武蔵小杉駅横須賀線ホーム増設工事(2022年2・10月取材)

横須賀線の新鋭E235系と完成間近の新ホーム

武蔵小杉駅は駅周辺で当初予想を超える規模の住宅建設が進んだことにより混雑が著しくなっています。この問題を解決するため、現在横須賀線ホーム増設をメインとする混雑緩和対策工事が進められています。今週末12月18日より横須賀線新ホームの使用が開始されることが発表されました。完成を間近に控えた新ホームの状況を中心に、武蔵小杉駅の現在についてお伝えします。

▼関連記事
武蔵小杉駅横須賀線ホーム増設工事(2021年2月19日取材)

横須賀線武蔵小杉駅開業と急激な利用者数増加

武蔵小杉駅横須賀線ホーム 横須賀線武蔵小杉駅開業前後の乗降客数の推移
左:武蔵小杉駅横須賀線ホーム
右:横須賀線武蔵小杉駅開業前後の乗降客数の推移
上:武蔵小杉駅横須賀線ホーム
下:横須賀線武蔵小杉駅開業前後の乗降客数の推移

 横須賀線武蔵小杉駅の新設は、2005(平成17)年3月に制定された川崎市の都市計画「川崎フロンティアプラン」の中に盛り込まれたもので、武蔵小杉駅周辺の工場移転に伴う再開発のメインをなすものとして位置づけられています。駅の設置位置は西大井~新川崎間の南武線との交差地点で、2010(平成22)年の開業後は特急湘南などごく一部を除きこの線路上を走行する全列車が停車しています。当駅の開業により、東京駅までの所要時間は従来の川崎経由と比べ約20分短縮されました。
  武蔵小杉駅周辺では、横須賀線の新駅計画時点より工場跡地にタワーマンション建設が計画されており、当初1日7万人の利用を見込んでいました。しかし、新駅開業により東京都心への利便性が大幅に向上した結果、当初想定していなかった南武線北側でも大型マンションが次々と建設されるようになりました。これにより横須賀線の利用者数は想定を上回るペースで増加し続けており、2016(平成28)年度には当初予測の3.5倍となる1日約25万人に達しています。
 そのため、駅構内では横須賀線ホームを中心に激しい混雑が発生しています。これまでJR東日本では横須賀線ホームへの入場専用改札の増設や、現状の用地を活用した南武線ホーム拡幅などの対応を行ってきましたが、未だ解決を見ていない状況です。そこで、JR東日本と川崎市では抜本的な混雑緩和対策として、横須賀線下りホーム増設をメインする対策を行うことを決定しました。

武蔵小杉駅横須賀線ホームの断面図 武蔵小杉駅横須賀線下りホームの増設位置
左:武蔵小杉駅横須賀線ホームの断面図
右:武蔵小杉駅横須賀線下りホームの増設位置
上:武蔵小杉駅横須賀線ホームの断面図
下:武蔵小杉駅横須賀線下りホームの増設位置
※本図は国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「淡色地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆したものである。


 増設される下りホームはNEC玉川事業場の建物に重ならない範囲で最大限のサイズを確保することとし、平均の幅は5mになる計画です。ホームの位置は東京寄りの南武線ホーム連絡通路の利用者の流動を妨げないよう横浜寄りに55mずらされます。下りホームの増設後、現ホームは下り線側に柵を設置し上り専用ホームとして使用します。新ホームの設置にかかる費用はJR東日本が負担します。
 これに加えて、南武線ホーム連絡通路の接続地点に新しい改札口が設置されます。新改札口は綱島街道・東海道新幹線・横須賀線の下を横断して新設される通路を経由し、駅西側のマンション群とのアクセスルートを形成します。新改札口は横須賀線下りホームの使用開始よりも後の完成が予定されており、設置にかかる費用約30億円は川崎市が負担します。



完成間近の新ホーム

新ホームの床面が8割ほど完成した今年2月の状況 営業運転中の下り線とNECの敷地に挟まれている部分は完成したホームにクレーン車を持ち込んで資材を搬入した。
左:新ホームの床面が8割ほど完成した今年2月の状況
右:営業運転中の下り線とNECの敷地に挟まれている部分は完成したホームにクレーン車を持ち込んで資材を搬入した。2022年2月15日撮影
上:新ホームの床面が8割ほど完成した今年2月の状況
下:営業運転中の下り線とNECの敷地に挟まれている部分は完成したホームにクレーン車を持ち込んで資材を搬入した。2022年2月15日撮影

 2022年春までは前年に引き続き新ホーム本体の工事が行われました。新ホームは。コンクリート製の柱と梁のみの高架橋の上にホーム本体となる鋼製桁と床面となるコンクリートパネルを置いた構造となっています。床板の敷き詰めはホーム中央部分が最後となりました。新ホームのすぐ横はNECの建物が建っており、ホームの外から資材を搬入するのが難しかったため、ホームが完成している部分に小型のクレーン車を載せてそこから床板を搬入する方法が採用されました。

新ホーム下の支持材は既存の高架橋高覧を切り欠いて埋め込んでいる。 高架下コンコースにも柱に斜めの支持材が追加された。
左:新ホーム下の支持材は既存の高架橋高覧を切り欠いて埋め込んでいる。
右:高架下コンコースにも柱に斜めの支持材が追加された。
上:新ホーム下の支持材は既存の高架橋高覧を切り欠いて埋め込んでいる。
下:高架下コンコースにも柱に斜めの支持材が追加された。

 新ホームの床板を支える鋼製桁は、新設された高架橋と既存の高架橋に跨って設置されています。既存の高架橋の高欄と桁が干渉する部分は高欄を切り取って固定用の金具を埋め込んでいます。また、高架下のコンコースにも既存の高架橋の柱から新ホームを支える斜めの鋼材が追加されています。いずれも金具のサイズはかなり大きく、将来のホームドア設置による重量増加にも耐えられるよう考慮されている模様です。

横浜寄りに飛び出している部分は比較的進捗が早く、2月時点で笠石の敷き詰めが始まっていた。
下り線の第1閉塞信号機は新ホームの先に移設される。
下りホーム東京寄り端。新ホームが重ならない部分は既存の防風柵が残されている。
左:横浜寄りに飛び出している部分は比較的進捗が早く、2月時点で笠石の敷き詰めが始まっていた。
右上:下り線の第1閉塞信号機は新ホームの先に移設される。
右下:下りホーム東京寄り端。新ホームが重ならない部分は既存の防風柵が残されている。
上:横浜寄りに飛び出している部分は比較的進捗が早く、2月時点で笠石の敷き詰めが始まっていた。
中:下り線の第1閉塞信号機は新ホームの先に移設される。
下:下りホーム東京寄り端。新ホームが重ならない部分は既存の防風柵が残されている。

 先ほど説明した通り、新ホームは横浜寄りに約50mずれています。横浜寄りに飛び出している部分は周辺が開けていたこともあり比較的早くホーム本体の工事が完成し、2月の時点でタイルの敷き詰めなどが開始されていました。
 下り線の第1閉塞信号機は移動するホームの途中に位置してしまうため、ホームの先に移設用の新しい信号機が準備されています。移設後はその先にある新鶴見信号場の場内信号機との間隔が狭くなるため、新しい信号機は現示段階を増やせるよう4灯式となっています。また、現ホーム途中にある第2閉塞信号機についても間隔を最適化するため横浜寄りに数十m移設されます。

発車標なども設置され、使用準備が整った今年10月の状況 高架下でも下りホームの接続に向け壁の解体が進む。
左:発車標なども設置され、使用準備が整った今年10月の状況
右:高架下でも下りホームの接続に向け壁の解体が進む。2022年10月22日撮影
上:発車標なども設置され、使用準備が整った今年10月の状況
下:高架下でも下りホームの接続に向け壁の解体が進む。2022年10月22日撮影

 こちらはそれから8カ月経過した今年10月22日の様子です。新ホームはほぼ完成し、発車案内板や列車非常停止ボタンなどの運転用設備も設置されました。急カーブであるため、ホームの床下には回転ランプや転落検知マット※1も設置されています。一方、高架下のコンコースでも新ホームへの接続のため、下り線側の壁が順次解体されておりベニヤ板を使った仮壁に置き換えられています。

▼脚注
※1:ホームの下に並んでいるトラ模様で縁取られたゴムマット。センサーが内蔵されており、ホームと電車の間に転落した乗客が踏むとホーム前後にある緊急停止用の赤色ランプが点灯する。


最新の3D技術により工事のスピードアップ

新ホーム下の桁に貼られたRECONSTRUCTタグ
新ホーム下の桁に貼られたRECONSTRUCTタグ

 2月の現地調査時に、新ホームの床下にある鋼材に“RECONSTRUCT TAG”と書かれた2次元バーコードが貼り付けられているのを発見しました。
  RECONSTRUCT社はアメリカにある建築設計用ソフトの開発会社で、2021年よりNTTドコモの出資により日本国内での展開が本格的に開始されています。RECONSTRUCT社では、設計図面から生成された3Dイメージと、現場で360度カメラを使用して撮影された画像を合成することで、現場の3Dイメージ※2を簡単に生成できるシステムを開発しました。2次元バーコードは双方のデータを合成する際の固定基準点となるものです。この合成データをクラウドで共有することで、設計会社のオフィスでも常に現場にいるのと同じ3D映像を見られるようになり、工事の進捗管理や、それに応じた設計の見直しなどが効率的にできるようになると期待されています。
 武蔵小杉駅の工事では、このRECONSTRUCT社のシステムに加えて、ハンディー3Dスキャナーによる構造物の寸法測定、ドローンによる資材運搬など様々な最新技術の実験が行われています。これらの技術はBIM/CIM(Building/ Construction Information Modeling, Management)と呼ばれており、建設業界の人手不足への対応として近年急速に利用が拡大しています。BIM/CIM技術は当サイトでも長年レポートしている渋谷駅の再開発などでも活用されており、工事のスピードアップに威力を発揮しています。

▼脚注
※2:Google Earthの3Dイメージに近いものと思われる。


新改札口は2023年度オープン

架け替え工事が終盤を迎えた綱島街道の陸橋。この奥に横須賀線ホームへ通じる新改札口ができる。
架け替え工事が終盤を迎えた綱島街道の陸橋。この奥に横須賀線ホームへ通じる新改札口ができる。

 冒頭でも触れたとおり、横須賀線下り新ホームは今週末12月18日(日)より使用を開始する予定です。下り新ホーム使用開始後現ホームは上り専用となり、下り線側には固定柵が設置されます。
 一方、時期が未定となっていた横須賀線ホーム東京寄りへの新改札口設置についても、通路の設置予定場所にあった綱島街道と南武線が交差する陸橋(上丸子跨線橋)架け替え工事が間もなく終了することから、今年6月17日に川崎市との間で施工協定が締結され工事が開始されました。新改札口の完成は2023年度中となっており、架け替えられた綱島街道の陸橋を通じて南武線北側からのアクセスルートが誕生します。

▼参考
JR横須賀線武蔵小杉駅及び駅周辺の混雑緩和に向けた取組を進めます - JR東日本ニュースリリース(PDF/526KB)
横須賀線武蔵小杉駅の混雑緩和に向けて下りホーム新設工事に着手します - JR東日本ニュースリリース(PDF/434KB)
横須賀線 武蔵小杉駅 新下りホームの供用を開始します - JR東日本ニュースリリース(PDF/200KB)
JR武蔵小杉駅新規改札口設置工事に着手します - JR東日本ニュースリリース(PDF/228KB)
川崎市:JR横須賀線武蔵小杉駅及び駅周辺の混雑緩和に向けた取組
横須賀線・武蔵小杉駅、ホームと改札増設 混雑緩和へ  :日本経済新聞
【JRE-BIM最前線/一般化とその先へ(下)】点群技術の高度利用/受発注者が知見合わせ最先端へ | 建設通信新聞Digital
建設現場における作業手順をMR(複合現実)で可視化し、工程管理での有効性を実証 | ニュース | 大林組
TISとDataMesh、大林組の工事におけるBIM/CIM、Mixed Reality技術の活用に向けた試行を実施 | ニュースリリース | 2020年度 | ニュース | TIS株式会社
武蔵小杉駅混雑緩和対策(2面2線化) - 東工技報No.32(2018年)71~75ページ
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