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京成博物館動物園駅跡、開く。
公開日:2019年02月08日10:36

東京の上野公園の地下には、京成本線のトンネルが通っています。京成上野駅を出て程近いところに、かつて博物館動物園駅という地下駅がありました。廃止になったこの駅の一部が昨年11月より20年ぶりに公開されています。2週間ほど前に内部の様子を見てまいりましたので、その様子をお届けします。
博物館動物園駅の歴史

京成上野駅、博物館動物園駅、寛永寺坂駅の位置
Yahoo!ブログ時代から当サイトを熱心にご覧頂いている読者の皆様ならご存知かもしれませんが、博物館動物園駅については2007年に一度簡単な解説記事を作成しています。おさらいになりますが、この駅の概要について簡単に説明したいと思います。
京成本線の上野駅乗り入れが計画されたのは1920年代のことです。当時上野公園は宮内省が所有する御料地でした(1924年東京市に払い下げ)。京成上野駅~日暮里駅間大半はこの上野公園の地下を通過する計画だったため、御前会議において許可を得る必要がありました。結果、通過自体の許可は得られたものの、地面を切り開いてトンネルを埋め込む開削工法は、桜の根を切り枯らせてしまうため認められないという注文がつきました。そこで、地表面からわずか2.5mという浅い位置に地面を切り開かずにトンネルを掘るという超難工事に挑むこととなります。(ちなみに、この深さに非開削でトンネルを掘るのは、シールド工法など様々な手法が開発された現代においても相当難しい部類に入ります。)桜並木を避けてできるだけ道路下を通るルートを採用したことから、この区間は最小半径190mという急カーブが連続しています。このため、上野駅・日暮里駅両側から掘削を開始したトンネル内では、計画位置とずれがないか確認する測量を20回ほど繰り返し、双方のトンネルは誤差3cmという高い精度で貫通させることができました。

昭和40年代に上野動物園の入場口が移転したため廃止された駅出入口。目張りした上で物置として使用されている。(2007年の写真再掲)
このトンネル区間には博物館動物園、寛永寺坂という2つの駅が設置されていました。日暮里駅側のトンネル出口に接していた寛永寺坂駅は終戦後すぐに廃止となり、長らく倉庫として残っていた駅舎も2016年に解体されて現在はコンビニが建っています。一方、博物館動物園駅は上野動物園の入場口に近かったことからその後も営業を続けました。
博物館動物園駅の出入口は当初2箇所あり、いずれも御料地に位置するという環境を考慮して高級感のある石造りの建物とされました。しかし、昭和40年代に上野動物園の入場口が上野駅側に移設されたことから、動物園側の出入口は閉鎖となり国立博物館の一角にある階段1箇所のみで細々と営業を続けます。同じ頃京成電鉄では、都営浅草線直通や混雑緩和のため、車両の大型化・増結を進めるようになりました。博物館動物園駅は地下にあることから施設の拡張が容易ではなく、1980年頃からは6両編成の普通電車が通過するようになりました。残った4両編成についても、およそ1両分はホームからはみ出して停車しており、トンネル壁と車体の間に板を置いてしのぐなど、営業を継続するのには無理が出始めました。この列車本数減少、上野駅に近い立地により、末期には1日500人まで利用者数が減少しました。

博物館動物園駅営業休止時に発売された記念乗車券(2007年の写真再掲)
このためついに1997年4月1日、博物館動物園駅も無期限の営業休止となりました。開業以来約60年間大きな改修は実施されなかったことから、壁や天井は煤け、落書きなども多数行われるなど廃墟のような状態で休止を迎えています。廃止から7年後の2004年、博物館動物園駅は正式に廃止となりました。以後は非常時のための避難口として建物はそのまま残されています。
上野公園をアートの空間に

2010年の照明復元に際し設置された説明板。(高解像度版)オリンピック開催決定以前より上野公園では芸術振興に関する動きが活発だった。
時は流れて2013年9月、2020年夏季オリンピックの開催都市が東京に決定しました。このオリンピック招致や、最近のインバウンド需要の急増を受け、上野公園にある文化施設では上野公園をアートの空間として国際的にPRしていく方針を固めました。京成電鉄でもこの流れに乗る形で、博物館動物園駅跡に隣接する東京藝術大学と連携し、駅跡を芸術振興の場として活用をしていくこととなりました。2018年4月には駅跡の建物が東京都の歴史的建造物に指定されたことから、駅舎全体の清掃ならびに一般公開を可能にするための安全対策が実施されました。

2018年の改修時に交換された博物館動物園駅のドア。上野公園をイメージした彫刻が施されている。
2018年に実施された改修では、廃止後に設置された鉄扉を撤去し、新たに東京藝術大学美術学部長である日比野克彦氏デザインによる緑色の新しいドアが取り付けられました。ドア表面には上野を象徴する動物や施設をイメージした彫刻が施されています。2010年に先行して復元されていた駅舎外側のガス灯風の照明とあわせて、竣工当時の荘厳な雰囲気が蘇りました。
戦前の駅舎の中で触れる最新技術

入場整理券は開催日の朝10時から駅舎前で配布される。(注:入場時に回収される)
安全対策が完了した2018年11月からは、イベントの一環という形で20年ぶりに駅舎の一部公開が開始されました。今回のイベントは「アナウサギを追いかけて」と題し、上野を舞台にした物語を読み解きながら駅舎内の展示物を観覧してもらおうという内容になっています。イベントの開催日は2018年11月23日(金)~2019年2月24日(日)までの毎週金・土・日の各曜日、時間は11~16時です。駅舎内は安全上一度には入れる人数を30人に制限しているため、当日朝10時より1時間ごとに入場時間を区切った整理券を配布する形を取っています。
なお、11月の開会以後土日に関してはかなり早い時間に1日分の整理券が払底しているようです。来場される場合は金曜日にするか、土日の場合は配布開始より1時間程度前から並ぶ必要がありますのでご注意ください。

駅舎入口の床を壊して地面に潜ろうとしているアナウサギ
駅舎に入ろうとするとまず床を壊して地面に潜ろうとしている巨大なアナウサギが目に飛び込んできます。駅舎内部に関しては営業休止時点から大きな手は加えられておらず、ドーム型の天井などもそのままとなっています。天井の形状は復原前の東京駅赤レンガ駅舎を思わせるデザインです。


左(1):階段途中ではプロジェクタを使い、博物館動物園駅の歴史について説明を聞ける。
右(2):プロジェクタの上にいた「京成パンダ」
その先の階段ではプロジェクターが置かれており、ここで博物館動物園駅の歴史について説明を受けることで予備知識がなくてもイベントを楽しむことができるようになっています。上映される写真はいずれも一般公募で集められたものとなっています。会期中も随時募集しており、上映のラインナップに加えることも可能とのことでした。コレクションをお持ちの方、ぜひご協力を。ちなみに、プロジェクターの脇にはその独特な風貌で秘かに人気を集めている(?)京成電鉄のゆるキャラ「京成パンダ」のぬいぐるみがありました。


踊り場の切符売り場跡(左)とトイレ跡(右)。

ここでは3Dプリンタで出力された骨格標本に触れることができる。写真はニホンカモシカの頭。
階段を下りた先の踊り場には、開業当時切符売り場の窓口とトイレが設置されていました。いずれも開口部は鉄板などで塞がれています。踊り場に置かれているのは上野動物園をイメージした動物の骨格標本です。中央のガラスケースにあるジャイアントパンダの骨は本物ですが、それ以外は全て3Dプリンタで出力したものとなっており、来場者が触って動かすこともできるようになっています。戦前の雰囲気を色濃く残す駅舎の中で触れる最先端技術というユニークな組み合わせです。


左(1);踊り場から先はガラス戸で仕切られており今回は入れない。
右(2):ガラス戸に近づいて奥を見る。営業休止時の改札口がそのまま残されている。
我々一般人が立ち入りできるのはこの踊り場までです。さらに下へ降りる階段の前にはガラス張りのドアが設けられており、来場記念として好きな絵を描けるようになっていました。(描かれた絵はその日の最後に記録として撮影し、消去)階段の奥には営業休止時に使用されていた有人窓口や木製の改札ゲートが見えます。
京成電鉄では、今回の一般公開にあわせて博物館動物園駅のスペシャルサイトを作成し、立ち入りができないホームなどの様子を公開しています。京成本線の普通電車が全て6両化され、営業再開の可能性がなくなった今、あのホームにもう一度入れるようになる日は来るのでしょうか?万世橋駅跡などとは異なり、地下駅ゆえに安全上課題も多いとは思いますが、今後に期待したいと思います。
▼参考
旧博物館動物園駅|京成電鉄
旧博物館動物園駅「アナウサギを追いかけて」 | UENOYES(ウエノイエス)(社会的包摂文化芸術創造発信拠点形成プロジェクト公式Web)
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京成博物館動物園駅跡(2007年7月12日作成)
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