カテゴリ:鉄道:建設・工事
京葉線幕張新駅建設工事(2020年12月取材)
公開日:2021年01月27日17:51

2020年5月15日、JR東日本は京葉線新習志野~海浜幕張間に新駅(以下「幕張新駅」)を建設することを発表しました。それから半年が経過し、現地では新ホームとなる高架橋の工事が本格化しています。今回は昨年6月の調査以降の現地の変化に加え、新たに入手した資料でわかった新駅の技術的な情報について説明してまいります。
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20年越しの新駅設置計画

京葉線新習志野~海浜幕張間と幕張新駅の位置
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「淡色地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆したものである。
京葉線は東京駅を起点に東京湾北部を経由して千葉県の蘇我駅に至る全長43kmの在来線です。この路線は元々貨物線として計画されたもので、千葉県内では複数の場所に貨物の積み下ろしをするためのターミナル用地が確保されていました。今回新駅設置が決定した新習志野~海浜幕張間の南側もその用地の一つです。京葉線が旅客線に変更されたことにより、貨物駅の設置は実現しませんでしたが、この遊休地を活用して2013(平成25)年12月にイオンモールの旗艦店である「イオンモール幕張新都心」がオープンしました。
イオンモール幕張新都心が建設された地点では、1990年代から新駅の設置が模索されており、イオンモール建設時に将来駅前広場として利用できるようバスターミナルが併設されています。2016年には千葉市や周辺企業で組織する新駅の調査団体にイオンが加わり、「幕張新都心拡大地区新駅設置協議会」(以下、「新駅協議会」)として20年ぶりに活動が再開されました。協議会では、JR東日本と共同で新駅建設に向けた課題の洗い出しや費用の算出等を行い、設計がまとまったことから今年4月20日(月)に協議会とJR東日本の間で新駅建設に関する基本協定を締結、工事が開始されました。総事業費は約130億円で、開業は2023年度春の予定です。当駅は企業・自治体が鉄道事業者に設置を求める「請願駅」であることから、設置にかかる費用は企業・自治体が負担する原則となっています。当駅では主たる受益者であるイオンモールが費用の半分を負担します。
周辺環境に配慮した設計
新型コロナウイルスの感染状況がやや落ち着きを見せていた昨年11月上旬に、国会図書館の入館抽選に当選したため久しぶりにWebサイト・同人誌向けの文献調査を行ってまいりました。その中で、京葉線幕張新駅に関する論文も新たに入手できましたので、今回は技術的な内容を中心に新駅の設計について説明したいと思います。
●軟弱地盤に対応した新旧構造物の一体化


幕張新駅ホーム高架橋構造の当初案(左)と変更後(右)の断面図
京葉線幕張新駅が建設される千葉市美浜区西部は、1970年代末期に東京湾を埋め立てて形成された新しい土地です。このため、砂や粘土などで構成される軟弱な土層が20mの厚さで堆積しています。10年前の東日本大震災では、幕張新都心から稲毛海岸にかけての住宅地で激しい液状化現象が発生したのはご存知の方も多いと思います。(→当時の動画:東北地方太平洋沖地震 千葉市美浜区の激しい液状化現象 - YouTube)
このような軟弱地盤上に重いコンクリート製の建築物を建てる場合、杭を深く打って沈下や傾斜を防止する必要があります。当初案では幕張新駅の上りホーム(高架橋)は、現在線路が載っている高架橋とは完全に独立した構造とすることが考えられていました。この場合、大地震が発生した際新旧の構造物の間で揺れ方に違いが生じ、継ぎ目部分が破損するのを防止するため、ホームの揺れを抑える必要があります。ホームの揺れを抑えるには基礎の強度をアップする必要があり、特にホーム両端部分については橋脚を壁状に増強し、杭の本数も2本から4本に増やす必要があるという試算結果が出ました。これでは工期・コストともに増加してしまうため、現在線路が載っている高架橋の一部を改造してホームと完全に一体構造にするよう設計を変更しました。
また、新ホームの高架橋の柱を上り線に近い位置に設けた場合、高架橋本体の工事開始後はその場所を重機の通路として使用できなくなってしまいます。これでは作業の効率が著しく低下してしまうため、ホーム高架橋の基礎を下りホームの真下に配置し、上り線の高架橋との間に長い梁を設けてその下を重機の通路として使用することにしました。
●駅舎レイアウトの検討


駅舎レイアウト。上は当初案、下は変更後でイオンモール幕張新都心バスターミナルとの一体化を考慮し改札口を蘇我寄りに移動している。
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「空中写真」をグレースケールに変換し加筆したものである。
当初案では駅舎やホームへ通じる階段は駅中央に配置することが考えられていました。しかし、新駅協議会にこの案を提示したところ、「改札口を出た際、街とつながっていて視認性が確保されている方がよい」という意見が出ました。そこで駅舎内の施設を蘇我寄りに若干移動し、整備済みのバスターミナルに隣接した場所に改札口ができるよう計画を変更しました。なお、京葉線新木場~蘇我間は既に計画ができていた貨物線に後から駅を追加したため、改札口や階段が駅の中心からずれているところもあり、このようなレイアウトは珍しいわけではありません。
駅舎のデザインは「ゆったりとした時間が流れる新しい駅」をコンセプトとし、「わかりやすさ」「開放性」「駅と街の連続性」「SDGs※」を実現することを柱に設計が進められました。上り線の高架橋が低いことから、それ以外の部分は天井を高くし、高低差にメリハリを作ることで過度に圧迫感を感じさせないよう配慮されています。
また、ホームと反対側の高架橋縁端にはホームへの風の吹き込みを防止するため壁が設けられるのが一般的です。当初案では防風壁はホーム全長に渡り設置し、駅舎が無いホーム両端については地表から防風壁を立ち上げることにしていました。しかし、コスト等の兼ね合いから防風壁の設置範囲を駅舎の屋根に直接取り付けができるホーム中央120m分に短縮しました。
▼脚注
※SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標):2015年の国連サミットで採択された世界共通の目標で、環境保護や貧困の解消など将来に渡り継続可能な経済発展を目的に17の目標と169のターゲット項目が制定されている。
●行政への事前説明による手続きの迅速化

幕張新駅の工事スケジュール。上が当初案、下が確定後で、新駅開業時期は当初案と比べて1年半以上という大幅な前倒しを実現した。
幕張新駅の設置にあたっては、できるだけ工期を短縮することを目標に「設計が完了した部分から直ちに工事に入る」(設計・工事施工一括協定)という手法が採用されています。前述の通り当駅は請願駅であり、設置費用の一部を千葉市が負担することになるため、市議会での承認が必要となる工事スケジュールの変更や費用追加は極力避けなければなりません。そのため、設計途中よりその状況を新駅協議会を通じて行政側にも説明し、要望を直ちに設計に反映させることで計画の確度を高めることとしました。
また、幕張新都心は計画的に整備を行っている都市であるため、建物の最低面積や敷地端からの壁面までの距離に特有の制限があります。駅舎の大半は高架下に位置することから、これらの制限を逸脱しているため、建設に際して特別に許可を得る必要がありました。これらの手続きについても上記の通り事前に行政側に説明を行うことで迅速に進めることが可能となりました。
これらの努力により、幕張新駅の開業時期は当初案の2024年秋以降から2023年3月へ1年半以上早まる見通しとなっています。
新ホームの高架橋建設が本格化
昨年4月20日に新駅協議会とJR東日本の間で幕張新駅建設に関する基本協定が締結され、新駅の建設工事が開始されました。ここからは、昨年7月以降の現地の状況についてお伝えします。
2020年7月:上り線高架橋高欄取り壊し


左(1):上り列車の前面展望。右側の高欄が撤去されている。
右(2):下り列車の側面展望。高欄にコア抜きが行われ、少しずつ解体されている。2020年8月6日撮影
5月から6月にかけてまず上下線間の新ホーム予定地とバスターミナル隣接地で工事に必要なヤード整備が進められました。続いて7月以降は新ホーム予定地の上り線高架橋の高欄(防音壁)を取り壊す作業が開始されました。予定地の高欄は高架橋本体と完全に一体構造で作られていたため、コア抜きとワイヤーソーで細かく切り刻んで除去する必要があり、3ヶ月程の時間を要しました。
2020年9月:ホーム基礎杭打ち込み
左:バスターミナル隣の作業ヤードで筒状に組み立てられた基礎杭の鉄筋。2020年8月29日撮
右上:下り列車の前面展望。新ホーム予定地に杭打ち用の重機が搬入された。レールの脇に見える白い棒状の物体は沈下を観測するセンサー。2020年10月14日撮影
右下:上り線高架橋に取り付けられた沈下観測用のセンサー。2020年8月29日撮影
右上:下り列車の前面展望。新ホーム予定地に杭打ち用の重機が搬入された。レールの脇に見える白い棒状の物体は沈下を観測するセンサー。2020年10月14日撮影
右下:上り線高架橋に取り付けられた沈下観測用のセンサー。2020年8月29日撮影
上:バスターミナル隣の作業ヤードで筒状に組み立てられた基礎杭の鉄筋。2020年8月29日撮
中:下り列車の前面展望。新ホーム予定地に杭打ち用の重機が搬入された。レールの脇に見える白い棒状の物体は沈下を観測するセンサー。2020年10月14日撮影
下:上り線高架橋に取り付けられた沈下観測用のセンサー。2020年8月29日撮影
中:下り列車の前面展望。新ホーム予定地に杭打ち用の重機が搬入された。レールの脇に見える白い棒状の物体は沈下を観測するセンサー。2020年10月14日撮影
下:上り線高架橋に取り付けられた沈下観測用のセンサー。2020年8月29日撮影
10月以降は上下線間の新ホーム予定地で基礎を構築する作業が始まりました。杭は直径1.3mの鉄筋コンクリート製場所打ち杭で、前述の通り地盤が非常に軟弱であるため、15mの深さまで打ち込んでいます。
新ホームが線路間に位置しており、終電~初電の非常に限られた時間でしか作業ができないため、杭の鉄筋はバスターミナル脇のヤードでカゴ状に組み立てた後クレーンで吊り上げて掘削した穴に降ろしています。杭の打ち込み後は不等沈下を防止するため4本程度ずつコンクリート製の地中梁で連結しています。杭の頭部はそのまま上に柱を繋げられるよう鉄筋が飛び出した状態になっています。営業運転中の上り線に近接した掘削作業であるため、上下線とも線路に沈下や傾斜が発生していないか観測するセンサーも取り付けられました。
京葉線幕張新駅建設状況(2020年10月30日撮影) - YouTube ※30秒短編動画
動画が再生できない場合:キャプチャ画像(1)・キャプチャ画像(2)
基礎の構築と並行して、上り線の高架橋はホームが設置される側の床面が一定間隔で欠き取られました。これは新ホームの高架橋と梁で連結する部分で、その後内部の鉄筋が削り出されています。
2020年12月:上り線電化柱建て替え・下りホーム土台構築


左(1):上り列車の前面展望。左側から片持ちの電化柱を新設中。
右(2):下り列車の前面展望。右側で型枠が組まれ、下りホーム用の土台コンクリートを構築中。2020年12月20日撮影
現在上り線の高架橋に設置されている電化柱は線路の両側に支柱がある門型のビームトラスになっています。このままでは線路脇にホームが設置できないため、12月以降ホームと反対側から片側支持となっている新しい電化柱を設置する工事が開始されています。新しい電化柱は、都内の電化柱更新(インテグレート架線化)で使用されているものと同じ鋼管柱で、一部を除き地上から柱を立てた構造になっています。
また、上下線間の新ホーム予定地では、基礎杭の打ち込みが終わった場所から下りホームの台座となるコンクリートを構築する工事が進められています。

バスターミナルのフェンス越しに見た新駅予定地。奥では地上から高架橋の基礎となる鉄筋が飛び出しているのが見える。2020年12月20日撮影
新型コロナウイルスの感染拡大により混迷を極める社会情勢ですが、新駅の工事は止まることなく進んでいます。昨年10月にはJR東日本から開業時期が2023年3月となることが正式に発表されました。ホーム本体の工事も本格化したことから、問題が起きなければ予定通り開業を迎えられるものとみられます。
前回の記事の最後でも触れた海浜幕張駅南側で進行中の「幕張ベイパークプロジェクト」では、昨年秋より2棟目のタワーマンションの工事が始まっています。海浜幕張駅利用者の分散化は急務となっており、新駅はその重要な役割を担っていくことでしょう。引き続き京葉線のヘビーユーザーとしてその状況を注視してまいります。
▼参考
幕張新都心拡大地区新駅の工事に着手します - JR東日本(PDF/671KB)
幕張新都心拡大地区新駅の事業進捗について - JR東日本(PDF/827KB)※開業時期正式決定について
千葉市:幕張新都心拡大地区新駅設置協議会
日刊建設工業新聞 » 千葉県企業庁ら調査会/JR京葉線新駅設置構想が再始動/2月から現地調査開始へ
京葉線新習志野・海浜幕張間新駅設置 - 東工技報Vol.32(2018年度)76~83ページ
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