みなとみらい線元町・中華街駅留置線工事開始(2023年1月11日取材)

元町・中華街駅留置線建設工事

2017年にみなとみらい線の終点元町・中華街駅に留置線を新設する計画が発表されました。それから6年が経過し、現地ではトンネル掘削工事が開始されました。今回は新たに入手できた専門誌の情報も加えながら、現地の状況を解説します。

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みなとみらい線元町・中華街駅の折り返し機能向上の必要性

みなとみらい線Y500系電車 みなとみらい駅はクイーンズスクエア横浜の直下に駅があり、地上まで吹き抜けとなっている。
左:みなとみらい線Y500系電車
右:みなとみらい駅はクイーンズスクエア横浜の直下に駅があり、地上まで吹き抜けとなっている。
上:みなとみらい線Y500系電車
下:みなとみらい駅はクイーンズスクエア横浜の直下に駅があり、地上まで吹き抜けとなっている。

 横浜高速鉄道みなとみらい線(正式名称「みなとみらい21線」)は、横浜駅を起点にランドマークタワーやパシフィコ横浜があるみなとみらい地区、その先の官公庁街の地下を通り、中華街・山下公園近くに位置する元町・中華街駅に至る全長4.1kmの第三セクター路線です。1980年代からスタートした桜木町駅北側の工場跡地の再開発事業である「みなとみらい21」計画の1つとなるもので、当初は国鉄横浜線との相互直通運転が考えられていましたが、国鉄分割民営化による混乱期にあたったことから、最終的に直通先を東急東横線に決定しました。東横線との接続点は横浜駅となり、東横線の東白楽~横浜間を地下化、横浜~桜木町間は廃止されました。

みなとみらい線の終点元町・中華街駅。1面2線のホームで渋谷方面から来る列車の8割ほどを受け入れている。
みなとみらい線の終点元町・中華街駅。1面2線のホームで渋谷方面から来る列車の8割ほどを受け入れている。

 みなとみらい線内には折り返し可能な駅は無く、早朝・深夜のごく一部の列車を除き東横線の全列車がみなとみらい線に直通しています。みなとみらい線の終点元町・中華街駅は、東横線の桜木町駅と同様島式ホーム1面2線となっており、終日最短2分という曲芸的な折り返し運転を強いられています。2013年の東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転開始後は、特急・急行が10両編成となったため、列車種別と編成両数の関係を固定する必要性も出てきており、運行の難易度はより高くなっています。
 さらに今年3月からは東急新横浜線が開業し、東横線は新横浜線を経由して相鉄線と相互直通運転を開始しました。このように広域に渡る直通では1箇所で発生した運行トラブルが直通区間全体に影響を与えるため、ダイヤ乱れの早期収束の観点から元町・中華街駅の折り返し機能の向上は喫緊の課題となっています。

今年3月に開業した東急新横浜線。新横浜線開業に伴い目黒線の3000系は8両に増結された。 新横浜線開業に合わせて施設が8両対応に改修された目黒線奥沢駅。
左:今年3月に開業した東急新横浜線。新横浜線開業に伴い目黒線の3000系は8両に増結された。
右:新横浜線開業に合わせて施設が8両対応に改修された目黒線奥沢駅。
上:今年3月に開業した東急新横浜線。新横浜線開業に伴い目黒線の3000系は8両に増結された。
下:新横浜線開業に合わせて施設が8両対応に改修された目黒線奥沢駅。

 これとは別に、東急電鉄側の車両基地の不足という問題も生じています。みなとみらい線は沿線に車両基地用地を確保できなかったことから、開業以来東横線の元住吉検車区の一部を借用してきました。
 上記の新横浜線開業後は東急東横線に加えて田園調布~日吉間で並走している目黒線も同じく相鉄線と直通を開始しました。相鉄線との直通開始にあたり、目黒線は編成両数を従来の6両から8両に増結するとともに、新型車両3020系を3編成増備しました。また、目黒線の奥沢駅に併設されていた留置線は、用地を拡張せずに8両に対応させたため、収容編成数が8本から5本に減少しました。これら車両増加や留置線の不足分は元住吉検車区で受け入れることになったため、みなとみらい線が使用していた留置機能を明け渡す必要が生じています。



住宅地での工事における工夫

 このような事情もあり、2017年に横浜高速鉄道はみなとみらい線の終点元町・中華街駅に留置線を増設する計画を発表しました。留置線は元町・中華街駅の終端から港の見える丘公園直下へ向けてトンネルを延長して4本新設されます。駅終端から留置線本体までは200mほどの距離があるため、その間は単線サイズのトンネル2本で接続し、留置線本体部分は複線サイズのトンネルを2個並べた構造となります。。
 予定地の地上は上記の通り大半が港の見える丘公園となっていることから、NATM(新オーストリアトンネル工法)を採用し、地上を切り開かずにトンネルを掘削する計画です。なお、留置線が建設される地下20m付近は上総層群と呼ばれる50万年以上前に形成された硬い岩盤となっていること、NATM工法では地山(=掘削で露出した壁の土表面)を直接目視できることから、ここ数年多発しているシールド工法での地上陥没のようなトラブルは起きにくいと考えられます。

元町・中華街駅の留置線と新たな資料で判明した横坑の計画位置
元町・中華街駅の留置線と新たな資料で判明した横坑の計画位置
※国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「淡色地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆


 ここからは今回新たに入手した資料で判明した情報になります。元町・中華街駅の終端は駅舎が崖に張り付いたような構造になっていることから、ここにトンネル掘削用の立坑などを新設して留置線のトンネルを掘削するのは困難でした。その後立坑の位置については数案検討した結果、留置線の終端側の崖下にある程度土地が確保できることから、そこに横坑を設けて留置線本坑までアプローチすることになりました。横坑の形状についてもいくつか検討されてましたが、

①横坑口となる崖の上は港の見える丘公園があり、斜面を切り崩す等の地形変更は不可能であること
②横坑口前は住宅地であり、地表を大規模に掘削するのも不可能であること
③横坑口から本坑まで約30mの高低差があること
④横坑内にトラックやダンプカーが直接乗り入れられるよう横坑の傾斜を12%以内に抑える必要があること

といった条件を勘案した結果、崖下からスパイラル状の横坑を掘削し、本坑(留置線入口の複線部分)に取り付くルートが選択されました。留置線の完成後横坑は換気ダクトとして使用されることになっています。
 なお、今回のようなトンネル工事では工期短縮のため交代制で夜間も掘削作業が行われる場合があります。横坑口前は住宅地であることから、騒音が外に漏れないよう防音ハウスが設けられますが、それでも夜間作業の騒音規制値をオーバーしてしまうと予想されました。そこで横坑の途中に短い枝坑を設け、夜間の掘削中に出たズリ(残土)を朝になるまで仮置きすることとしました。

トンネル坑外設備の造設が進む

港の見える丘公園霧笛橋の崖下に設置中の坑外設備
坑外設備のアップ。建屋の左奥は斜面と密着しており、その部分に横坑口が設けられるものと思われる。
坑外設備へ通じる道路は工事車両通行のため歩道が若干縮小されている。
左:港の見える丘公園霧笛橋の崖下に設置中の坑外設備(同じ場所の2019年2月21日の写真
右上:坑外設備のアップ。建屋の左奥は斜面と密着しており、その部分に横坑口が設けられるものと思われる。
右下:坑外設備へ通じる道路は工事車両通行のため歩道が若干縮小されている。右下の白いハンドホールは地質・地下水調査のため設けられたボーリング孔(B-6)。
上:港の見える丘公園霧笛橋の崖下に設置中の坑外設備(同じ場所の2019年2月21日の写真
中:坑外設備のアップ。建屋の左奥は斜面と密着しており、その部分に横坑口が設けられるものと思われる。
下:坑外設備へ通じる道路は工事車両通行のため歩道が若干縮小されている。右下の白いハンドホールは地質・地下水調査のため設けられたボーリング孔(B-6)。

 元町・中華街駅留置線新設工事は2017年の計画発表後、予定地周辺で着工に向けた地質調査や地下水動態の調査が実施されました。並行して周辺住民への工事内容の説明や、民有地地下に掛かっている部分の土地使用権(区分地上権)の買収等の手続きが進められました。そして2022年春からは横坑口前でトンネル掘削中使用する設備を収めるための防音ハウス造設といった準備工事が開始されています。
 横坑口と坑外設備は、港の見える丘公園南端の霧笛橋の下に設けられます。霧笛橋の下は高さ20mほどの崖になっており、崖下と低地の住宅の間は長さ150m、幅15mほどの荒れ地となっていました。坑外設備はこの細長い荒れ地に展開されており、1月訪問時点では横坑口に一番近い部分の防音ハウスが一部組み上がった状態となっていました。工事車両は荒れ地の南端(Googleマップ等では「新山下弁財天跡」のマークがある)の道路から出入りすることになっており、歩道のガードパイプを一部撤去して道幅を拡幅しています。
 掘削作業自体は全て建屋の内部で行われるため、具体的な作業の様子は外から見ることができません。今後新たな変化が現れるのは、留置線のトンネル掘削が進んで元町・中華街駅のホーム終端に到達した後になるものと思われます。新たな動きがありましたら調査をしたいと思います。

▼参考
みなとみらい線車両留置場の整備事業について | お知らせ | みなとみらい線 | 横浜高速鉄道株式会社
みなとみらい線の延伸につながる!? 元町・中華街駅に計画中の「車両留置場」について直撃取材! - [はまれぽ.com] 横浜 川崎 湘南 神奈川県の地域情報サイト
MM線元町・中華街駅先に留置場 トンネル内に整備へ | 経済 | カナロコ by 神奈川新聞
港の見える丘公園直下のみなとみらい21線車両留置場計画 - 日本トンネル技術協会誌2022年11月号

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