カテゴリ:鉄道:建設・工事
JR飯田橋駅ホーム移設工事(2019年2月16日取材)
公開日:2019年03月22日12:05

JR中央線飯田橋駅は、急カーブ上にホームがあることから電車とホームの間に乗客が転落する事故が多発しています。この問題を解決するため、現在ホームを新宿寄りに移設する工事が進められています。着工から5年が経過し、現地では新しいホームの建設が進んでいます。2月末に現地を調査してまいりましたので、その様子をお届けします。
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JR飯田橋駅の歴史とホーム移設工事の概要

飯田橋駅周辺の1992年の航空写真。現在飯田町駅跡地は大和ハウスや大塚商会の本社がある「飯田橋アイガーデンテラス」となっている。※航空写真は国土地理院地図・空中写真閲覧サービスより。
JR中央緩行線の


左(1):飯田橋駅停車中の電車とホームの間の隙間
右(2):ホーム下に設置されている転落検知マット(矢印の先の黒いシート状の物体)。2014年11月27日撮影
飯田橋駅は、牛込駅と飯田町駅の間の半径300mという急カーブ上に設けられました。このような急カーブ区間では、車体中央・両端が線路の外側へ大きくはみ出して通過するため、ホームと電車の間を大きく離す必要があります。飯田橋駅の場合、この隙間が最大で33cmもあるため、乗降客の転落事故が多発しています。JR東日本ではこれまで対策として
●ホーム下の警告用回転ランプ・ブザー
●線路転落検知マット(踏むと駅内外の非常停止信号が点灯する)
●電車とホームの間の隙間に関する警告放送(列車停車中流れ続ける)
などを設置してきましたが、依然として年間10件程度同様の事故が続いています。

飯田橋駅の移設前後の位置
そこでJR東日本では、2014(平成26)年に飯田橋駅の抜本的な安全対策としてホーム全体をを新宿寄りの直線区間へ約200m移設し、電車とホームの間の隙間を解消することを発表しました。新宿寄りのホーム移設予定地は前述の引上線跡地であるため、新規の用地取得を行う必要が無く比較的短期間・低コストでホームを移設することが可能です。この工事にあわせて既存の西口駅舎は一旦すべて取り壊し、千代田区と共同で1000m2の駅前広場を備えた新駅舎を建設します。この新駅舎には店舗も併設される予定です。なお、現在のホームの千葉寄りには東口改札がありますが、この改札口はホーム移設後も残される予定となっており、現在のホームは通路として利用されます。
なお、新ホームの予定地は国の史跡にも指定されている江戸城外堀跡地に位置しています。このため、文化庁や有識者による委員会とも協議の上で新ホームの構造物は史跡の景観を壊さないよう十分考慮された位置・デザインとする予定です。(詳細は2017年10月3日作成記事「■新ホームの基本設計とホーム移設に伴う勾配緩和」節をご覧ください。)工事期間は概ね4~5年を見込んでおり、2020年の東京オリンピックまでの完成を目標に進めていくことになっています。総事業費は概ね100億円を見込んでいます。
線路の掘り下げ・新ホーム建設が進む
JR飯田橋駅ホーム移設工事は2014年より行われています。2016年には西口が快速線の線路脇に設けられた仮設駅舎に移動し、旧西口は完全に取り壊されました。跡地では現在新ホームと新しい西口駅舎の建設が進められています。今回は今年2月16日に調査した現地の様子に加え、記事にできなかった昨年7月18日調査時の内容も一部加えながら現状を説明してまいります。
左(1):現ホームの中央から新宿寄りでは勾配緩和のため線路の掘り下げが進められており、45km/hの徐行となっている。奥の線路が白くなっているところが線路の降下区間。
右上(2):停止位置の先には運転士が徐行区間であることを忘れないようもう1枚標識が設置されている。黄色の矢印が徐行終了位置。
右下(3):架線の吊り下げ金具はボルトを抜き差しすることで伸縮可能な構造になっている。
右上(2):停止位置の先には運転士が徐行区間であることを忘れないようもう1枚標識が設置されている。黄色の矢印が徐行終了位置。
右下(3):架線の吊り下げ金具はボルトを抜き差しすることで伸縮可能な構造になっている。
飯田橋駅の新ホームは前述した外堀史跡への侵入量を最小限にする観点から、現在のホームの新宿寄りの端から200mの区間に設けられます。予定地の半分は現在33.3
昨年夏以降はこの線路を掘り下げる工事が行われており、ホーム中央から新宿方面では軌道がTC型省力化軌道から通常のバラスト軌道に改築されているほか、架線を吊り下げる金具もボルトを抜き差しすることで高さを調整できる構造に変更されています。線路の降下は終電~初電の間に少しずつバラストを減らすことにより行われており、線路の形状を精密に維持するのが難しいことから、対象区間では45km/hの速度制限が設けられています。徐行制限の標識は区間出入口に加え、発車時に忘れることが無いよう停止位置の先にももう1枚設置されています※。線路に合わせてホームの床面も降下させる必要があるため、ホーム中央から新宿寄りの床面は全て仮設の板材やゴムマットに置き換えられています。ホーム中央には掘り下げ後の線形に合わせた「18.5」と書かれた勾配標が既に建てられていますが、現時点では快速線との間に線路の高さの差はほとんどありません。
▼脚注
※現在中央線を走る車両では、徐行区間に近づくと自動的に運転台のモニターから「徐行区間です」というボイスが流れるようになっている。




牛込橋から見た建設中の西口新駅舎。上段2枚が2018年7月18日、下段2枚が2019年2月16日。
取り壊しが完了した旧西口駅舎跡地では、新しい駅舎の建設が急ピッチで進められています。新しい駅舎の土台は従来とは異なり鋼管や型鋼を組み合わせたものとなっており、床面の高さも従来より若干高くなっています。このため牛込橋との間には階段が設けられる模様です。新西口駅舎のデザインについては現在まだ発表されておらず、レイアウト・階数などは不明です。
左(1):牛込橋から新宿寄りでは2018年夏より新ホームの建設が開始された。
右上(2):新ホームの屋根は土塁が眺めやすいよう快速線側の傾斜がきつくなっている。
右下(3):新ホームの基礎杭頭。設置間隔は地中の遺跡の破壊を最小限にするため不等間隔になっている。
右上(2):新ホームの屋根は土塁が眺めやすいよう快速線側の傾斜がきつくなっている。
右下(3):新ホームの基礎杭頭。設置間隔は地中の遺跡の破壊を最小限にするため不等間隔になっている。
牛込橋から新宿方面では、昨年夏以降新ホームの建設が進められています。江戸城外堀の遺構は新ホーム予定地の地中にも残存しているとみられています。新ホームの基礎を地盤に直接置くベタ基礎にするのは強度上不可能だったため、代替案として通常よりも太い基礎杭を用い、支柱の設置間隔を広くすることで地中の遺跡の破壊量を最小限に留めることとしました。このため、ホーム床の支柱は全ての梁の下ではなく梁1~2本ごとの不等間隔で打ち込まれています。
また、新ホームの屋根は外堀対岸から江戸城の石垣や土塁(快速線側の土手)を眺める際の障害物になってしまいます。この問題を避けるため、新ホームの屋根は外堀側の傾斜を水平に近いものとし、逆に快速線側はホームから石垣や土塁を見上げやすいよう傾斜をきつくした非対称の形状となっています。

同じ場所の今年2月の状況。牛込橋の下までホーム床板・屋根骨組の設置が完了した。
その後工事は順調に進み、今年2月調査時には牛込橋下までホームの床板と屋根の骨組みの設置が完了しました。今後は西口駅舎が完成次第その下まで延長されるものと思われます。
2月に訪問した際駅近くに駅出されていた工事予定表によると、2月はほぼ毎晩線路の降下作業が行われているとのことでした。中央線を通常通り営業運転しながら線路を掘り下げるという難工事となったJR飯田橋駅ホーム移設ですが、比較的順調に工事は進んでいるようです。引き続きその動向に注目してまいります。
▼参考
JR中央線飯田橋駅ホームにおける抜本的な安全対策の着手について - JR東日本(2014年7月2日発表)(PDF/202KB)
【東京五輪に照準】JR東日本の拠点駅大規模改修が続々 ~ 日刊建設工業新聞ブログ
日刊建設工業新聞 » JR東日本/飯田橋駅改良(東京都千代田区)/8月下旬から前田建設JVで既存解体
中央線飯田橋駅改良計画-列車とホームの離隔解消対策- - 日本鉄道施設協会誌2017年1月号84~87ページ
中央線飯田橋駅改良 - 日本鉄道施設協会誌2017年3月号55~57ページ
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