小竹向原~千川間連絡線新設工事(2011年10月9日取材)

千川駅1番出入口とトンネル建設のための重機

東京メトロ有楽町線・副都心線の小竹向原駅では、現在平面交差となっている線路の分岐・合流部分を立体交差化する工事が進められています。今年初めにこの事業について文献と現地の両方から調査した結果を報告しましたが、それから1年近くが経過し、進展がありましたので10月に再度調査を行いました。今回は同月に工事のミスが原因で起きた信号ケーブルの切断事故に関しても踏まえたうえで調査を行った結果をお届けいたします。

▼関連記事
小竹向原~千川間連絡線新設工事(2011年1月9日取材)(2011年3月3日作成)

立体交差化工事の概要


小竹向原駅は東京メトロ有楽町線・副都心線・西武有楽町線の3路線が分岐・合流する島式ホーム2面4線の地下駅です。この小竹向原駅は、西側で分岐する有楽町線和光市方面と西武有楽町線練馬方面の線路は立体交差で分岐するのに対し、東側で分岐する有楽町線・副都心線は6線(3複線)区間を挟む平面交差で分岐しており、副都心線開業後はこの平面交差に起因する列車の遅延が多発しており、直通先の他社路線まで影響するなど大きな問題となっています。副都心線は2012(平成24)年に東急東横線との直通運転開始が予定されており、列車本数増加によりこの平面交差による列車遅延がさらに深刻化することが懸念されています。

新設される連絡線と折り返し設備の関係図
新設される連絡線と折り返し設備の関係図 ※クリックで拡大

このため、東京メトロではこの分岐・合流部分がある小竹向原駅~千川駅間に新しいトンネル(連絡線)を建設し、線路を立体交差化することとし、2010(平成22)年5月から工事が行われています。新しいトンネルは6線区間の外側から1線ずつ分岐し、千川駅の直前で上層階を通る有楽町線に合流するものです。この線路の建設により、6線区間の一番外側の線路は現在の副都心線専用から有楽町線専用に変更され、両系統の列車が平面交差することなく分岐・合流することが可能となります。また、この工事では新たに内側2線の千川寄りにA・B両線を接続する両渡り線が新設されます。この両渡り線は輸送混乱時に折り返し用として使用するもので、現在は輸送混乱時に池袋駅で運転を打ち切っている副都心線の列車を千川駅まで延長運転できるようになり、改札外乗り換えの解消により利用者の利便性向上を図ることが可能となります。
新しいトンネルの建設範囲は地上の道路の改修や用地買収を可能な限り避けるため、千川寄りの410mの区間とされ、地上掘削の範囲を削減する観点から中央部はシールド工法(複合円形)を用いてトンネルを建設する計画となっています。工事は地上の作業スペースの関係からA線・B線同時に行うことは難しいため、朝ラッシュ時の輸送力が問題となるA線(新木場・渋谷方面)を東急東横線との直通を開始する2012(平成24)年に先行して開通させることとなっており、現在急ピッチで掘削とトンネルの建設が進められています。
なお、事業についての経緯は今年3月に作成した記事でより詳しい形で解説しておりますのでそちらも併せてご覧下さい。

▼参考
東京メトロ有楽町線・副都心線の安定運行を目的とした線路交差解消の連絡線を計画 - 日本鉄道施設協会誌2010年12月号
わいおかブログ 小竹向原~千川の改良工事説明会を聞いてきました



コンクリート片が落下し信号ケーブルを切断する事故が発生

この工事が行われている最中の今年10月4日朝、作業のミスが原因で信号ケーブルを切断し有楽町線と副都心線の池袋~小竹向原間が8時間にわたり不通となる事故が発生しました。

事故発生までのイメージ 小竹向原~千川間の地上にある換気口。(写真はB線側のもので、今回事故が発生した地点とは異なる。)
左:事故発生までのイメージ
右:小竹向原~千川間の地上にある換気口。(写真はB線側のもので、今回事故が発生した地点とは異なる。)2011年1月9日撮影

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当時、小竹向原~千川間のトンネル建設現場では線路外にある換気口の壁を分割して撤去する工事が行われていました。事故3日前の10月1日にはコンクリート製の換気口の構造体を(切り口の形状からするとおそらくコア抜きで)切断する作業を行っており、切り取ったコンクリート片は後日撤去するため外側を防護板でガードした状態で仮置きされていました。しかし事故当日の朝、別の工事で使用していた重機が誤ってこの防護板を押し出し、一緒に押し出されたコンクリート片が換気口内に落下して、丁度真下にあった信号ケーブルを直撃してしまったのです。コンクリート片はサイズが縦横が70cm、厚さが60cm、重量は700kgと大きなもので、信号ケーブルは内部の導線まで完全に切断されてしまったため復旧作業に手間取り、運転を再開したのは8時間後の17時過ぎとなり約22万人の利用者に影響がありました。
今回はコンクリート片の落下が換気口内に留まったため大事には至りませんでしたが、一歩間違えば列車の脱線など重大な事故にもつながりかねない事象だけに、東京メトロでは工事の施工業者に対し作業手順の確認の徹底を求めることとなりました。

▼参考
有楽町線・副都心線小竹向原駅~池袋駅間の信号トラブルについて - 東京メトロニュースリリース

現地の状況(2011年10月9日)

この立体交差化工事については冒頭で述べたとおり今年1月にも現地調査を行っていますが、当時はまだ掘削に必要な杭打ちが始まったばかりで、具体的なトンネルの工事までは至っていませんでした。しかし、今回、上記のような事故が発生したことから、既に工事は掘削のみならず既存のトンネルに手を加える段階まで進んでいることが確実であることから、事故の5日後の10月9日に現地を訪問することにしたものです。

ホームドアの設置は保留となっている有楽町線千川駅 ホーム端から小竹向原方面を見る。右の保守用側線の場所に連絡線が建設される。
左:ホームドアの設置は保留となっている有楽町線千川駅
右:ホーム端から小竹向原方面を見る。右の保守用側線の場所に連絡線が建設される。

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立体交差化で新設される連絡線は千川駅の小竹向原寄りのホーム端から始まりますが、前回取材時と同様トンネル壁面に手を加えるような作業はまだ行われておらず、連絡線の工事の気配を感じることはできませんでした。(上記写真の通り今回千川駅構内ではレール交換の工事が行われていましたが、軌道構造を大幅に変えるものではないことから連絡線の工事とは無関係だと考えられます。)
なお、有楽町線では現在ホームドア(可動式ホーム柵)の設置工事が進められていますが、千川駅については連絡線設置にあわせてホームの構造を変更する可能性があるため、ホームドア本体の設置は保留されています。

▼関連記事
東京メトロ有楽町線ホームドア設置工事(2011年1月9日取材)(2011年2月24日作成)

1番出入口前にある工事に関する案内板 案内板の図をアップ。こちら側はシールドトンネルの到達側になるようだ。
左:1番出入口前にある工事に関する案内板
右:案内板の図をアップ。こちら側はシールドトンネルの到達側になるようだ。

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要町通り上にある1番出入口の近くには前回と同じく工事に関する案内板が設置されていますが、今回は地下の新しいトンネルの線などが描かれた図が追加されるなどより詳しいものとなっていました。その図によると、連絡線の千川駅側は現在保守用側線がある空間を利用して建設される計画となっており、本線と保守用側線の間の壁の一部と保守用側線外側の壁がそれぞれ取り壊される模様です。また、シールドトンネルとの取り付け部分は開削トンネル側の溝にシールドトンネルが嵌る形で描かれていることから、千川駅側は「到達立坑」として機能することが予想されます。

要町三丁目交差点の西側にある作業帯。 同じ作業帯を要町通りの反対側から見る。掘削に使用すると思しき重機が置かれている。
左:要町三丁目交差点の西側にある作業帯。
右:同じ作業帯を要町通りの反対側から見る。掘削に使用すると思しき重機が置かれている。

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要町三丁目交差点付近の連絡線はシールドトンネルとなるため地上では目立った作業は行われていません。次に作業帯が現れるのは要町三丁目から要町通りを西に100mほど進んだ地点です。ここもA線のトンネル真上の地面が全て覆工板となっており、地下の掘削に使用すると思しきクレーンやバックホーなどの重機が停められていました。この作業帯の設置のため要町通りは側道や車道間にあった緑地帯が廃され、歩道も半分以上の幅が作業帯として占有されています。

要町通りのアンダーパスが始まる直前まで作業帯は続く。 覆工板に開いている穴から中を覗く。かなり深いところまで掘削が進んでいる。
左:要町通りのアンダーパスが始まる直前まで作業帯は続く。
右:覆工板に開いている穴から中を覗く。かなり深いところまで掘削が進んでいる。

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小竹向原駅側の作業帯は要町通りが向原小学校の下をくぐるアンダーパスが始まる直前まで続いています。この付近は覆工板に所々資材や人の出入りを行うと思しき穴が開いており、歩道からでも中を覗くことができました。今回取材時に千川駅構内で掲出されていた工事予定表には、線路の深さまでの掘削に入っていることが示されており、穴の中を見ても地面は見えなかったことから地下のトンネル近傍まで掘削が進んでいるものと思われます。
なお、工事着工前の航空写真を見るとこの穴の付近には地下のトンネルへ続く換気口が写っており、掘削が地下のトンネル付近まで進んでいることを考慮すると、10月4日の事故はこの付近で発生した可能性が高いと思われます。

連絡線工事に関する展示室が開設

※この情報は地元にお住まいの「こたけ様(ブログ)」より頂きました。ありがとうございます。

掘削現場の脇に設けられた「連絡線展示室」
掘削現場の脇に設けられた「連絡線展示室」
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2011年8月2日より小竹向原駅側の作業帯の脇にこの連絡線の工事に関する情報を提供する「展示室」が開設されています。展示内容は工事中のトンネル内の写真やシールドマシンの模型などがありますが、スペースが大変狭いこともあり全体的にはおもちゃなど子ども向けの内容が多く、副都心線の工事中に新宿三丁目駅付近に設置されていた展示室と比べると「工事に関する情報提供スペース」という性格はそれほど強いものではありませんでした。

<連絡線展示室の開設日時>
休館日:月曜日
開館時間:10:00~16:00


今回訪問時は小竹向原駅側の開削部分の掘削がかなり進んでおり、まもなく連絡線中央部を建設するシールドマシンが搬入され、シールドトンネルの掘進が開始されるものと思われます。副都心線と東急東横線の相互直通運転は渋谷~代官山間の地下化工事進捗状況から2012(平成24)年度後半の開始が見込まれており、工期がかなりタイトであることから次に訪問する頃にはトンネルの掘削が完了し、軌道敷設間で進んでいると予想されます。
副都心線はこの連絡線が完成して初めて埼玉方面と東京都心を結ぶ通勤路線として、また神奈川方面まで直通する重要な交通路として真価を発揮できるといっても過言ではありません。その日ができる限り早くやってくることを期待いたします。

▼関連記事
小竹向原駅 - 地下鉄副都心線全線全駅レポート(2)(2008年6月15日作成)
副都心線の特徴・その他 - 地下鉄副都心線全線全駅レポート(14・終)(2008年7月2日作成)
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