カテゴリ:建設史から読み解く首都圏の地下鉄道 > 《番外編》JR東西線
大阪天満宮駅(概説) - JR東西線(8)
公開日:2010年11月07日04:38

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■大阪天満宮駅 2km040m~2km440m(中心2km140m)
▼参考
特集「平成9年開業新線」Ⅱ.JR東西線(片福連絡線) - 日本鉄道施設協会誌1997年7月号13~27ページ
交差する既設地下鉄下の大規模地下駅の施工 片福連絡線(JR東西線)南森町工区 - トンネルと地下1997年2月号7~30ページ
JR東西線(片福連絡線)工事誌 - 日本鉄道建設公団1998年 縦断面図
●概説
より大きな地図で JR東西線(片福連絡線)詳細版 を表示
JR東西線の大阪天満宮駅は大阪市営地下鉄谷町線と堺筋線が交差する国道1号線(曽根崎通)の南森町交差点の東側に設置された。曽根崎通地下の北半分は谷町線の南森町駅が使用しており、JR東西線の大阪天満宮駅は残る南半分を使用して建設された。トンネル本体の施工は市営地下鉄2路線と交差・近接することから大阪市交通局に委託して行われており、工事中の仮称は地下鉄の駅と同じ「南森町駅」となっていた。

大阪天満宮駅の断面図
駅の構造は地下4層(尼崎方の一部は5層)となっており、地下1階が改札口と交差する地下鉄南森町駅への連絡口、地下2階は空調関係の機械室、地下3階はJR東西線と同時施工となった建設省の共同溝の通過スペース、地下4階が線路とホーム階となっている。共同溝と合築としたことから、地下4階の軌道は地上からの深さが24mとなり、隣の大阪城北詰駅と比較して大幅に深度が増している。開削部分の全長はホーム170mに対して400mと異常に長くなっているが、これは後述するとおり地下鉄堺筋線の交差部まで開削工法で建設したためである。このため工事は駅部分(1工区:236m)と堺筋線の交差部分(2工区:164m)の2工区に分けて行われている。地上出入口は大阪天満宮駅単独の3箇所と接続している地下鉄南森町駅の4箇所の計7箇所あり、大阪天満宮駅側にある1・3号出入口はビルと一体構造となっている。また、3号出入口はトンネル給気用の換気口を併設している。

南森町交差点地下の構造物の位置関係
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(昭和60年)に筆者が加筆
大阪天満宮駅の西側の南森町交差点地下ではでJR東西線と地下鉄堺筋線の南森町駅のホームが交差する。この交差地点の100mほど東側には大阪市中心部を南北に貫く上町断層があり、地質もここを境に硬質な洪積層から沖積層へと急変しているほか、これまでの断層変位により地層自体が大きく褶曲(しゅうきょく)している。このため、着工前から崩壊性の高い地盤であることが懸念され、実際のボーリング調査時においても逸水(ボーリング坑に注入した水が逃げてしまうこと)が激しく発生したため、施工に当たっては既設の地下鉄構造物に変状をきたさぬよう数重にわたる厳重な対策が行われた。なお、堺筋線のトンネル下には1969(昭和44)年の建設当初より新線建設を考慮した仮受け杭が準備されており、大阪天満宮駅の建設時には1次掘削までの間この仮受け杭が利用されている。
堺筋線交差部分の施工順序は以下のとおりである。

地下鉄堺筋線交差部分の施工順序
※クリックで拡大
1、着工前
JR東西線と交差する堺筋線のホームは北側に谷町線の島式ホーム、南側に排水ポンプ室とホーム同士を連絡する通路が線路下に設置されている。また、交差部分には建設時から仮受け杭が予め設置されていた。
2、地盤改良・揚水井戸設置
谷町線のトンネルと堺筋線のポンプ室などを利用して交差部分の両側へ2重に地盤改良(南側はこれに加えて簡易的な土留め杭の設置)を行う。これは交差部分へ侵入する地下水の量を減らすためのものである。また、あわせて谷町線ホームの下と堺筋線ポンプ室内にウェルポイント(真空ポンプ)を設置し、地下水を汲み上げることでさらに地下水位の低減を図る。
3、堺筋線下の1次掘削と仮受け杭の改築
既設の仮受け杭を利用して堺筋線の下を4.5mまで掘削する(1次掘削)。既設の仮受け杭はより強度の高い仮受け杭へ改築したうえで、撤去する。また、北側に土留め杭を設置する。
4、2次掘削と南側の土留め杭設置
1次掘削の底面にコンクリートの床面を設置し(逆巻工法)、その下をさらに掘削する(2次掘削)。また、南側により強度の高い土留め杭を新たに設置する。
5、3次掘削
続けてJR東西線の軌道階まで掘削する(3次掘削)。掘削後は崩壊防止のため、左右の土留め壁を連結する支保工(横梁)を追加する。
6、完成
仮受け杭や支保工などを全て撤去して完成。
以上のような厳重な対策の結果、崩壊などの大規模な事故は発生せず、また堺筋線トンネルの沈下量も最大で5mmにとどまるなど既設構造物へ大きな影響を及ぼすことなく工事が完了した。
●現地写真
→次回解説予定。
■上町断層のリスクは?
前述の通りこの大阪天満宮駅構内には活断層である上町(うえまち)断層が走っている。本題からはそれるが、この断層について少しだけ触れておくこととしたい。
上町断層は豊中市から大阪市、堺市と大阪の中心部を南北に横切り岸和田市付近まで続いているとされ、中でも大阪市では府庁や府警本部など行政においてきわめて重要な施設のすぐ脇を通過している。2006(平成18)年から2008(平成20)年にかけて中央防災会議から発表された調査結果では、上町断層の平均活動周期は8000年で前回の活動時期は9000年前以前、最大震度は震度6強~7、今後30年以内での地震発生確率は2~3%と国内の活断層の中では危険度の高い方に属することが判明した。推定される被害規模は断層の位置する地域全体で全壊家屋58万棟、焼失家屋39万棟、死者4万2千人で、これは首都圏直下地震(死者1万3千人)を大幅に上回っており大変危険な活断層であることがわかる。このように被害が大規模になるのは大都市部の直下を断層が貫いていることや、ルート上に古い木造家屋が密集しているためである。また、大阪市中心部はかつて多量に行われていた地下水くみ上げの影響によりほとんどがゼロメートル地帯と化しており、地震発生時には耐震化されていない堤防などが破損して浸水被害が発生することも懸念されている。
一般に地下構造物は地震に強いとされているが、断層により地盤に食い違いなどが発生した場合トンネルに大きなせん断力が働くため、無対策の場合全壊には至らないにしろ大きな破壊は避けられない。上町断層を横切る形で建設された地下鉄はこのJR東西線のほかにも多数存在するが、現時点で具体的な対策を行っているのは2008(平成20)年に開通した京阪中之島線※のみであり、被害の発生が懸念される。
上町断層はこれまで活動実態が不明確だったこともあり、断層の存在が忘れられた状態で無秩序に都市開発が行われた歴史がある。今後の大阪市中心部の開発に当たっては上町断層による地震の発生を前提にした建物の免震化・耐震化、場合によっては断層の変位が予想される地点での建築規制などの導入も必要であると思われる。
▼脚注
※:京阪中之島線では上町断層と交差する天満橋~なにわ橋間のシールドトンネルでダクタイル鋳鉄製のセグメントを採用した。これにより断層変位にトンネルが追従できるため直ちに崩壊する可能性は低くなる。
▼参考
中央防災会議・東南海、南海地震に関する専門調査会
大阪を痛撃する上町断層地震の発生確率 / SAFETY JAPAN [細野 透氏] / 日経BP社
[減災]阪神大震災14年 上町断層 現状と課題 : 防災と復興 1・17から未来へ : 暮らし 社会
(つづく)
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