小竹向原~千川間連絡線新設工事(2012年6月23日取材)

千川駅地上の作業帯。地下では既設トンネル側壁の切断・撤去が進む。

東京メトロ有楽町線・副都心線の小竹向原駅では現在平面交差となっている両路線の分岐部分を立体交差化する工事が進められています。今年度中の副都心線・東急東横線の直通運転開始に向けてA線側で行われている工事は大詰めを迎えており、既設トンネルの側壁の一部が撤去され、連絡線の新トンネルが列車内からも確認できるようになりました。今回は当初計画と変更された既設トンネル側壁の撤去方法なども合わせて現在の状況をお伝えします。

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小竹向原~千川間連絡線新設工事(2012年2月18日取材)(2012年2月20日作成)

立体交差化工事の概要

 小竹向原駅は東京メトロ有楽町線・副都心線と両路線と直通運転を行っている西武有楽町線が乗り入れる島式ホーム2面4線の地下駅です。小竹向原駅が開業したのは1983(昭和58)年の有楽町線池袋~営団成増(現・地下鉄成増)間と西武有楽町線小竹向原~新桜台間が開業した時のことです。以後、各方面とも延伸開業を続け、有楽町線は和光市駅で東武東上線に、西武有楽町線は練馬駅で西武池袋線と直通運転を行うようになりました。さらに、1994(平成6)年には有楽町線と同時に建設されていた13号線(副都心線)の小竹向原~池袋間を先行供用する形で有楽町新線が開業し、現在の線路の形態が完成しました。

小竹向原駅と新設される連絡線の配線図
小竹向原駅と新設される連絡線の配線図 ※クリックで拡大

 小竹向原駅の東側は上下線がそれぞれ3線になった後、有楽町線(地下2階)・副都心線(地下3階)に分岐する配線となっており、平面交差となっています。2008(平成20)年の副都心線開業後はこの平面交差を行き来する列車が激増したため、交差するルート同士での信号待ちによる停車・遅延が多発しており、2012年度中に予定されている副都心線・東急東横線の直通運転開始後はその状態がさらに深刻化することが懸念されています。このため東京メトロでは小竹向原駅東側の6線区間のさらに外側から千川駅地下2階の有楽町線ホームの間に新しく連絡線を建設し、両路線の分岐部分を立体交差化することを決めました。

連絡線の建設位置とトンネルの構造
連絡線の建設位置とトンネルの構造 ※クリックで拡大

 小竹向原~千川間の有楽町線・副都心線は要町通り(都道441号池袋谷原線)の地下を通っています。小竹向原駅寄り(6線区間の真上)の千川通りは片側2車線の本線がアンダーパスのトンネル(向原トンネル)を通り、その上に公園・学校・生活道路などが載る構造となっています。新設される連絡線はこれらの施設を避け、かつ既存の道路用地内に収まることを条件に千川駅寄りの410mの区間に建設されることとなりました。また、連絡線のトンネルは既設トンネルを拡幅する両端部分が開削工法、中央がシールド工法を用いて建設されることになっており、シールドトンネルは発進・到達立坑の面積を小さくするため、縦長の複合円形(楕円形に近い)断面とされました。
 工事は地上の作業スペースの問題などからA線(新木場方面)・B線(和光市方面)同時に行うのは難しいため、朝ラッシュ時の輸送力が問題となるA線側を先に建設することとなりました。A線側の完成は東急東横線と直通を開始する2012(平成24)年度となっており、B線側は2年後の2014(平成26)年度の完成、地上の原状回復を含めたすべての工事が終わるのは2016(平成28)年度の予定となっています。

既設トンネル側壁の撤去開始

●千川駅側
千川駅A線ホーム端から小竹向原駅方面を見る。天井の一部が切り取られ、高さが高くなっている。 同じ場所の2012年2月18日の状況。このとき設置された「樋(とい)」に沿って天井が切り取られたことがわかる。
左:千川駅A線ホーム端から小竹向原駅方面を見る。天井の一部が切り取られ、高さが高くなっている。
右:同じ場所の2012年2月18日の状況。このとき設置された「樋(とい)」に沿って天井が切り取られたことがわかる。(同じ場所の2011年10月9日の様子

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 新設される連絡線は千川駅のホームの直前で現在の有楽町線の線路に合流します。この合流地点には上下線とも外側に保守用側線があったため、トンネルの幅が広くなっており、連絡線はこの側壁・天井を一部撤去してトンネルを拡幅したうえで敷設されます。今年2月取材時はA線(池袋方面)側のトンネルの天井のに樋(とい)が設置されており、今回取材時はその樋に沿って天井が切り取られ、天井が高くなっていました。切り取られた部分の隅を見ると所々に丸い断面が見えることから、コア抜き※1を行い、そこからワイヤーソー※2を通して天井のコンクリートを切断したことか伺えます。

▼脚注
※1 コア抜き:カップ状のカッターを使い、コンクリートを円柱状にくり抜く方法。身近な例ではエアコンの室内機と室外機をつなぐ配管を通すために壁に穴を開ける際に多く使われる。
※2 ワイヤーソー:ダイヤモンドが付いたワイヤーを高速でコンクリートに当てながら引くことによりコンクリートを切断する方法。

切り取られた天井を拡大。四隅にはコア抜きをした時にできたと思われる丸い断面が見える。(矢印の先) 千川駅のA線の軌道は移設に備えてバラスト軌道化された。
左:切り取られた天井を拡大。四隅にはコア抜きをした時にできたと思われる丸い断面が見える。(矢印の先)
右:千川駅のA線の軌道は移設に備えてバラスト軌道化された。

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 連絡線合流点周辺の軌道は今後の移設に備えて床に直接固定された直結軌道からバラスト軌道に改築されました。ホーム端の合流予定地点と思われる付近は、まくらぎの一部が木製になっており、この部分にポイント(分岐器)を挿入して新設する連絡線と合流させるものと思われます。

有楽町線ホーム上層にある改札口。天井のパネルがほとんど取り外されている。 連絡線合流点の真上にある2番出入口。床・壁などが取り壊され、仮設構造になっている。
左:有楽町線ホーム上層にある改札口。天井のパネルがほとんど取り外されている。
右:連絡線合流点の真上にある2番出入口。床・壁などが取り壊され、仮設構造になっている。

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 有楽町線ホームの1フロア上にある改札口は天井のパネルがほとんど取り外されています。また、連絡線合流地点の真上に位置する2番出入口床が嵩上げされ、通路両側にあった空調機械室の壁も取り壊されました。この空調機械室が取り壊されたことにより、現在千川駅構内は空調の機能が制限されており、列車の冷房が使われている時期であることからホーム・改札口は蒸し暑くなっています。(工事完了後は元通り復元されるものと思われる。)

連絡線合流地点の地上の様子。作業帯のサイズなどは以前と変化はない。
連絡線合流地点の地上の様子。作業帯のサイズなどは以前と変化はない。

 合流地点地上は依然と同じく道路内に作業帯が設置されていますが、作業帯のサイズなどに特に変化はありません。なお、千川駅改札口前に掲示されている工事予定表によるとB線(和光市方面)側についても6月から掘削に向けた試掘(地面を部分的に掘削して埋設されている管渠類の位置を確認する作業)が実施されることになっており、こちら側についても間もなくトンネル本体の建設工事が開始されるものと思われます。

●シールドトンネル部分
 連絡線の中間部を構成するシールドトンネルは2月から掘進が開始され、予定通り5月頃に貫通した模様です。トンネル自体は列車内や駅から見えない位置にあるため写真はありませんが、千川駅改札口前の工事予定表によるとトンネル内では床面の充填(インバートコンクリート構築)などの作業が行われているとのことです。



●小竹向原駅側
 小竹向原駅側の連絡線の合流地点のトンネルは2層構造になっており、地下1階にはトンネルの中間換気所(向原換気所)と電車の走行電力を供給する電力設備(向原変電所)が設置されています。千川駅側と同様、こちらの合流地点も既設トンネルの側壁を撤去し、トンネルを拡幅して連絡線と接続します。ただし、千川駅側とは異なりA線・B線ともに3本線路が並んでおり、トンネルの幅が広いため、既設トンネルの側壁撤去の際に地下1階の床(=地下2階の天井)・地下1階の天井が崩落しないよう支えを必要とします。当初、この部分の側壁撤去は以下のような方法がとられる予定でした。

当初計画されていた既設トンネル側壁撤去工事の方法
当初計画されていた既設トンネル側壁撤去工事の方法

Step1:既設トンネル外側に連絡線のトンネルを建設する。
Step2:既設トンネルの線路間(線路②と線路③)に仮設支持棒を設置する。
Step3:既設トンネルの側壁を撤去する。
Step4:線路③を連絡線側に移設する。
Step5:移設前の線路③の跡地にトンネルを支える柱を建設し、仮設の支持棒を撤去する。

この方法ではStep2で線路間に仮設支持棒を設置する必要がありますが、線路②と線路③の間は元々連絡線の分岐を考慮した設計ではないことから必要最小限の空間しか用意されていません。このため、終電~初電の極めて短い時間の中で高い位置精度で仮設支持棒を設置する必要があり、工期が延びて東急東横線との直通開始までに連絡線が完成しない恐れが出てきました。このため、側壁撤去の方法を以下のように変更しました。

変更後の既設トンネル側壁撤去工事の方法
変更後の既設トンネル側壁撤去工事の方法

Step1:既設トンネル外側に連絡線のトンネルを建設する。
Step2:既設トンネル上部と新設トンネル上部の間に仮設上部桁を設置する。
Step3:上部桁から地下1階床の間に仮設鋼棒を打ち込み、地下1階床を上部桁で吊り上げる。

Step4:既設トンネルの側壁を撤去する。
Step5:線路③を連絡線側に移設する。
Step6:移設前の線路③の跡地にトンネルを支える柱を建設し、上部桁と鋼棒を撤去する。

変更後はトンネル上部に設置した上部桁から地下1階を貫通してPC鋼棒を仮設し、地下1階の床(=地下2階の天井)を上部桁で吊るすという形をとっています。これにより、地下2階の軌道階は天井に鋼棒を固定する金具を打ち込む作業のみとなり、工期を短縮することが可能となりました。地下2階の天井には電車に電力を供給する剛体架線が設置されており、万一鋼棒の締め付けが緩んで天井がずり下がった場合、電車のパンタグラフを破損してしまう恐れがあるため、天井の高さをリアルタイムで計測・管理しています。

小竹向原駅側の連絡線合流地点。既設トンネルの側壁が撤去され、新設トンネルが見えるようになった。 A線・B線間には折り返し用の分岐器が挿入された。
左:小竹向原駅側の連絡線合流地点。既設トンネルの側壁が撤去され、新設トンネルが見えるようになった。(線路の種別入りの写真はこちら切り出し前の動画はこちら(YouTube)
右:A線・B線間には折り返し用の分岐器が挿入された。(線路の種別入りの写真はこちら

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 今回はすでに既設トンネル側壁の撤去が開始されており、列車内からも新設された連絡線のトンネルが確認できるようになっていました。既設トンネル側壁は毎晩終電後に切断・分割して搬出されており、分割個数は486ピース、1ピースあたりの重量は5トン程度となっています。側壁撤去完了後は連絡線側に線路を切り替え、元の線路の跡地に地下1階床を支える柱が設置される予定です。地下1階を支える柱は工期短縮のため工場で予め造ったコンクリートの板材を連絡線の線路に沿って組み立てていく方法がとられる予定です。
 また、これとは別にA線・B線の間には緊急時に副都心線・有楽町線の列車が折り返しに使用する両渡りポイントの挿入が完了しました。
 なお、千川駅付近にあった保守用側線が連絡線に転用されて無くなってしまったことから、小竹向原駅側の拡幅されたトンネルの一部を利用して新しい保守用側線が設置される予定となっています。


小竹向原駅側の連絡線合流地点の地上。
小竹向原駅側の連絡線合流地点の地上。
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小竹向原駅側の合流地点の地上も千川駅側と同様引き続き作業帯が設置されています。シールドトンネルが貫通したため、2月取材時に千川駅寄りにあったズリ(掘削土)処理用のプラントなどはすべて撤去されており、以前と比べてスペースに余裕ができています。B線側の掘削は今年10月以降に開始される予定となっており、今回写真を撮影した場所にもA線側と同じような作業帯が設置されるものと思われます。

▼参考
東京メトロ有楽町線・副都心線の安定運行を目的とした線路交差解消の連絡線を計画 - 日本鉄道施設協会誌2010年12月号
東京メトロ有楽町線(小竹向原駅~千川駅)連絡線設置工事について(現地配布のパンフレット)
[現場ルポ]東京メトロ有楽町線小竹向原駅~千川駅間連絡線設置工事 - DOBOKU技士会東京第52号(PDF)
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