JR飯田橋駅ホーム移設工事(2017年8月17日取材)

解体が進む飯田橋駅西口と中央・総武線の新顔E231系500番台

JR中央線飯田橋駅は急カーブ上にホームがあり、電車とホームの間に広い隙間ができるため転落事故が多発することが問題となっています。これを解決するため、2014年よりホームを新宿方面の直線区間に移設する工事が行われています。昨年6月にこの工事について調査しましたが、その後西口駅舎が仮設の建物に移動するなど進展がありましたので、8月中旬に再調査を行いました。今回はこれに加えて、新たな資料により判明した今後の工事計画なども交えながらJR飯田橋駅ホーム移設工事の詳細についてお伝えします。

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JR飯田橋駅ホーム移設工事(2016年6月取材)(2016年8月6日作成)

JR飯田橋駅の歴史とホーム移設工事の概要

飯田橋駅周辺の1992年の航空写真。現在飯田町駅跡地は大和ハウスや大塚商会の本社がある「飯田橋アイガーデンテラス」となっている。
飯田橋駅周辺の1992年の航空写真。現在飯田町駅跡地は大和ハウスや大塚商会の本社がある「飯田橋アイガーデンテラス」となっている。※航空写真は国土地理院地図・空中写真閲覧サービスより。

 JR中央緩行線の飯田橋いいだばしは、1928(昭和3)年に牛込うしごめ駅・飯田町いいだまち駅の2つの駅を統合して誕生しました。牛込駅は現在の飯田橋駅の新宿寄りにあり、飯田橋駅への統合後は千葉方面から来た電車の折り返し線が設置されていました。一方、飯田町駅は現在の飯田橋駅の千葉寄りにあり、統合後は東京都心で消費される紙の輸送拠点(貨物専用駅)として使用されました。その後飯田町駅は印刷工場の郊外移転や、貨物列車のコンテナ化に伴う対応の困難などにより1999(平成11)年をもって廃止となり、跡地にはオフィスビルが建設されています。また、前述の牛込駅跡地の引上線についても使用頻度の減少や、ATOS(東京圏輸送管理システム)整備に伴う中央線の信号システムのスリム化の動きもあって、現在は線路が撤去されています。

飯田橋駅停車中の電車とホームの間の隙間 ホーム下に設置されている転落検知マット(矢印の先の黒いシート状の物体)
左(1):飯田橋駅停車中の電車とホームの間の隙間
右(2):ホーム下に設置されている転落検知マット(矢印の先の黒いシート状の物体)。2014年11月27日撮影


 飯田橋駅は、牛込駅と飯田町駅の間の半径300mという急カーブ上に設けられました。このような急カーブ区間では、車体中央・両端が線路の外側へ大きくはみ出して通過するため、ホームと電車の間を大きく離す必要があります。飯田橋駅の場合、この隙間が最大で33cmもあるため、乗降客の転落事故が多発しています。JR東日本ではこれまで対策として

●ホーム下の警告用回転ランプ・ブザー
●線路転落検知マット(踏むと駅内外の非常停止信号が点灯する)
●電車とホームの間の隙間に関する警告放送(列車停車中流れ続ける)


などを設置してきましたが、依然として年間10件程度同様の事故が続いています。

飯田橋駅の移設前後の位置
飯田橋駅の移設前後の位置

 そこでJR東日本では、2014(平成26)年に飯田橋駅の抜本的な安全対策としてホーム全体をを新宿寄りの直線区間へ約200m移設し、電車とホームの間の隙間を解消することを発表しました。新宿寄りのホーム移設予定地は前述の引上線跡地であるため、新規の用地取得を行う必要が無く比較的短期間・低コストでホームを移設することが可能です。この工事にあわせて既存の西口駅舎は一旦すべて取り壊し、千代田区と共同で1000m2の駅前広場を備えた新駅舎を建設します。この新駅舎には店舗も併設される予定です。なお、現在のホームの千葉寄りには東口改札がありますが、この改札口はホーム移設後も残される予定となっており、現在のホームは通路として利用されます。
 工事期間は概ね4~5年を見込んでおり、2020年の東京オリンピックまでの完成を目標に進めていくことになっています。総事業費は概ね100億円を見込んでいます。

旧西口の解体が進む

2016年8月7日より使用開始となった飯田橋駅西口仮駅舎
仮駅舎内の改札口
ホーム手前の階段
左(1):2016年8月7日より使用開始となった飯田橋駅西口仮駅舎
右上(2):仮駅舎内の改札口
右下(3):ホーム手前の階段

 既存の西口駅舎は、現ホームとスロープで接続されており、そのままではホームの移設ができませんでした。そのため、中央快速線南側の飯田橋児童遊園(千代田区管理)を借用して仮駅舎が建設され、昨年8月7日に切り替えが実施されました。

仮駅舎内の階段は使用開始後に車椅子用リフト(エスカル)が追加された 駅構内に掲出されている車椅子での西口利用に関する案内
左(1):仮駅舎内の階段は使用開始後に車椅子用リフト(エスカル)が追加された
右(2):駅構内に掲出されている車椅子での西口利用に関する案内


 仮駅舎は用地が狭いことから、ホームから新宿方面に向かって一方向に抜けるレイアウトになっています。同様の理由でホーム・駅舎間と駅舎・地上間を結ぶルートは当初階段しかなく、車椅子等の利用者はエレベータが設置されている東口を利用するよう案内が実施されていました。しかし、西口周辺には東京逓信病院など大規模な医療施設も存在することから、バリアフリーでの移動需要は多く、仮駅舎使用開始後に各階段へ車椅子用リフトが追加で設置されています。(リフトを使う場合、エレベータよりもかなり時間を要するため、急ぐ場合は引き続き東口を利用するよう案内されている。)

解体中の旧西口駅舎(2016年10月22日) 解体中の旧西口駅舎(2017年8月17日)
解体中の旧西口駅舎。左が2016年10月22日、右が2017年8月17日。

 仮駅舎切り替え後は西口の旧駅舎とスロープの取り壊しが進められています。スロープと駅舎の解体は昨年中にほぼ完了しており、現在は駅舎の土台となっていたコンクリートの柱や床板を切断して搬出する作業が行われています。コンクリートの構造物はコアボーリング(円筒形のドリル)やワイヤーソー(ダイヤモンドが埋め込まれた糸鋸)を使って小さく切断し、クレーンで線路外へ搬出する方法がとられています。コンクリートの切断面を見ると、棒状の鉄筋のほかに古レールが芯材として使用されていたことが確認できます。

旧西口駅舎を支えていたコンクリートは芯材に古レールが使用されていた。
旧西口駅舎を支えていたコンクリートは芯材に古レールが使用されていた。



新ホームの基本設計とホーム移設に伴う勾配緩和

 ここからは資料により新たに明らかになった部分です。
 ホームの移設先である旧牛込駅跡地は、国の史跡に指定されている江戸城外堀跡地に位置しており、現在も線路に近接して石垣や土塁(斜面)が残されています。このため、ホームの移設に当たっては文化庁と協議の上で景観に十分配慮した構造とすることが求められました。具体的な設計のポイントは以下の通りです。

●新ホームの位置
東京寄りのホーム端と線形の関係。列車の停止位置を緩和曲線内に設定する。
東京寄りのホーム端と線形の関係。列車の停止位置を緩和曲線内に設定する。

 新ホームは、「ホームと電車の隙間を小さくする」という工事の趣旨を考えると、できるだけ新宿寄りの直線区間に設置することが望ましいといえます。しかし、直線化だけを優先すると史跡区域への侵入量が多くなり、景観に与える影響が大きくなってしまいます。そこで、現地の線形を基に慎重に検討した結果、東京寄りの先頭車停止位置を「半径300mのカーブ出口の緩和曲線内※1に設定しました。こうすることにより列車の停止位置はカーブ区間にわずかにかかってしまうものの、現状よりもカーブ半径が大きい場所に列車が停車するようになるため、ホームとの隙間を大幅に縮小でき、かつ史跡区域への侵入を最小限に抑えるという条件を両立することが可能となりました。

▼脚注
※1:緩和曲線:直線からカーブに入る際、徐々にカーブ半径を小さくしていく区間のこと。急激な遠心力の作用を防止し、カントをつけるための移行区間として設けられる。


●新ホームの基礎・屋根の構造
新ホームの基礎と屋根の構造
新ホームの基礎と屋根の構造

 外堀の遺構は、地上で見える部分のほかに地中にも残存しているとみられています。このため、文化庁からは地中の遺構を傷つけない工法とするよう求められました。遺構を傷つけない最も簡単な方法はホームの基礎を現在の地盤面に直接置くこと(ベタ基礎)ですが、新ホーム予定地の地盤は現在の基準で必要となる強度を有しておらず、この方法は不可能と判断されました。そのため、通常よりもやや太い杭を使う代わりに杭の本数を減らし、遺構を破壊する範囲をできるだけ小さく留めることとしました。
 また、新ホームの屋根は外堀対岸の道路(外堀通り)から石垣や土塁を眺める際の障害物となってしまいます。このため、外堀通りに面する1番線(千葉方面行き)の屋根は通常よりも10cmほど厚みを減らし、さらに取り付け角度も平面に近くした目立たないデザインとする計画です。一方、土塁に面する2番線(三鷹方面行き)の屋根は少し角度を大きくし、ホームから石垣や土塁を眺めやすくする計画です。このほか、ホーム屋根の色彩はできるだけ周囲と調和するものとすること、ケーブル類はできるだけ床下に収納し、眺望の妨げとならないよう配慮することも予定しています。

●線路勾配の緩和
現ホームの端から新ホームの予定地の半分までは33.3パーミルの急勾配となっている。
現ホームの端から新ホームの予定地の半分までは33.3パーミルの急勾配となっている。

 新ホームの予定地のうち、東京寄りの半分は33.3パーミルの急勾配となっています。このような急勾配では、列車のブレーキが十分に効かずオーバーランしたり、停車中の列車が自然に走り出す恐れがあるため、ホームを設置することはできません。これを解決するには勾配を緩和する必要がありますが、新ホームの予定地は上空に牛込橋(早稲田通り)の陸橋があるため、単純に線路をかさ上げしてしまうと列車が陸橋にぶつかってしまいます。

飯田橋駅の縦断線形変更イメージ。現ホームの途中から路盤を掘り下げ、緩勾配区間を延長する。
飯田橋駅の縦断線形変更イメージ。現ホームの途中から路盤を掘り下げ、緩勾配区間を延長する。

そこで、逆に現ホームの途中から線路を掘り下げることにより勾配区間の長さを延長し、勾配を緩和する方針とされました。線路を掘り下げる範囲は東口改札がある飯田橋架道橋(目白通り)の直後から旧西口駅舎の直下までで、掘り下げる量を必要最小限に抑えること、走行安定性の観点から縦曲線※2と緩和曲線が重ならないようにすることを条件に検討した結果、最大掘削量は0.5mとなり、新ホーム予定地の勾配は18.0~18.5‰に緩和される計画となりました。

▼脚注
※2:縦曲線:勾配を徐々に変化させていく区間のこと。車両の浮き上がりやレールと床下機器の接触防止のために設けられる。


現在山手線から中央・総武線へ転用が進められているE231系500番台。先頭車フロントマスクの下、赤丸で囲んだ突起が転用改造で追加されたホーム検知装置。
現在山手線から中央・総武線へ転用が進められているE231系500番台。先頭車フロントマスクの下、赤丸で囲んだ突起が転用改造で追加されたホーム検知装置。2015年2月28日千葉駅で撮影

 このように新ホーム予定地の勾配は一応緩和できる見通しが立ったものの、省令等の基準では10‰を越える区間でホームを設置する場合オーバーランに対する余裕長を確保するなどの対策が求められていました。しかし、前述した史跡区域への侵入を減らす観点からこれ以上のホーム延長は困難であるため、代わりの対策として中央・総武線を走行する全列車にホーム検知装置を装着することとしました。これは列車の先頭車フロント部の側面に超音波式の物体センサーを取り付けるもので、先頭・最後尾双方のセンサーが遮られた場合のみホームの中に停車していると判断してドアの開閉を許可するシステムとなっています。これによりオーバーランした際のドア誤開扉を確実に防止できるため、ホームを延ばさなくても安全性を保つことができます。
 現在、中央・総武線では山手線のE235系導入に伴い、同線から発生するE231系500番台の転用が進められています。山手線はホームドア設置路線であり、ホームドアのシステム※3でドアの誤開扉が防止できることから、E231系500番台にはホーム検知装置が付いていませんでした。このため、転用改造時にホーム検知装置の追加が実施されています。

▼脚注
※3:停止位置に設置された地上子を経由してホームドアと車両のドアを連動させるもので、この範囲から外れている場合はドアの開閉自体ができない。なお、中央線では信濃町駅・千駄ヶ谷駅で近日中にホームドアの設置が計画されていることから、中央・総武線転用後のE231系500番台にはこのシステムに関連する機器がそのまま残されている。


旧西口駅舎の解体はおおむね完了したことから、今後は跡地での新しい駅舎の建設や線路の掘り下げが進められるものと思われます。線路の掘り下げは、列車を通常通り運行しながら行うという難易度の高い工事となります。どのように工事が進められるのか注目してまいりたいと思います。

▼参考
JR中央線飯田橋駅ホームにおける抜本的な安全対策の着手について - JR東日本(2014年7月2日発表)(PDF/202KB)
【東京五輪に照準】JR東日本の拠点駅大規模改修が続々 ~ 日刊建設工業新聞ブログ
日刊建設工業新聞 » JR東日本/飯田橋駅改良(東京都千代田区)/8月下旬から前田建設JVで既存解体
中央線飯田橋駅改良計画-列車とホームの離隔解消対策- - 日本鉄道施設協会誌2017年1月号84~87ページ
中央線飯田橋駅改良 - 日本鉄道施設協会誌2017年3月号55~57ページ

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