新東京トンネルで使用されたシールド工法 - 京葉線新東京トンネル(2)


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京葉線新東京トンネルは地盤が軟弱な埋立地や都心の深部を通過することから、その大部分がシールド工法で建設されている。この記事では新東京トンネルで使用された「土圧式シールド」と「泥水式シールド」の2種類について簡単に解説する。

▼参考
京葉線工事誌 1991(平成3)年日本鉄道建設公団 全般

■1980年代以降のシールド工法

密閉式シールドと圧気シールドのイメージ

当ブログで以前レポートした総武・東京トンネル(両国~品川間)では切羽(掘削面)の気圧を高め、地下水圧に対抗する「圧気シールド」が使用されていた。しかし、この圧気シールドは気圧を高める関係上、しばしば坑内作業に従事する者にケーソン病を発生させたり、坑内の空気が地表に噴出して陥没事故を起こすなど十分安定した技術とは言いがたいものであった。そのため、1980年代以降は切羽を密閉したシールド工法が研究・導入されるようになり、1990年代以降は圧気シールド自体が使用されなくなった。これによりシールド工法の信頼性は劇的に高まり、現在は大都市でのトンネル建設のほとんどでこの工法でが採用されているほか、四角形断面のトンネルや5kmを超える長距離施工など従来シールド工法の適用範囲では無かった分野にも採用されている
「京葉線工事誌」を見ると、圧気シールドは候補にすら挙がっておらず、当初から密閉式シールドのみを使用する方針だったようだ。一方、同時期に建設が行われていた東北新幹線上野~秋葉原間のトンネルでは圧気シールドが使用されていた。1991(平成3)年には御徒町駅付近で噴発事故を起こしており、奇しくも圧気シールドの不安定さを証明してしまう出来事となった。(ただし、この区間は計画が1970年代であり、すでに開業していた上野地下駅の構造上密閉式シールドが使用できなかったものと思われる。)

▼関連記事
総武・東京トンネルで使用されたシールド工法 - 総武・東京トンネル(4)(2008年7月17日作成)

■土圧式シールド(土圧バランス式シールド)
採用工区:東越中島トンネル・越中島トンネル

土圧式シールドの作業の流れ

土圧式に限らず密閉式シールドはシールドマシンの前部に隔壁(バルクヘッド)を設け、切羽と構造的に分離を図っている。この隔壁と切羽の間の空間を「チャンバー」と呼び、土圧式シールドでは回転するカッターディスクで掘削・攪拌された土砂をチャンバー内に充填させることで掘削面の崩壊を防いでいる。チャンバー内の土砂は隔壁に設置されたスクリューコンベア(ねじ状の回転体)から排出され、完成している後方のトンネル内に敷設したベルトコンベアで立坑まで搬送、地上に搬出される。搬出された土砂は必要であれば水分を取り除くなどの後処理がなされ、建設残土として処分される。

<長所>
●固い地質、粘度が高い地質でも掘削できる。
●ズリ(掘削した土砂)はほとんどの場合そのままの状態で残土として処分できる。

<短所>
●地下水圧が高い場所では掘削面が崩壊する。また、スクリューコンベアから土砂が噴出するため使用できない。

なお、大深度や地下水圧が高いなどの理由でそのままでは土圧式シールドが使用できない場合、チャンバー内の土砂に流動性を持たせる添加剤を加えて遮水性を持たせ崩壊を防ぐ。この工法を「泥土加圧式シールド」という。

▼参考
水戸幹線工事-シールド工法とは(茨城県那珂久慈流域下水道事務所 那珂久慈流域下水道事業)
泥土加圧シールド工法 | 工法技術 | 大豊建設

■泥水式シールド(泥水加圧式シールド)
採用工区:隅田川トンネル・新川トンネル・八丁堀駅駅部・西八丁堀トンネル・京橋トンネル

泥水式シールドの作業の流れ

泥水式シールドは切羽手前に隔壁を設ける点は同一であるが、土圧式と違いチャンバー内を泥水で満たしている。この泥水の水圧を変えることにより、地圧や地下水圧対抗することができ常に安定した状態で掘削ができる。掘削した土砂は泥水に混ぜて排泥管を通って地上へ排出され、泥水と分離したうえで処分される。分離された泥水は送泥管を通って再度切羽に供給される。

<長所>
●軟弱な地盤に適応できる。
●地下水圧が高い場所でも掘削できるため、大深度でも適用可能。そのため近年はこの泥水加圧式シールドが主流となっている。
●地盤改良をしなくても泥水圧で崩壊を防ぐことが可能。

<短所>
●排泥管が詰まるような地質(粒が大きい、固まりやすいなど)では使用できない。
●ズリが泥水に混ざった形であるためそのまま残土として処分できない。(分離装置が必要で坑外設備が大規模になる。)

▼参考
工事手順(シールドトンネル部):横浜環状北線とは:横浜環状北線(首都高速道路株式会社)

以上が土圧式シールド、泥水式シールドの特徴である。一次覆工(セグメント)の組み立てや裏込め注入などシールド工法の基本的な部分は圧気シールドの時と変化はない。しかし、新東京トンネルではこれらの多くが自動化されており、安全性の向上と省力化が進んでいる。

なお、総武・東京トンネルでは開業後に都の条例で地下水くみ上げが規制されたことからトンネル周囲の地下水位が上昇し、著しい漏水が発生した。この苦い経験にかんがみ、京葉線新東京トンネルではあらかじめほぼ全区間で二次覆工(トンネル内面にもう1枚コンクリートを打つ)を施すという万全の対策が行われている。一般に見た目や下水道のように流体工学的な性能が要求されない鉄道トンネルでは二次覆工が省略される傾向にあり、このような対策はきわめて異例といえよう。

■さらなる新技術への挑戦
京葉線新東京トンネルではこのように密閉式シールドが全面的に採用されたわけであるが、後述する八丁堀駅駅部のトンネルと八丁堀~東京間の「京橋トンネル」ではさらなる技術発展を目指した新工法が採用されている。これについては各工区の記事で述べることとする。
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