カテゴリ:公共施設
首都圏外郭放水路庄和排水機場
公開日:2016年10月02日18:17

近年多発する集中豪雨による水害対策として、首都圏各地では地下に分水路や調整池が多く建設されるようになりました。その1つに埼玉県春日部市にある「首都圏外郭放水路」があります。この首都圏外郭放水路では毎年秋に地下の水路施設の一般公開が行われています。2013年にこのイベントに訪問していたのですが、なかなか記事を作成する時間がありませんでした。現在11月のイベントに向けた参加申し込みが実施されているため、この機会に「お蔵入り」となってしまっていた3年前のイベントの様子をお届けしたいと思います。
首都圏外郭放水路の概要
埼玉県東部に位置する春日部市は、南北に大落古利根川・幸松川・倉松川・中川などの中小河川が流れています。この中小河川の流域は低地になっており、大雨の際はしばしば氾濫し周辺の農地や住宅地に被害を及ぼしていました。そこで、各河川を横断している国道16号春日部野田バイパスの地下にトンネルを掘り、溢れた水をこの地区の東側を通る江戸川に迂回させる「首都圏外郭放水路」が建設され、2006(平成18)年より全面的に稼働を開始しました。
首都圏外郭放水路は各中小河川から溢れた水を取り込む「立坑」、各立坑と江戸川までを結ぶ「トンネル」、江戸川に放流する直前で流量の調整を行う「調圧水槽」、地下から江戸川まで水をくみ上げて放流する「排水機場」の4つの構造物により構成されています。
●立坑
各中小河川から溢れた水を地下に落とすための直径30m、深さ70mの円筒形の縦穴。トンネル掘削の際、シールドマシンを地下に卸すのにも使用された。全部で5か所あり、接続河川と最大流入量は以下の通りになっている。
第5立坑:大落古利根川(85m3/s)
第4立坑:幸松川(6.2m3/s)
第3立坑:倉松川(100m3/s)・中川(25m2/s)
第2立坑:18号水路(4.7m3/s)
第1立坑:調圧水槽手前(流入河川は無し)
●トンネル
各立坑どうしを結ぶシールドトンネルで直径10m、深さ50m、全長約6.3km。第1~2立坑間の一部を除き国道16号春日部野田バイパスの下に建設された。
●調圧水槽
江戸川に放流する直前に設けられた地下水槽。トンネルからの流入時・放流停止時の水の衝撃を緩和するための空間。詳細は後述。
●排水機場
調圧水槽から水をくみ上げて江戸川に放流するポンプ。詳細は後述。
庄和排水機場・龍Q館

庄和排水機場・調圧水槽の地上部分は芝生広場になっている。
首都圏外郭放水路の終点にあるのが庄和排水機場です。庄和排水機場は放水路トンネルの終端となる「第1立坑」「調圧水槽」「排水機場」の3つの施設が隣接しており、調圧水槽の地上は芝生が敷かれた運動場になっています。毎年台風の襲来が終わる11月中旬に地域住民へのPRを兼ね、これらの施設が一般公開されています。


左(1):運動場の各所にある地下の調圧水槽へ降りる階段。
右(2):階段を下から見たところ。四角い縦穴の周囲にらせん階段が張り巡らされている。
庄和排水機場公開イベントの目玉と言えるのが運動場の地下にある調圧水槽の見学です。調圧水槽へ下りる階段は運動場の両端にあります。ここから地下18mの調圧水槽底まで116段のらせん階段を下ります。

調圧水槽の内部。その様子から「地下神殿」と称される。
※クリックで拡大(1500×1125px/146KB)
調圧水槽は幅78m、長さ177m、高さ18mという巨大なもので、その様子から「地下神殿」とも通称されています。この水槽はトンネルから一気に水が流入する際の水流を弱める目的の他に、江戸川への放流中何らかの理由により放流を急停止する必要が生じた場合に、その衝撃(ウォーターハンマー作用)が後方にあるトンネルに及ぶのを防止するために設けられています。
調圧水槽内には異様に太い柱が森林のように立っています。柱は1本当たり500トンの重量があり、地上の運動場の荷重を支える他に、調圧水槽が空の状態のとき周辺の地下水の浮力により調圧水槽が浮き上がってしまうのを防止する役割があります。これだけでは浮力への対抗には足りないため、天井や床も通常のトンネルと比べ分厚く作られています。


左(1):調圧水槽の流入側(第1立坑)。中川などから取り込んだ水はこの縦穴から調圧水槽に入る。
右(2):調圧水槽の流出側にあるポンプの羽車。ここから地上の江戸川へ水を吸い上げる。
調圧水槽の流入側は直接円筒形の縦穴(第1立坑)に接続されています。縦穴の下は中川などへ通じるトンネルへ通じており、洪水時はトンネルの中を流れてきた水がここから調圧水槽内へ入ってきます。一方反対側は短いトンネルになっており、その終端では天井に金属製の羽車(ポンプ)が付いています。調圧水槽に水が入ると、この羽根車が回転して地上に水を吸い上げ、江戸川に放流します。最大放流量は1秒当たり200立方メートルです。

ポンプの地上にある建物。2階は制御室と資料館になっている。
調圧水槽から江戸川に排水する排水機場(ポンプ)は地下1階にあり、その上には2階建ての建物があります。建物の2階は首都圏外郭放水路全体の操作を行う制御室と一般向けに放水路の概要を解説する資料館「龍Q館」があります。


左(1):龍Q館地下1階のポンプ駆動用ガスタービンエンジンと減速機。
右(2):ポンプの模型
ポンプを駆動する原動機は航空機用のジェットエンジンを改造したものが使用されており、その先に減速機(ギア)を取り付けポンプを回転させています。エンジンの出力は10,300kW、ポンプの排水量は50m3/sで、これを4基設置して200m3/sの放流量を確保しています。なお、エンジンがフルパワーで運転する際はジェットエンジン特有の甲高い騒音が発生するため、地上につながる排気口には巨大な消音器が設置されています。また、放水路の監視・制御には電力を要するため、停電になった場合も動かせるよう同じフロアにディーゼル発電機が用意されています。

地下1階の排気口にはポンプ動作中の騒音が外に漏れないよう巨大な消音器が設置されている。

龍Q館屋上から江戸川を見る。↓の下に放流口がある。
江戸川は排水機場のすぐ脇を流れており、排水機場に面して放流口が設置されています。江戸川からは水を取り込まないため、水門などはなくほとんど目立ちません。




龍Q館の展示物。トンネルの掘削に使用された地下施設の模型や、地下神殿で撮影を行った芸能人のサインなどが見られる。
排水機場2階の「龍Q館」には、首都圏外郭放水路のトンネル断面模型や、トンネル掘削に使用したシールドマシンのカッタービットなどが展示されています。また、調圧水槽はこれまで数々の映画や特撮などの撮影に使用されており、展示室脇の壁には芸能人のサインがびっしりと貼り出されています。

龍Q館2階の展示室からは放水路の監視を行う制御室を見ることができる。
展示室の隣は首都圏外郭放水路全体の監視・制御を行うためのモニタールームになっています。展示室との間は大きなガラス窓になっており、モニタールームの中を見ることができます。モニタールームは各立坑や真下にあるポンプと接続されており、各所に設けられた監視カメラを確認しながら流入ゲートの開閉やポンプの運転・停止の切り替えを行います。


龍Q館外にはシールドトンネルを掘削した機械の一部やセグメントの実物が展示されている。
龍Q館の外には、首都圏外郭放水路の建設工事で実際に使用されたシールドマシンのカットモデルやトンネルの壁面に使用されているセグメントの実物が展示されています。カットモデルの後ろにはシールドマシンのカッターディスクを利用して時計が設けられていたようですが、現在は時針が壊れてしまっています。
11月に公開イベント
本文中でも書いたとおり、首都圏外郭放水路庄和排水機場では毎年11月に地下の調圧水槽を公開しており、今年は11月12日(土)に開催される予定です。昨年までとの大きな変更点として、調圧水槽の見学が事前申込制(定員2千組1万名)となったことがあります。これは年々この施設の知名度が上がり来場者が増えたことから、混雑が激しくなっており安全上の問題が出てきたためとのことです。
申し込み方法は郵便はがきに「代表者氏名(漢字・フリガナ)」「郵便番号」「住所」を明記し、以下の申し込み先までご応募ください。参加条件は「小学生以上(中学生以下は保護者同伴)で階段約100段を自力で昇り降りできる方」です。締め切りは10月7日(金)必着です。応募者多数の場合は抽選となり、当選者には折り返し入場時間を明記したはがきが送られてきます。はがき1枚で5名まで入場できます。入場時間は10時から14時の各1時間ごとに指定されます。(事前の指定はできません。)
申し込み先
〒344-0111 埼玉県春日部市上金崎720
国土交通省首都圏外郭放水路管理支所 特別見学会受付
締め切りまであまり時間がありませんので、参加をお考えの方は今すぐご用意ください。
▼参考
首都圏外郭放水路(国土交通省江戸川河川事務所による解説ページ)
首都圏外郭放水路 特別見学会 参加申し込み方法について | 江戸川河川事務所 | 国土交通省 関東地方整備局
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