の到達立坑は品川駅構内から発進した隣接の芝浦トンネル2の到達立坑と兼用している。この立坑は道路下を利用し工事に必要な最小限の大きさでつくられ、トンネル完成後は埋め戻される計画となっていた。だが、東京トンネル建設が開始されてまもない1972(昭和47)年11月6日、福井県の北陸本線北陸トンネルを通過中の急行「きたぐに」が火災を起こし、30名の死者を出すという重大事故(通称:北陸トンネル事故)が発生した。この事故を受けて、東京消防庁から「芝浦変電所から品川駅構内まで2kmもの間トンネルに排煙設備や避難設備が無いのは問題だ」との指摘を受け、急遽この到達立坑を転用して排煙設備と地上への脱出口を設けることとなったのである。転用に際しては階段やダクトのスペースが不足していたため、すでに出来上がっていたシールドトンネルの一部を取り壊して立坑を拡張した。この立坑は「田町排煙所」といい、平常時は使用せずトンネル内で火災が発生した場合にのみ排煙を行うこととしている。

※以下、2009/10/25追記

田町排煙所の構造(3次元画像)

田町排煙所の構造を図に示す。排煙所への転用決定の時点ですでに立坑は埋め戻されており、新たに工事を発注しての施工となった。(着工:1974(昭和49)年5月)立坑はトンネル直上の排煙立坑(上下1本ずつ)とトンネル間の階段立坑で構成されており、いずれもシールドトンネルの一部を取り壊して接続した。階段立坑部には避難用の階段が2組設置されているが、トンネル間隔が2.5mしかなく、地上の道路スペースも限られているため、階段の幅は1.17mと人1人が通れるぎりぎりのサイズとなり、角度も急なものとなった。そのため、できる限り多くの踊り場を設け、休憩スペースを確保している。また、階段立坑部にはトンネル火災発生時に強制的に送風する機能が設置されており、避難中の乗客が再び煙に巻かれないよう考慮されている。
なお、下記の参考資料には「この立坑に排水機能を設けることを検討中」との記述があるが、トンネル完成後に発行された工事誌には詳細な記述がなく真偽のほどは不明である。

▼参考
東京・品川間線増田町換気たて坑新設工事について 東工26-3号(日本国有鉄道第一東京工事局) 1975年9月

(2010年3月1日、田町排煙所3次元画像を差し替え)

(つづく)
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