武蔵小杉駅横須賀線ホーム増設工事(2020年8月11日取材)

横須賀線武蔵小杉駅を発車する相鉄線海老名行きE233系と増設工事中の下りホーム

2010年に横須賀線西大井~新川崎間で武蔵小杉駅が開業しました。それから10年が経過し、駅周辺では予想を上回るペースで住宅建設が進んでいることから混雑が著しくなっています。これを受け、JR東日本と川崎市では2018年に横須賀線ホームの増設をメインとする混雑対策を進めていくことを発表しました。発表から2年が経過し、現地では新ホームの工事が本格化しています。今回は武蔵小杉駅周辺のこれまでの環境変化や新ホーム工事の現状について解説します。

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横須賀線武蔵小杉駅(2011年8月17日取材)(2011年9月3日作成)

横須賀線武蔵小杉駅新設の経緯

武蔵小杉駅横須賀線ホーム
横須賀線ホームの下に新設された新南口
南武線ホームとの間は動く歩道を完備した通路で連絡
左:武蔵小杉駅横須賀線ホーム
右上:横須賀線ホームの下に新設された新南口
右下:南武線ホームとの間は動く歩道を完備した通路で連絡
上:武蔵小杉駅横須賀線ホーム
中:横須賀線ホームの下に新設された新南口
下:南武線ホームとの間は動く歩道を完備した通路で連絡

 横須賀線武蔵小杉駅の新設は2005(平成17)年3月に制定された川崎市の都市計画「川崎フロンティアプラン」の中に盛り込まれたもので、武蔵小杉駅周辺の工場移転に伴う再開発のメインをなすものとして位置づけられています。新駅は西大井駅から6km、新川崎駅から3kmにある横須賀線と南武線の交差地点に設けられており、ホーム形状は15両編成対応の島式1面2線となっています。駅に必要な用地は横須賀線に隣接するNEC玉川事業場の敷地を一部譲受し、.横須賀線下り線をそこへ移設することで上下線間隔を広げて確保しました。
 横須賀線武蔵小杉駅は2010(平成22)年3月13日に開業し、横須賀線・湘南新宿ライン・相鉄直通(2019年11月30日~)の全列車に加え、この線路上を走行する特急列車のほとんどが停車しています。これにより東京駅まで乗り換えなしで移動することが可能となり、所要時間は従来(川崎駅経由)の40分から20分へ大幅に短縮されました。また、新駅の南側には新たに新南改札(横須賀線口)と駅前ロータリーが開設され、駅周辺で開発が進むタワーマンション群からのアクセスも向上しました。
 開業直後は横須賀線ホームと南武線ホームをつなぐ通路が一部未完成となっており、南武線線路脇に設けた仮の連絡通路を使用していました。この通路は一部箇所で幅が狭くなっており混雑が予想されたことから、東京都内の地下鉄駅で見られるような改札外を経由した乗り換えが可能となっていました。動く歩道を完備した新しい連絡通路は2011(平成23)年6月25日に完成し、仮設通路は撤去され改札外乗り換えの扱いも終了しました。

周辺開発と横須賀線ホームの混雑緩和対策

武蔵小杉駅前に林立するタワーマンション 横須賀線武蔵小杉駅開業前後の乗降客数の推移
左(1):武蔵小杉駅前に林立するタワーマンション
右(2):横須賀線武蔵小杉駅開業前後の乗降客数の推移


 武蔵小杉駅横須賀線ホームの乗降客数(当駅での乗降+南武線からの乗り換え)は、開業前の予測で1日7万人とされており、上記の施設もそれを前提に設計されていました。しかし、新駅開業により東京都心への所要時間が劇的に短縮されたことから、当初は予想していなかった駅北側の住宅地でも大型のマンションが次々と建設されるようになりました。これにより、乗降客数は計画を大幅に上回るペースで増加し続けており、2016(平成28)年度には当初予測の実に3.5倍となる1日約25万人に達しています。
 この結果、武蔵小杉駅構内の各所で非常に激しい混雑が発生するようになりました。混雑は横須賀線ホームやコンコースの全域に渡って発生していますが、特に激しいのが再開発で建設されたタワーマンション群の中にある新南改札と南武線ホームをつなぐ連絡通路の2箇所です。新南改札では、朝ラッシュ時に改札を入ってすぐのところにあるエスカレーターに向かう利用者が「渋滞」を起こしており、ひとたび遅延や運転見合わせが発生しようものなら、その列は駅前ロータリーを超えて数百mに及ぶこともありました。この現状に対してJR東日本も対策をこまねいていたわけではなく、2018(平成30)年4月には新南口前から直接横須賀線ホームに上がれる入場専用改札口を増設しています。この改札口はICカード専用改札機2台とエスカレーター1機という必要最小限の設備となっており、開放されるのは平日の朝7~9時の2時間のみというラッシュ時の入場客バイパスに特化した設計となっています。この他、横須賀線と南武線の乗り換えルートとなる南武線のホームについても、現状の用地を最大限活用して最大1m拡幅されています。

2018年4月に新設された新南口入場専用改札。使用開始時点では床などの仕上げがまだ終わっておらず、完成を待っている間も無いほど切迫した混雑状況が伺われた。 2018年4月に新設された新南口入場専用改札。使用開始時点では床などの仕上げがまだ終わっておらず、完成を待っている間も無いほど切迫した混雑状況が伺われた。
2018年4月に新設された新南口入場専用改札。使用開始時点では床などの仕上げがまだ終わっておらず、完成を待っている間も無いほど切迫した混雑状況が伺われた。2018年5月13日撮影

 このように短期的に取れる対策は取ってきたものの、武蔵小杉駅周辺では今後も続々と大型のマンション完成が控えており現在の設備では混雑緩和に限界が来ることが予想されました。横須賀線ホームは、横浜寄りの直下に武蔵野南線(貨物線)のトンネルが食い込んでくる※1という当駅特有の制約があり、現在のホームにこれ以上階段や改札口を追加するのは困難となっています。
 そこで抜本的な対策として、ホームを増設して上下線の利用者を完全に分離することが計画されました。今回参照した資料では言及はありませんでしたが、国土交通省が5年ごとに実施している三大都市圏の鉄道利用動向に関する調査「大都市交通センサス」によれば、横須賀線武蔵小杉駅では約3割の利用者が横浜方面に向かっている※2という結果が出ています。これは横浜駅周辺(みなとみらい・関内駅周辺)にあるオフィス等への通勤需要がある程度存在するためです。そのため、上下線で駅構内の利用者動線を完全に分離できれば混雑緩和は十分期待できるものとなっています。
 JR東日本では、2017年8月より川崎市と共同で武蔵小杉駅の混雑緩和に関する検討を開始し、翌2018(平成30)年7月に横須賀線下りホーム増設をメインとした対策を進めていくことを発表しました。

▼脚注
※1:地下の武蔵野線トンネルと地上の横須賀線高架橋は完全な一体構造となっており、柱を移設するといった大規模な改造が不可能となっている。また、道路との交差部分以外は地表に相当する高さに床面が無く、地下のトンネルまで吹き抜けになっており、この空間を使ってコンコースを拡張するのも困難となっている。
※2:同様の傾向は並行する東急東横線でも見られており、朝ラッシュ時に上下両方向で通勤特急・女性専用車が設定されている。


武蔵小杉駅横須賀線ホームの断面図 武蔵小杉駅横須賀線下りホームの増設位置
左(1):武蔵小杉駅横須賀線ホームの断面図
右(2):武蔵小杉駅横須賀線下りホームの増設位置
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「淡色地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆したものである。


 増設される下りホームはNEC玉川事業場の建物に重ならない範囲で最大限のサイズを確保することとし、平均の幅は5mになる計画です。ホームの位置は東京寄りの南武線ホーム連絡通路の利用者の流動を妨げないよう横浜寄りに55mずらされます。増設ホームの階段・エスカレーターは、上記の通りピーク時であっても上りホームほど多くの利用はないと予想されることから、2箇所ずつ設置することとし、その向きはホーム上の混雑を均等にできるよう決定されました。下りホームの増設後、現ホームは下り線側に柵を設置し上り専用ホームとして使用します。(今年春にホームが増設された千駄ヶ谷駅・原宿駅と同形態)これら新ホームの設置にかかる費用はJR東日本が負担します。
 これに加えて、南武線ホーム連絡通路の接続地点に新しい改札口が設置されます。新改札口は綱島街道・東海道新幹線・横須賀線の下を横断して新設される通路を経由し、駅西側のマンション群とのアクセスルートを形成します。新改札口は横須賀線下りホームの使用開始よりも後の完成が予定されており、設置にかかる費用約30億円は川崎市が負担します。



新ホームの高架橋建設が進む

ホーム増設計画の決定後はNECとの間で土地の追加譲受の手続きが行われ、今年春からは新ホームの建設が本格化しています。今回は8月11日に調査した現地の様子をお伝えします。

現ホームからホームが増設される下り線を見る。メッシュ板の向こう側ではすでに工事が始まっている。
現ホームからホームが増設される下り線を見る。メッシュ板の向こう側ではすでに工事が始まっている。

 ホームが増設される下り線外側は防風柵で使用されるようなメッシュ状になった波型の鉄板が設置されています。今後はこの鉄板を取り外してホームを増設することになります。鉄板の穴越しに既に向こう側で工事が始まっていることが確認できます。
 なお、現在のホームの屋根は現ホーム上の柱と下り線外側にある柱の計3列で支える構造になっています。この支柱は将来の部分的な撤去などは想定した設計にはなっておらず、下りホーム増設後も現在の位置に残ります。ここに増設ホームの屋根の支柱が加わった場合、ホーム上の見通しが悪くなり安全上問題が生じることが予想されました。このため、3DCGを用いてホーム上の見通しをシミュレーションした結果、やはり見通しが悪く車掌や駅員による安全確認に問題が生じることが判明したため、増設ホームの屋根は上部に斜めの棒材を追加して外側の柱1列のみで支える片持ち構造とすることが決定しました。

横浜寄りのホーム端で交差する道路から増設ホームの工事を見る。
既存ホーム側と増設ホームの高架橋と一体化させるため鉄筋が削り出されている。
新南改札前から高架橋の構築作業を見る。コンクリートの型枠が組まれている。
左:横浜寄りのホーム端で交差する道路から増設ホームの工事を見る。
右上:既存ホーム側と増設ホームの高架橋と一体化させるため鉄筋が削り出されている。
右下:新南改札前から高架橋の構築作業を見る。コンクリートの型枠が組まれている。
上:横浜寄りのホーム端で交差する道路から増設ホームの工事を見る。
中:既存ホーム側と増設ホームの高架橋と一体化させるため鉄筋が削り出されている。
下:新南改札前から高架橋の構築作業を見る。コンクリートの型枠が組まれている。

 高架下のNEC工場敷地内では既に増設ホームの建設工事が本格化しており、コンクリートでできた柱が立ち並びつつあります。増設ホームと既存ホームの高架橋は、梁で接続して完全に一体化されることになっており、既存ホームの側面には表面のコンクリートを削られ内部の鉄筋が露出している箇所があります。

横須賀線ホームの下にある新南改札
新南改札を入ったところのコンコース。今後右側の壁を撤去して増設ホームへ通じる階段・エスカレーターが整備される。
コンコース内に掲出されているホーム増設についてのお知らせ
左:横須賀線ホームの下にある新南改札
右上:新南改札を入ったところのコンコース。今後右側の壁を撤去して増設ホームへ通じる階段・エスカレーターが整備される。
右下:コンコース内に掲出されているホーム増設についてのお知らせ
上:横須賀線ホームの下にある新南改札
中:新南改札を入ったところのコンコース。今後右側の壁を撤去して増設ホームへ通じる階段・エスカレーターが整備される。
下:コンコース内に掲出されているホーム増設についてのお知らせ

 横須賀線ホームの下は新南改札とコンコースになっています。今後は現在のコンコースのレイアウトはほぼそのままに下り線側の壁を撤去して増設ホームへ通じる階段やエスカレーターが追加されます。コンコース内には新ホームの完成イメージや工事に伴い騒音が発生する場合があることを告知するポスターが掲出されています。

西側を並行する綱島街道は拡幅工事中 綱島街道から南武線と横須賀線・東海道新幹線の交差部分を見る。右の空間は2010~2011年にかけて仮設通路が設置されていた。
左(1):西側を並行する綱島街道は拡幅工事中
右(2):綱島街道から南武線と横須賀線・東海道新幹線の交差部分を見る。右の空間は2010~2011年にかけて仮設通路が設置されていた。(同じ場所の2010年4月3日の様子


 横須賀線武蔵小杉駅の西側を並行する綱島街道(神奈川県道2号東京丸子横浜線)は、2車線しかなく以前から渋滞が常態化していました。そのため、再開発着手に合わせて4車線への拡幅事業が進められており、現在は最終段階である南武線を越える陸橋(上丸子跨線橋)の架け替えが進められています。当初計画では2011年度の完成が予定されていましたが、地上・地下ともに多数の鉄道路線が近接していることから、安全対策に時間を要しており2022(令和4)年度に完成が延期されています。
 横須賀線武蔵小杉駅のホーム増設に合わせて東京寄りの設けられる新改札口はこの陸橋から60mほどの地点に計画されており、綱島街道・東海道新幹線・横須賀線の下を交差するアクセスルートが設けられることになっています。南武線の線路脇には、2010~2011年に南武線ホームと横須賀線ホームをつなぐ仮設通路が設置されていた空間が残されており、これを新改札口のアクセスルートに流用するものとみられます。現在の綱島街道の陸橋は東側にしか歩道がありませんが、架け替え完了後は東西両側に歩道が設けられるため駅北側の住宅地から陸橋を経由して新改札口へ向かうことも可能になります。これにより現在北改札(南武線側)や連絡通路に集中している利用者が分散されるため、駅構内の混雑緩和が期待できます。

新ホーム使用開始は再来年

ホーム増設工事の本格化に伴い、下り線側のメッシュ板の取り外しが始まった。
ホーム増設工事の本格化に伴い、下り線側のメッシュ板の取り外しが始まった。2020年11月5日撮影

 武蔵小杉駅横須賀線下りホームは2022年度末の使用開始が予定されています。11月に入り、現地では新ホーム建設のため下り線側のメッシュ板を取り外す作業が開始されているのを確認できます。新型コロナウイルス感染拡大を機に大都市では通勤需要が大きく変化することが予想されていますが、武蔵小杉駅については元々の混雑が異常な水準だったこともあり、ホーム増設の必要性を変えるほどではないものと思われます。快適に利用できる武蔵小杉駅が実現するまでもうしばらくの辛抱です。

▼参考
JR横須賀線武蔵小杉駅及び駅周辺の混雑緩和に向けた取組を進めます - JR東日本ニュースリリース(PDF/526KB)
川崎市:JR横須賀線武蔵小杉新駅について
川崎市:JR横須賀線武蔵小杉駅及び駅周辺の混雑緩和に向けた取組
横須賀線・武蔵小杉駅、ホームと改札増設 混雑緩和へ  :日本経済新聞
上丸子跨線橋 拡幅工事完了に遅れ 年度末までに新工期公表へ | 中原区 | タウンニュース
市政報告Vol.1 綱島街道 上丸子跨線橋架替工事の進捗と今後 川崎市議会議員 松川正二郎 | 中原区 | タウンニュース
【現場最前線】トンネル直上、角型鋼管を敷き詰め作業床確保 武蔵小杉駅の耐震補強 ~ 建設通信新聞の公式記事ブログ
武蔵小杉駅混雑緩和対策(2面2線化) - 東工技報Vol.32(2018年度)71~75ページ

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横須賀線武蔵小杉駅新設と再開発(2007年1月18日作成)
横須賀線武蔵小杉駅新設工事(2009年11月24日取材)(2010年1月10日作成)
横須賀線武蔵小杉駅(2010年4月3日取材)(2010年5月31日作成)
横須賀線武蔵小杉駅(2011年1月9日取材)(2011年2月14日作成)
横須賀線武蔵小杉駅(2011年8月17日取材)(2011年9月3日作成)

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