東京メトロ東西線南砂町駅改良工事(2019年6月8日取材)

側壁撤去が始まった南砂町駅を通過する05系ワイドドア編成

東京メトロ東西線は、沿線での宅地開発の進行により混雑が著しくなっています。この問題を解決するため、現在線路の増設や拡幅などの大規模改良工事が各所で進められています。その1つである南砂町駅の2面3線化工事に進展がありましたので、6月に調査した内容をお届けします。

▼参考
東京メトロ東西線南砂町駅改良工事(2017年9月20日取材)(2018年1月21日作成)

東京メトロ東西線の混雑緩和対策

2010年から2017年にかけて導入されたワイドドア車両15000系 シールドトンネルを解体してホームが拡幅される木場駅
左(1):2010年から2017年にかけて導入されたワイドドア車両15000系
右(2):シールドトンネルを解体してホームが拡幅される木場駅


 東京メトロ東西線は東京都のJR中央線中野駅から都心部を貫通し、千葉県のJR総武線西船橋まで至る全長 30.8kmの地下鉄路線です。中野駅からはJR中央線の三鷹駅まで、西船橋駅からはJR総武線の津田沼駅(平日朝夕のみ)と東葉高速鉄道の東葉勝田台駅までそれぞれ相互直通運転を行っています。
 東西線は、元々中央線・総武線の混雑緩和のためのバイパス路線として建設されましたが、千葉県内の区間(浦安・市川・船橋の各市)では、東西線開通により利便性が向上したことから沿線で宅地開発が急速に進むことになりました。その結果、朝ラッシュ時の混雑率は最新のデータである2018年現在の数値で国内最高となる199%(木場→門前仲町7:50~8:50)となっており、総武線を上回る激しい混雑となっています。この混雑の激しさにより、東西線では朝ラッシュ時に各駅での乗降に時間がかかり、列車の遅延が常態化しています。そのため、民営化前の営団地下鉄時代より

●全列車の10両編成化による定員増加
●浦安以西各駅停車の「通勤快速」の新設による混雑平準化
●ワイドドア車の導入による乗降時間短縮
●CS-ATC化による運転間隔の短縮(最短2分)

を行ってきました。2000年代に入ると、東京都心での再開発ブームにより、これらの対策も限界が見え始めたため、新たなメニューとして

(1)ワイドドア車(15000系)の増導入(2017年完了)
(2)門前仲町駅のホーム拡幅(2013年完了)
(3)南砂町駅の2面3線化:線路容量の増大(2027年度完成予定)
(4)茅場町駅のホーム拡張:東西線ホームを延長・階段増設・停車位置変更・日比谷線ホーム拡幅(2020年度完成予定)
(5)木場駅のホーム拡幅:ホーム上の混雑解消(2022年度完成予定)
(6)九段下駅折り返し機能向上:引上線の平面交差解消(2025年度完成予定)


が立案され、各計画とも鋭意工事が進められています。この東西線混雑緩和対策にかかる総投資額は530億円にのぼり、会社を挙げた一大プロジェクトとなっています。

南砂町駅2面3線化工事の概要

1989年の南砂町駅付近の航空写真
1989年の南砂町駅付近の航空写真 (C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データより抜粋

 南砂町駅は1969年の営団地下鉄東西線東陽町~西船橋間延伸時に開業しました。開業当時駅の真上には、洲崎川という運河があったため、地上で造ったトンネル筺体の下を掘削して徐々に埋めていくケーソン工法により建設され、出入口はホーム両端のみというコンパクトな設備となっていました。
 開業時は工場ばかりだった南砂町駅周辺も、都内のその他の地域と同様1990年代以降再開発により高層マンションが多く立ち並ぶようになり、2016年度の乗降客数は約6万1千人と10年前と比べて約1.5倍に増加しています。このため、東西線全体の混雑緩和も兼ねて南側にもう1面ホームを増設し、2面3線化する大規模改良決定されました。

南砂町駅の改良前の構内図 南砂町駅の改良後の構内図
南砂町駅の改良前(左)と改良後(右)の構内図(実際は直線ではなくカーブしている)

 南砂町駅の2面3線化は、駅前後の区間を含む440mについて現在のトンネルの大半を取り壊して外側に拡大し、南側にもう1面島式ホームを増設します。これにより、現在の2番線(中野方面行き)は線路の両側にホームが付く上下線兼用ホームになります。これにより、朝ラッシュ時は先行列車が駅を出ないうちにもう1本ある線路に後続列車を進入させる「交互発着」が可能となり、遅延の抑制が実現できます。また、東西線は荒川や江戸川といった長大橋梁があるため、荒天時は強風による速度規制・運転見合わせがしばしば発生します。現状では地上区間が運転見合わせになった場合、東陽町駅で折り返す必要がありますが、南砂町駅が2面3線化されると当駅で折り返しが可能となるため、運転区間を1駅延長できるようになり利用者への影響が低減されます。
 なお、トンネルの改築は列車を運行しながら行うため、現在のトンネル躯体を包むように新しいトンネルの躯体を構築します。このため、1番線(西船橋方面行き)についても線路を外側に移設できるため、現ホームについても幅が6mから9mに拡張されます。また、駅の両端はポイントがあるためトンネル内に中柱を設けられず、トンネル天井が厚くなります。南砂町駅は荒川・中川の橋梁に近く深度が浅いため、トンネル天井が厚くなると地下1階の階高を十分確保することができません。そこで、現在ホーム両端にある改札口はどちらも廃止し、新たに駅中央の線路上部に改札口を集約します。この際階段やエスカレータもホーム全体に分散するよう再配置し、懸案となっていた構内の混雑の緩和も合わせて実現されます。



3番出口が完成・トンネル側壁撤去開始

 南砂町駅改良工事は2013年夏に着工し、現在はトンネルの掘削工事が進められています。総事業費は約340億円で、当初は2018年度完成が予定されていました。しかし、運河を埋め立てて作られた立地ゆえに地中に予想外に大量の廃材が埋まっていることが発覚し、工期が大幅に延長されています。今年4月に発表された東京メトロの中期経営計画「東京メトロプラン2021」では2027年度の完成予定として記載されています。今回は6月8日(土)に調査した現地の様子をお届けします。

2月に元の位置に戻った3番出口
3番出口を降りた先はまだトンネルの改築中であるため通路の形状が複雑。
参考までに着工前の3番出口
左(1):2月に元の位置に戻った3番出口
右上(2):3番出口を降りた先はまだトンネルの改築中であるため通路の形状が複雑。
右下(2):参考までに着工前の3番出口。2012年2月18日撮影

 西船橋よりの駅端にある3番出口は新ホームのトンネル予定地に重なっていたことから、2017年4月より東側に隣接して設けられた仮設出口に一時移転していました。この部分ではトンネルの構築が一部完了したことから、元の位置に出口が復元され今年2月9日(土)に使用を開始しました。
 復元された3番出口のレイアウトは着工前とほぼ同様で、階段、エスカレーター上下1機ずつ、エレベーター1機という構成も変わっていません。外観は従来と異なり木目調のパネルやコンクリート打ちっ放しとなっており、素材の質感を生かしたデザインとなってい ます。階段を下りた先では現在も既存トンネルの改築が続いているため床面に大きな段差があり、階段と複雑な形状のスロープにより接続されています。また、壁や天井もコンクリートの切断面が剥き出しになっているなど、工事がまだ続いていることがわかる状態になっています。

西船橋寄りに建設中の仮設建屋。工事予定表では防水ハウスと明記されている。 防水ハウスは旧新砂あゆみ公園を覆い尽くすように建てられるようになっている。
駅中央を交差する丸八通り。左端に2b出口。 トンネルが区立第三砂町中学校体育館の下に食い込む部分。
左上(1):西船橋寄りに建設中の仮設建屋。工事予定表では防水ハウスと明記されている。
右上(2):防水ハウスは旧新砂あゆみ公園を覆い尽くすように建てられるようになっている。
左下(3):駅中央を交差する丸八通り。左端に2b出口。
右下(4):トンネルが区立第三砂町中学校体育館の下に食い込む部分。


 西船橋寄りの旧新砂あゆみ公園跡地では大型の仮設建屋が建設中でした。この建屋は工事PR施設「メトロスナチカ」の掲示物によると「ハウス」という名称になっています。これは直下のトンネルを拡幅する際、トンネルの天井と側壁を一時的に全て取り去ることになるため、地下の線路に雨水が入らないようにする屋根の役割りがあるようです。防水ハウスの天井付近には、移動式クレーンの走行レールのようなものも取り付けられていることから、既存トンネルの壁や天井はワイヤーソーやダイヤモンドカッターを使って大ブロックで切り出し、クレーンで吊り上げて地上に運び出すものとみられます。
 これ以外の箇所については以前調査時同様トンネルの掘削が続いており、地上は全て覆工板で覆われたままとなっています。中野寄りの駅端では新トンネルの一部が江東区立第三砂町中学校の体育館の下に食い込むことになっていますが、こちらも現在のところ体育館の建物自体には手を加えた形跡はありません。この部分は周辺の掘削済みの部分から掘り広げることで地下のみで工事を完結させる模様です。

2019年に入り設置が始まったトンネル側壁撤去用の防護板
2019年に入り設置が始まったトンネル側壁撤去用の防護板

 地下のホームでは、昨年線路側のタイルやモルタルの化粧壁が順次撤去されトンネル構造体のコンクリート側壁のみの状態となっていました。今年に入ってからは新ホームが設置される2番線(中野方面行き)側の側壁に沿って銀色のパネルを取り付ける工事が開始されました。これは都営大江戸線勝どき駅のホーム増設工事の際にも見られたもので、既存の側壁を取り壊す際粉塵がトンネル内に飛び散らないようにするカバーになります。南砂町駅でもいよいよ既存トンネルの取り壊し準備が開始されたことになります。

2番線中野寄りの端の側壁に明けられた大きな穴。穴の向こうは新ホームのトンネルができつつある。 2番線中野寄りの端の側壁に明けられた大きな穴。穴の向こうは新ホームのトンネルができつつある。
2番線中野寄りの端の側壁に明けられた大きな穴。穴の向こうは新ホームのトンネルができつつある。

 ちなみに、2番線中野寄りのホーム先端付近には試験的にトンネル側壁に穴を開けた部分があります。穴内側はギザギザになっており、連続的にコア抜きをして壁を切り抜いたことがわかります。壁の厚さは1m近くあるようです。穴の奥は防護板でふさがれていますが、向こうでは新ホームとなるトンネルが着々と構築されています。

メトロスナチカに掲出されていた工事のPRポスター
メトロスナチカに掲出されていた工事のPRポスター

 メトロスナチカには南砂町駅改良工事の現場で撮影された作業員の集合写真とメッセージが添えられたポスターが飾られていました。メッセージには「この周辺は多様な様相を見せる地質のため、きわめて慎重な対応が求められます。」と書かれ、軟弱地盤の処理に手を焼いてきたことが伺えます。本当の完成がいつになるのか現時点では読み難いこの工事ですが、新ホームのトンネル構築に移りつつあることから今後は急速に進展していくものとみられます。完成まで安全に工事が進むことを期待します。

▼参考
事業計画|東京メトロ
東京メトログループ中期経営計画「東京メトロプラン2021」|東京メトロ
南砂町駅の改良工事を分かりやすくご紹介します 「メトロ・スナチカ(工事インフォメーションセンター)」 平成26年3月25日(火)オープン - 東京メトロ(PDF/483KB)
列車遅延解消のための地下鉄駅2面3線化計画-東京メトロ東西線南砂町駅- - トンネルと地下2012年8月号27~32ページ
東西線南砂町駅2面3線化改良計画について - 土木学会地下空間シンポジウム論文・報告集第18巻119~122ページ
東西線南砂町駅改良工事における地中障害物の撤去 - 基礎工2017年2月号32~36ページ

▼関連記事
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