カテゴリ:鉄道:建設・工事
JR飯田橋駅ホーム移設工事(2016年6月取材)
公開日:2016年08月06日08:00

JR中央線飯田橋駅は急カーブ上にホームがあり、電車とホームの間に広い隙間ができることが問題になっています。これを解消するため、2014年よりホームを新宿方面の直線区間に移設する工事が行われています。今年に入り、西口の仮設駅舎が建設されるなど工事が本格化してまいりましたので、現地の様子をお伝えします。
JR飯田橋駅の歴史

旧牛込駅・飯田橋駅・飯田町駅の位置。飯田町駅は旅客駅としての使用停止後1999年まで貨物駅として機能していた。上は1992年、下は現在の様子で飯田町駅跡地には大和ハウスや大塚商会の本社などオフィスビルが建設された。 ※航空写真は国土地理院地図・空中写真閲覧サービスより。
JR中央(緩行)線
1923(大正12)年に関東大震災が発生し、復興事業の一環で中央線は御茶ノ水~中野間で複々線化されることになりました。複々線化の進捗により、1928(昭和3)年に牛込駅と飯田町駅はその中間に設ける飯田橋駅に統合され、牛込駅は廃止、飯田町駅は貨物専用駅となりました。飯田町駅はその後東京都心の新聞社や印刷会社で使用される紙の輸送拠点として機能しましたが、平成に入ると印刷工場の郊外移転が進んだことや、貨物列車のコンテナ化が進んだことから、取扱量が激減し1999(平成11)年に飯田町駅は廃止されました。跡地は再開発され、JR貨物(2011年に千駄ヶ谷へ移転)、大塚商会、日立マクセルなどの本社オフィスや複合商業施設「飯田橋アイガーデンテラス」が建設されました。
JR飯田橋駅のホームを牛込駅跡地に移設し直線化


左(1):飯田橋駅停車中の電車とホームの間の隙間
右(2):ホーム下に設置されている転落検知マット(矢印の先の黒いシート状の物体)。2014年11月27日撮影
牛込駅と飯田町駅の間に建設された飯田橋駅は、半径300mの急カーブ上にあります。カーブでは、電車の車体がカーブ内外へはみ出して通過するため、その分ホームと電車の間に隙間を確保する必要があります。飯田橋駅は特にカーブが急であるため最大33cmもの隙間が開いており、乗降客の転落事故が多発していました。JR東日本でもこれまで対策として
●ホーム下の警告用回転ランプ・ブザー
●線路転落検知マット(踏むと駅内外の非常停止信号が点灯する)
●電車とホームの間の隙間に関する警告放送(列車停車中流れ続ける)
などを設置してきましたが、依然として年間10件程度同様の事故が続いています。

飯田橋駅の移設前後の位置
そこで飯田橋駅の抜本的な安全対策として、2014(平成26)年にJR東日本はホーム全体を新宿寄りの直線区間へ約200m移設し、電車とホームの間の隙間を解消することを発表しました。飯田橋駅新宿寄りは前節でご説明した通りかつて牛込駅があった場所で、同駅廃止後は上下線の間に千葉方面から来た総武線が折り返すための引上線が設置されていました。しかし、1990年代以降総武線の飯田橋行きは定期列車ではほとんど設定されなくなり、ATOS(東京圏輸送管理システム)導入に伴う信号システムのスリム化等もあって、現在は引上線自体が撤去され※空き地のまま放置されています。新しいホームはこの空き地を利用することにより新規の用地買収等を行わずに建設されます。現在のホームは東京寄りに東口があるため、ホーム移設完了後も通路として残される予定です。
この工事に合わせて現在の西口駅舎は一旦取り壊し、千代田区と共同で1,000m2の駅前広場を備えた新駅舎を建設します。新駅舎には小規模な店舗スペースも確保される予定になっており、近年再開発が進む駅周辺と合わせて新たな人の流れができることも期待されます。なお、飯田橋駅は江戸城の外堀跡に位置することから、駅に近接して現在も石垣が多く残されています。そのため、有識者で構成される第三者委員会や文化庁とも協議のうえ、石垣の保存にも十分配慮して工事が進められる予定となっています。
工事期間は概ね4~5年を見込んでおり、2020年の東京オリンピックまでの完成を目標に進めていくことになっています。総事業費は概ね100億円を見込んでいます。
▼脚注
※飯田橋駅の折り返し設備を廃止したことにより、中央・総武線は西船橋~中野間で折り返しできるのが御茶ノ水駅のみとなった。御茶ノ水駅は本線の一部を引上線としているため、折り返し能力が不足しており一時期大規模なダイヤ混乱が多発したため、水道橋駅に折り返し用のポイントを増設した。
西口仮駅舎が間もなく使用開始
飯田橋駅ホーム移設工事については、2014年11月27日(木)と今年6月11日(日)の2回現地の調査を行っていますが、現在も鉄道関係の専門誌等には情報が出ていない模様です。そのため、今回はとりあえず現状報告としてネットに出回っている情報や現地を見た限りでわかった内容をまとめておくことにします。


左(1):飯田橋駅西口駅舎
右(2):西口駅舎とホームの新宿寄りの端をつなぐスロープ
現在の飯田橋駅西口は中央緩行線の線路の真上に駅舎があります。駅舎とホームの間は、線路が新宿方面に向かって下り勾配になっていることを利用してなだらかなスロープにより接続されています。スロープは左右・天井に窓が設けられており、日中は照明なしで十分な明るさを確保できるようになっています。また、上り・下りを分けるため、床面は2色に色分けされています。
左or上(1):完成間近の飯田橋駅西口仮駅舎
右上or左下(2):飯田橋駅西口仮駅舎を後ろ側から見たところ。階段は早稲田通り側のみに設置されている。
右下(3):6月中旬時点では駅入口の看板類の取り付けも完了していた。
右上or左下(2):飯田橋駅西口仮駅舎を後ろ側から見たところ。階段は早稲田通り側のみに設置されている。
右下(3):6月中旬時点では駅入口の看板類の取り付けも完了していた。
西口とホームをつなぐスロープは新しいホームの予定地に重なっているため、そのままではホームを移設することができません。そのため最初のステップとして線路の外に仮設の駅舎を建設し、現在の西口駅舎・スロープを取り壊します。仮設駅舎は、線路南側の飯田橋児童遊園(千代田区管理)を借用して建設します。仮設駅舎の工事は昨年秋から開始されており、6月調査時点では駅舎とホームを結ぶ通路以外はほぼ完成といった状況でした。仮設駅舎はスペースが限られているため、早稲田通り側に向けて階段のみ設置されています。

牛込橋(早稲田通り)から東京方面をみる。線路を跨ぐ仮設通路は、右の機回し線跡で組み立てを行い終電後にクレーンを使って直接架設した。
飯田橋駅南側の中央急行線(快速線)の線路脇には、飯田町駅に出入りする貨物列車の機関車付け替えに使用していた線路の跡が現在も残されています。仮設駅舎の通路のうち、中央急行線の上空を横断する部分については、この廃線跡に設置した台上で組み立てを行い、終電後に大型クレーンを使用して直接線路上空に設置する方法が取られた模様です。

新ホーム予定地の新宿寄りの緩行線引上線跡。緩行線はバラスト軌道に改築された。
新しいホームが建設される新宿寄りの緩行線上下線の間のスペースは、1990年代末期の引上線廃止以来雑草が生い茂るなど荒れ放題になっていました。工事の本格化に伴い、この部分は平らに均されており、雑草が生えないよう黒いシートで覆われています。また、両側を通る緩行線は今後軌道の移設等を行うのかは不明ですが、TC型省力化軌道から通常のバラスト軌道へ改築されています。
8/7(日)より西口仮駅舎使用開始


左(1):西口へ向かうスロープの真上に姿を現した仮設駅舎の階段
右(2):西口仮駅舎使用開始に関するお知らせ。2016年7月23日撮影
6月の調査から2カ月が経過し、現地では西口仮駅舎使用開始に向けた準備が順調に進んでいます。7月には現西口駅舎へ通じるスロープの途中の天井が取り外され、仮駅舎へ通じる階段の一部が見えるようになりました。仮駅舎の使用開始は明日8月7日(日)初電からの予定となっており、今晩終電後この下に階段の踏み板を設置することになります。なお、現駅舎はホームとの間がスロープのため車椅子での利用が可能ですが、仮駅舎は前述のとおりスペースの関係でエレベータが設置されないため、車椅子の場合はエレベータがある東口を利用するよう案内されています。
仮駅舎の使用開始後は現西口駅舎の取り壊しが進められます。これについては変化があり次第お伝えします。
▼参考
JR中央線飯田橋駅ホームにおける抜本的な安全対策の着手について - JR東日本(2014年7月2日発表)(PDF/202KB)
【東京五輪に照準】JR東日本の拠点駅大規模改修が続々 ~ 日刊建設工業新聞ブログ
日刊建設工業新聞 ≫ JR東日本/飯田橋駅改良(東京都千代田区)/8月下旬から前田建設JVで既存解体
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