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東京メトロ東西線木場駅は工事休止へ
公開日:2022年11月29日12:00

南砂町駅の工事がある程度完成が見えてきた一方、同じく改良工事が進められてきた木場駅に関して、今年夏に衝撃的な情報が入ってきました。工事の無期限休止が決定したのです。今回は木場駅の工事のこれまでと工事が休止された経緯について考察してみたいと思います。
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東京メトロ東西線木場駅改良工事(2016年4月10日取材)(2016年6月9日作成)
木場駅改良工事の概要とこれまで

木場駅改良工事のイメージ図。赤い部分がシールドトンネルを解体して新規に構築する部分。
木場駅は島式ホーム1面2線の駅で、ホームは周辺環境の制約により1960年代当時としては珍しく地下20mという深い場所にシールド工法を用いて建設されました。このため、駅の出入口はホームの両端の立坑部分にしかなく、駅近くに大規模なオフィスや商業施設が完成した2000年代以降ホーム上の混雑が激しくなっていました。そこで、特に混雑が激しい中野寄りのシールドトンネルの一部を解体して両方向のホームをつなげ、エスカレーターなども増設することで混雑緩和を図る計画が立てられました。営業運転中のシールドトンネルを解体してホームを拡幅するのは世界初の試みです。

木場駅ホーム中野寄りの再構築予定部分では内装材が取り外されている。2016年9月11日撮影


左:シールドトンネルにはリングの継ぎ目に沿って歪みを計測するセンサーが取り付けられている。
右:線路にも同様に沈下を計測するワイヤー式センサーが取り付けられている。2016年9月11日撮影
右:線路にも同様に沈下を計測するワイヤー式センサーが取り付けられている。2016年9月11日撮影
上:シールドトンネルにはリングの継ぎ目に沿って歪みを計測するセンサーが取り付けられている。
下:線路にも同様に沈下を計測するワイヤー式センサーが取り付けられている。2016年9月11日撮影
下:線路にも同様に沈下を計測するワイヤー式センサーが取り付けられている。2016年9月11日撮影
木場駅周辺は地盤が非常に軟弱であることから、安全のため掘削に際しては薬液注入による地盤改良を多用しています。シールドトンネルの変形を慎重に監視しながらの工事となるため、地盤改良には約3年を要し、完成が2021年から5年も延期される原因となりました。
浅い部分で地盤改良が行われた結果、シールドトンネルには最大で7mmほどの沈下が生じています。トンネルの再構築が予定されているホーム中野寄りの線路は、この沈下等に対応するため位置調整の容易なバラスト軌道に変更されています。ホームや線路内では内装材が撤去され、トンネルの歪みを計測するセンサーが多数取り付けられています。南砂町駅とは異なり、工事区間全体で極端な沈下量の差は無く列車運行には支障は無いことから、2019年以降は本格的な掘削に移行し、これまでに地表から3.5mほどの深さまで掘削が進んでいました。
コロナによる利用減のため再開未定の工事休止へ

木場駅周辺の町内会掲示板で8月に掲出された工事休止への意見募集のお知らせ。2022年8月24日撮影
こうして工事が軌道に乗り始めた矢先の今年6月、江東区議会議員のTwitterにて、東京メトロから突如木場駅の工事を中止する旨の説明があったという投稿がされました。この工事中止については、翌7月に江東区議会でも議題に上がったほか、同月には地元町内会へも説明が行われ、町内会では工事継続を求めて周辺住民から意見を募集するといった騒動となっています。また、8月以降は駅周辺に掲出されている工事予定表にも「コロナのため工事を一時休止」「再開時期が不透明なため、工事着手前の状態に戻す」という文言が載ったことから、完全に工事を中止するわけではないものの、掘削した部分は埋め戻されることが確実となりました。

東西線混雑率の推移と東京メトロの経営状況
木場駅の工事が休止に至った大きな理由の1つは、新型コロナウイルス流行に伴う東西線の大幅な利用者減少です。長年に渡り首都圏の私鉄でワーストを維持し続けてきた東西線の混雑率は、コロナ禍に伴う外出自粛、テレワーク・オフピーク通勤の普及に伴い、2021年度の数字で128%と大幅に低下しています。この数字はこれまで混雑緩和の目標とされてきた180%を大きく下回り、ピーク時でも立席は出るものの本やスマートフォンは楽に見ることができるレベルになります。また、木場駅自体の利用者数もコロナ禍に入って以降およそ2割という大幅な減少となっています。
利用者の大幅減少は首都圏の他の路線でも顕著となっており、東京メトロは2020年度に529億円、2021年度に134億円という巨額の赤字を計上する事態となりました。東京メトロでは、コロナ禍が収束した後も利用者数は完全に元に戻ることはないという予測の下、安全に支障のない範囲で設備投資計画の見直しを進めています。今年8月末に行われたダイヤ改正では、実際に銀座線・丸ノ内線で昼間を中心に大幅に減便されるなど影響が出始めています。木場駅の工事もこれらの見直しに含まれることになったのです。
豊洲~住吉地下鉄新線とも関係?

有楽町線豊洲駅2・3番線終端の地下鉄8号線用トンネル。枝川方面へ向けて急カーブになっている。2022年7月13日撮影
現在発表されている木場駅工事休止の理由はコロナ禍によるものとされていますが、筆者としてはもう1つ、豊洲~住吉間の地下鉄新線(8号線)計画とも関係があると考えています。豊洲~住吉間の地下鉄8号線は有楽町線豊洲駅から分岐して江東区中央部を北上し、半蔵門線住吉駅を結ぶものです。1972(昭和47)年の都市交通審議会第15号答申で初めて盛り込まれ、以後自治体や鉄道事業者による調査が続けられてきました。豊洲駅と住吉駅は当初からこの新線建設に対応できるよう線路を増設可能な構造で建設されており、豊洲駅は当駅始発・終着専用ホーム※1、住吉駅は留置線として使用されています。
▼脚注
※1:豊洲駅は2020年東京オリンピック・パラリンピック会場に近かったことから、混雑対応のため当駅始発・終着が使用していた8号線用の線路には仮設の床面が設置され、両方向のホームを一体化している。コロナのため大会は無観客での開催となったが、元々駅自体の混雑が激しいため会期が終了した現在もその措置は継続している。(2009~2013年に実施された駅改良工事期間中と同様の状態)なお、8号線の分岐にあたっては、新木場方面行きのさらに外側にホームを増設する計画となっている。

地下鉄8号線豊洲~住吉と周辺の鉄道路線のルート(貨物線など一部省略)
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「淡色地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆したものである。
地下鉄8号線の建設費用は、近年の建設業界の人件費や材料費の高騰もあり10年前に実施された試算の約2倍となる2,690億円にも上るとみられています。東京メトロは2004年の営団地下鉄民営化以来、政府(財務省)と東京都が全株式の半分ずつを持ち合う特殊法人となっています。東京メトロはできる限り早く株式を上場して完全民営会社に移行することが法的にも定められており※2、巨額の負債となる新線建設を自ら行うことには長らく否定的な立場を取ってきました。
一方地下鉄8号線は両端が東京メトロの路線と接続することから、その整備は東京メトロが担うのが自然な流れであるはずです。この相反する事柄を両立するため、国と自治体は地下鉄8号線の建設において、費用の7割を補助できる地下高速鉄道整備事業費補助制度が適用できるよう関係者間で協議を続けてきました。また、江東区では将来の費用負担に向けて2010年より基金の積み立てを開始しており、その額は100億円を突破するなど着実に準備を進めています。
2021年7月に発表された交通政策審議会第371号答申「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」では、東京メトロの株式売却益の復興債償還への充当期限が2027年度末※3に迫っていることを踏まえ、株式上場を妨げないよう十分な財政支援が行われることを条件※4に、地下鉄新線の整備を東京メトロが担うべきであるという提言が盛り込まれました。この答申を受け東京メトロもこれまでの方針を転換し、今年1月に豊洲~住吉間および南北線白金高輪~品川間の地下鉄新線建設に向けた鉄道事業許可申請を国土交通大臣に申請、3月に正式に許可が下りました。
▼脚注
※2:東京地下鉄株式会社法附則第二条「国及び附則第十一条の規定により株式の譲渡を受けた地方公共団体は、特殊法人等改革基本法(平成十三年法律第五十八号)に基づく特殊法人等整理合理化計画の趣旨を踏まえ、この法律の施行の状況を勘案し、できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする。」
※3:東日本大震災復興予算への東京メトロの株式売却益の充当期限は当初2022年度末までだったが、被災地復興にはなお時間を要すると判断されたこと、東京都による都営地下鉄との経営一元化論などが存在し、完全民営化の目途が立っていないことから5年間延長された。復興庁の設置期間も当初震災から10年間(2020年度末まで)だったものが、さらに10年間(2030年度末まで)延長されている。
※4:具体的には上記の地下高速鉄道整備事業費補助制度の適用に加えて、新線整備期間中は東京メトロの全株式の1/2を国と東京都が継続保有する方針が示されている。

地下鉄8号線の枝川駅(仮称)の設置が予定されている江東区枝川2丁目。現在は倉庫などの各種事業所とマンションが混在している。新駅は手前の枝川橋東交差点から奥に見える首都高速9号深川線までの道路下に設けられる計画。2017年5月28日撮影
豊洲~住吉間の地下鉄新線では、枝川駅(仮称)、東陽町駅、千石駅(仮称)の3つの途中駅が計画されています。新線開業後は現在門前仲町駅で東西線から都営大江戸線に乗り換えている利用者が東陽町駅経由で新線に流出するため、東西線最混雑区間である木場→門前仲町間の混雑率が180%以下に低減すると予測されています。また、枝川駅は木場駅から南に約1kmと近い場所に計画されており、現在木場駅で乗降している利用者の一部が新線へ転移することも予想されます。
このように地下鉄新線の建設が決定した今、木場駅や東西線全体の利用者はさらに減る可能性が出てきています。木場駅の工事が休止されたのは、新線開業後の利用動向を見極める必要があると判断したためとも考えられるのです。
なお、地下鉄新線については、以前より構想があったこの豊洲~住吉間に加え、リニア中央新幹線の開業や再開発による発展が著しい品川方面への南北線分岐が決定しています。これらの新線については近日中に現地を調査の上、より詳しいレポートを作成する予定ですのでお待ちください。
▼参考
●木場駅改良工事関連
ホーム拡幅のためシールドトンネルを解体し箱型トンネル化を計画―東京メトロ東西線木場駅― - トンネルと地下2014年6月号47~54ページ
東京メトロが東西線木場駅で世界初の改良工事|日経コンストラクション
資料6 東京メトロ東西線木場駅・南砂町駅の改良工事について - 江東区議会 令和4年第3回定例会 地下鉄8号線延伸・交通対策推進特別委員会(令和4年10月14日開催分)(PDF/454KB)
●地下鉄8号線関連
有楽町線延伸(豊洲・住吉間)及び南北線延伸(品川・白金高輪間)の鉄道事業許可を申請しました。|東京メトロ
有楽町線延伸(豊洲・住吉間)及び南北線延伸(品川・白金高輪間)の鉄道事業許可を受けました|東京メトロ
地下鉄8号線(有楽町線)の延伸(豊洲~住吉)|江東区
現在手続き中の主な都市施設(道路、鉄道等)のパンフレット等の紹介について | 東京都都市整備局
東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について - 国土交通省
▼関連記事
半蔵門線と有楽町線の微妙な関係(2006年7月11日作成)
東京メトロ有楽町線豊洲駅改良工事(2013~2014年取材まとめ)(2014年7月16日作成)
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