カテゴリ:公園・風景

姿見の池(国分寺市)

最終更新日:2023年9月4日
姿見の池と横を走る中央線201系電車

E233系が来てしまい調子に乗って武蔵小金井まで行ってしまったので、仕方が無く?中央線をさらに先に進みました。行ったのは西国分寺駅のすぐそばにある「姿見の池」です。この池は中央線の線路のすぐ横にあります。中央線の上り電車に乗って西国分寺駅を発車してまもなく車窓左側、住宅街の中に見える池がそれです。今回はこの姿見の池と鉄道の意外な関係についてご説明します。
※本記事はYahoo!ブログ時代に作成したものですが、最新の動向を反映するため2023年に後半部分を中心に内容を大幅に改訂しております。

「恋ヶ窪」の地名と姿見の池

姿見の池(東京の名湧水57選) - Googleマップ
→画面中央の森の右端が姿見の池。

 姿見の池はJR西国分寺駅の北東200mほどのところにあり、さらに東にある日立製作所中央研究所内にある大池とともに多摩川支流の野川の源流となっています。
  「姿見の池」の名の由来は鎌倉時代、この池のある恋ヶ窪がこの付近を通っていた鎌倉街道の宿場町であった頃、遊女(現在で言う売春婦)たちが自らの姿を映していたという言い伝えによるります。(ちなみに、現在鎌倉街道の痕跡を示すものはほとんど残っていません。)さらに、この池は「一葉松(ひとはのまつ)」という伝承にも登場します。
 鎌倉時代の武将・畠山重忠(はたけやまのしげただ)は源頼朝の平氏追討に際し、いち早く寄りともに従い、本拠地のある埼玉と鎌倉の間を往復するようになります。そしていつしか、この地の遊女・夙妻太夫(あさづまたゆう※現地案内板の読み)と恋に落ちます。しかし、やがて重忠は寄りともに従い出陣。その間に太夫に恋をしたもう一人の男が太夫に、重忠が戦死したという偽りの知らせをもたらし、嘆き悲しんだ太夫はこの姿見の池に投身し亡くなります。彼女の死を哀れんだこの地の人は彼女の墓に1本の松を植えます。その松は枝に一つしか葉をつけないという不思議なものだったそうです。一方、何も知らず凱旋した重忠も同じく彼女の死を哀れみ阿弥陀堂を建て霊を祭ったということです。このようなエピソードからこの地は「恋ヶ窪」と呼ばれるようになります。

▼参考
さんぽみち総合研究所‐府中国分寺コース
多摩川ジョギング道‐国分寺の歴史と文学を辿る道



いったんは埋められ、そして復活した池、その源は…

姿見の池全景 姿見の池入口に再現された恋ヶ窪用水。流れているのは武蔵野線のトンネルから抜いている地下水である。
左:姿見の池全景。木道も整備されており池の中を観察しやすいようになっている。
右:姿見の池入口に再現された恋ヶ窪用水。流れているのは武蔵野線のトンネルから抜いている地下水である。
上:姿見の池全景。木道も整備されており池の中を観察しやすいようになっている。
下:姿見の池入口に再現された恋ヶ窪用水。流れているのは武蔵野線のトンネルから抜いている地下水である。

 都市公園の中にあるごく普通の池に見えるこの姿見の池ですが、実は鉄道とも深い関わりを持っています。1つは1枚目の写真の通り目の前を中央線が走っているということですが、それよりももっと大事なことがあります。それは池の「水」についてです。
 姿見の池はかつて周辺の湧水、そして武蔵野台地に灌漑用水を提供した恋ヶ窪用水(玉川上水の分水)をもらい、豊かな水を湛えていました。しかし、周辺の宅地化進展などにより流れ込む水は減り続け、昭和40年代に一旦埋め立てられ消滅してしまいました。

武蔵野線トンネルによる地下水位上昇イメージ。トンネルで地下水が堰き止められ、上流側で地表から地下水が噴出した。
武蔵野線トンネルによる地下水位上昇イメージ。トンネルで地下水が堰き止められ、上流側で地表から地下水が噴出した。

 それと時をほぼ同じくして、この恋ヶ窪地区の西に武蔵野線が建設されました。府中本町方面から来る武蔵野線は地上の高架を走っていますが、実はその地下に中央線国立駅と武蔵野線新小平駅方面を結ぶ連絡トンネル(国立支線・国分寺トンネル)が通っています。このルートは貨物列車の他に中央線八王子駅を発着する「むさしの号」が走行しており、乗車して通り抜けることも可能です。
 このトンネルは武蔵野線や掘割となっている中央線の下に潜り込むことからそれなりの深さがあり、武蔵野台地の地下に広がる武蔵野礫層と呼ばれる帯水層を完全に分断しました。恋ヶ窪という地名が示す通りこの付近は窪地になっており、伏流水の上流側にあたる西恋ヶ窪3丁目地区ではトンネルで堰き止められた地下水が地表まで噴出し、住宅が浸水するという奇妙な現象が多発するようになりました。事態を受けたJR東日本は、該当するエリアの地上やトンネル内に集水用の井戸を設けて地下水を下水道に排出する対策を実施しました。

国立支線の西側にあたる西恋ヶ窪3丁目の住宅地には、地下水位上昇による浸水防止のため集水マンホールが大量に設置されている。(左のマンホールは「集水」、右のマンホールは「下水」と書かれている)
国立支線の西側にあたる西恋ヶ窪3丁目の住宅地には、地下水位上昇による浸水防止のため集水マンホールが大量に設置されている。(左のマンホールは「集水」、右のマンホールは「下水」と書かれている)

 1998(平成10)年に東京都と国分寺市は、埋め立てられていた姿見の池周辺を「国分寺姿見の池緑地保全地域」に指定し、池を復活させるとともに周辺の自然環境保護を推進していくことを決定しました。前記した通り自然の湧水は失われていたことから、東京都はJR東日本に対し捨てられていた武蔵野線トンネルの地下水を姿見の池の新たな水源として活用することを提案しました。そもそもトンネルから発生する地下水は、下水道法上水質の良し悪しにかかわらず廃水として扱われており、これまでJR東日本は年間数億円もの下水道料金を支払って地下水を廃棄していました。トンネルから姿見の池までの導水管の整備費用はJRの負担とされましたが、導水により今後下水道料金が削減できることからJRはこれを了承し、2001(平成13)年より復元された恋ヶ窪用水と姿見の池への導水が開始されました。

西国分寺駅北側の武蔵野線高架下にある西恋ヶ窪立坑。ここからトンネル内の地下水をくみ上げており、小屋の後ろには汲み上げた地下水を集めて姿見の池と新堀用水に分水するための貯水槽が設けられている。 西恋ヶ窪立坑から姿見の池の間の道路上にある導水管のマンホール。「湧水」と書かれている」。
左:西国分寺駅北側の武蔵野線高架下にある西恋ヶ窪立坑。ここからトンネル内の地下水をくみ上げており、小屋の後ろには汲み上げた地下水を集めて姿見の池と新堀用水に分水するための貯水槽が設けられている。
右:西恋ヶ窪立坑から姿見の池の間の道路上にある導水管のマンホール。「湧水」と書かれている」。
上:西国分寺駅北側の武蔵野線高架下にある西恋ヶ窪立坑。ここからトンネル内の地下水をくみ上げており、小屋の後ろには汲み上げた地下水を集めて姿見の池と新堀用水に分水するための貯水槽が設けられている。
下:西恋ヶ窪立坑から姿見の池の間の道路上にある導水管のマンホール。「湧水」と書かれている」。

 西国分寺駅から北に350mほど進んだ武蔵野線の高架下に「西恋ヶ窪立坑」と書かれた小屋があります。中央線から分岐してきた国立支線のトンネルはこの付近で武蔵野線の地下に潜り込んでおり、小屋の中には地下のトンネルへ通じるメンテナンス用の階段が収められています。小屋の後ろには巨大な貯水槽が設けられており、地下のトンネルや周辺の集水マンホールから汲み上げた水を一旦ここに集めています。集められた水は府中街道に並行して設けられた導水管を通って姿見の池に送られており、ルート上には「湧水」と書かれたマンホールが点在しています。
 なお、梅雨や秋の台風シーズンなどには姿見の池に送水しても有り余るほどの地下水が発生しています。そこで隣の小平市を流れる新堀用水(玉川上水の支流)にも地下水の一部を分流することになり、2021(令和3)年8月より送水が開始されています。
 姿見の池は自然が豊かで、私が訪問したときも野鳥(主にカワセミ)の撮影をしている方がいました。「武蔵野」の面影を残す貴重な自然、これからも大事にしていって欲しいですね。

▼参考
姿見の池【都名湧水】|国分寺市
東京都環境局 東京都の保全地域一覧 23国分寺姿見の池緑地保全地域
土木学会Web版「行動する技術者たち」第3回「無用の水」が「恵みの水」に! - 土木学会公式サイトPDF版/439KB
東京都環境局 報道発表 JR武蔵野線引込線トンネルの地下水を野川に導水
→ちなみに集水を強化した平成3年は新小平駅水没事故が起きた年。なお、現地の説明看板は雰囲気を壊さないため?か人工的に導水していることには一切触れていない。(リンク切れのためインターネットアーカイブ)
R武蔵野線トンネル湧水の活用による流水再生に向けた用水路整備について - 小平市(PDF/821KB)
新堀用水にJR武蔵野線トンネル内地下水の放流を開始しました。|東京都小平市公式ホームページ

▼関連記事
新小平駅・・・地下水で歪められた駅(2006年12月3日作成)
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