都営大江戸線勝どき駅改良工事(2012年4月21日取材)

都営大江戸線勝どき駅と12-000形電車。今後は右の壁が撤去され、片面ホームが増設される。

都営地下鉄大江戸線勝どき駅では周辺の再開発の進展に伴い、混雑が激しくなっています。このため、現在ホーム増設を中心とした大規模な改良工事が進行中です。このたび、この改良工事について詳しい公式資料が手に入りましたので、現地の状況と合わせて解説したいと思います。

■都営大江戸線の概要

都営大江戸線12-000形。 都営大江戸線の線路。レール間にあるリアクションプレートと車両側の電磁石の吸引・反発力で駆動する。
左:都営大江戸線12-000形。2007年11月3日、勝どき駅で撮影。(当時はホームドア未設置)
右:都営大江戸線の線路。レール間にあるリアクションプレートと車両側の電磁石の吸引・反発力で駆動する。2006年7月2日、清澄白河駅で撮影

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 都営大江戸線は東京都庁がある新宿区の都庁前駅を起点に、東京都心の外側を6の字に周回し、再度都庁前駅を経由して練馬区の光が丘駅に至る全長40.7Km地下鉄路線です。大江戸線は1991(平成3)年12月に練馬~光が丘間が開業したのを皮切りに、順次都心方向へ延伸を続け、2000(平成12)年12月12日に全線開業を迎えました。なお、全線開業が平成12年12月12日なのは、大江戸線の路線番号が12であることにちなんだことによります。1日あたりの利用者数は2010(平成22)年度の数字で約80万人となっており、都営地下鉄4路線の中でトップを誇っています。
 この大江戸線の特徴は、大阪市営地下鉄長堀鶴見緑地線に続いて国内で2番目にリニアモーター駆動を採用したことです。これはレール間に導体板(リアクションプレート)を設置し、車両の床下に設置した電磁石との相互作用(吸引・反発力)を利用して車両を走行させるものです。このリニアモーター駆動は車輪の摩擦に依らず走行するため急勾配に強くルート選定の自由度が上がるほか、床下にモーターを積まないため、車両・トンネルのサイズを小さくでき、建設にかかるコストを削減できます。このため、大江戸線は都心部で既設の地下鉄・地下施設を避けた最深部を走行しており、例えば六本木駅の内回りホームは国内の地下鉄では最も深い地下42mの地点に設置されています。
 この深さゆえ、大江戸線の構造物は耐震性に優れており、大地震発生時は救援物資の輸送路として活用されることになっています。清澄白河駅と麻布十番駅にはこのための備蓄倉庫が併設されています。

■勝どき駅の激しい混雑



 今回改良工事が行われることになった大江戸線の勝どき駅は築地と晴海に挟まれた隅田川下流の埋め立て地内にあります。駅の地上は清澄通り(補助110号線)となっており、その中央では都心と臨海部をアクセスするメインルートである晴海通り(都道放射34号線)と交差しています。(交差点名は「勝どき駅前交差点」。)駅を構成するトンネルは地下2層構造で、地下2階が島式ホーム1面2線、地下1階が改札口となっており、これとは別にトンネル上層には中央区の地下自転車駐輪場が併設されています。(駐輪場の躯体は駅の躯体と直接はつながっていない。)開業時点での地上出入口は勝どき駅前交差点の北側から時計周りにA1~A4(A4はエレベータ)の4か所設けられました。

勝どき駅A1出入口 勝どき駅A3出入口 勝どき駅A4a・A4b出入口
勝どき駅の地上出入口。左から順にA1(勝どきサンスクエア併設)、A3、A4a(勝どきビュータワー併設)とA4b(エレベータ)。
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勝どき駅改札口(北側) 勝どき駅改札口(南側)
勝どき駅の改札口。左が北側の改札口、右が南側の改札口。
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 また、この勝どき駅の特徴としては地下1階のコンコースが南北で2分割されていることが挙げられます。これは駅の中央に将来晴海通りをアンダーパス化するトンネルの建設が計画されており(ただし、都市計画決定はなされていない)、その空間を避けたことによります。このため、勝どき駅のホームは南側の改札口に通じる階段が2か所、北側の改札口に通じる階段が1か所といういびつな構造となっています。

勝どき駅の東にある晴海アイランドトリトンスクエア。黎明橋の上から撮影。 勝どき駅から晴海トリトンに向かう歩道は2色に舗装され、方向別に通行エリアが区分されている。
左:勝どき駅の東にある晴海アイランドトリトンスクエア。黎明橋の上から撮影。
右:勝どき駅から晴海トリトンに向かう歩道は2色に舗装され、方向別に通行エリアが区分されている。

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 開業当初の勝どき駅は周辺の工場跡地の再開発が始まったばかりで、1日あたりの利用者数も3万人と少なかったため、この構造が問題となることはありませんでした。しかし、2001(平成13)年4月に駅の東に晴海アイランドトリトンスクエアがオープンし、その通勤客が一挙に押し寄せるようになり、その後も駅周辺でオフィス・マンションの建設が続いたことから、利用者数は8万人へ急増しました。8万人という利用者数は乗り換え路線が無い大江戸線の駅では最多であり、朝夕のラッシュ時には駅構内で激しい混雑が発生するようになりました。
 特に混雑が問題となったのがホーム・コンコース間の階段が1か所しかない駅北側の改札口でした。これは晴海トリトンが晴海通りの北側にあり、横断歩道を使わずに晴海トリトンまで行ける北側に通勤客が集中したためです。混雑は駅を出た晴海通りにも及んでおり、勝どき駅から晴海トリトンの間の歩道は2色に舗装され、朝ラッシュ時は方向別で通行エリアが区分されるという特異な光景を見ることができます。

開業時からあるA2a出入口(手前)と2003年に増設されたA2b出入口(奥) A1出入口の通路から分岐するA2b出入口。階段がA1出入口側に飛び出している。
左:開業時からあるA2a出入口(手前)と2003年に増設されたA2b出入口(奥)
右:A1出入口の通路から分岐するA2b出入口。階段がA1出入口側に飛び出している。

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 混雑緩和のため、駅北側の改札口では開業からわずか3年後の2003(平成15)年7月に、勝どき駅前交差点の東側に出る新しい地上出入口(A2b)の使用を開始しました。これは既設のA1出入口の途中から分岐するもので、晴海トリトンへ向かう通勤客のバイパスルートとして新設されたものです。実際の通路を見ると分かりますが、この通路はA1出入口との接続部分に不自然な段差(階段)があるほか、内装も非常に簡素な構造となっており、詳細な設計を詰めている間もなく通路の増設の必要に迫られたことが窺えます。
 このA2b出入口完成以降、朝ラッシュ時は従来からあるA2a出入口(A2から改称)が入場専用、A2b出入口が出場専用に区分され、両者の動線が交差することは無くなりました。また、2010(平成22)年12月には駅の西側に完成した勝どきビュータワーに併設したA4a出入口が新設されました。

■勝どき駅改良工事の概要




勝どき駅改良工事のイメージ
勝どき駅改良工事のイメージ(階段の位置は不明であるため、描き込んでいない。)
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 地上出入口は増設されたものの、北側の改札口とホームを結ぶ階段が1か所しかないという根本的な問題は解決していないため、勝どき駅では現在も激しい混雑が発生しています。駅周辺では現在も再開発が続いており、今後も利用者の増加が見込まれています。現在の駅設備でこの利用者数の増加に対応することは不可能であることから、東京都交通局では2008(平成20)年12月より局内に有識者で構成される委員会を設け、勝どき駅の改良工事について具体的な検討を行いました。その結果、駅の東側に大門方面行き専用の片面ホーム1面を増設し、南北に分かれているコンコースを一体化するという方針が決定されました。これにより現在は内回り・外回り双方の列車から北側の改札口に集中している利用者が分散され、混雑が大幅に緩和されることが期待されています。

改良工事完了後の勝どき駅の断面 現在の勝どき駅のホーム。今後は右(大門方面行き)線路側の壁を撤去してホームを新設する。

左改良工事完了後の勝どき駅の断面
右:現在の勝どき駅のホーム。今後は右(大門方面行き)線路側の壁を撤去してホームを新設する。

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増設される大門方面行きのホームは現在のトンネルを全長220mにわたり7.5m東に拡幅して設置されます。工事はまず駅の東側を掘削して拡幅部分のトンネルを構築した後、現在の駅の側壁を取り壊してホームを新設するという手順が取られます。拡幅側のトンネルの支柱は現在のホームと同じ鋼管柱とし、新旧のトンネルはアンカーボルトで一体化を図る計画です。このホームの完成後、現在の島式ホームは両国方面行き専用となる予定です。(東京メトロ銀座線新橋駅・日本橋駅などと同様の構造。)
 なお、勝どき駅の周辺は現在も再開発が進行中であり、計画段階の地下構造物も多く存在します。このため、改良工事にあたってはそれらの構造物への配慮もなされています。

(1)晴海通りアンダーパス・首都高速10号晴海線との交差
晴海通り交差部付近の断面
晴海通り交差部付近の断面
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 勝どき駅の中央で交差する晴海通りの地下には前述したアンダーパス用のトンネル建設が計画されており、当初の計画では駅のトンネルとは接点が無い独立構造とする計画でした。しかし、今回駅の南北コンコース一体化を図るにあたり、このアンダーパス用の空間の一部を使うこととなり、深度の関係で当初計画されていた独立構造とすることが難しくなりました。このため、同様の構造である環状2号線と大江戸線・浅草線連絡線の構造を参考にし、コンコース天井でアンダーパスの床を兼用するよう計画を変更しました。
 また、これとは別に晴海通りの下には首都高速10号晴海線(豊洲~新富町)の建設が計画されており、勝どき駅の下を交差する形ですでに都市計画決定がなされています。首都高速10号晴海線は晴海トリトンの先にある晴海大橋で地上に出るため、晴海線の天井は勝どき駅の床で兼用し、トンネルの深度をできるだけ浅くする計画となっています。これに対応して、晴海通りと交差する部分のトンネルは将来トンネル下が掘削されて宙吊りになっても耐えられるよう床が厚くなっています。今回増設されるホーム部分のトンネルについても同様の構造とする計画ですが、晴海線のトンネルは東にある晴海大橋に向かって上り勾配となっており、現在のトンネルと同じ深さにしてしまうと晴海線の断面に侵入してしまいます。このため、増設部分はトンネルの床を浅くする代わりにホーム下の空洞を縮小し、当初計画通り晴海線の空間を確保する予定です。

▼関連記事:環状2号線と大江戸線・浅草線連絡線について
大江戸線汐留駅の謎のトンネル(2006年10月5日作成)
汐留地区で続く道路建設(2006年10月6日作成)

(2)新交通ゆりかもめの橋脚支持
新交通ゆりかもめ豊洲駅のエンドレール。勝どき方面に曲がって設置されている。 新交通ゆりかもめ勝どき駅の橋脚設置イメージ
左:新交通ゆりかもめ豊洲駅のエンドレール。勝どき方面に曲がって設置されている。2010年3月31日撮影
右:新交通ゆりかもめ勝どき駅の橋脚設置イメージ

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 現在、豊洲駅が終点となっている新交通ゆりかもめは時期は未定ながら勝どき駅まで延伸する計画があり、豊洲駅の終端部は勝どき方向に曲げて設置されています。ゆりかもめの勝どき駅は、現時点では大江戸線の勝どき駅の真上に設置することが検討されており、大江戸線のトンネルはゆりかもめの橋脚が40m間隔でどの位置に設置されても支えられるという条件で設計されていました。(汐留駅と同様の構造。)
 しかし、今回の改良工事ではトンネルを拡幅するため橋脚がトンネル中心からずれることや、既設部分と新設部分では強度の関係上コンクリート内部の鉄筋量が大幅に異なることから、全体的な強度のバランスが変わるため元の計画のままではゆりかもめの駅の重量を支え切れないことが懸念されました。このため、各断面ごとに上載可能な重量をシミュレーションした結果、ゆりかもめの橋脚の間隔を調整することにより引き続き橋脚が設置可能となっています。

■現在の状況と今後

勝どき駅地上にある清澄通り・晴海通りの交差点。清澄通り側には既に工事用の作業帯ができつつある。
勝どき駅地上にある清澄通り・晴海通りの交差点。清澄通り側には既に工事用の作業帯ができつつある。
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 勝どき駅改良工事は2010年5月に都市計画素案の説明会が実施され、同年6月には都市計画変更の告示がなされ、現在は着工に向けた準備が進められています。現在主に行われているのは清澄通り内にある電線共同溝(CCBOX)の移設作業です。清澄通りの共同溝は将来大規模な掘削を行わないことを前提にメンテナンスがしやすいよう地表から0.6mの浅い位置に埋設されており、ケーブルにもほとんど余裕がありません。このため、現状のままでは移設や吊り防護(掘削範囲内にある仮設桁からケーブルを吊り下げる方法)を行うことはほとんど不可能となっています。このため、掘削範囲にかからない位置に仮設の共同溝を設置したうえで、ケーブルを管理する各事業者に移設の依頼を行っています。
 本格的な掘削工事が始まるのは今年度末の予定となっており、全ての工事が完成するのは4年後の2016(平成28)年3月の予定となっています。地下の構造物はは地上と異なり、後から手を加えるのに非常に時間がかかるのが特徴です。週刊誌に「勝どき駅利用者の憂鬱(ゆううつ)」などと記事を打たれてしまったほど酷い混雑ですが、解消されるまでにはまだかなりの時間がかかりそうです。

▼参考
都営地下鉄 | 東京都交通局
【連載】鉄道トリビア (90) 地下鉄大江戸線は東京都の防災ネットワーク上、重要拠点である | ライフ | マイナビニュース
ホーム増設とコンコース一体化により地下駅を大規模改良-都営大江戸線勝どき駅- - トンネルと地下2011年12月号(リンク先:国立国会図書館サーチ)

▼関連記事
都営大江戸線、2駅ですが乗りました(2006年7月9日作成)

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