京葉線幕張新駅建設工事(2020年6月取材)

イオンモール幕張新都心の横を走る抜ける京葉線

2020年5月15日、JR東日本は京葉線新習志野~海浜幕張間に新駅(以下「幕張新駅」)を建設することを発表しました。現地では既に工事が開始されています。今回は新駅建設決定までの経緯と現在の状況を解説します。

前史:京葉線鷺沼貨物駅予定地の開発

京葉線の現在の主力車両E233系5000番台電車 海浜幕張駅近くにある千葉ロッテマリーンズの本拠地QVCマリンフィールド(千葉マリンスタジアム)
左(1):京葉線の現在の主力車両E233系5000番台電車
右(2):海浜幕張駅近くにある千葉ロッテマリーンズの本拠地QVCマリンフィールド(千葉マリンスタジアム)


 京葉線は東京駅を起点に、新木場、新浦安、南船橋、海浜幕張など東京湾岸の埋立地を経由して千葉市中央区の蘇我駅に至る全長43kmの在来線です。この埋立地は元々工業用地として造成されたものであり、京葉線は貨物列車を走行させることを目的として計画されていました。このため、千葉県内では行徳(市川塩浜駅南側)、鷺沼(新習志野~海浜幕張間)、出洲(稲毛海岸~千葉みなと間、千葉貨物ターミナル駅として開業のち廃止)の3箇所に貨物駅の設置が計画され、用地も確保した上で周辺の開発が進められました。
 しかし、これと同時期に到来したオイルショックを契機に、日本の産業構造は大きく変化し、東京湾岸の埋立地は工業用地としての需要を失ってしまいます。そこで、余った部分については住宅ならびにその他の産業の用地に転用されることとなり、新浦安駅周辺や幕張ベイタウンなどに見られるマンション群、東京ディズニーリゾートや幕張メッセといった娯楽施設が建設されています。また、京葉線自体についてもこれらの人口増加に対する受け皿として旅客線化されることとなり、東京駅地下に建設された新しいホームへの乗り入れを果たしています。
 これらの経緯については弊サイトで過去作成した記事にて解説していますので、そちらも合わせてお読みください。

▼関連記事
京葉線の生い立ちと都心線計画 - 京葉線新東京トンネル(1)(2009年12月5日作成)
京葉線千葉貨物ターミナル駅と新港信号場/その1(2008年9月8日作成)
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空き地だった頃の鷺沼貨物駅予定地。
鷺沼貨物駅予定地付近の京葉線は上り線のみ高架橋になっており、両端には鷺沼貨物駅進入用の未完成スロープがある。
上り線の下には下り線から平面交差なしに貨物駅へ出入りできるよう線路を通せるようになっている部分もある。
左(1):空き地だった頃の鷺沼貨物駅予定地。2009年11月3日、アパホテル&リゾート東京ベイ幕張より撮影
右上(2):鷺沼貨物駅予定地付近の京葉線は上り線のみ高架橋になっており、両端には鷺沼貨物駅進入用の未完成スロープがある。
右下(3):上り線の下には下り線から平面交差なしに貨物駅へ出入りできるよう線路を通せるようになっている部分もある。

 新習志野~海浜幕張間で計画されていた鷺沼貨物駅は、京葉線の線路の海側(南側)に計画されていました。この付近の京葉線の線路は上り線が高架橋、下り線が地上を走るという段差がある構造になっていますが、これも下り線から平面交差せず貨物駅へ出入りできるよう意図して作られたものです。現地を実際に歩いてみると、貨物駅予定地の両端に上り線から地上へ昇り降りするため設けられた作りかけのスロープや、上り線の下に線路を通せるようになっている部分があるのが確認できます。
 一方、貨物駅自体の予定地については浦安市内の京葉線の複々線化用地などとともに造成を担当した千葉県が保有していました。折りしも京葉線開通直後に訪れたバブル崩壊等の影響もあり買い手がなかなか付かず、幕張メッセでの大規模イベント開催時(東京モーターショーなど)に臨時駐車場として利用されることもありました。

2013年にオープンしたイオンモール幕張新都心
2013年にオープンしたイオンモール幕張新都心

 その後、幕張新都心に本社があるスーパーマーケット大手のイオングループが20年間の定期借地にてこの貨物駅予定地を利用することになり、2013(平成25)年12月にイオンモールの旗艦店として「イオンモール幕張新都心」がオープンしました。イオンモール幕張新都心は業種やターゲットの顧客ごとに4つのゾーンに分かれており、イオンシネマ幕張新都心(映画館)、よしもと幕張イオンモール劇場(お笑い劇場)、カンドゥー(子供向けの職業体験テーマパーク)など体験型の商業施設も完備しています。延べ床面積は40万m2に上り、日本のショッピングモールの中では最大規模(デパートを含めると第3位)を誇ります。



20年越しの新駅設置計画

京葉線新習志野~海浜幕張間と幕張新駅の位置
京葉線新習志野~海浜幕張間と幕張新駅の位置 ※クリックで拡大(JPEG/1200×580px/160KB)
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「淡色地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆したものである。

 新習志野~海浜幕張間は駅間が3.4kmと離れていることから、1990年代から新駅の設置が模索されており、千葉市や周辺企業が合同で調査団体を結成する動きもありました。しかし、上記の通りバブル崩壊により土地利用の目処が立たないことから、長らく棚上げの状態が続いてきました。
 2013年のイオンモール建設の際は、幕張新駅予定地に近接してバスターミナルが併設されました。これは現状周辺の鉄道駅からは離れているイオンモールまでバスを走らせることの他に、将来京葉線の新駅が建設された際駅前広場として機能させることを目的としたものです。このように、幕張新駅建設に向けた準備は少しずつですが着実に進められていき、2016(平成28)年には調査団体にイオンモールが加わり「幕張新都心拡大地区新駅設置協議会」として20年ぶりに再始動しました。協議会では、まずJR東日本へ新駅の構造や費用などに関する調査を依頼しました。

幕張新駅の計画断面図
幕張新駅の計画断面図

 新駅は現在の線路はそのままに上下線に10両編成対応の長さ210mのホームを追加します。上記の通り上下線で線路の高さが異なるため、駅舎は地上に置き、高架の上りホームとの間にエスカレーター(上下)とエレベーターを設置します。これは同じく貨物駅跡地に位置している宇都宮線東鷲宮駅に類似した構造です。ホームが2面に分かれるため、総事業費は約130億円とやや高額となっています。工事にかかる期間は当初約6年と見積もられていましたが、設計が終わった部分から直ちに工事に入る等の工夫により3年まで短縮できる目処が立ちました。
 調査結果が出た後は事業費の負担割合について協議が行われました。今回のように自治体から新駅設置の要望が出された場合は「請願駅」という扱いになり、建設費の全額を自治体が負担するのが通例となっていました。幕張新駅の場合、その効果を主に享受するのはイオンモールとなることから、イオンモールが建設費の半分を負担することとし、残りの半分を千葉県・千葉市・JR東日本が負担することで決まりました。
 なお、新駅とは別に駅周辺からの利便性向上のため、京葉車両センター(車両基地)を跨いで北側へ向けて自由通路(エレベーター付き歩道橋)を整備することも検討されました。これについては、整備費用が50億円と高額になること、自由通路の整備先となる京葉車両センター北側はごくわずかな住宅とオフィスしか立地しておらず、利用者が少ないと予想されることから同時整備は見送られることとなりました。

▼脚注
※参考までに2016年に開業した東海道線摩耶駅(島式ホーム1面2線+折り返し設備+橋上駅舎)の建設費は約40億円となっている。


現地では早くも工事が本格化

オンモール幕張新都心ファミリーモール3階スカイパークから見た京葉線幕張新駅予定地全景。左奥に見える高層ビルは津田沼駅前の津田沼ザ・タワー(タワーマンション)と千葉工業大学。
バスターミナル南側から新駅予定地を見る。正面に見える白い平屋の建物はバス乗務員の休憩室。
020年6月10日の同じ場所。休憩室は撤去され、高い防護壁で覆われた。
左(1):イオンモール幕張新都心ファミリーモール3階スカイパークから見た京葉線幕張新駅予定地全景。左奥に見える高層ビルは津田沼駅前の津田沼ザ・タワー(タワーマンション)と千葉工業大学。2020年6月10日撮影 ※クリックで拡大(JPEG/1200×900px/136KB)
右上(2):バスターミナル南側から新駅予定地を見る。正面に見える白い平屋の建物はバス乗務員の休憩室。2017年11月3日撮影
右下(3):2020年6月10日の同じ場所。休憩室は撤去され、高い防護壁で覆われた。

 こうして、新駅着工に向けた準備は整い、2020年4月20日(月)に協議会とJR東日本の間で新駅建設に関する基本協定が締結されました。
 協定締結直後の4月下旬より、現地では工事に向けたヤード整備が開始されています。まずイオンモール幕張新都心バスターミナルの北側にあったバス乗務員用の休憩室が撤去されました。続いて5月下旬以降は隣接していた駐車場を工事ヤードとして使用するため高さ2mほどの防護壁で覆う作業が行われています。駐車場内には作業員の休憩で使うプレハブ小屋が搬入され、線路に近い場所では地面の雑草が除去され足場などの設置に向けた準備が行われています。

下り列車(蘇我行き)から見た幕張新駅予定地
下り列車(蘇我行き)から見た幕張新駅予定地。2020年6月15日撮影

 ホームが新設される京葉線の上下線間の空間では、6月以降樹木や雑草が刈り取られており、下り線との間にはロープが張られました。線路に近接しての作業となることから、作業時間中は監視員が立ち笛や拡声器を使って注意を促しています。

将来計画として自由通路が新設される予定地
将来計画として自由通路が新設される予定地。2020年3月25日撮影

 将来計画として自由通路が整備される京葉車両センター北側は、現在戸建て住宅が数軒ある他は低層のオフィスビルが立ち並んでいます。大規模な住宅地はここからさらに国道357号線・東関東自動車道を挟んだ反対側にありますが、現状最も近い横断施設(浜田陸橋)までは直線距離でも300m以上離れており、多くの利用者は望めない状態にあります。自由通路を整備するのであれば、直近に国道と東関道を跨ぐ新たな歩道橋が必要になるかと思われますが、費用や工事の難易度の面からかなりの困難が予想されます。

今後のスケジュール

 京葉線幕張新駅は、夏頃から本体の工事に取り掛かる予定となっています。開業は3年後の2023(令和5)年が予定されています。既に用地は全て確保済みとなっていることから、工事途中でトラブルがなければ予定通りの開業が見込まれます。
 海浜幕張駅南側の若葉地区では、総戸数4,500戸のタワーマンション建設(幕張ベイパークプロジェクト)が進行中となっており、完成すれば海浜幕張駅の利用者数は現在より大幅に増加することが見込まれます。海浜幕張駅周辺では幕張メッセの稼働率上昇、幕張ベイタウン地区のマンション建設等により年々混雑が激しくなってきています。新駅が完成すると、幕張メッセやQVCマリンフィールドに向かう利用者とこれらのマンション群へ向かう利用者の分散も可能となり、駅の混雑緩和も期待されます。
 現在筆者は市内在住かつ通勤で京葉線を利用しておりますので、今後も変化が確認でき次第状況をご報告する予定です。地元の強みを生かしたコンテンツにご期待ください。

▼参考
幕張新都心拡大地区新駅の工事に着手します - JR東日本(PDF/671KB)
千葉市:幕張新都心拡大地区新駅設置協議会
日刊建設工業新聞 » 千葉県企業庁ら調査会/JR京葉線新駅設置構想が再始動/2月から現地調査開始へ

▼関連記事
イオンモール幕張新都心「SL博物館」(2015年8月29日作成)
幕張さくら広場(2007年4月10日作成) 
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