カテゴリ:鉄道:建設・工事
東武野田線高架化工事(2012年7月28日取材)
公開日:2012年08月10日19:39

東武野田線清水公園~梅郷間では2017年度の完成を目指して高架化事業が進められています。現段階ではまだ仮線敷設などの本格的な工事は開始されていませんが、着工前の現状把握ということで7月28日(土)に現地を調査してまいりましたので、事業の概要とともに眺めてみたいと思います。
■東武野田線の概要と特徴


左:2005年のつくばエクスプレス線開業と同時に新設された流山おおたかの森駅。2007年7月1日撮影
右:柏駅は頭端式ホームとなっており、船橋方面・大宮方面が同一平面上で乗り換えできる。2007年6月3日撮影
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東武野田線は埼玉県さいたま市の大宮駅を起点とし、春日部、野田、流山、柏、鎌ヶ谷の各市を経由して千葉県船橋市の船橋駅に至る全長62.7kmの民鉄線です。首都圏外延部のベッドタウンを半環状に結ぶ路線であることから、朝夕の通勤需要は大きく、1日の乗降人員はほとんどの駅で1万人を超えています。運行系統は柏駅がスイッチバック形の配線となっていることから「大宮~柏間」と「柏~船橋間」で完全に分断されています。ただし、両者の運行パターンは合わせられており、短時間で乗り換えが可能となるなど柏駅をまたいだ利用にも一定の配慮がなされています。
野田線はの歴史は古く、1922(大正11)年に柏~野田町(現・野田市)間が「北総鉄道野田線」(現在京成高砂~印旛日本医大を走る北総鉄道とは無関係)として開業したことに始まります。以後、船橋・大宮の両方向へ延伸を重ね、1930(昭和5)年に現在の形が完成しました。全線開業とともに社名を「総武鉄道」(現在のJR総武本線を建設した総武鉄道とは無関係)に改め、続いて1944(昭和19)年には戦時体制に伴う陸上交通事業調整法の制定により東武鉄道に吸収合併され現在に至っています。
戦後は高度経済成長とともに沿線が首都圏のベッドタウンとして急速な発展を遂げたことから複線化や車両の大型化が推進されるようになりました。しかし、都心に直接乗り入れている路線と比べるとそのペースは遅く、全駅が交換可能であるものの、単線区間も多く残っています。現在のダイヤはこれらの交換設備をフルに生かすものとなっており、優等列車の設定や現在以上の増発は困難です。また、車両に関しても2004(平成16)年まで吊り掛け式駆動の5000系が残り、以後も他の路線の中古車である8000系のみで運行されるなど更新はあまり進んでいません。
このように、野田線の近代化が遅れがちなのは東京都心へ向かう利用者の多くは、野田線を乗り通さずに都心から放射状に延びるJR各線やつくばエクスプレス線などの民鉄線に乗り換えてしまうためと考えられます。すなわち、乗客1人当たりの乗車距離が短いため、極度に混雑することが少なく、速達性は要求されず、むしろ各駅停車による本数の確保が優先されているということです。この点は一回り内側を平行するJR武蔵野線にも似た条件であり、郊外で完結する鉄道路線の特殊性を表していると見ることもできます。
▼参考
船橋市|東武鉄道 野田線
駅情報(乗降人員) | 企業情報 | 東武鉄道ポータルサイト
■清水公園~梅郷間の高架化事業
2004(平成16)年の東岩槻~春日部間・鎌ヶ谷~新鎌ヶ谷間の複線化以後動きのなかった野田線ですが、以後も設備改良に向けた準備は続いており、2008(平成20)年8月には新たに清水公園(しみずこうえん)~梅郷(うめさと)間の連続立体交差事業(高架化)着手が発表されました。
高架化されるのは清水公園駅の南側から梅郷駅手前にある都市計画道路中根山崎線(陸橋により立体化済み)までの2,905mの区間です。この区間の高架化により愛宕駅付近にある主要地方道つくば野田線や野田市駅付近にある主要地方道野田牛久線をはじめとする11か所の踏切が解消され、交通渋滞の緩和、安全性向上、地域分断の解消が実現します。また、愛宕(あたご)駅・野田市(のだし)駅が高架化され、バリアフリー化の実現や新たに生み出される高架下の空間を地域振興のための施設として活用することができます。さらに、高架化に合わせて駅前広場の整備も行われる計画であり、路線バスとの乗り継ぎの円滑化など、公共交通機関としての機能強化も可能となります。
この高架化事業は国の連続立体交差事業の対象となっており、千葉県が事業主体となり進められています。総事業費は約353億円の予定で、国・地方公共団体(千葉県・野田市)・東武鉄道の各団体が負担します。完成予定は2017(平成29)年度です。
■現在の状況(2012年7月28日取材)
現在は全区間とも工事着手に向けた用地買収を行っている段階であり、仮線敷設などの本格的な工事を行っている個所はありません。今回は着工前の記録として各区間の状況を見ておきたいと思います。
●清水公園~愛宕間


駅間・地上アプローチ区間の高架化前後の断面図
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清水公園駅を出ると線路はすぐに高架橋へ上がり、愛宕駅の直前まで上りこう配となります。このスロープ区間は盛土とコンクリートの高架橋を併用した構造となる予定です。
なお、現時点で発表されている計画ではこの区間を含め、駅間は全て単線のまま高架化される予定となっており、複線化は同時施工されない模様です。これは高架化工事が道路整備の一環として国から補助が得られるのに対し、複線化は現時点で補助が受けられる支援制度が無いため、事業費の全額を鉄道事業者(東武鉄道)が負担しなければならないためと考えられます。複線化を行う場合、新たな用地買収も必要になることから、自治体独自の支援などが無い限り実現は困難であると予想されます。


左:清水公園駅のホーム端から愛宕駅方面を見る。左の線路(3番線)は使用停止中。
右:柏行き列車の前面展望。仮線用地は右側(西側)に用意されている。
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清水公園~愛宕間はすでに仮線用地の取得はおおむね完了しています。仮線用地は現在線の西側に用意されており、実際の高架化工事ではここに線路を移設した後、現在線の跡地に高架橋を建設することになります。なお、左写真で画面左側に見える空き地は最近区画整理が行われた部分ですが、住宅の建設は遅々として進んでおらず、ほとんどが雑草のはびこる荒れ地のままとなっています。
●愛宕駅

愛宕駅の高架化前後の断面図。高架化後も対向式ホーム2面2線となる。
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愛宕駅は対向式ホーム2面2線の配線で、高架化後も位置・配線とも同一形態となる予定です。仮線は現在のホームの東側に建設される計画となっており、上下線を片方ずつ移動・高架化していくことになります。


左:愛宕駅の駅舎とホーム。手前は主要地方道つくば野田線の踏切。
右:愛宕駅のホーム。木製の屋根が歴史を感じさせる。
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現在の愛宕駅の駅舎は柏方で交差する主要地方道つくば野田線の踏切に接した線路西側にあります。駅舎・跨線橋・ホームはいずれも建設が古く、首都圏では数少なくなった木造となっています。高架化着工が近いことから、これらの施設は必要最小限のメンテナンスしか行われておらず、エレベータなどのバリアフリー設備も一切設置されていません。
駅舎前を通る主要地方道つくば野田線は2車線の狭い道路ですが、交通量は非常に多く、道路の反対側に渡れるよう線路に並行して歩道橋が設けられています。高架化後は駅の東西両側に駅前広場が新設される予定となっており、大型バスなどの乗り入れも可能になる模様です。駅の東側では着工に向けた用地買収が進んでおり、空き地が目立っています。
●愛宕~野田市間



左:愛宕駅前の踏切から野田市駅方面を見る。遠方に見えるのが野田市駅の場内信号機。仮線用地は右側にある。
中:野田市駅場内信号機付近で仮線用地は左側(東側)に移動する。
右:左にカーブしながら野田市駅に進入。
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愛宕~野田市間は清水公園~愛宕間と同様現在線の西側に仮線用地が確保されています。野田市駅の場内信号機から先は野田市駅構内の側線群を仮線用地として使用するため、仮線用地は東側に移動します。
●野田市駅

野田市駅の高架化前後の断面図。高架化後は島式ホーム2面4線(+保守用側線1線)となる。
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野田市駅は駅前にあるキッコーマン野田工場の貨物輸送を行っていた名残で側線が多く残されています。高架化後はこれらの側線は保守用車両の留置線となる1線を除いてすべて廃止されることになっており、代わりにホームを2面とも島式化し、現在より1線多い2面4線の配線とする予定です。


左:1番線(大宮方面行きホーム)から野田市駅構内を見渡す。ここも屋根は木製。
右:2・3番線(柏方面行きホーム)。左側の側線は貨物列車が運行されていた時代の名残で現在は保守用機材の留置線となっている。
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現在の野田市駅は駅舎に接する1番線(大宮方面行きホーム)が片面ホーム、2・3番線(柏方面行きホーム)が島式ホームとなっており、双方のホームは地下道で連絡しています。工事中の仮線は上下線兼用の3番線を柏方面行き、2番線を大宮方面行きとして使用し、現在の1番線の跡地に高架橋を建設するという手順が取られる予定となっています。
ホームの屋根や駅舎は全て木造となっており、高架化工事着工が近いことから地下道はエレベータの新設などは行われておらず階段での移動が必要となっています。また、ホーム端の点状ブロックについてもバリアフリーに関して関心の低かった時代に設置されたものであることから、狭い間隔で建つ柱を避ける形で右へ左へ蛇行しています(愛宕駅も同様)。この点状ブロックの設置方法は現在では悪い例の最たるものとされており、高架化までにはまだ時間がかかることから早急な改修が必要です。


左:野田市駅の駅舎。手前は駅前広場予定地で、用地買収は既に完了している。
右:ホーム同士を結ぶ地下道。建設が古く、エレベータなどのバリアフリー設備はない。
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●野田市~梅郷間



左:野田市駅のホーム端から梅郷駅方面を見る。電車の先頭車両の手前にあるのが主要地方道野田牛久線の踏切。
中:下り列車の前面展望。高架化区間は奥に見える陸橋の直前まで。
右:陸橋を過ぎると複線となる。
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野田市駅を出ると線路は再び単線となります。高架化区間は野田市駅を出てもしばらく続き、既に陸橋により立体交差化されている都市計画道路中根山崎線の手前で地上へ降ります。ここまでの仮線用地は現在線の東側に確保されており、ほぼ全区間の用地買収が完了しています。
陸橋を過ぎると線路は2本にわかれ、以後梅郷駅まで複線となります。この部分の複線化は2011(平成23)年4月に実施されたもので、言いかえれば高架化工事の範囲に入らない区間を複線化したということになります。
■新型車両導入も発表・・・変わる野田線
東武野田線はこれまで郊外のローカル線として冷遇されてきましたが、今年4月に発表された東武鉄道の今年度の設備投資計画の中に異例ともいえる新型車両の直接導入が盛り込まれるなど、これまでとは少し違った扱いが見られるようになってきています。前記した通り、今回の高架化対象区間の設備は老朽化が激しく、バリアフリーにも未対応であるといった問題を抱えていますが、野田線には他にもバリアフリー未対応の駅が複数存在します。国土交通省の指針では利用者数が5千人以上の駅ではバリアフリー化を実施するべきとされており、早急な改修が必要となっています。
去る5月22日にオープンした東京スカイツリーは早くも入場者数が100万人を超え、東武鉄道の経営を支える柱の1つとして着実に機能し始めています。今後はこの優良資産により得た効果を本業である鉄道事業にも振り分け、21世紀の公共交通機関として相応しい形に整備していくことが東武鉄道に与えられた使命であると筆者は考えます。
▼参考
2012年度の鉄道事業設備投資計画設備投資計画は総額296億円 - 東武鉄道ニュースリリース(PDF)
鉄道高架事業について - 野田市
▼関連記事
東武野田線(2007年6月12日作成)
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