カテゴリ:鉄道:建設・工事
相鉄線星川駅高架化工事(2012年9月8日取材)
公開日:2012年09月21日20:46

相鉄線星川・天王町の両駅では現在高架化工事が行われています。昨年9月にこの工事について取材を行いましたが、それから1年が経過したため、今月初めに再度取材を行いました。今回は前回時間の関係で調査できなかった星川駅の仮駅舎も含め、同駅付近の状況を中心にお伝えしてまいります。
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相鉄星川駅高架化工事(2011年9月10日取材)(2011年9月25日作成)
■相鉄線星川駅高架化工事の概要
相模鉄道本線星川~天王町間連続立体交差事業は相鉄本線和田町~天王町間の全長1.9kmを高架化するものです。
星川駅周辺は保土ヶ谷区役所が存在し、保土ヶ谷区の行政上の中心地となっています。また、駅の南東には1985(昭和60)年に閉鎖された日本硝子横浜工場跡地を利用して野村不動産が開発を行っている横浜ビジネスパーク(YBP)が存在し、星川・天王町両駅の乗降客数は1日当たり2万7千人に上っています。しかし、星川駅は駅前のスペースが狭小でバスなどの乗り入れができず、地域の拠点駅としては不十分な施設となっています。また、和田町~天王町間には9箇所の踏切が存在し、星川2号踏切で交差する市道鶴ヶ峰天王町線を中心に常時激しい交通渋滞が発生しています。星川駅は優等列車と各駅停車が接続を行う駅であることから、この問題は特に深刻です。
このため、相模鉄道と横浜市は和田町駅東側の横浜新道付近から天王町駅までの線路を高架化し、踏切を解消するとともに、交差する一部道路の拡幅、線路に並行する道路を新設を行い、交通渋滞の緩和、地域分断の解消、駅周辺の施設との連携強化を図ることとなりました。事業は2001(平成13)年に着工準備採択を受け、翌2002(平成14)年6月5日に都市計画決定、同年9月13日に事業認可がそれぞれなされ、工事が開始されました。


星川駅(左)と天王町駅(右)の高架化前後
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高架化着工前の星川駅は島式ホーム2面4線の両側に留置線が3本取り巻く配線となっていました。高架化後は留置線を横浜方の本線脇に移設するため、島式ホーム2面が並ぶだけの単純な構造となります。高架橋は2層構造で、2階が改札口、3階がホームとなり、2階の改札口は駅南側の商業ビルと直結する予定です。一方、天王町駅は環状1号線の立体交差化のため40年前に対向式ホーム2面2線の構造で高架化されていますが、今回の事業に合わせて島式ホーム1面2線に全面的に改築される予定となっています。(ただし、これは後述のとおり変更の可能性がある。)
工事はいずれも現在線の北側に仮線を敷設し、線路を移設して空いたスペースに高架橋を建設するという手法が採られています。ただし、星川駅構内については留置線を含む7線全てを仮線に移設することはスペース的に困難であるため、留置線を2つ隣の西横浜駅構内に移転させたうえで、現在線の真上に高架橋を建設する方法が採られています。
当初は今年度の完成を目指して進められていた星川駅の高架化工事ですが、工事途上で列車の運行・利用者の安全対策や環境対策に伴う追加工事が必要になったことや天王町駅前を中心に用地買収が極めて難航していることから、昨年9月に完成予定が2018(平成30)年度に6年延期されることが発表されました。これに伴い、総工費は当初計画より90億円増しの約470億円となり、差額は横浜市が80億円、相鉄が10億円ずつ負担することになっています。
■2012年9月8日の状況


左:和田町駅(横浜新道交差)付近の高架橋取り付け部分。昨年と比べ大きな変化はない。(2011年9月10日の同じ場所の様子)
右:星川1号踏切から和田町駅方向を見る。奥の桁が出来上がっている部分の下を市道鶴ヶ峰天王町線が通る。
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横浜新道との交差地点付近にある地上~高架の接続部分は昨年の調査時にコンクリート製の橋脚ができているのを確認していますが、今回この部分は橋脚に掛っていたブルーシートが除去された以外は大きな変化はありませんでした。その先の和田町~星川間のほぼ中央で交差する市道鶴ヶ峰天王町線の交差地点は今年1月に始まった桁の架設がほぼ完了し、床面の仕上げなどが行われています。住宅が近接していることから、この付近の桁には鋼製の箱桁の表面を薄いコンクリートで覆う特殊な合成桁が採用されています。(コンクリートは多孔質であることから、金属よりも制振性に優れており、騒音低減が可能となる。)




上段:星川1号踏切付近から建設中の高架橋を見る。手前を流れるのは帷子川(かたびらがわ)。
下段左:星川1号踏切から星川駅構内を見る。
下段右:星川駅南口から建設中の高架橋を見る。
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星川駅構内はの高架橋は橋脚・床面ともすべて鋼製となっており、細かく分割された部品をボルトを使って少しずつ組み立てていくことにより高架橋を建設しています。昨年訪問時は橋脚の一部がようやく立ち上がり始めた段階でしたが、今回訪問時は駅構内の全長に渡り橋脚・床面が組み上がり、遠方からでもその存在を容易に認識できるサイズとなっていました。

星川駅構内の状況。3階部分の床面がほぼ完成している。(同じ場所の2012年9月10日の様子)
星川駅構内は下り線(海老名方面)の真上に高架橋を建設しており、下り線の線路・ホームは橋脚を建てるスペースを確保するため、中央でS字形にカーブする線形となっています。駅構内の高架橋は2層構造となる予定ですが、現在は地上の線路があるため、2階部分はそれらに支障とならない線路方向の一部の梁のみが取り付けられた状態となっています。

継目部分の桁は極太のボルトで締結されている。
完成した高架橋は一般的な鉄筋コンクリート製の高架橋(RCラーメン高架橋)と同じく、地震などの際の地盤の変位に追随いできるよう3スパン程度ごとに継目があります。継目の間は鋼製の桁が渡されており、両側の高架橋とは極太のボルトで固定されているのが確認できます。


星川駅の仮駅舎。左が北口(区役所側)、右が南口(YBP側)。
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星川駅は高架化着工前より橋上駅舎がありましたが、従来の橋上駅舎のサイズでは上部に高架橋が建設できないため、30m和田町駅側に天井高さが2mの仮設橋上駅舎が建設され、2008(平成20)年3月30日より使用を開始しています。改札口は南北2箇所あり、改札内通路に並行する形で幅2m程度の南北自由通路も完備されています。また、南口は駅に隣接する星川SFビルの2階に直結しています。高架化完成後、2階にできる改札口も同様にこのビルと直結する予定です。

星川駅ホームから天王町駅方向を見る。昨年と比べ大きな変化はない。
星川駅から先は昨年訪問時には橋脚の建設が開始されていましたが、今回訪問時は大きな変化はなく、実態としては工事がほぼストップしている状態となっていました。これは現在天王町駅付近の高架橋について大幅な設計変更を含めた検討が進められているためと考えられます。

天王町駅付近の計画変更案
天王町駅は当初、高架橋を全面改築し、ホームは島式ホーム1面2線、線形も現在の星川駅方向へ向かって下る形状から上る形状へ変更する計画となっていました。これは天王町駅のすぐ脇にある天王町1号踏切の桁下高さを十分に確保するためでした。しかし、前記した通り天王町駅前は用地買収に非常に難航しており、地権者への膨大な補償金の支払いや最悪の場合土地収用法の適用を含めた措置が必要な状態となっています。
このため、当初計画を変更し、現在ある天王町駅の高架橋の途中からかさ上げを行い、星川駅方面の高架橋に接続する変更案について現在検討が行われています。この場合でも天王町駅のホームのすぐ先で急勾配で線路を上昇させることにより、踏切部分の桁下は大型車両の通過が可能な高さを確保できるとされています。この案が採用された場合、天王町駅の高架橋は大幅な改築が不要となり、新たな用地買収や工期の延長によるコスト増大を避けることができます。
このような検討に至った背景には、横浜市の厳しい財政状況があります。2006(平成18)年4月の地方債制度の協議制度導入や2007(平成19)年6月の地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)制定により、実質公債費比率(支出に占める借金返済の割合)が18%を超える場合、新たな起債に国の許可が必要となっています。横浜市の実質公債費比率は2007(平成19)年度の数字で政令指定都市では最悪の20.6%に上っており、以後財政健全化が強力に推し進められています。(その結果、2011(平成23)年度の実質公債費比率は16.3%まで低下し、地方債許可団体から脱することに成功した。)
少子高齢化社会の中でいかに低コストで交通インフラの整備・更新を進めていくかは、今後多くの自治体で課題になるといえるでしょう。
▼参考
連続立体交差事業 - 相鉄グループ
横浜市 道路局 企画課 鉄道と道路の立体交差化
横浜市 道路局 お知らせ 相鉄線連続立体交差事業における事業計画の変更について
横浜市 道路局 お知らせ 相鉄線連続立体交差事業における天王町駅部の事業規模の縮小について
相模鉄道本線の天王町駅―星川駅周辺の高架事業6年遅れ、総事業費も90億円増/横浜:ローカルニュース : ニュース : カナロコ -- 神奈川新聞社
横浜市財政局 23年度決算 健全化判断比率及び資金不足比率について
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