カテゴリ:鉄道:建設・工事
JR御茶ノ水駅改良工事(2019年2月16日取材)
公開日:2019年03月20日12:05

JR御茶ノ水駅では、現在バリアフリー化のための大規模改良工事が進められています。今年に入り長年の懸案だったエスカレーター・エレベーターが相次いで使用開始になるなど大きな変化がありました。2月末に調査した現地の様子をお届けします。
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JR御茶ノ水駅改良工事(2017年8月17日取材)(2017年9月23日作成)
JR御茶ノ水駅の概要と改良工事の経緯
JR御茶ノ水駅は文京区と千代田区の区界を流れる神田川の渓谷の中に位置し、中央線と総武線が分岐する拠点駅となっています。中央線では当駅のみが方向別ホームとなっており、快速と各駅停車が同一ホームで乗り換え可能です。新宿方面は快速線と緩行線の相互に乗り入れ可能な配線になっており、中央線と総武線を直通する特急列車の運行に使用されています。また、このポイント周辺は千葉方面から来た総武線の引上線としても使用可能になっており、早朝・深夜は総武線を当駅折り返しとする代わりに東京駅から来る中央線の列車を全区間各駅停車として運行しています。また、周辺には東京メトロ丸ノ内線御茶ノ水駅・千代田線新御茶ノ水駅があり、徒歩数分で乗り換え可能です。
御茶ノ水駅が開業したのは、今から115年前の1904(明治37)年に中央線の前身である甲武鉄道の飯田町~御茶ノ水間が開業した時のことです。開業当初は現在よりも水道橋駅寄りに駅がありましたが、この駅舎は1923(大正12)年の関東大震災で倒壊し、その後の駅周辺を含めた復興事業の一環で1932(昭和7)年に現在の場所に移転しました。移転に際しては、高頻度で列車が運行されることを前提にホームやコンコースなどの施設が最小限のサイズで建設されました。
移転から80年が経過した現在の御茶ノ水駅は、その設計思想通りに列車が運行されていることもあり、混雑はしつつも大規模な改良をせずに機能を維持しています。一方、この間に駅周辺には大規模な医療施設が建設され、バリアフリーへの非対応が問題視されるようになっています。JR御茶ノ水駅はその立地と極端に効率化された構造ゆえに設備の追加が容易ではなく、1980年代末にもJR東日本主催のデザインコンペにより改良案が示されたものの、技術的に困難であるという理由から撤回されてしまいました。


左(1):2013年に聖橋口前に完成した御茶ノ水ソラシティ
右(2):御茶ノ水橋口前にある東京医科歯科大学医学部附属病院と順天堂大学医学部附属医院
しかし、それから二十数年の時がたち、小型の建設機械や地盤強化技術が著しく向上した結果、狭隘かつ高頻度で列車が運行される大都市の鉄道駅でもバリアフリー化に必要な建物の増築が可能となりました。折しも、JR御茶ノ水駅南側では2006年に丸の内に移転した日立製作所本社跡地を再開発した「御茶ノ水ソラシティ」が完成し、駅の利用者数が増加することが見込まれました。この混雑への対応も必要であることから、JR東日本は2010年度より大規模改良工事に着手しました。
JR御茶ノ水駅の改良工事は、1990年代の計画とほぼ同等の内容になっており、線路の上空に2~3階建ての橋上駅舎を建設します。同時に聖橋口の位置を変更し、改札口の前に駅前広場を設置します。工事は2段階に分けて実施される計画となっており、以下のような手順となっています。
●Step1:西側半分の橋上駅舎を建設し、聖橋口を仮設改札口に移転する

御茶ノ水駅改良工事第1段階では橋上駅舎の西半分を建設する。
第1段階は御茶ノ水橋口に接続する橋上駅舎を建設し、エレベーター・エスカレーターを設置します。橋上駅舎の東端には線路南側の茗渓通り沿いで買収した土地を利用し、現行の聖橋口の代替となる仮設の改札口を設置します。聖橋口の改札口と橋上駅舎は閉鎖し解体します。
●Step2:東側半分の橋上駅舎を建設し、駅前広場を新設する


御茶ノ水駅改良工事第2段階では橋上駅舎を東側に拡張し、駅前広場を新設する。
※クリックで拡大(PNG形式/1200×400px)
第2段階は橋上駅舎を旧聖橋口の跡地まで拡張します。仮設となっていた聖橋口側の改札口を聖橋に面した位置に再度移転し、合わせて改札口の前に駅前広場を新設します。また、橋上駅舎の拡張部分にはホームに通じる階段を1箇所ずつ設置します。
この他、橋上駅舎の建設にあたっては足元となる地盤の安定化が不可欠であるため、同時に神田川に面した護岸や南側の崖に杭を打ち込んで固定する補強工事も行われます。工事はいずれも神田川の上に仮設の桟橋や移動式の台を設置し、対岸から橋を架けてそこから資材の搬入や橋上駅舎本体の建設を行う計画となっています。なお、御茶ノ水駅周辺は文京区の風致地区に指定されていることから、新駅舎や補強後の擁壁は景観に十分に配慮したデザインが採用されることになっています。第1段階の橋上駅舎西半分の建設と暫定的なバリアフリー化は、後述する通り当初予定の2018(平成30)年度中に完成する見込みです。一方、聖橋口の駅舎建替え・駅前広場整備については当初東京オリンピックが開催される2020年度の完成を予定していましたが、予定地地中に昭和初期の開業当時線路を支えていたと思われる石材が大量に見つかり撤去に時間を要していることから、2023年度へ3年完成が延期されることとなりました。
エスカレーター・エレベーターがついに登場
JR御茶ノ水駅改良工事は2013年より本格的に行われています。2016年以降はホーム上空へ橋上駅舎を拡張する工事が進められ、最低限一般利用可能な状態が整ったことから、今年1月下旬に各ホームのエスカレーター・エレベーターが使用開始となりました。今回は2月26日に調査したこれら施設の状況を中心にお伝えします。




左(1):手前からエスカレーター、階段(工事中)、エレベーター。(説明無し画像)
右上(2):エスカレーターは上下1機ずつ設置。
左下(3):エレベーター
右下(4):エスカレーターとエレベーターの間で工事中の階段は4月上旬までに使用開始予定。
着工時に発表された図面によると、新しい橋上駅舎内には各ホームへ通じるエスカレーターが上下1機ずつ、エレベーターが1機、階段が2箇所設置されることになっていました。今回使用開始となったのはこのうちエスカレーターとエレベーターで、使用開始日は下り(1・2番線)ホームのエスカレーターが1月19日(土)、それ以外は1月29日(火)です。ホーム幅の関係でエスカレーターは1・2番線が1人幅、3・4番線が2人幅となっています。エスカレーターと階段の間には工事中の階段がありますが、こちらは4月上旬までに使用を開始する予定となっています。
左(1):御茶ノ水橋口改札口。正面奥が1月に使用を開始した橋上駅舎。
右上(2):橋上駅舎の内部は骨組みや床板が剥き出しの状態。
右下(3):エレベーター乗り場
右上(2):橋上駅舎の内部は骨組みや床板が剥き出しの状態。
右下(3):エレベーター乗り場

聖橋から建設中の橋上駅舎を見たところ。(同じ場所の2016年1月14日の様子)
今回使用開始となった橋上駅舎はエスカレーターから御茶ノ水橋口の駅舎の間(ホームの新宿寄り1/3程度)のみで、聖橋口には通り抜けることはできません。また、橋上駅舎自体もまだ最低限の構造物しか完成しておらず、鉄骨や鉄板が剥き出しの状態となっています。橋上駅舎を外から見ると現在もクレーンで組み立てが行われていることがわかります。なお、橋上駅舎と既存の御茶ノ水橋口のコンコースの間にはわずかに段差があるため、接続部分は緩やかなスロープになっています。

仮聖橋口予定地。奥の橋上駅舎は床を手前に延長可能になっている。(同じ場所の2018年7月18日の様子)
聖橋口の建て替え期間中は、現在よりも西側(丸善御茶ノ水店前)に仮設の聖橋口が設置されることになっています。仮聖橋口の予定地では、昨年雑居ビルが取り壊され現在は更地となっています。更地の奥に見える建設中の橋上駅舎は、床の一部が手前に張り出しており建物を延長可能な構造になっています。仮聖橋口の建物が恒久的に残る施設になるのかどうかは現時点では不明です。
今後の計画


左(1):4/7以降使用停止となる御茶ノ水橋口側の階段。(着工前撮影)
右(2):御茶ノ水橋口側階段下は中央快速線グリーン車連結のためのホーム延伸スペースとなる。
今後のスケジュールですが、まず3月下旬~4月上旬にかけてに各ホームのエスカレーターとエレベーターの間で準備中の新しい階段が使用開始となります。代わりに現在御茶ノ水橋口の改札口を入ってすぐのところにある階段は2019年度末までの予定で使用停止となります。中央線では、2023年度末を目処に快速電車においてグリーン車サービスを開始することが発表されており、東京~大月・青梅間の全駅でホームを12両対応に延長する計画となっています。御茶ノ水駅は東京寄りにホームを延長するスペースが全く無いため、新宿方面にホームを延長することになります。御茶ノ水橋口の階段の改修はこの12両化に対応させるためのものとみられます。


東京寄りの臨時改札口は3月より営業時間が若干延長された。
続いて、第2段階となる聖橋口の駅舎建て替えと駅前広場の整備が進められます。聖橋口の一時移転に備えたものかは不明ですが、3月1日(金)以降東京寄りにある出場専用の臨時改札口の営業時間が平日7:30~11:00に延長されています。(従来は8:00~9:30。延長と同時にICカード専用化。)

エスカレーター・エレベーター使用開始に伴い掲出された社員からのメッセージ
エスカレーター・エレベーターの使用が開始されたことにより、御茶ノ水駅では長年の懸案であったバリアフリー化問題が解決を見ました。御茶ノ水橋口のコンコース内には長年の不便に対するお詫びと新しくなる御茶ノ水駅への期待を願う駅社員からのメッセージが掲出されました。引き続き変化するJR御茶ノ水駅の状況を今後も注目してまいります。
▼参考
JR中央線御茶ノ水駅バリアフリー整備について - JR東日本(2010年3月26日発表)
JR中央線御茶ノ水駅バリアフリー整備等の本体工事着手について - JR東日本(2013年9月3日発表)(PDF/354KB)
中央線御茶ノ水駅付近耐震補強工事の着手について - JR東日本(2013年7月2日発表)(PDF/448KB)
中央快速線等へのグリーン車サービス開始時期および車内トイレの設置について - JR東日本(2018年4月3日発表)(PDF/298KB)
中央線御茶ノ水駅改札内エレベーターの供用開始ならびに聖橋口駅前広場の完成時期変更について - JR東日本(2018年10月24日発表)(PDF/468KB)
2 代目御茶ノ水駅舎設計者選定の要因と背景 - 平成25年度日本大学理工学部学術講演会論文集(PDF/418KB)
御茶ノ水駅改良計画について KANDAアーカイブ:神田資料室
JR御茶ノ水駅のバリアフリー化検証(特集: 多様化する福祉) - お茶の水地理 (リンク先CiNii)
土木部門 施工 御茶ノ水駅改良工事の概要 - 日本鉄道施設協会誌2013年12月号(リンク先CiNii)
御茶ノ水駅、工事で昭和の石壁発見 広場完成に遅れ(日本経済新聞2018年10年25日9:23記事)
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※2019/03/21 20:29 一部文章修正
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