カテゴリ:鉄道:民鉄・公営の車両
銚子電鉄2010(2010年8月19日)
公開日:2010年12月10日22:57

時期が前後しますが、再び夏の内容に戻ります。8月19日は3年ぶりに銚子電鉄へ乗りに行ってまいりました。今回は銚子電鉄の現状とこの夏に運転を開始した新型車両2000形について解説したいと思います。
■ぬれ煎餅に救われた銚子電鉄
銚子電鉄はJR総武本線・成田線の銚子駅から犬吠埼の南にある外川駅を結ぶ全長6.4kmの私鉄です。主な利用客は沿線住民のほか、犬吠埼など銚子市内の観光スポットへ向かう観光客となっています。(かつては仲ノ町駅の脇にあるヤマサ醤油の貨物輸送も行っていた。)犬吠埼は本州でもっとも日の出が早い場所であることから、特に毎年元旦には初日の出を目当てに多くの観光客が訪れるこため、銚子電鉄では初電の繰上げなどのサービスを行うのが通例となっています。また、鉄道事業のみでは不足する収益を補う目的で製造した「ぬれ煎餅」はいまや銚子の名物の1つとなっていることでも有名で、その売り上げは今や鉄道事業のそれの実に2倍近くに達するほどになっています。


左:銚子電鉄犬吠駅。2007年8月19日撮影
右:銚子電鉄の危機を救った「ぬれ煎餅」。1日乗車券「弧廻手形」を購入すると犬吠駅の直売所で無料で1枚貰うことができる。
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この銚子電鉄が一躍有名になったのは今から4年前の「事件」からでしょう。2006(平成18)年8月、銚子電鉄の親会社である内野屋工務店の社長内山健冶郎(元自民党・千葉県議)が銚子電鉄の名義を使い無断で銀行から融資を受けた挙句、その借入金を全額着服するという不正を行い、業務上横領の容疑で逮捕されたのです。同時に内山が銚電鉄に関係する工事を内野屋工務店に独占的に受注させていたことも明らかになり、千葉県や銚子市が銚子電鉄に対して行っていた補助金の支給や銀行による融資が完全に停止しました。この結果、銚子電鉄は深刻な資金不足となり2006年11月には保有している電車の法廷検査が行えず、正常な運行が維持できないという危機的状況に陥りました。
このため、銚子電鉄は最終手段として自社のホームページのトップに「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」という嘆きとともにぬれ煎餅の購入を訴えるに至りました。このニュースは2ちゃんねるを中心としてインターネット上に瞬く間に拡散し、銚子電鉄のぬれ煎餅の販売ページは購入依頼が殺到。生産が追いつかず数ヶ月間販売受付が中断されるまでの盛況となりました。この一件により懸案だった電車の法廷検査は無事に完了し、翌年の初日の出運行は例年通り実施することができました。銚子電鉄ではこのほか、国土交通省より車両の老朽化や枕木の腐食、踏切の動作不良など複数の問題点を指摘されており、同月には業務改善命令が発せられていました。このため、翌2007(平成19)年1月には有志により「銚子電鉄サポーターズ」という団体が結成され、募金活動により施設改良のため1千万円を超える資金を確保。翌年末には国交省から指摘されていた施設面の問題点をおおむね解消することができました。
廃線の危機という崖っぷちから奇跡の生還…ここまでが前回訪問時(2007年8月)までの状況となります。
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■伊予鉄道から譲渡された2000系電車と銚子電鉄の現状

2010年7月末より営業運転を開始した銚子電鉄2000形電車。銚子駅にて撮影
施設面の改善が一通り完了し、残る課題は車両の更新だけとなりました。銚子電鉄ではこれまで以下の5両の車両により営業運転を行ってきました。
●デハ700系(701・702)
1941(昭和16)年製造の近江鉄道モハ51形。1978(昭和53)年入線。
●デハ800系
1950(昭和25)年製造の伊予鉄道モハ100形。1986(昭和61)年入線。
●デハ1000系(1001・1002)
1959(昭和34)年製造の営団地下鉄2000形。1994(平成6)年の入線で譲渡に当たっては集電方式を第三軌条からパンタグラフに改めるなど大規模な改造を受けている。
このうち、デハ700系とデハ800系については製造から半世紀以上が経過し、海沿いを走る条件も重なって車体の老朽化が著しく進んでいました。このため、国土交通省より車両の早急な更新を繰り返し指示されていましたが、折からの経営難によりなかなか実現していませんでした。当初は京王井の頭線の3000系電車を譲り受ける計画もありましたが、架線電圧の相違(井の頭線1500V、銚子電鉄600V)により多額の改造費用がかかることから頓挫。代わりに伊予鉄道で同じ京王3000系が導入されるため不要となる車両(伊予鉄道800系、元京王2010系(1962年製造))を2編成(4両)譲り受けることとなり、2009(平成21)年12月に銚子電鉄に搬入されました。翌2010(平成22)年1月より銚子電鉄で必要なワンマン運転用の設備の取り付けなどの改造が行われ、2000系として7月末より営業運転が開始されました。


左:銚子電鉄2000形の車内
右:同じく銚子電鉄2000形の車内(運転台側)
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銚子電鉄2000系は2編成とも2両固定の編成となっており、銚子側のデハ2000形が元からある2枚窓の非貫通型の先頭車、外川側のクハ2500形が増設した貫通型(扉は固定されている)の先頭車となっています。車体の色はデハ2001-クハ2501の編成は京王時代の塗装を復元したグリーン1色、デハ2001-クハ2501の編成はアイボリー1色の下地に銚子ショッピングセンターの全面広告が掲出されています。
車内はワンマン運転用の料金箱と運賃表が追加された以外は伊予鉄道時代と変化はありません。運転台後部に新設された運賃表はこれまでのようなLED式ではなく、最近の路線バスなどで採用されている液晶モニタとなっています。なお。この2000系は銚子電鉄初の冷房車となりますが、今回乗車した際は送風機能のみが使用されておりこれまでどおり窓を開けて走行していました。これは銚子電鉄の電力設備が貧弱なため冷房の消費電力をまかなえないためと考えられます。(銚子電鉄は全線でトロリ線のみの直吊架線を採用しており、冷房の消費電力が加わると送電能力が足りず架線の温度が上昇して最悪の場合溶断する可能性がある。)

廃車となるデハ702。外川駅にて
この2000系の導入により予定通り701・702・801の3両は廃車になる予定となっており、9月末には相次いで「さよなら運転」を行い営業運転を終了しました。
車両の更新により銚子電鉄の改善事業は1つの区切りを迎えましたが、乗客数は減少傾向が変わらず補助金も打ち切られたたままであることから、2009(平成21)年度の決算は辛うじて黒字を維持している状況となっています。近い将来の経営危機再来も否定できず、地方鉄道の経営維持が難しいことを改めて浮き彫りにさせています。
▼参考
潮風とロマンのふるさと-銚子電気鉄道-
銚子電鉄のぬれ煎餅オンラインショップ
銚子電鉄サポーターズ(ブログ)
ITmedia News:ネットで「銚子電鉄を救え」 名物「ぬれ煎餅」に注文殺到
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