カテゴリ:鉄道:建設・工事
JR御茶ノ水駅改良工事(2020年3月29日取材)
公開日:2020年04月09日04:41

JR御茶ノ水駅では、現在バリアフリー化をメインとした駅改良工事が進められています。3月末より仮設の聖橋口の使用が開始されました。今回はこの仮聖橋口を中心に工事の現状についてお伝えします。
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JR御茶ノ水駅の概要と改良工事の経緯
JR御茶ノ水駅は文京区と千代田区の区界を流れる神田川の渓谷の中に位置し、中央線と総武線が分岐する拠点駅となっています。中央線では当駅のみが方向別ホームとなっており、快速と各駅停車が同一ホームで乗り換え可能です。新宿方面は快速線と緩行線の相互に乗り入れ可能な配線になっており、中央線と総武線を直通する特急列車の運行に使用されています。また、このポイント周辺は千葉方面から来た総武線の引上線としても使用可能になっており、今年3月のダイヤ改正までは早朝・深夜に総武線の電車を当駅折り返しとし、東京駅から来る中央線の電車を緩行線経由で運行していました。また、周辺には東京メトロ丸ノ内線御茶ノ水駅・千代田線新御茶ノ水駅があり、徒歩数分で乗り換え可能です。
御茶ノ水駅が開業したのは、今から115年前の1904(明治37)年に中央線の前身である甲武鉄道の飯田町~御茶ノ水間が開業した時のことです。開業当初は現在よりも水道橋駅寄りに駅がありましたが、この駅舎は1923(大正12)年の関東大震災で倒壊し、その後の駅周辺を含めた復興事業の一環で1932(昭和7)年に現在の場所に移転しました。移転に際しては、高頻度で列車が運行されることを前提にホームやコンコースなどの施設が最小限のサイズで建設されました。
移転から80年が経過した現在の御茶ノ水駅は、その設計思想通りに列車が運行されていることもあり、混雑はしつつも大規模な改良をせずに機能を維持しています。一方、この間に駅周辺には大規模な医療施設が建設され、バリアフリーへの非対応が問題視されるようになっています。JR御茶ノ水駅はその立地と極端に効率化された構造ゆえに設備の追加が容易ではなく、1980年代末にもJR東日本主催のデザインコンペにより改良案が示されたものの、技術的に困難であるという理由から撤回されてしまいました。


左(1):2013年に聖橋口前に完成した御茶ノ水ソラシティ
右(2):御茶ノ水橋口前にある東京医科歯科大学医学部附属病院と順天堂大学医学部附属医院
しかし、それから二十数年の時がたち、小型の建設機械や地盤強化技術が著しく向上した結果、狭隘かつ高頻度で列車が運行される大都市の鉄道駅でもバリアフリー化に必要な建物の増築が可能となりました。折しも、JR御茶ノ水駅南側では2006年に丸の内に移転した日立製作所本社跡地を再開発した「御茶ノ水ソラシティ」が完成し、駅の利用者数が増加することが見込まれました。この混雑への対応も必要であることから、JR東日本は2010年度より大規模改良工事に着手しました。
JR御茶ノ水駅の改良工事は、1990年代の計画とほぼ同等の内容になっており、線路の上空に2~3階建ての橋上駅舎を建設します。同時に聖橋口の位置を変更し、改札口の前に駅前広場を設置します。工事は2段階に分けて実施される計画となっており、以下のような手順となっています。
●Step1:西側半分の橋上駅舎を建設し、聖橋口を仮設改札口に移転する

御茶ノ水駅改良工事第1段階では橋上駅舎の西半分を建設する。
第1段階は御茶ノ水橋口に接続する橋上駅舎を建設し、エレベーター・エスカレーターを設置します。橋上駅舎の東端には線路南側の茗渓通り沿いで買収した土地を利用し、現行の聖橋口の代替となる仮設の改札口を設置します。聖橋口の改札口と橋上駅舎は閉鎖し解体します。
●Step2:東側半分の橋上駅舎を建設し、駅前広場を新設する


御茶ノ水駅改良工事第2段階では橋上駅舎を東側に拡張し、駅前広場を新設する。
※クリックで拡大(PNG形式/1200×400px)
第2段階は橋上駅舎を旧聖橋口の跡地まで拡張します。仮設となっていた聖橋口側の改札口を聖橋に面した位置に再度移転し、合わせて改札口の前に駅前広場を新設します。また、橋上駅舎の拡張部分にはホームに通じる階段を1箇所ずつ設置します。
この他、橋上駅舎の建設にあたっては足元となる地盤の安定化が不可欠であるため、同時に神田川に面した護岸や南側の崖に杭を打ち込んで固定する補強工事も行われます。工事はいずれも神田川の上に仮設の桟橋や移動式の台を設置し、対岸から橋を架けてそこから資材の搬入や橋上駅舎本体の建設を行う計画となっています。なお、御茶ノ水駅周辺は文京区の風致地区に指定されていることから、新駅舎や補強後の擁壁は景観に十分に配慮したデザインが採用されることになっています。第1段階の橋上駅舎西半分の建設と暫定的なバリアフリー化は、当初予定通り2018(平成30)年度末に完成しました。一方、聖橋口の駅舎建替え・駅前広場整備については東京オリンピックの当初開催予定だった今年中の完成を目標としていましたが、予定地地中に昭和初期の開業当時線路を支えていたと思われる石材が大量に見つかり撤去に時間を要したことから、2023年度へ3年完成が延期されることとなりました。
仮設聖橋口の使用を開始

駅構内に掲出された仮聖橋口使用開始のお知らせ
JR御茶ノ水駅改良工事は、2013年から本格的に行われています。昨年1月には長年の懸案だったエレベーターとエスカレーターの整備がついに完了し、マスコミ報道などでも話題となりました。その後は、未完成状態だった橋上駅舎の工事が続けられており、先週末3月29日(日)には拡張された橋上駅舎の東端に接続する仮設の聖橋口が完成し、使用が開始されました。今回はこの仮聖橋口周辺を中心に昨年6月26日と今年1月25日に調査した内容も加えてお送りします。


左(1):改札外から見た仮聖橋口。自動券売機はわずか2台しかない。
右(2):改札内から見た仮聖橋口。
仮聖橋口は、JR御茶ノ水駅南側の茗渓通り沿い(丸善御茶ノ水店前)に新設されました。改札口は移転前と同じく有人窓口もありますが、雑居ビル跡の狭い土地に設置されたため自動改札機・自動券売機ともに大幅に減らされており、券売機はわずか2台しか設置されていません。2023年度の工事完成後の仮聖橋口の処遇については現在のところ公表されていませんが、現地を見た限りでは内装類も最小限の仕上げとなっており、長期の使用には耐えるものではないことから、工事終了後は撤去(駅構内店舗用の資材搬入口に転用?)されるものとみられます。


左(1):仮聖橋口脇に新設されたバリアフリー対応トイレ
右(2):その向かいにオープンしたコンビニ「NEWDAYS」。オープン初日ということで入口には祝花が置かれている。
仮聖橋口の改札内隣には、トイレとコンビニ「NEWDAYS」が同日新設されました。前者は多機能トイレも備えており、ホームへの昇降設備に続きトイレも完全バリアフリー化が達成されたことになります。後者は一般的な駅のコンビニのサイズとなっています。橋上駅舎内は現在も工事が続いているため、天井のパネルは全く取り付けられていませんが、NEWDAYSのガラス張りの仕切りを見る限りでは天井のパネルはかなり高いところに取り付けられ、開放的な空間となることが予想されます。
左(1):仮聖橋口の使用開始に伴い、従来の聖橋口は使用停止となり解体される。
右上(2):使用停止になった聖橋口の跨線橋。
右下(3):跨線橋は早くも取り壊しの準備が開始されており、部材の落下防止用のカバーの取り付けが進む。
右上(2):使用停止になった聖橋口の跨線橋。
右下(3):跨線橋は早くも取り壊しの準備が開始されており、部材の落下防止用のカバーの取り付けが進む。
仮聖橋口の使用開始に伴い、従来の聖橋口と跨線橋は使用停止となりました。2023年度の完成に向けて旧駅舎と跨線橋は直ちに取り壊しにかかるようで、使用停止の1週間ほど前より解体中に部品が落下するのを防止するカバーの取り付けなどが行われています。


改築が終了し、使用が再開されたお茶の水橋口側の階段。快速線側はグリーン車連結に伴うホーム延長スペースになるため、階段全体の幅がが縮小されている。
一方、昨年4月以降使用停止となり改築が進められていた御茶ノ水橋口側の階段は、工事が終了し仮聖橋口と同日の3月29日より使用を再開しました。改築後の階段はフルレールなどが一切廃された強固な構造となったほか、階段の幅が幾分狭くなり、さらに緩行線側に偏ったレイアウトとなっています。これは2023年度末に予定されている中央快速線グリーン車連結とそれに伴う12両化に備えたもので、階段が縮小された快速線側は今後ホームが延長されることになります。
▼参考
JR中央線御茶ノ水駅バリアフリー整備について - JR東日本(2010年3月26日発表)
JR中央線御茶ノ水駅バリアフリー整備等の本体工事着手について - JR東日本(2013年9月3日発表)(PDF/354KB)
中央線御茶ノ水駅付近耐震補強工事の着手について - JR東日本(2013年7月2日発表)(PDF/448KB)
中央快速線等へのグリーン車サービス開始時期および車内トイレの設置について - JR東日本(2018年4月3日発表)(PDF/298KB)
中央線御茶ノ水駅改札内エレベーターの供用開始ならびに聖橋口駅前広場の完成時期変更について - JR東日本(2018年10月24日発表)(PDF/468KB)
2 代目御茶ノ水駅舎設計者選定の要因と背景 - 平成25年度日本大学理工学部学術講演会論文集(PDF/418KB)
御茶ノ水駅改良計画について KANDAアーカイブ:神田資料室
JR御茶ノ水駅のバリアフリー化検証(特集: 多様化する福祉) - お茶の水地理 (リンク先CiNii)
土木部門 施工 御茶ノ水駅改良工事の概要 - 日本鉄道施設協会誌2013年12月号(リンク先CiNii)
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おまけ:都電のレールが「出土」


左(1):1月下旬に「出土」したお茶の水橋の旧都電廃線跡。この左側にももう1本同じものが埋没している。
右(2):橋周辺に掲出されている改修工事の概要。2020年1月25日撮影
JR御茶ノ水駅は真上を本郷通りと明大通りの2本の道路が交差しています。本郷通りが神田川を渡る聖橋では2016年より端本体の耐久性向上のための大規模改修が進められており、まもなく工事が完了します。一方、明大通りが神田川を渡るお茶の水橋についても、昨年10月より耐震性向上や歩道拡幅のための路面(床版)改修が開始されました。
このお茶の水橋の路面下には、1944(昭和19)年に不要不急線として廃止された都電錦町線(路面電車)の軌道が埋没しており、橋北側ではアスファルトが剥がれたわずかな隙間からレールが見えることで有名でした。今回の改修工事では、埋没していた軌道ごと床版を撤去することになっており、今年1月にはアスファルトが剥がされ石畳の軌道が露出した状態となりました。レールは直線区間と橋北端のカーブ区間で形状が異なっており、カーブ区間では脱線防止ガードを兼ねてインカーブ側に溝付きレールが使用されています。1月末の訪問時には既に撤去準備のため軌道全体に細かく切り込みが入れられており、その後予定通り軌道は撤去されました。現在この部分は新しい床版の設置が完了し、代わって隣の車道で同様の工事が進められており、埋没していたもう1本の軌道(複線だった)が露出した状態となっています。
このお茶の水橋の都電廃線跡については、保存に向けた有志団体も結成されており、博物館への寄贈や橋周辺でのモニュメントとしての設置が模索されています。
※現在東京都では新型コロナウイルス感染拡大防止のため、緊急事態宣言が発令されています。不要不急のご旅行はお控えください。
▼参考
お茶の水橋都電レール保存会【公式】 – 東京・お茶の水橋に眠っている戦前の都電遺構の保存・活用を目指して
Gクラスと廃線跡探索の世界へようこそ 〜GCLASS.JP〜: お茶の水橋の都電錦町線遺構と保存会
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