京葉線幕張新駅建設工事(2021年6月取材)

駅舎建設中の京葉線幕張新駅

2020年5月15日、JR東日本は京葉線新習志野~海浜幕張間に新駅(以下「幕張新駅」)を建設することを発表しました。現地では2023年春の開業に向けてホームや駅舎の工事が急ピッチで進められています。前回の調査から半年が経過しましたので、列車内・地上から見た現地の状況をお伝えします。

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京葉線貨物駅計画から新駅設置決定まで

京葉線の現在の主力車両E233系5000番台電車 空き地だった頃の鷺沼貨物駅予定地
左(1):京葉線の現在の主力車両E233系5000番台電車
右(2):空き地だった頃の鷺沼貨物駅予定地。2009年11月3日、アパホテル&リゾート東京ベイ幕張より撮影


 京葉線は東京駅を起点に東京湾北部を経由して千葉県の蘇我駅に至る全長43kmの在来線です。この路線は元々貨物線として計画されたもので、千葉県内では3か所に貨物の積み下ろしをするためのターミナル用地が確保されていました。今回新駅設置が決定した新習志野~海浜幕張間の南側もその用地の一つです。この区間では上下線の線路に高低差が付けられていますが、これは計画されていた貨物駅へ出入りする列車が本線と平面交差しないようにとの配慮によるものです。
 その後到来したオイルショックによる産業構造の変化、それに伴う東京湾岸の土地利用計画の変更により、京葉線は旅客線として利用されるようになりました。これにより新習志野~海浜幕張間で計画されていた貨物駅建設は実現せず、用意されていた土地は京葉線の複々線化用地とともに千葉県が保有することになりました。新習志野~海浜幕張間は京葉線の中でも駅間隔が開いていることから、東京駅まで全線開業した1990年代初めより新駅の設置が模索されるようになります。しかし、同時期に到来したバブル経済崩壊等の影響により、貨物駅予定地は買い手がなかなか見つからず、利用客が見込めないことから棚上げの状態が続いてきました。

京葉線新習志野~海浜幕張間と幕張新駅の位置
京葉線新習志野~海浜幕張間と幕張新駅の位置
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「淡色地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆したものである。

 その後、幕張新都心に本社があるスーパーマーケット大手のイオングループが20年間の定期借地にてこの貨物駅予定地を利用することになり、2013(平成25)年12月にイオンモールの旗艦店として「イオンモール幕張新都心」がオープンしました。イオンモール建設に際しては、京葉線に面した場所にバスターミナルが設けられ、将来駅が建設された際駅前広場として機能できるよう配慮されました。このように、幕張新駅建設に向けた準備は少しずつですが着実に進められていき、2016(平成28)年には新駅建設に向けた調査団体にイオンモールが加わり「幕張新都心拡大地区新駅設置協議会」として20年ぶりに活動が再開されました。協議会ではJR東日本と共同で新駅建設に向けた課題の洗い出しや駅のイメージの具体化を進め、2020年5月に幕張新駅の設置を正式に発表しました。

京葉線幕張新駅ホーム構造
京葉線幕張新駅ホーム構造

 幕張新駅は、現在の線路はそのままに上下線間へ10両編成対応の長さ210mのホームを2面追加します。コスト削減および埋立地における耐震性の観点から、新設する上りホームの高架橋は現在の上りホームと完全に一体化され、ホーム下の空間を建設中の重機の走行空間や開業後のコンコースとして利用します。駅舎は上り線の南側に設けられ、バスターミナルとの一体的な空間演出のため改札口は駅の中心からやや蘇我寄りの位置に新設されます。

京葉線幕張新駅施設レイアウト
京葉線幕張新駅施設レイアウト
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「空中写真」をグレースケールに変換し加筆したものである。


 総事業費はホームが2面に分かれることから、130億円と一般的な駅よりもやや高額となっています。幕張新駅は沿線自治体・企業が設置を求める「請願駅」であるため、事業費は原則として沿線側で負担することになります。幕張新駅では主たる受益者がイオンモールとなるため、事業費の半分はイオンが負担し、残りを千葉県・千葉市・JR東日本が折半することになっています。
 建設にあたっては、できるだけ工期を短縮することを目標に「設計が完了した部分から直ちに工事に入る」(設計・工事施工一括協定)という手法が採用されました。これにより当初2024年秋以降とされていた開業時期を2023年春へ1年半以上前倒しできる見込みとなっています。
 なお、幕張新駅建設に合わせて北側にある京葉車両センターを横断する自由通路(エレベーター付き歩道橋)の新設も検討されました。しかし、自由通路の新設には50億円という多額の費用が掛かること、京葉車両センター北側は現在わずかな住宅と小規模なオフィスが立地しておらず、利用が見込めないことから新駅との同時整備は見送られることになりました。

下りホームが形に・駅舎の建設開始

 京葉線幕張新駅の工事は2020年7月より本格的に開始されています。今回は5月末~6月上旬に調査した現地の様子を見てまいります。

上り列車の前面展望。高架橋の右側で上りホームの構築中。
さらに進んだところ。ホーム用の高架橋は床面が無い。
:上りホームを載せる梁は既存の高架橋にアンカーを貫通させて一体化している。
左:上り列車の前面展望。高架橋の右側で上りホームの構築中。
右上:さらに進んだところ。ホーム用の高架橋は床面が無い。
右下:上りホームを載せる梁は既存の高架橋にアンカーを貫通させて一体化している。
上:上り列車の前面展望。高架橋の右側で上りホームの構築中。
中:さらに進んだところ。ホーム用の高架橋は床面が無い。
下:上りホームを載せる梁は既存の高架橋にアンカーを貫通させて一体化している。

 まずは高架になっている上り列車の前面展望です。右側の上下線間で上りホームを支えるコンクリート製の柱・梁が順次構築されています。上りホーム用の高架橋は現在ホーム増設工事が行われている横須賀線武蔵小杉駅と同様に床面が無く、梁の上に直接鋼製のホーム桁を載せることを前提にした構造になっています。横梁は既存の上り線の高架橋の側面に接続されており、接続部分はアンカーを貫通させて完全に一体化されています。地上から高架橋内部を見ると梁にアンカーとナットが飛び出ているのが確認できます。

下り列車の前面展望。右側の構築中の上りホームの根元は下りホームの基礎を兼用している。 さらに進んだところ。基礎の上にホーム台座となる鋼材が並べられている。
左(1):下り列車の前面展望。右側の構築中の上りホームの根元は下りホームの基礎を兼用している。
右(2):さらに進んだところ。基礎の上にホーム台座となる鋼材が並べられている。


 続いて地上の下り列車の前面展望です。昨年末の上り線に続き、下り線も電化柱がホームに重ならないようホームと反対側から片持ちとなった新しいものに建て替えられました。右側に見える高架の上りホームの柱は地上付近で幅が広がり、そのまま下りホームの基礎を兼ねています。基礎の上にはホーム床面となるコンクリート板を載せるための鋼材が並べられており、5月下旬以降はその上にコンクリート板を敷き詰める作業が進められています。(以下動画参照)

京葉線幕張新駅建設状況(2021年5月31日撮影) - YouTube ※30秒短編動画
動画が再生できない場合:キャプチャ画像


イオンモール3階スカイパークから見た京葉線幕張新駅建設現場。中央奥で駅舎を建設中。
近づいて駅舎の基礎工事を見たところ。手前に改札口ができる。
建設中の駅舎を反対側から見たところ。
左:イオンモール3階スカイパークから見た京葉線幕張新駅建設現場。中央奥で駅舎を建設中。
右上:近づいて駅舎の基礎工事を見たところ。手前に改札口ができる。
右下:建設中の駅舎を反対側から見たところ。
上:イオンモール3階スカイパークから見た京葉線幕張新駅建設現場。中央奥で駅舎を建設中。
中:近づいて駅舎の基礎工事を見たところ。手前のカラーコーンが並んでいる付近に改札口ができる。
下:建設中の駅舎を反対側から見たところ。

 最後にバスターミナル側の様子です。春以降は上り線の高架橋に沿って駅舎の建設工事が開始されています。現在見えている奥行きの無い建物は機械室部分で、その隣で駅舎本体の基礎工事が進められています。2枚目の写真で手前にカラーコーンとバーが並んでいる付近に改札口ができる予定です。
 また、駅舎工事の本格化に伴いバスターミナル内では水道管などライフラインの供給設備を延長する工事も行われています。ブロックになっていた地面の一部がアスファルトに置き換えられています。

バスターミナル内で行われている水道管の埋設工事
バスターミナル内で行われている水道管の埋設工事

新駅名称募集はまた出来レース…?

幕張新駅駅名募集ポスター
幕張新駅駅名募集ポスター

 現在、JR東日本千葉支社では幕張新駅の駅名を一般から募集しています。応募期間は2021年6月1日(火)~30日(水)で、応募資格は千葉市内に在住、在勤、在学中の方、応募方法は郵便はがきまたは専用サイト(PC・スマホ)となっています。駅名の正式発表は今年秋の予定です。

応募用サイト→https://www.jreast.co.jp/chiba/bsl/newstation/

 このように新駅の駅名を一般公募した最近の例としては2020年3月に開業した高輪ゲートウェイ駅があります。同駅においては応募総数の中で極少数であった駅名が選ばれたことから、最初から駅名が決まっており公募のポーズだけを取った「出来レース」だったのではないかという批判が起き、撤回を求める署名運動まで行われるに至りました。今回の幕張新駅に関しても応募総数で駅名を決定する考えはないようで、募集に関するプレスリリースにもわざわざ「応募された駅名は応募数による決定ではなく、ご応募いただいたすべての駅名から新しい駅にふさわしい名前を当社にて選考します。」という但し書きが加えられています。幕張新駅は、ちょうど幕張新都心の入口に位置してることから、SNS上では「幕張ゲートウェイ」になるのではないかという嘲笑の声も聞かれ、熊谷俊人千葉県知事(前千葉市長)が否定する場面もあるなど、もはやパブリックコメントとしての信用はゼロに等しいという状況になっています。
 地名や鉄道駅の駅名は一度決定してしまうとなかなか変えることができません。長く残るものであるからこそ、慎重な検討プロセスを経て将来も誇れる優れたネーミングが行われることを期待しています。

▼参考
幕張新都心拡大地区新駅の工事に着手します - JR東日本(PDF/671KB)
幕張新都心拡大地区新駅の事業進捗について - JR東日本(PDF/827KB)※開業時期正式決定について
幕張新駅(仮称)の駅名を募集します - JR東日本(PDF/680KB)
千葉市:幕張新都心拡大地区新駅設置協議会
日刊建設工業新聞 » 千葉県企業庁ら調査会/JR京葉線新駅設置構想が再始動/2月から現地調査開始へ
幕張新駅の名称公募で物議 「高輪ゲートウェイ」で苦言も…JR東の真意は 【急上昇ニュースのウラ】 | 千葉日報オンライン
「納得される駅名に」 熊谷知事、幕張新駅の駅名公募で持論 ゲートウェイ駅は「ない」ときっぱり | 千葉日報オンライン
京葉線新習志野・海浜幕張間新駅設置 - 東工技報Vol.32(2018年度)76~83ページ

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