東京メトロ東西線南砂町駅改良工事(2017年9月20日取材)

東京メトロ東西線南砂町駅

東京メトロ東西線は、沿線での宅地開発の進行により混雑が著しくなっています。この問題を解決するため、現在線路の増設や拡幅などの大規模改良工事が各所で進められています。今回はその中から南砂町駅の2面3線化工事について再調査を行いましたので、現在の状況をお伝えします。

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東京メトロ東西線南砂町駅改良工事(2015年5月・2016年4月取材)(2016年6月3日作成)

東京メトロ東西線の混雑緩和対策

2010年から2017年にかけて導入されたワイドドア車両15000系 シールドトンネルを解体してホームが拡幅される木場駅
左(1):2010年から2017年にかけて導入されたワイドドア車両15000系
右(2):シールドトンネルを解体してホームが拡幅される木場駅


 東京メトロ東西線は東京都のJR中央線中野駅から都心部を貫通し、千葉県のJR総武線西船橋まで至る全長 30.8kmの地下鉄路線です。中野駅からはJR中央線の三鷹駅まで、西船橋駅からはJR総武線の津田沼駅(平日朝夕のみ)と東葉高速鉄道の東葉勝田台駅までそれぞれ相互直通運転を行っています。
 東西線は、元々中央線・総武線の混雑緩和のためのバイパス路線として建設されましたが、千葉県内の区間(浦安・市川・船橋の各市)では、東西線開通により利便性が向上したことから沿線で宅地開発が急速に進むことになりました。その結果、朝ラッシュ時の混雑率は最新のデータである2017(平成29)年現在の数値で国内最高となる199%(木場→門前仲町7:50~8:50)となっており、総武線を上回る激しい混雑となっています。この混雑の激しさにより、東西線では朝ラッシュ時に各駅での乗降に時間がかかり、列車の遅延が常態化しています。そのため、民営化前の営団地下鉄時代より

●全列車の10両編成化
●浦安以西各駅停車の「通勤快速」の新設(列車ごとの混雑を平準化)
●ワイドドア車の導入
●CS-ATC化による運転間隔の短縮(最短2分)

を行ってきました。2000年代に入ると、東京都心での再開発ブームにより、これらの対策も限界が見え始めたため、新たなメニューとして

(1)ワイドドア車(15000系)の増導入(2017年完了)
(2)門前仲町駅のホーム拡幅(2013年完了)
(3)南砂町駅の2面3線化:線路容量の増大(2021年度完成予定)
(4)茅場町駅のホーム拡張:東西線ホームを延長・階段増設・停車位置変更・日比谷線ホーム拡幅(2020年度完成予定)
(5)木場駅のホーム拡幅:ホーム上の混雑解消(2021年度完成予定)
(6)九段下駅折り返し機能向上:引上線の平面交差解消(2020年度完成予定)


が立案され、各計画とも鋭意工事が進められています。この東西線混雑緩和対策にかかる総投資額は530億円にのぼり、来る2020年の東京オリンピックに向けた準備の目玉ともいえるプロジェクトとなっています。

南砂町駅改良工事の概要

1989年の南砂町駅付近の航空写真
1989年の南砂町駅付近の航空写真 (C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データより抜粋

 南砂町駅は1969(昭和44)年の営団地下鉄東西線東陽町~西船橋間延伸時に開業しました。開業当時駅の真上には、洲崎川という運河があったため、地上で造ったトンネル筺体の下を掘削して徐々に埋めていくケーソン工法により建設され、出入口はホーム両端のみというコンパクトな設備となっていました。
 開業時は工場ばかりだった南砂町駅周辺も、都内のその他の地域と同様1990年代以降再開発により高層マンションが多く立ち並ぶようになり、2016(平成28)年度の乗降客数は約6万1千人と10年前と比べて約1.5倍に増加しています。このため、東西線全体の混雑緩和も兼ねて南側にもう1面ホームを増設し、2面3線化する大規模改良決定されました。

南砂町駅の改良前の構内図 南砂町駅の改良後の構内図
南砂町駅の改良前(左)と改良後(右)の構内図(実際は直線ではなくカーブしている)

 南砂町駅の2面3線化は、駅前後の区間を含む440mについて現在のトンネルの大半を取り壊して外側に拡大し、南側にもう1面島式ホームを増設します。これにより、現在の2番線(中野方面行き)は線路の両側にホームが付く上下線兼用ホームになります。これにより、朝ラッシュ時は先行列車が駅を出ないうちにもう1本ある線路に後続列車を進入させる「交互発着」が可能となり、遅延の抑制が実現できます。また、東西線は荒川や江戸川といった長大橋梁があるため、荒天時は強風による速度規制・運転見合わせがしばしば発生します。現状では地上区間が運転見合わせになった場合、東陽町駅で折り返す必要がありますが、南砂町駅が2面3線化されると当駅で折り返しが可能となるため、運転区間を1駅延長できるようになり利用者への影響が低減されます。
 なお、トンネルの改築は列車を運行しながら行うため、現在のトンネル躯体を包むように新しいトンネルの躯体を構築します。このため、1番線(西船橋方面行き)についても線路を外側に移設できるため、現ホームについても幅が6mから9mに拡張されます。また、駅の両端はポイントがあるためトンネル内に中柱を設けられず、トンネル天井が厚くなります。南砂町駅は荒川・中川の橋梁に近く深度が浅いため、トンネル天井が厚くなると地下1階の階高を十分確保することができません。そこで、現在ホーム両端にある改札口はどちらも廃止し、新たに駅中央の線路上部に改札口を集約します。この際階段やエスカレータもホーム全体に分散するよう再配置し、懸案となっていた混雑の緩和も合わせて実現されます。



一部出口が移転

 南砂町駅改良工事は2013(平成25)年夏に着工し、現在はトンネルの掘削工事が進められています。総事業費は約340億円で、完成は当初2020年度以降とあいまいな表現がされていましたが、東京メトロなどから発表されている最新の情報では、ホームの供用開始が2021年度、全体の工事終了は2022(平成34)年度となっています。今回は昨年9月20日(水)に調査した現地の様子をお届けします。

移転した3番出入口。新しい出入口は仮設であるため、プレハブ構造になっている。 出入口移転のお知らせ
左(1):移転した3番出入口。新しい出入口は仮設であるため、プレハブ構造になっている。
右(2):出入口移転のお知らせ


 南砂町駅に4箇所ある地上出入口のうち、南側にある3番出入口は新設されるホームの真上に位置しています。新ホームのトンネル掘削の本格化に伴い、3番出入口は昨年4月29日(土)より従来よりも東側(西船橋寄り)に設けられた仮設の出入口に移転しました。仮設の出入口は工事終了までの数年間しか使用しないため、簡単に解体できるプレハブ構造になっています。

在りし日の旧3番出入口 旧3番出入口は閉鎖直後に取り壊され、掘削のための処理プラントが置かれている。
左(1):在りし日の旧3番出入口。2012年2月18日撮影
右(2):旧3番出入口は閉鎖直後に取り壊され、掘削のための処理プラントが置かれている。


 旧3番出入口は閉鎖直後に取り壊され、跡地には地下の掘削に使用するセメントサイロなどが置かれています。なお、旧3番出入口にはエレベータが併設されていましたが、階段の閉鎖に伴いこれも廃止となったため、北側にある2b出入口のエレベータを利用するよう案内が行われています。

仮3番出入口の通路。数年で取り壊しとなるため、鉄板などを組み合わせた簡易構造になっている。 仮設通路は旧3番出入口の付け根に接続している。画面中央の白いパネルの裏が閉鎖となった旧3番出入口。
左(1):仮3番出入口の通路。数年で取り壊しとなるため、鉄板などを組み合わせた簡易構造になっている。
右(2):仮設通路は旧3番出入口の付け根に接続している。画面中央の白いパネルの裏が閉鎖となった旧3番出入口。


 地上の階段と同様地下の通路についても数年で取り壊しとなるため、壁や床は鉄板を組み合わせた簡素な構造になっています。地上から階段を下りた後の通路は、新設ホームの真上を通って旧3番出入口の通路の途中に接続されています。

西船橋寄りの新砂あゆみ公園内。こちらは既に地下の掘削に移行しており地上部分に変化はない。 丸八通りから中野方面を見る。地中連続壁を構築する重機などが並んでいる。
第三砂町中学校脇から西船橋方面を見る。こちらも掘削が本格化している。 中野寄りにある1番出入口。周辺では掘削が本格化しているが、出入口本体の構造物には今のところ変化はない。
左上(1):西船橋寄りの新砂あゆみ公園内。こちらは既に地下の掘削に移行しており地上部分に変化はない。
右上(2):丸八通りから中野方面を見る。地中連続壁を構築する重機などが並んでいる。
左下(3):第三砂町中学校脇から西船橋方面を見る。こちらも掘削が本格化している。
右下(4):中野寄りにある1番出入口。周辺では掘削が本格化しているが、出入口本体の構造物には今のところ変化はない。


 西船橋寄りの新砂あゆみ公園内は比較的早期に作業が地下へ移行しており、今回地上部分に大きな変化は見られませんでした。一方、駅中央のロータリー跡地から中野寄りはこれまで2年間ほど地中の支障物の撤去や地中連続壁の打ち込み作業が続いています。
 南砂町駅の地上は開業当時洲崎川という川があったのは前記した通りです。この川は平成初期に埋め立てられましたが、その際コンクリート護岸や川の中に捨てられていたゴミなどを除去することなく土砂を被せてしまっていました。そのため、これらの残存物が南砂町駅の改良工事に必要となる地中連続壁の打ち込みを大きく妨げることになりました。地中に残存していた物体は小さいものでは木の枝、大きいものでは建築廃材のコンクリート塊など多岐にわたっています。川を埋め立てて出来た土地であるゆえ、地表から4m以深には分厚いヘドロが堆積しており、これらの残存物を地上から直接掘削して撤去するのは安全上困難でした。そこで、強力なドリルを用いて地面に穴を開け、地中の残存物ごと破砕することによりこれらの支障物を撤去することとしました。開けた穴の数は実に1270本にも上り、この作業だけで2年の歳月を費やすことになってしまいました。
 これらの支障物の撤去もようやく完了し、中野寄りでも掘削作業が本格化しています。昨年訪問時は砂利になっていた地面は全て鉄板で覆われており、内部で掘削が行われているのを確認できます。

▼脚注
※ 地中連続壁:トンネルを掘削する際、周囲の土砂が崩れてこないよう両脇に最初に打ち込む壁(土留め壁)


中柱の補強と思われる作業が続く南砂町駅のホーム。
中柱の補強と思われる作業が続く南砂町駅のホーム。

 地下のトンネル内は今のところ構造物本体の取り壊しなどは見られませんが、ホーム上では2015年以降一部の柱を囲って何らかの作業が続けられています。作業が終わった柱を見ると銀色の金属板が追加されており、周囲の掘削に伴うトンネルの強度低下を補うための補強にも見えますが詳しいことは不明です。

東西線ではこの他にも混雑緩和のための改良工事が進んでおり、特に茅場町駅では階段の移設などが進んでいます。これらについても調査が完了次第取り上げる予定です。

▼参考
事業計画|東京メトロ
中期経営計画「東京メトロプラン2018~「安心の提供」と「成長への挑戦」~」|東京メトロ
南砂町駅の改良工事を分かりやすくご紹介します 「メトロ・スナチカ(工事インフォメーションセンター)」 平成26年3月25日(火)オープン - 東京メトロ(PDF/483KB)
列車遅延解消のための地下鉄駅2面3線化計画-東京メトロ東西線南砂町駅- - トンネルと地下2012年8月号27~32ページ
東西線南砂町駅2面3線化改良計画について - 土木学会地下空間シンポジウム論文・報告集第18巻119~122ページ
東西線南砂町駅改良工事における地中障害物の撤去 - 基礎工2017年2月号32~36ページ

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