JR御茶ノ水駅改良工事(2014年3月16日取材)

お茶の水橋から見た神田川とJR御茶ノ水駅

続きましても新規項目です。
JR中央線御茶ノ水駅では長年懸案だった駅のバリアフリー化を柱とする改良工事が開始されました。今年3月にこの工事について調査を行いましたので、その様子をお伝えいたします。
※本記事の写真はすべて2014年3月16日に撮影したものです

JR御茶ノ水駅の概要


 JR御茶ノ水駅は文京区と千代田区の区界を流れる神田川の渓谷の中に位置し、中央線(快速・緩行)と総武線(緩行)が分岐する拠点駅となっています。神田川を挟んだ対岸の地下には東京メトロ丸ノ内線の御茶ノ水駅、南側の本郷通り地下には千代田線の新御茶ノ水駅があり、徒歩数分で乗り換えが可能です。ホームは島式ホーム2面4線で、中央線の複々線区間の中では唯一快速線と緩行線が方向別(外側が快速線、内側が緩行線)となっています。東京方は千葉方面に向かう緩行線が33パーミルの急勾配で上昇し、快速線の上をオーバークロスした後すぐに神田川を斜めに横断する急峻な線形となっています。一方新宿方は快速線と緩行線が相互に乗り入れ可能な配線となっており、早朝・深夜にはその一部を引上線として使用し、千葉方面から来た総武線が折り返すという運行方法が採られています。

JR御茶ノ水駅のホーム。快速線と緩行線が方向別になっており、通常数分の待ち時間で乗換可能。 列車の長編成化に伴い、東京方は立体交差の途中にホームが造られており、両側で段差がある。
左:JR御茶ノ水駅のホーム。快速線と緩行線が方向別になっており、通常数分の待ち時間で乗換可能。
右:列車の長編成化に伴い、東京方は立体交差の途中にホームが造られており、両側で段差がある。


 御茶ノ水駅が開業したのは、今から110年前の1904(明治37)年に中央線の前身である甲武鉄道の飯田町~御茶ノ水間が開業した時のことです。開業当初は現在よりも水道橋駅寄りに駅がありましたが、この駅舎は1923(大正12)年の関東大震災で倒壊してしまいました。震災後は復興計画の一環で御茶ノ水駅と総武線の両国駅を結ぶ高架線が建設されることになり、これに合わせて御茶ノ水駅は1932(昭和7)年に現在の場所に移転しました。移転に際しては列車の最小運転間隔を4分と想定し、駅舎を経由せずに常時ホーム上で対面乗り換えが行われるという条件で設計が行われた結果、今日見られる方向別ホームが誕生しました。また、駅舎についても設計者である伊藤滋の「旅客に停滞刺激を与えてはならない」という思想の下、必要最小限の設備で建設されました。

頓挫を繰り返した大規模改良計画

現在の御茶ノ水駅の設備配置。改札口とホームを結ぶルートは階段しか無い。
現在の御茶ノ水駅の設備配置。改札口とホームを結ぶルートは階段しか無い。
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 このような旅客流動に十分に配慮した設計により、移転から80年が経過した現在も御茶ノ水駅は混雑はしつつも大規模な改良をせずに正常な機能を維持してきました。この間、駅の周辺には順天堂大学医学部附属順天堂医院と東京医科歯科大学医学部付属病院という2つの大規模な医療機関が建設され、体の不自由な利用者も多くみられるようになりました。しかし、JR御茶ノ水駅は神田川の渓谷に位置する立地と極端に効率化されたその構造ゆえに、エレベータやエスカレータなどを追加するスペースがほとんど無く、国鉄時代から大規模改良の計画が出ては消えるという状態が繰り返されてきました。一例として国鉄分割民営化直後の1989(平成元)年には線路上空に3階建ての新駅舎を建設する計画が示され、JR東日本主催によりデザインコンペも開催されましたが、当時の技術では工事が非常に難しいことが判明し、この計画はあえなく立ち消えとなってしまいました。

駅周辺の医療機関に近い御茶ノ水橋口側の階段。現在は車椅子用リフトを設置して暫定的にバリアフリーに対応している。 駅周辺の医療機関に近い御茶ノ水橋口側の階段。現在は車椅子用リフトを設置して暫定的にバリアフリーに対応している。
駅周辺の医療機関に近い御茶ノ水橋口側の階段。現在は車椅子用リフトを設置して暫定的にバリアフリーに対応している。

 JR御茶ノ水駅についてはその後も引き続き周辺の医療機関の利用者などを中心にバリアフリー化を求める陳情が繰り返し行われてきた他、国土交通省の駅バリアフリー基本方針(1日の利用者数3000人以上の駅にエレベータなどの段差解消設備を設置)の対象になるなど、バリアフリー化が喫緊の課題となっています。また、駅の南側では日立製作所本社跡地を再開発した「御茶ノ水ソラシティ」が2013年4月に完成し、駅の混雑も予想されています。
 一方、1990年代の改良計画が頓挫してから二十数年間の間に、土木・建築などの技術開発が著しく進み、狭隘な駅でも線路上空への人工地盤の建設やエレベータの追加が可能となりました。これにより、JR御茶ノ水駅でもようやく新駅舎が建設できる見込みが立ったことから、2010年度より大規模改良工事が開始されました。
 JR御茶ノ水駅の改良工事は、1990年代の計画とほぼ同等の内容になっており、線路の上空に2~3階建ての橋上駅舎を建設します。同時に聖橋口の位置を変更し、改札口の前に駅前広場を設置します。工事は2段階に分けて実施される計画となっており、以下のような手順となっています。



●Step1:西側半分の橋上駅舎を建設し、聖橋口を仮設改札口に移転する
御茶ノ水駅改良工事第1段階では橋上駅舎の西半分を建設する。
御茶ノ水駅改良工事第1段階では橋上駅舎の西半分を建設する。
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第1段階は御茶ノ水橋口に接続する橋上駅舎を建設し、エレベータ・エスカレータを設置します。橋上駅舎の東端には線路南側の茗渓通り沿いで買収した土地を利用し、現行の聖橋口の代替となる仮設の改札口を設置します。聖橋口の改札口と橋上駅舎は閉鎖し解体します。

●Step2:東側半分の橋上駅舎を建設し、駅前広場を新設する
御茶ノ水駅改良工事第2段階では橋上駅舎を東側に拡張し、駅前広場を新設する。
御茶ノ水駅改良工事第2段階では橋上駅舎を東側に拡張し、駅前広場を新設する。
御茶ノ水駅改良工事第2段階では橋上駅舎を東側に拡張し、駅前広場を新設する。
※クリックで拡大(PNG形式/1200×400px)

第2段階は橋上駅舎を旧聖橋口の跡地まで拡張します。仮設となっていた聖橋口側の改札口を聖橋に面した位置に再度移転し、合わせて改札口の前に駅前広場を新設します。また、橋上駅舎の拡張部分にはホームに通じる階段を1箇所ずつ設置します。

 この他、橋上駅舎の建設にあたっては足元となる地盤の安定化が不可欠であるため、同時に神田川に面した護岸や南側の崖に杭を打ち込んで固定する補強工事も行われます。工事はいずれも神田川の上に仮設の桟橋を設置し、対岸から橋を架けてそこから資材の搬入や橋上駅舎本体の建設を行う計画となっています。なお、御茶ノ水駅周辺は文京区の風致地区に指定されていることから、新駅舎や補強後の擁壁は景観に十分に配慮したデザインが採用されることになっています。第1段階の橋上駅舎西半分の建設と暫定的なバリアフリー化は2018(平成30)年度、全ての工事完成は東京オリンピックが開催される2020(平成32)年度の予定です。

神田川の擁壁の補強工事が進行中(2014年3月16日取材)

JR御茶ノ水駅脇に設置された改良工事用の仮設桟橋
JR御茶ノ水駅脇に設置された改良工事用の仮設桟橋
※クリックで拡大(1200×900px/195KB)

 2013年度からはJR御茶ノ水駅脇の神田川に工事用の仮設桟橋を設置する工事が開始されています。桟橋の幅は約10mほどで、聖橋からお茶の水橋にかけての線路脇に設置されます。仮設桟橋は今後駅改良工事の資材搬入だけでなく、線路上空の橋上駅舎を建設する大型クレーンなども設置するため、支柱や床板は極めて強固な構造となっています。桟橋は対岸の外堀通りにも通じており、工事の関係車両はこの道路を経由して桟橋に出入りします。

新宿方の神田川護岸で行われている擁壁補強工事
新宿方の神田川護岸で行われている擁壁補強工事
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 お茶ノ水橋の西側(新宿方)では、神田川に面した斜めの擁壁に仮設の作業台を設置し、擁壁に向かって耐震補強用のアースアンカー(杭)を打ち込む工事が開始されています。アースアンカーによる擁壁の補強工事は、これまで山岳部の降雨による土砂崩れ対策として用いられてきましたが、首都直下地震のような大規模地震の対策として広範囲に用いられるのは今回が初めての事例となります。同様の工事は神田川の水道橋から昌平橋付近にかけての約1.1kmの区間を対象に行われる計画となっており、合計で約4000本のアンカーが使用されます。

▼参考
JR中央線御茶ノ水駅バリアフリー整備について - JR東日本(2010年3月26日発表)
JR中央線御茶ノ水駅バリアフリー整備等の本体工事着手について - JR東日本(2013年9月3日発表)(PDF/354KB)
中央線御茶ノ水駅付近耐震補強工事の着手について - JR東日本(2013年7月2日発表)(PDF/448KB)
2 代目御茶ノ水駅舎設計者選定の要因と背景 - 平成25年度日本大学理工学部学術講演会論文集(PDF/418KB)
御茶ノ水駅改良計画について KANDAアーカイブ:神田資料室
JR御茶ノ水駅のバリアフリー化検証(特集: 多様化する福祉) - お茶の水地理 (リンク先CiNii)
土木部門 施工 御茶ノ水駅改良工事の概要 - 日本鉄道施設協会誌2013年12月号(リンク先CiNii)

▼関連記事
御茶ノ水駅にて(2006年7月20日作成)
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中央線と春の風景(2007東京さくら紀行[5])(2007年4月9日作成)

※脱字ならびに画像のリンクに重大な構文ミスがあったため、修正しました。(2014,07,13 18:20)
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