田町排煙所~第4立坑(品川第1変電所) - 総武・東京トンネル(28)
公開日:2008年08月17日02:50

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■芝浦トンネル2:5km081m02~5km936m39(上り線L=855m37m),5km054m89~5km925m00(下り線L=870m11)
▼参考
工事誌(東海道線)697~699・774~779ページ
●概説

芝浦トンネル2から第4立坑までのトンネル位置図 ※クリックで拡大
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(平成元年)に筆者が加筆
田町排煙所を過ぎると横須賀線のトンネルは田町車両センター(旧東京機関区)の構内へ入っていく。工事誌ではこの区間を「芝浦トンネル2」と称し、半径600mの反向曲線と品川駅へ向けて25パーミルの上り勾配が連続する。シールド掘進は品川駅構内に設置された「第4立坑」から田町排煙所脇の到達立坑の方向に行われた。トンネル完成後、第4立坑上部には品川第1変電所を置いている。

トンネルの位置と東京礫層の分布の関係
芝浦トンネル2は品川駅方向へ向けて上り勾配となっており、最小土被りは第4立坑付近の5mと非常に薄い。また、この地上部分には東海道新幹線、東海道線など営業中の鉄道路線が密集している一方、地下20m付近には1.3~1.9kg/cm2(=1.26~1.84気圧)の被圧地下水を含む東京礫(れき)層が分布している。すなわち、トンネルはこの東京礫層を斜めに横切ることとなり、圧気工法が必須であり、かつ絶対に噴発事故を起こしてはならないという厳しい施工条件が課せられることとなったのである。
そこで、まずシールド到達立坑付近に試験用の送気パイプを埋め込み、圧気による止水効果を検証するとともに、このパイプの周囲300mの区域に観測井戸を設置して地層中への漏気の状況を調査した。その結果、圧気工法のみで湧水を抑えることは不可能であると予想されたため、東京礫層を掘削する全長350mの区間については本トンネル上部3~12mの位置に直径3.5mのパイロットトンネルを設け、そこから薬液注入を行い止水と圧気保持を図ることとした。
本トンネル掘削では発進から90mの区間を無圧気とし、その後段階的に圧気圧を上昇させていった。だが、トンネルが東京礫層に入り始めると送気試験の結果通り圧気のみで湧水を止めることは不可能となり、坑内に湧水が溜まるようになって作業効率が低下した。また、湧水に対抗するため圧気圧を過剰に上昇させると、周辺の運河、古井戸、周辺ビルの地下室などに酸欠空気※が噴出し、それによる被害の発生が懸念される状態となった。そのため、前述のパイロットトンネルから大量の薬液注入を行い湧水と漏気を防止することとし、作業効率の向上、酸欠空気の発生を抑制した。
完成後のトンネルは一次覆工(セグメント本体)だけで止水することは不可能であるうえ、湧水には海水の半分程度の塩分が含まれており、塩害防止のため全区間二次覆工を施工している。
※酸欠空気:圧気中のトンネル坑内から漏れた空気の酸素が地中の鉄分の酸化反応に消費され、酸素がない空気がビルの地下室などに噴出する現象。詳しくは「シールド工法 - 総武・東京トンネル(4)#酸欠空気の発生」を参照。
●現地写真

田町排煙所前から品川駅方向を見る。トンネルは画面奥へ向かって進む。
田町排煙所を過ぎるとトンネルは警視庁三田警察署と隣接する警視庁田町住宅、JR田町変電所の敷地内を横切り、田町車両センター構内へと入っていく。田町住宅はトンネル建設時にはまだ存在しておらず、パイロットトンネルの立坑はこの敷地内に設置された。工事終了後、この立坑は埋められ、その跡に田町住宅が建設されたため特に痕跡は残っていない。

田町湧水管理所

新芝運河側に掲げられていた許認可表

新芝運河に排出されるトンネル湧水
前回の芝浦トンネル1の項で述べた「JRロゴ入りのマンホール」であるが、田町排煙所の先もまだ続いている。そして、それをたどっていくとこの「田町湧水管理所」にたどり着く。裏の新芝運河に回るとこの施設からパイプが出ていて、運河に勢いよく水が吐き出されている。そう、あのマンホールはトンネル湧水の導水管だったのだ。

導水管の配置 ※クリックで拡大
つまり、仕組みはこうだ。第3立坑(芝浦変電所・芝浦換気所)は新橋~品川間で一番低い位置にあるため、この区間のトンネル湧水はこの1箇所に集められる。そして、ここで有楽町排水所での集水(図中の水色の線)とあわせ、湧水は新芝運河沿いに埋設した導水管(図中の緑色の線)を通じてこの田町湧水管理所に送られ、新芝運河に排水されるわけである。目の前に田町排煙所の立坑があるにもかかわらず芝浦変電所からわざわざここまで1km以上にわたってパイプを引っ張っているのは、当初の計画で田町排煙所が設置されない予定だった名残だろう。

高輪橋架道橋。天井には無数の擦り傷が・・・
田町車両センターは陸橋が渡されておらず、東西の行き来ができない地区として有名である。その田町車両センターの中央に知る人ぞ知る抜け道がある。それがこの「高輪橋架道橋」という地下道である。この地下道は高さがなんと1.5mしかなく歩行者でさえもかがんで通ならければならない。しかも、上を電車が通過する際は猛烈な轟音と振動がトンネル全体に響き渡り、実に不気味な雰囲気を醸し出している。
この地下道は高さのみならず幅も狭く、自動車が泉岳寺方面から芝浦方面への一方通行となっている。そのため、区民から何度も拡幅の要望が出ているものの、地下道の下にある構造物が邪魔をして拡幅はできないらしい。いくつかの資料によるとこの地下道は暗渠化した排水溝の上部に位置しており、それが邪魔をして掘り下げられないとされているようだ。だが、周囲との高低差は3~4mほどしかなく、この程度ならポンプを使って容易に越えられるはずで、排水溝をもっと深くすれば良く、この理由付けは不可解に思える。一方、横須賀線の「芝浦トンネル2」はこの地下道の約10m下を通過している。地下道を掘り下げられないのは排水溝の存在もさることながら、「地下にある横須賀線のトンネルが邪魔をしているから」というのが真の理由ではないだろうか?
(つづく)
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