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京急・京成・都営浅草線のC-ATS(踏切防護システム導入後)
公開日:2012年06月09日19:25

2009年2月、京急電鉄では全線で新しい信号保安装置である「C-ATS」の使用を開始しました。当ブログではこのC-ATSについて2010年に解説記事を作成しましたが、それから2年が経過し新たに踏切防護システムが導入されるなど大きな変化が起きています。このたび、この踏切防護システムを含めC-ATSに関する新しい資料が手に入りましたので、「補足」という形でそれらのシステムについて眺めてまいりたいと思います。(なお、本記事作成に合わせて2010年の記事についてもその後の変化について修正・追加を行っています。併せてご覧ください。)
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京浜急行C-ATSの仕組み(2010年4月15日作成)
■1号形ATSとC-ATSの機能の概要

1号形ATSの速度照査
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2009年のC-ATS導入以前の京急電鉄と直通先の都営浅草線・京成グループの各線では「1号形ATS」という保安装置を使用していました。これはは1960(昭和35)年の都営地下鉄浅草線・京急線・京成線の三者相互乗り入れに合わせて導入されたもので、信号機(軌道回路境界)やその手前にある「B点」と呼ばれるループコイルを通過する際、信号機の現示に併せて軌道回路の電流をON-OFFすることにより地上から車上に向けて制限速度の情報を伝達するシステムとなっていました。この1号形ATSは信号機の制限速度を確実に守らせることができる一方で以下のような欠点も持ち合わせていました。
1、「減速」以上の現示で必要以上に減速させられる
1号形ATSでは「停止(赤1灯)」「警戒(黄2灯:25km/h)」「注意(黄1灯:40km/h)」「減速(黄1灯+緑1灯:70km/h)」「抑速(黄1灯+緑1灯点滅:105km/h)」「進行(緑1灯:最高速度)」の6段階の信号現示があるが、減速以上の現示でATSが動作した場合、一律に45km/hに減速させられるなど現代の高速化への対応が不十分であった。
2、車輪検知子では点制御になる
減速以上の信号現示・曲線・分岐器・行き止まりなどの速度照査はレールに設置した車輪検知子により行っていたが、これらは照査点を過ぎてしまうと再加速が可能であり、依然として速度超過の危険性が残っていた。
3、絶対停止機能が無い
1号形ATSでは最終の速度照査が停止信号手前のB点(15km/h)であったため、停止信号の手前で列車を停車させることができなかった。低速であるため大事故の恐れはないものの、衝突事故の可能性が残っていた。

C-ATSの速度照査(京急の場合)
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C-ATSでは地上→車上の情報伝達に軌道回路を使うことには変わりはありませんが、電気信号を一定周波数(50Hz)の交流電流からデジタル信号に変更することにより、伝達できる情報量を大幅に増やしました。これにより、6種類すべての信号現示で連続速度照査が可能となり、ATS動作時も現示に合わせた適切な速度への減速が可能となりました。また、情報量が増えたため、例えば2010年7月に開業した京成成田空港線(成田スカイアクセス)で特急「スカイライナー」限定で使用される「高速進行(緑2灯:160km/h)」といった事業者間で異なる信号システムにも容易に順応させることが可能となっています。また、2005(平成17)年の福知山線脱線事故後に改正された省令で義務付けられた曲線・分岐器・行き止まりの速度照査に関しても、これまでのような点照査ではなくブレーキパターンを用いた連続的な速度照査が可能となり、進入速度の向上と安全性向上が実現しました。
C-ATSの信号の種類は京急の場合を例にすると以下の7種類に大別できます。(詳しい動作に関しては2010年作成の記事をご覧ください。)
●フラット信号(制限速度は一定)
F信号:信号機による速度制限
L信号:曲線による速度制限
TL信号:分岐器(分岐側)による速度制限
M信号:出発信号手前の小移動・無閉塞運転・ATS動作後の車上記憶信号
●パターン信号(列車の進行に従い制限速度が下がる)
P信号:閉塞信号停止現示時のパターン信号
A信号:出発信号停止現示時のパターン信号
C信号:曲線手前のパターン信号


C-ATSのモニタ表示の例。左は最高速度に対する速度照査のみが発生した状態、右は停止信号に対するブレーキパターンが発生した状態。
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運転台にあるC-ATSのモニターは事業者・車両にかかわらず全て3段式のLED表示器となっています。表示内容は事業者により若干異なりますが、上段がATSの種別(C-ATSの場合は「C-ATS」、1号形ATSの場合は「ATS」を表示)、中段が照査速度、下段が列車種別やブレーキパターン接近警告といったものになっています。
■都営浅草線・京成電鉄のC-ATS
京急と直通している都営浅草線では2007(平成19)年、京成電鉄・北総鉄道では成田スカイアクセス線開業直前の2010(平成22)年より一部区間でC-ATSの使用を開始しています。いずれも車上側の装置は京急と共通ですが、一部の仕様が異なっています。
●都営浅草線のC-ATS

都営浅草線のC-ATSの動作
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都営浅草線は全区間で最高速度が地上の減速信号に相当する70km/hとなっており、信号機の現示は「進行」「注意」「停止」の3段階となっています。また、閉塞信号の停止現示は必ず2回連続して表示されるシステムとなっており、前列車とは1閉塞以上間隔を空けるようになっています。このようなシステムとなったのは、地下線で見通しが悪いことや1号形ATS時代は絶対停止機能が無く前列車に追突する恐れがあったため、それを回避する目的があったためと考えられます。C-ATS化後もこのシステムは引き続き踏襲されており、ATS信号は信号機の現示に合わせた「F70」「F45」「FHA15」(FHA15は1つ目の停止信号と2つ目の停止信号の間の15km/h制限)の3種類と曲線・分岐器・行き止まりに対する速度照査(仕組みは京急とほぼ同じ)となっています。
このほか、地下線で見通しが悪いことから、ホームの非常停止ボタンに連動してC-ATSに非常停止信号を送出する機能が追加されています。
●京成電鉄のC-ATS
京成電鉄は駅間・種別により制限速度が細かく変化するため、C-ATSもそれに対応した最高速度の照査を行います。信号の現示に対する速度照査は京急のものを基本とし、前記したとおり成田スカイアクセス線ではスカイライナー専用の「高速進行」に関する機能を追加しています。また、京成電鉄のC-ATSの特徴としては走行中・停車中にかかわらず新たな情報の入電(例えば駅停車中に出発信号が停止から進行に変化した場合)があるとその都度ベルが鳴動することが挙げられます。
■C-ATSを応用した踏切防護システム(駅誤通過防止機能)
京急・京成では踏切での交通渋滞防止のため、列車種別ごとに踏切の遮断を開始するタイミングを変えるシステムが導入されています。このシステムでは本来駅に停車するはずの列車が誤って駅を通過してしまった場合、遮断が完了していない踏切に列車が進入し、横断中の自動車や歩行者と衝突してしまう恐れがありました。このため、両社ではC-ATSを応用した踏切防護システムを開発しました。
●京急における踏切防護システム

京急における踏切防護システム
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京急の踏切防護システムは車両に搭載された車上装置、出発側の駅(連動駅)の出発信号機に併設された列車種別情報伝送装置(STx)、到着側の駅手前の閉塞・場内信号機に併設された距離情報伝送装置(FTx)の3つにより構成されています。STxは出発駅を発車する際、地上側の条件に合わせて列車種別情報をレール経由で車上装置に送信します。FTxは駅の誤通過に対する踏切防護機能を持つ停車駅の手前で列車種別情報、停止点(これは駅の停車位置目標とは異なる)までの距離、その間の勾配に関する情報をレール経由で送信します(送信内容は常時固定)。実際の動作は以下のような流れとなっています。
1、出発駅を発車・列車種別を確定
出発駅を発車し、STxの送信点(=出発信号機の絶縁継目)を通過すると車上装置はSTxから受信していた列車種別情報を確定・記憶する。
2、停車/通過の判別と駅誤通過防護パターン発生
停車駅に近づくと車上装置はFTx(=閉塞・場内信号機の絶縁継目)から停車列車の種別・距離・勾配の情報を受信する。ここで車上装置は記憶している自身の列車種別とFTxから受信した停車列車の種別を比較し、停車列車に該当する場合は距離情報に合わせたブレーキパターン(駅誤通過防護パターン)を発生させる。FTx2通過後はこのパターンを超えると常用ブレーキ、FTx1通過後は非常ブレーキでそれぞれ減速し、停車駅の誤通過を防止する。通過列車の場合はパターンを発生させず、信号・曲線などに関する速度照査に従い走行する。
3、駅誤通過防護パターン消去
駅誤通過防止パターンはパターンの終端手前150m以内で停止、停車駅の先にある出発信号機の停止現示によるA信号受信、列車種別情報受信のいずれかの条件を満たすと消去される。
京急の踏切防護システムの特徴は車上側で停車・通過の判別を行う「車上主体」のシステムであることです。これにより、将来停車駅が変更された場合でも地上に大きな手を加えることなく安全性を維持することが可能となります。

駅誤通過防護パターン発生中のC-ATSモニタ。中段の「80」は曲線に対する速度照査。
駅誤通過防護パターンが発生中はC-ATSモニタの下段に「停P」という文字が表示されます。停車駅が近づき、ブレーキパターンに接近すると文字が点滅し、運転士にブレーキ操作を促します。
この踏切防護システムは2011(平成23)年6月に本線・久里浜線で使用が開始されました。残る線区についても引き続き導入に向けた準備が進められており、深夜の終電後に試験走行が行われています。
●京成における踏切防護システム

京成における踏切防護システム
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京成電鉄の踏切防護システムは場内信号機の手前に設置されているB点を利用し、B点通過時に地上側で別途に持っている列車種別情報(緩急行選別情報)と比較して停車列車である場合のみ軌道回路の信号を切り替えてC-ATSのブレーキパターンを発生させます。この一連の操作は全て地上側で行っており、京急とは逆の「地上主体」のシステムとなっています。動作の流れは以下の通りです。
1、B点手前までは最高速度の照査を行う
B点手前までは各駅間・種別ごとに定められた最高速度または信号・曲線に対する速度照査を行う。
2、停車/通過の判別とブレーキパターン発生
B点を通過する際、緩急行選別情報をもとに停車か通過かを判別し、停車列車である場合は軌道回路の信号を変えて45km/hまで減速するブレーキパターンを発生する。パターンを超過した場合は常用ブレーキにより減速する。通過列車の場合は最高速度・信号・曲線の速度照査を継続する。
3、停車中・オーバーラン時の制御
通常の運転操作により正規の停止位置に停車した場合、踏切の遮断が完了するまで45km/hの速度制限が継続する。もし停止位置を行き過ぎて出発信号機を超えてしまった場合はA0信号(停止信号と同じ信号)により常用ブレーキで停止する。
なお、B点の故障や緩急行選別情報が取得できないなどトラブルが発生した場合は、停車・通過にかかわらずC-ATS側停車時の制御(ブレーキパターン発生)、踏切側は通過列車の制御(最速のタイミングで遮断)に移行し、安全性が維持されます。
この動作で1つ不可解に思えるのは、停止位置と出発信号機の間に踏切がある駅(例えば京成本線の八幡駅など)の取り扱いです。文献に書かれた動作では、停止位置をオーバーランした後の緊急停止は出発信号機を越えなければ動作しないため、その手前に踏切がある駅では踏切手前で列車を停止させることができず、無意味なシステムとなってしまいます。京成のC-ATSはまだ導入途上であり、こういった細かい部分については現場の状況に応じて随時変更が加えられるものと思われます。
京急C-ATSモニタ - YouTube
▼参考
運転協会誌2009年4月号 19~22ページ「自動列車停止装置C-ATSの導入に向けて」
サイバネティクスVol.14 No.4 38~41ページ「京浜急行電鉄の新ATSについて」
JR、民鉄のATS(8)都営浅草線、京成電鉄、京浜急行電鉄のC-ATS - 鉄道と電気技術2011年6月号
京三サーキュラーVol.62 2011 No.5 - 製品・サービス|株式会社 京三製作所
安全対策の実施状況 - 鉄道安全報告書【京急電鉄】(PDF)
夜間走行試験の実施について - お知らせ【京急電鉄】
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