みなとみらい線元町・中華街駅留置線新設工事

みなとみらい線元町・中華街駅元町口

横浜市を走るみなとみらい線の終点元町・中華街駅では、運行ダイヤの柔軟性向上を目的に留置線を新設する事業が進められています。今回は留置線新設工事の概要とその背景事情について解説します。

みなとみらい線の概要

みなとみらい線Y500系電車 みなとみらい駅はクイーンズスクエア横浜の直下に駅があり、地上まで吹き抜けとなっている。
左(1):みなとみらい線Y500系電車
右(2):みなとみらい駅はクイーンズスクエア横浜の直下に駅があり、地上まで吹き抜けとなっている。


 みなとみらい線は横浜駅を起点に、ランドマークタワーやパシフィコ横浜があるみなとみらい地区、その先の官公庁街の地下を通り、中華街・山下公園近くに位置する元町・中華街駅に至る全長4.1kmの私鉄路線です。1980年代からスタートした桜木町駅北側の工場跡地の再開発事業である「みなとみらい21」計画の1つとなる鉄道路線であり、神奈川県や横浜市などの沿線自治体や企業が出資する第三セクター横浜高速鉄道が運営を行っています。
 横浜駅側の乗り入れ先は当初国鉄横浜線が考えられていましたが、国鉄の経営危機といった事情もあり東急東横線に決定しました。東横線は東白楽駅の先から地下化し、横浜~桜木町間を廃止してみなとみらい線に直結することになりました。地下化後の横浜駅は島式ホーム1面2線のコンパクトな設備となっており、深夜のごく一部の列車を除きみなとみらい線へ直通し、両路線は一体的な運行となっています。
 軟弱地盤による工事の遅れなどがあったものの、開業後は利用者数が堅調に伸びており、2016年には黒字転換を達成しています。2013年には東急東横線が渋谷駅から東京メトロ副都心線と相互直通運転を開始し、埼玉県・東京都心からみなとみらい地区へのアクセスルートとして確固たる地位を築いています。



元町・中華街駅の折り返し機能向上の必要性

みなとみらい線元町・中華街駅ホーム。天井が高く開放的。 元町・中華街駅の車止め。この先に留置線が新設される。
左(1):みなとみらい線元町・中華街駅ホーム。天井が高く開放的。
右(2):元町・中華街駅の車止め。この先に留置線が新設される。


 東急東横線地上時代の終点桜木町駅は島式ホーム1面2線でした。みなとみらい線においてもこれはそのまま継承され、終点元町・中華街駅は同じ1面2線のレイアウトとなっています。
 現在の東横線は列車種別が各駅停車・急行・特急(ラッシュ時は通勤特急)の3種類に加えて、休日朝夕には西武秩父・飯能に直通する有料座席指定列車「S-TRAIN」が運行されています。各駅停車は途中駅のホーム長さの関係で8両編成に車両が限定されており、元町・中華街駅では終日最短2分で折り返すというまさに綱渡り的なダイヤが組まれています。副都心線乗り入れ開始後は運行区間が広域に渡るため遅延や運休が発生しやすくなっており、元町・中華街駅の折り返し機能のの向上は喫緊の課題となっています。

2017年に西武・東京メトロ・東急で運行されている「S-TRAIN」 東急東横線・目黒線の車両基地である元住吉検車区
左(1):2017年に西武・東京メトロ・東急で運行されている「S-TRAIN」
右(2):東急東横線・目黒線の車両基地である元住吉検車区


 また、これとは別の問題としてみなとみらい線独自の車両基地を用意する必要性があります。みなとみらい線は成熟した大都市の中に建設されたことから、自社で車両基地要地を確保することができず、開業以来乗り入れ先の東急東横線元住吉検車区の一部を借用していました。この借地期限が2019年1月に到来したことから、自社で車両基地を確保することが求められました。(この背景については後述)

元町・中華街駅留置線の計画位置
元町・中華街駅留置線の計画位置
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「淡色地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆したものである。


 これらの問題を解決するため、2017年に横浜高速鉄道は元町・中華街駅に折り返し運転用の留置線を建設することを発表しました。横浜高速鉄道が周辺住民向けに公表している資料によると、留置線は元町・中華街駅の先にある港の見える丘公園地下に4本設けられることになっています。駅と留置線は若干離れており、その間は単線トンネル2本で接続し、留置線は複線サイズのトンネルを2本並べた構造になります。また、計画発表時に基本設計を担当していたコンサルタント会社が公開していた情報によると、トンネルはNATM工法で建設し、資材や残土を出し入れする立坑は港の見える丘公園の駅側入口付近にあるバルタール広場内に設けることとされています。基本設計のためこれは今後変更される場合があります。なお、留置線が建設される地下20m付近は上総層群と呼ばれる50万年以上前に形成された硬い岩盤となっていること、NATM工法では地山(=掘削で露出した壁の土表面)を直接目視できることから、ここ数年多発しているシールド工法での地上陥没のようなトラブルは起きにくいと考えられます。
 なお、みなとみらい線は将来計画として本牧・根岸方面への延伸が考えられていますが、今回の留置線はこの計画と直接の関係は無いとのことです。ただし、将来の延伸に支障にならないようにも考慮しているとのことで、今後の推移が注目されます。 

港の見える丘公園バルタール広場の植え込み。左下の白いマンホール2個がボーリング孔(B-3)と思われる。 台地に上がったところにある林間広場。正面の大木右下に見える小さい蓋2個がボーリング孔(B-2)と思われる。
左(1):港の見える丘公園バルタール広場の植え込み。左下の白いマンホール2個がボーリング孔(B-3)と思われる。
右(2):台地に上がったところにある林間広場。正面の大木右下に見える小さい蓋2個がボーリング孔(B-2)と思われる。2019年2月21日撮影


 2017年の計画発表後は港の見える丘公園内外で地質や地下水位把握のためのボーリング調査が実施されました。港の見える丘公園内外の地面には数箇所最近設置したと思われる新しいマンホールが見られたことから、これがボーリング孔と思われます。現在は着工に向けた詳細設計や行政上の手続きが進められています。なお、この留置線新設にかかる事業費は150億円とされています。

自前の留置線を用意するもうひとつの理由

 さて、先程元町・中華街駅の留置線新設の理由の1つが東急元住吉検車区の借地期限到来であることを説明しました。しかし、単なる期限の到来であれば契約を延長更新すればいいだけのはずです。そうならなかったのには東急電鉄側の事情があります。

新横浜線開業に向けて新造された目黒線新型車両3020系。現在は中間車2両を抜いて6両編成で運行中。 8両化と通過線新設工事が進む奥沢駅
左(1):新横浜線開業に向けて新造された目黒線新型車両3020系。現在は中間車2両を抜いて6両編成で運行中。
右(2):8両化と通過線新設工事が進む奥沢駅


 ここで3月に公開した相鉄・東急新横浜線開業に向けた目黒線8両化・奥沢駅改良工事の話をもう一度おさらいしてみましょう。目黒線は新横浜線開業に合わせて全列車が8両編成に増結されるとともに、3020系を3編成新造します。また、奥沢駅は留置線の8両化と通過線新設のため、留置可能な編成数が従来の8本(3番線+留置線7本)から5本に減少します。これにより生じる計6本分の車両留置場所の不足をどこかで補う必要があるということになります。このうち2本は現在日吉駅の新横浜寄りに建設中の留置線で代替可能です。では残りの4本は…?
 そうです。この4本の行き先が元町・中華街駅の留置線なのです。正確には

目黒線奥沢駅の留置本数減少×3本+車両増備×3本

元住吉検車区×4本(?)+日吉駅×2本(?)に振替

元住吉から押し出される東横線×4本(?)を新設する元町・中華街駅留置線に振替


という算段です。数字だけの単純計算であるため実際は少し異なる可能性もありますが、計画のフローとしては大きな間違いはないはずです。
 このように元町・中華街駅の留置線新設は新横浜線の計画とも密接にリンクした事業となっているのです。まだ本格着工はしていないことから、しばらくは元住吉検車区の借地契約を暫定延長する、直通先の車両基地(浦和美園など)を借用しつつしのぐことになりそうですが、そう遠くないうちに元町・中華街駅の綱渡りダイヤも解消できるものと思われます。

将来は元町・中華街行きラビューも?

西武池袋線の新型特急車両001系「Laview」
西武池袋線の新型特急車両001系「Laview」

 東京メトロ副都心線の反対側で直通運転を実施している西武鉄道では、現在新型特急車両001系「Laview」の増備を進めています。この001系は将来の副都心線や東横線への直通に対応するため、先頭車フロント部分の貫通扉(非常口)やATOを備えています。元町・中華街駅の留置線が完成した暁には、このLaviewが横浜まで乗り入れてくるかもしれません。元町・中華街駅の留置線新設をきっかけとした東横線・みなとみらい線のさらなるサービス向上に期待したいと思います。

▼参考
みなとみらい線車両留置場の整備事業について | お知らせ | みなとみらい線 | 横浜高速鉄道株式会社
みなとみらい線の延伸につながる!? 元町・中華街駅に計画中の「車両留置場」について直撃取材! - [はまれぽ.com] 横浜 川崎 湘南 神奈川県の地域情報サイト
MM線元町・中華街駅先に留置場 トンネル内に整備へ | 経済 | カナロコ by 神奈川新聞
日刊建設工業新聞 » 横浜高速鉄道/MM線車両留置場建設(横浜市中区)/優先交渉権者に鹿島JV
西武の新型特急001系「ラビュー」地下鉄乗り入れの可能性は? | 乗りものニュース

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