東京メトロ東西線南砂町駅改良工事(2012年2月18日取材)

南砂町駅に停車中の東西線07系。今後は右の壁が取り壊され、ホームが新設される。

東京都の中野駅と千葉県の西船橋駅を結ぶ東京メトロ東西線は沿線住民の増加により混雑が著しくなっています。このため、現在東京メトロでは南砂町駅など3駅の大規模改良を予定しています。このうち、南砂町駅の改良工事について東京都発表資料から計画の概要を知ることが出来ましたので、今回はその内容と現在の南砂町駅の状況についてお伝えします。

■東京メトロ東西線の混雑緩和対策

東京メトロ東西線は東京都のJR中央線中野駅から都心部を貫通し、千葉県のJR総武線の西船橋まで至る全長 30.8kmの地下鉄路線です。中野駅からはJR中央線各駅停車の三鷹駅まで、西船橋駅からはJR総武線各駅停車の津田沼駅とと東葉高速鉄道の東葉勝田台駅までそれぞれ相互乗り入れを行っています。この東西線は東京都心内で完結する利用の他に、都心と東京・千葉の両都県の郊外を結ぶ通勤路線としての性格を併せ持っており、朝夕のラッシュ時には激しく混雑します。特に、距離が長い千葉県側の混雑率は2009年の実績で197%(木場→門前仲町)と国内の民鉄では1位を誇ります。この混雑ゆえ、東西線では朝ラッシュ時に駅での乗降に時間がかかり、列車の遅延が常態化しています。このため、東西線では民営化前の営団地下鉄時代から

●全列車の10両編成化
●浦安以西各駅停車の「通勤快速」の新設(列車ごとの混雑を平準化)
●ワイドドア車(05系)の導入
●CS-ATC化による運転間隔の短縮(最短2分)


といった混雑緩和対策がなされてきました。

CS-ATC化により消灯した西船橋駅の信号機(現在は撤去)。 2009年より導入された15000系。
左:CS-ATC化により消灯した西船橋駅の信号機(現在は撤去)。2007年5月4日撮影
右:2009年より導入された15000系。2010年9月8日、津田沼駅で撮影

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しかし、これらの対策も沿線人口の激増により2000年代後半には限界が見え始めました。このため、東京メトロでは東西線の混雑緩和について更なる検討を行いました。その結果決定した対策が

●ワイドドア車(15000系)の増導入(完了)
●南砂町駅の2面3線化(線路容量の増大。2018年度以降完成予定):今回解説
●門前仲町駅のホーム拡幅(2013年度完成予定)
●茅場町駅のホーム延長・拡幅(東西線ホーム40m延長・停車位置を変更・日比谷線ホーム拡幅。2016年度完成予定)


これら4つの対策のうち、1番目のワイドドア車15000系の導入は去る2011(平成23)年7月に先行して完了しました。15000系については下に示す昨年8月作成の記事で解説しておりますので、そちらをご覧ください。また、今回紹介する南砂町駅と門前仲町駅・茅場町駅の改良はいずれも既存のトンネルに手を加えることから、数年に及ぶ長い工期と、合計で400億円という多額の投資が必要な事業となっており、まさに東京メトロ全社を挙げた一大プロジェクトといっても過言ではないものとなっています。

▼関連記事
東京メトロ東西線15000系(2011年8月13日作成)

■南砂町駅の2面3線化



1989年の南砂町駅付近の航空写真
1989年の南砂町駅付近の航空写真
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データより抜粋

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南砂町駅は1969(昭和44)年の営団地下鉄東西線東陽町~西船橋間延伸と同時に開業しました。当時、駅が建設された場所には洲崎川という川が流れており、川と重なる部分のトンネルは川の中に仮設の土手を築いて水を抜き、地上で造ったトンネル函体の下部を掘削して埋設するケーソン工法を用いて建設されました。ケーソンは全部で13基に分割して埋設されましたが、川の途中には北側に建つ水道局砂町ポンプ場(1990年3月廃止)の放流渠があったため、この部分は放流渠を鉄樋に迂回させたうえで両側のケーソン内から非開削で掘り進めるという方法がとられました。完成した駅は島式ホーム1面2線の構造で、改札口はホーム両端の線路上部に設けられました。
開業当時、南砂町駅の周辺は工場が多く立ち並んでいましたが、1990年代に入るとこれらの多くが移転し、跡地にマンションやショッピングモールが建設され風景は一変しました。また、駅の上部にあった洲崎川も全て埋め立てられ、駅前ロータリーや公園が建設されています。これらの再開発により、南砂町駅の利用者数は近年増加を続けており、西船橋寄りには「2b」「3」の地上出入口2箇所追加されています。

現在の南砂町駅
現在の南砂町駅の配線・構内図 ※クリックで拡大

昨年明らかになった南砂町駅の改良工事の内容はこののトンネルを南側へ拡幅し、島式ホーム1面を増設するというものです。このホーム増設により、南砂町駅では島式ホームの両側を交互に使い、先行列車が駅を出ないうちに次の列車を駅に入線させる「交互発着」を行うことが可能となり、乗降時間の確保と列車間隔の短縮の両立が図れます。また、東京都都市整備局のホームページで公開されている資料によると、この改良工事では駅中央部の線路上部(地下1階)にコンコースを新設し、現在は駅両端に分散している改札口を1箇所に集約する計画となっています。同時に、ホームへ下りる階段にはエスカレータを併設し、その数量自体も現在より多くすることでバリアフリー化と混雑緩和を図ること、さらに地上出入口についても中野寄りにある狭隘な1番出入口を廃止し、駅中央部を中心に4箇所増設する計画とされています。
なお、駅の両側には上下線を接続する片渡り線も新設される計画となっており、3本ある線路のうち真ん中の線路は上下線で共有することが可能となる模様です。これにより、配線構造上は当駅での快速待避や折返し運転が可能となりますが、実際にそういった使用方法がなされるかは現時点では明言されていません。

改良後の南砂町駅
改良後の南砂町駅の配線・構内図 ※クリックで拡大

この南砂町駅の2面3線化にともなうトンネルの改修範囲は駅前後を含む440mの区間となっています。東京メトロ東西線は都市計画の一環で建設されていることから、トンネルの改修に当たっては都市計画変更の手続きが必要であり、現在はそれに向けた準備が進められている段階です。上記の改良計画は現時点のもので、都市計画変更の本決定時は変更される可能性があります。(ここから先の内容は現時点で明らかになっている計画をもとに話を進めています。)

■現在(着工前)の状況
中野寄りの階段前から2番線(大手町・中野方面)の線路を見る。今後はこちら側にホームが新設される。 西船橋寄りの階段前からホームを見る。右が1番線(西船橋方面)、左が2番線(中野方面)。
左:中野寄りの階段前から2番線(中野方面)の線路を見る。今後はこちら側にホームが新設される。
右:西船橋寄りの階段前からホームを見る。右が1番線(西船橋方面)、左が2番線(中野方面)。

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現在の南砂町駅のホームは両端に改札口へ向かう階段があり、ホームは中央に柱が1列に並ぶ構造となっています。今後行われる改良工事では現在のトンネルの天井と左右の側壁を撤去し、トンネルを拡幅します。拡幅後、2番線(大手町・中野方面行き)側には島式ホームが新設され、現在の2番線は上下線両方向に進出入可能な配線となります。現在のホームは西船橋方面専用ホームとして引き続き使用されますが、階段やエレベータの位置・数量は現在とは大幅に変わる予定です。また、1番線(西船橋行き方面)の線路は現在のトンネル側壁を撤去する分だけ外側(北側)に移設され、空いた空間を利用して現在のホームを拡幅し、混雑緩和を図る模様です。

中野寄りの駅端にある改札口は改良工事で廃止される。 中野寄りの地上にある1番出入口。
左:中野寄りの駅端にある改札口は改良工事で廃止される。
右:中野寄りの地上にある1番出入口。

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ホーム中野寄りの階段を上がり、改札口を出ると1番出入口に接続しています。1番出入口の周辺には都営住宅や佐川急便の配送センターが広がっているのみで、バスロータリーや大規模な商業施設はありません。このため、利用者数は少なく自動改札機・券売機の台数も少なめになっています。また、ホームへ通じるルートは階段しかなく、バリアフリー化は実施されていません。この1番出入口と改札口は改良工事完了後は駅中央に新設される改札口に集約され、廃止される予定となっています。

西船橋寄りにある改札口。南砂町駅の中心はこちら側。 西船橋寄りにある改札口。南砂町駅の中心はこちら側。
西船橋寄りにある改札口。南砂町駅の中心はこちら側。
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ホーム西船橋寄りにある改札口は「2a」・「2b」・「3」の3つの地上出入口に接続しています。3番出入口の脇はバスロータリーとなっており、南砂町駅の利用者の多くはこちら側の改札口を利用しています。このため、「2b」「3」の地上出入口にはエレベータが併設されており、改札内にも階段とは別個に設けられた通路を経由する形でエレベータが設置されています。また、階段にも上りのみですがエスカレータが設置されています。
改良工事では改札口を入ってすぐのところにあるホームへ降りる階段の脇から新たに通路を分岐させ、駅中央に新設される改札口へ接続することとなっています。このため、中野寄りと同じく改札口は廃止されますが、通路や地上出入口は現在のまま残される計画となっています。ただし、改札口直下の線路は配線変更のためトンネルの壁の撤去や移設が必要であり、通路部分も何らかの手が加えられるのは不可避であると考えられます。

砂町ポンプ場跡に建設された都営住宅・公共施設の複合ビル脇にある2b出入口。 バスロータリーと新砂あゆみ公園の間にある3番出入口。
左:砂町ポンプ場跡に建設された都営住宅・公共施設の複合ビル脇にある2b出入口。
右:バスロータリーと新砂あゆみ公園の間にある3番出入口。

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「2b」・「3」の2つの地上出入口はいずれも開業後に追加されたものです。前者は東京都水道局砂町ポンプ場の跡地に建設された都営住宅・コンビニ・公共施設(江東区南砂子ども家庭支援センター)の複合ビルの一角に設けられています。写真では見えませんが、階段にはエスカレータが併設されており、出入口の裏にはエレベータもあります。後者はバスロータリーと駅東側にある新砂あゆみ公園の間にあり、利用者数が最も多いことから階段の他に上下両方向のエスカレータとエレベータが併設されています。いずれの出入口も今回の改良工事の対象外となっています。

南砂町駅のトンネルの真上にあるバスロータリー。中央に見える白い柵の中には地下のトンネルの換気設備がある。
南砂町駅のトンネル真上にあるバスロータリー。中央の白い柵の中には地下のトンネルの換気設備がある。
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3番出入口の脇にあるバスロータリーは駅の改良工事完了後も現在と同じ位置に置かれる模様です。新しい駅施設はロータリーの真下にも建設されるため、工事期間中はロータリーを別の場所に一時的に移転するか、現在の位置のまま覆工板で覆って地下を掘削するかのどちらかの対応が必要となりますが、それについては現在のところまだ明らかになっていません。

■すでに用地買収が開始
トンネル上部の駐車場は閉鎖され、工事に向けた準備が進められていた。 トンネル上部の駐車場は閉鎖され、工事に向けた準備が進められていた。
トンネル上部の駐車場は閉鎖され、工事に向けた準備が進められていた。
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南砂町駅のトンネル地上部の土地の一部は重機器メーカーのIHI(株)が所有しており、駐車場として使用されていました。今回の改良工事は地上掘削を伴う大規模なものであることから、IHIと東京メトロの間で土地譲渡に関する協議が行われ、去る2011(平成23)年7月20日に正式に譲渡契約が結ばれました。IHIから東京メトロに譲渡された土地は面積が約6,900m、譲渡価格は約35億円とされています。IHIから出されているプレスリリースによると土地の引き渡しは12月下旬の予定となっており、今回訪問時には駐車場がすべて工事用の柵で囲まれていたことから、予定通り引き渡しが行われたものと思われます。このように南砂町駅改良工事に向けた準備は既に開始されています。

掘削範囲に含まれている新砂あゆみ公園の営団5000系
掘削範囲に含まれている新砂あゆみ公園の営団5000系

なお、改良工事に伴う掘削範囲は東京都の資料によると中野側は1番出入口の先(セブンイレブン江東南砂3丁目店付近)まで、西船橋側は新砂あゆみ公園までとなっています。ここで気になるのが前回の記事でその惨状をお伝えした新砂あゆみ公園にある営団5000系の保存車体ですが、現在の荒廃の状態や修復に必要な部品の供給元となりうる車両が解体・海外譲渡により存在しないことを勘案すると、今後撤去される可能性が極めて高いものと考えられます。南砂町駅の改良工事は2018(平成30)年度完成予定となっており、今後1、2年以内には本格的な工事に着手するものと思われます。東西線の生き証人とも言うべき車両が、このような不遇な扱いをされて去っていくのは残念極まりないことであります。

▼参考
平成23年度(第8期)事業計画 - 東京地下鉄株式会社(PDF)
東京メトロ東西線南砂町駅の改良計画について(東京都都市整備局Web内・PDF)
東京地下鉄道東西線建設史 - 帝都高速度交通営団 1978年刊
路線別のラッシュ時における混雑率の推移/千葉県
東京地下鉄株式会社への土地譲渡について|2011年度|プレスリリース|株式会社IHI

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新砂あゆみ公園の営団5000系の現状(2012年2月18日取材)
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