カテゴリ:鉄道:建設・工事
京葉線幕張豊砂駅建設工事(2022年8・9月取材)
公開日:2022年11月07日08:00

来年春、京葉線新習志野~海浜幕張間に新駅「幕張豊砂駅」が開業します。2020年春より予定地では新駅の建設工事が本格化しています。開業まで残り半年となり、新駅の工事も大詰めを迎えています。最終段階を迎えている工事の現状についてお伝えします。
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京葉線幕張豊砂駅建設工事(2022年1月16日取材)(2022年1月24日作成)
京葉線貨物駅計画から新駅設置決定まで


左(1):京葉線の現在の主力車両E233系5000番台電車
右(2):空き地だった頃の鷺沼貨物駅予定地。2009年11月3日、アパホテル&リゾート東京ベイ幕張より撮影
京葉線は東京駅を起点に東京湾北部を経由して千葉県の蘇我駅に至る全長43kmの在来線です。この路線は元々貨物線として計画されたもので、千葉県内では3か所に貨物の積み下ろしをするためのターミナル用地が確保されていました。今回新駅設置が決定した新習志野~海浜幕張間の南側もその用地の一つです。この区間では上下線の線路に高低差が付けられていますが、これは計画されていた貨物駅へ出入りする列車が本線と平面交差しないようにとの配慮によるものです。
その後到来したオイルショックによる産業構造の変化、それに伴う東京湾岸の土地利用計画の変更により、京葉線は旅客線として利用されるようになりました。これにより新習志野~海浜幕張間で計画されていた貨物駅建設は実現せず、用意されていた土地は京葉線の複々線化用地とともに千葉県が保有することになりました。新習志野~海浜幕張間は京葉線の中でも駅間隔が開いていることから、東京駅まで全線開業した1990年代初めより新駅の設置が模索されるようになります。しかし、同時期に到来したバブル経済崩壊等の影響により、貨物駅予定地は買い手がなかなか見つからず、利用客が見込めないことから棚上げの状態が続いてきました。

京葉線新習志野~海浜幕張間と幕張新駅の位置
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「淡色地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆したものである。
その後、幕張新都心に本社があるスーパーマーケット大手のイオングループが20年間の定期借地にてこの貨物駅予定地を利用することになり、2013(平成25)年12月にイオンモールの旗艦店として「イオンモール幕張新都心」がオープンしました。イオンモール建設に際しては、京葉線に面した場所にバスターミナルが設けられ、将来駅が建設された際駅前広場として機能できるよう配慮されました。このように、幕張新駅建設に向けた準備は少しずつですが着実に進められていき、2016(平成28)年には新駅建設に向けた調査団体にイオンモールが加わり「幕張新都心拡大地区新駅設置協議会」として20年ぶりに活動が再開されました。協議会ではJR東日本と共同で新駅建設に向けた課題の洗い出しや駅のイメージの具体化を進め、2020(令和2)年5月に幕張新駅の設置を正式に発表しました。

京葉線幕張新駅ホーム構造
幕張新駅は、現在の線路はそのままに上下線間へ10両編成対応の長さ210mのホームを2面追加します。コスト削減および埋立地における耐震性の観点から、新設する上りホームの高架橋は現在の上りホームと完全に一体化され、ホーム下の空間を建設中の重機の走行空間や開業後のコンコースとして利用します。駅舎は上り線の南側に設けられ、バスターミナルとの一体的な空間演出のため改札口は駅の中心からやや蘇我寄りの位置に新設されます。

京葉線幕張新駅施設レイアウト
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「空中写真」をグレースケールに変換し加筆したものである。
総事業費はホームが2面に分かれることから、130億円と一般的な駅よりもやや高額となっています。幕張新駅は沿線自治体・企業が設置を求める「請願駅」であるため、事業費は原則として沿線側で負担することになります。幕張新駅では主たる受益者がイオンモールとなるため、事業費の半分はイオンが負担し、残りを千葉県・千葉市・JR東日本が折半することになっています。
建設にあたっては、できるだけ工期を短縮することを目標に「設計が完了した部分から直ちに工事に入る」(設計・工事施工一括協定)という手法が採用されました。これにより当初2024年秋以降とされていた開業時期を2023(令和5)年春へ1年半以上前倒しできる見込みとなっています。2020年夏には千葉市在住・在勤・在学者を対象に新駅名称が一般公募され、応募総数約1万5千件の中から「幕張豊砂」に決定しました。
なお、幕張新駅建設に合わせて北側にある京葉車両センターを横断する自由通路(エレベーター付き歩道橋)の新設も検討されました。しかし、自由通路の新設には50億円という多額の費用が掛かること、京葉車両センター北側は現在わずかな住宅と小規模なオフィスが立地しておらず、利用が見込めないことから新駅との同時整備は見送られることになりました。
駅の本体がほぼ完成、バスターミナルの再整備も本格化
京葉線幕張新駅の工事は2020年7月より本格的に開始されています。開業まで残り半年余りとなり、駅本体の工事は大詰めを迎えています。今回は8月3日(水)と9月16日(金)に調査した現地の様子をお伝えします。


左:上り列車の前面展望。この時点では蘇我寄りのホーム床面が一部未完成だった。2022年5月23日撮影1
右:下り列車の前面展望。ホームの床板や屋根が完成し、ホーム先端では笠石も貼り付けられた。2022年9月16日撮影
右:下り列車の前面展望。ホームの床板や屋根が完成し、ホーム先端では笠石も貼り付けられた。2022年9月16日撮影
上:上り列車の前面展望。この時点では蘇我寄りのホーム床面が一部未完成だった。2022年5月23日撮影
下:下り列車の前面展望。ホームの床板や屋根が完成し、ホーム先端では笠石も貼り付けられた。2022年9月16日撮影
下:下り列車の前面展望。ホームの床板や屋根が完成し、ホーム先端では笠石も貼り付けられた。2022年9月16日撮影
2022年の前半は前年に引き続き駅のホーム床板の敷き詰めと屋根の設置が進められました。コンクリート床版の敷き詰めは、機材搬入に空間が必要となる上りホーム蘇我寄りの一部を除き6月頃までに完了しており、完成した部分から屋根の取り付けが進められました。屋根は駅舎に隣接する上りホーム蘇我寄りの半分ほどが白い布を使用した膜屋根、それ以外の部分が波型の金属板を使用した通常の屋根となっています。
屋根の設置と並行してホーム床面のタイルの敷き詰めも進められています。線路側の先端に敷かれている笠石は全長に渡り滑り止めゴムの無いタイプとなっており、その内側にある点字ブロックも全長に渡り内方線付き点字ブロック※となっています。2018年にJR東日本は京葉線を含む首都圏17路線330駅にホームドアを設置することを発表していますが、幕張豊砂駅については上記の床面の整備状況から、直近のホームドア設置は考えられていないことがわかります。
▼脚注
※内方線付き点字ブロック:点状突起と棒状突起1本を組み合わせてどちらが線路側かわかるようにした点字ブロック。2011年の国土交通省検討会で利用者数が1万人以上の駅を対象に整備する方針が決定された。



上り線で準備中の新しい閉塞信号機




下り線で準備中の新しい閉塞信号機
幕張豊砂駅が新設される京葉線新習志野~海浜幕張間は、ほぼ直線となっていることから、上下線ともほぼ等間隔で閉塞信号機が建植されていました。上り線の第2閉塞信号機以外は幕張豊砂駅のホームに対して中途半端な位置となってしまうことから、適切な間隔となるよう信号機を増設・移設する工事が進められています。高架橋上にある上り線は、信号機の機器箱の設置スペースが無い場所もあったため、そのような場所では高架橋の防音壁を取り壊して床面を拡幅しています。現在は信号機・機器箱・ATS地上子の設置までほぼ完了しており、運転士が誤認しないよう信号機に黒い布を被せた状態となっています。

イオンモール幕張新都心ファミリーモール3階スカイパークから見た幕張豊砂駅の工事
駅舎本体は着工が比較的遅かったため、目に見える形で骨組みが立ち始めたのは6月以降となりました。駅舎はそれほど複雑な構造ではないため工事は急ピッチで進み、8月末には膜屋根の取り付けまで完了しました。現在は外壁や内装の仕上げ工事が進められています。
なお、12月17日に幕張豊砂駅の工事見学および駅舎外壁の駅名切り抜き文字の取り付けを体験できるツアー(有料)が開催される予定となっています。11月1日よりJR東日本の公式通販サイトJRE MALL(完売済)、JRE MALLふるさと納税にてツアーを販売中です。
▼参考
千葉県千葉市「JRE MALLふるさと納税」取扱開始 JR幕張豊砂駅開業記念「駅名アルファベット取付体験」を実施します! - JR東日本ニュースリリース(PDF/590KB)
みんなで幕張豊砂駅をつくろう!駅名アルファベット取付体験【12/17開催】: JR東日本 千葉支社|JRE MALL
みんなで幕張豊砂駅をつくろう!駅名アルファベット取付体験【12/17開催】: 千葉県千葉市|JRE MALLふるさと納税


左:イオンモール幕張新都心ファミリーモールの外に完成したエスカレーターと再整備中のバスターミナル
右:バスターミナルからグランドモール(蔦屋書店前)に抜ける道路も拡幅が進む
右:バスターミナルからグランドモール(蔦屋書店前)に抜ける道路も拡幅が進む
左:イオンモール幕張新都心ファミリーモールの外に完成したエスカレーターと再整備中のバスターミナル
右:バスターミナルからグランドモール(蔦屋書店前)に抜ける道路も拡幅が進む
右:バスターミナルからグランドモール(蔦屋書店前)に抜ける道路も拡幅が進む
イオンモール幕張新都心ファミリーモール前にあるバスターミナルは、幕張豊砂駅の設置に合わせてバスターミナル内のレイアウト変更や屋根の延長などの改修が進められています。イオンモールファミリーモール前には、この延長された屋根に接続する形で店舗2階へ直接昇り降りできるエスカレーターを新設する工事が行われています。エスカレーターは既に完成しており、バスターミナルの使用再開を待っている状況です。
また、バスターミナルから京葉線沿いに設けられている道路はこれまでバス専用道となる1車線分の車道と片側の歩道しか設けられていませんでした。これではグランドモール方面から幕張豊砂駅のアクセスに支障が出るため、道路を2車線に拡幅する工事が進められています。
左:ファミリーモール2階のエスカレーター新設箇所
右上:自動ドアの向こうは通路の内装まで完成している。
右下:地上側から見たエスカレーター
右上:自動ドアの向こうは通路の内装まで完成している。
右下:地上側から見たエスカレーター
上:ファミリーモール2階のエスカレーター新設箇所
中:自動ドアの向こうは通路の内装まで完成している。
下:地上側から見たエスカレーター
中:自動ドアの向こうは通路の内装まで完成している。
下:地上側から見たエスカレーター
▼参考
幕張新都心拡大地区新駅の工事に着手します - JR東日本ニュースリリース(PDF/671KB)
幕張新都心拡大地区新駅の事業進捗について - JR東日本ニュースリリース(PDF/827KB)※開業時期正式決定について
幕張新駅(仮称)の駅名を募集します - JR東日本ニュースリリース(PDF/680KB)
京葉線 新習志野駅~海浜幕張駅間の新駅の駅名決定について - JR東日本ニュースリリース(PDF/660KB)
千葉市:幕張新都心拡大地区新駅設置協議会
京葉線新習志野・海浜幕張間新駅設置 - 東工技報Vol.32(2018年度)76~83ページ
駅前のホテル建設も決定
9月初めにJR東日本より幕張豊砂駅新設に合わせて、駅前にビジネスホテルを建設する計画が発表されました。ホテルの名称は「JR東日本ホテルメッツ幕張豊砂」(仮称)で、建物は地上11階、客室数は229室(シングル139室、ツイン90室)となる予定です。建設されるのは幕張豊砂駅正面の現在工事資材置き場になっている場所で、新駅の工事完了後の着工となるためオープンは2024年春になる予定です。当地は幕張メッセやプロ野球千葉ロッテマリーンズ本拠地のZOZOマリンスタジアムにも近く、ビジネスや観光など様々な利用が期待されます。
▼参考
「(仮称)幕張豊砂駅前開発」の建設工事に着手します - JR東日本ニュースリリース(PDF/454KB)
盛岡でもイオンモール前に新駅

来春開業予定の田沢湖線前潟駅とイオンモール盛岡の位置
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図」で公開されている「標準地図」レイヤーに加筆したものである。
10月下旬に、鉄道開業150周年を記念して発売されたJR東日本パスを使い秋田・青森方面の取材旅行をしてきました。往路で利用した秋田新幹線に乗車中、盛岡駅を発車してすぐの田沢湖線上で新駅の工事が行われているのを確認しました。この新駅は前潟駅という名称で、ちょうどイオンモール盛岡のすぐ横に位置しています。建設費の一部(2億円)は、イオンモールが盛岡市に寄付する形で調達しています。開業は幕張豊砂駅と同じ2023年春の予定です。
来年春は千葉と岩手の2箇所でイオンモール前に新駅が誕生します。これまで自家用車一辺倒だった郊外型のショッピングモールの交通アクセスに今後どのような変化があるのか注目されます。
▼参考
田沢湖線盛岡駅~大釜駅間の新駅名を「前潟駅」に決定しました - JR東日本ニュースリリース(PDF/247KB)
イオンモール株式会社様からの寄附金受納 に係る感謝状贈呈式の開催について - 盛岡市プレスリリース
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