東武野田線高架化工事(2021~2023年取材)

高架化された愛宕駅に停車中の60000系

コロナ禍によりレポートが止まってしまっていた案件の2つ目です。東武アーバンパークライン(東武野田線)清水公園~梅郷間では、2007年から高架化工事が進められてきました。途中予算不足による工事の停滞といった試練を乗り越え、2021年3月にようやく工事区間全体の高架化が実現しました。高架化完了後は野田市駅の2面4線化を中心に工事が継続されています。今回は2021年4月の高架化完了直後から何度か調査してきた現地の様子をまとめます。

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東武野田線高架化工事(2020年10月2日取材)(2020年11月7日作成)
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東武野田線の概要と清水公園~梅郷間高架化工事

船橋駅に掲出されていた柏~船橋間の急行運転開始PRポスター 複線化に合わせてホームが2面4線化された高柳駅
左:船橋駅に掲出されていた柏~船橋間の急行運転開始PRポスター
右:複線化に合わせてホームが2面4線化された高柳駅
上:船橋駅に掲出されていた柏~船橋間の急行運転開始PRポスター
下:複線化に合わせてホームが2面4線化された高柳駅

 東武野田線は埼玉県さいたま市の大宮駅を起点とし、春日部、野田、流山、柏、鎌ヶ谷の各市を経由して千葉県船橋市の船橋駅に至る全長62.7kmの民鉄線です。2014(平成26)年4月1日より、イメージアップを目的に「東武アーバンパークライン」の愛称名が付与されています。
 当路線は首都圏外延部を半環状に走行する路線環境ゆえに、単線区間が多く残り、主要路線で使い古された車両が回されるなど長らく冷遇されてきました。転機が訪れたのは2013(平成25)年以降で、史上初の直接投入の新車となる60000系が登場したのをはじめ、2020(令和2)年春には柏~船橋間の全線複線化が完成し、大宮~船橋間全線での急行運転が開始されました。これにより、柏~船橋間の所要時間は従来より10分短縮という驚異的なスピードアップが実現するなど、目覚ましい進歩を遂げつつあります。

東武野田線高架化区間の位置
東武野田線高架化区間の位置
※国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「淡色地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆


 東武鉄道によるこれらのサービスアップに加えて、2007(平成19)年以降は千葉県が事業主体となり清水公園~梅郷間で連続立体交差事業(高架化)が進められてきました。この事業は野田線の清水公園駅南側から野田市~梅郷間にある都市計画道路中根山崎線(平成やよい通り・陸橋)までの約2.9kmを高架化するもので、主要地方道つくば野田線(愛宕駅付近)や主要地方道野田牛久線(野田市駅付近)をはじめとする11か所の踏切が解消されます。また、高架化区間内にある愛宕駅・野田市駅では構内にエレベーターが新設され、バリアフリー化が実現します。

仮線用地の確保が完了したものの、予算不足により工事がストップしていた愛宕駅。しばらく人や重機が通行していないため、地面には雑草が繁茂していた。
仮線用地の確保が完了したものの、予算不足により工事がストップしていた愛宕駅。しばらく人や重機が通行していないため、地面には雑草が繁茂していた。2016年10月10日撮影

 野田市内の高架化は当初2017(平成29)年度の完成が予定されており、それに備えて愛宕駅周辺では仮線用地確保を兼ねた区画整理事業を完了させていました。しかし、肝心の高架橋本体の建設やそれに必要となる仮線敷設が遅々として進まず、完成が2023(令和5)年度へ6年も延期されることとなりました。このように工事が予定通り進まなかったのは大幅な予算不足が理由です。
 野田市内の高架化事業の総事業費は、2007年から10年間で約353億円が予定されており、千葉県や国に対してもそれに見合う予算要求を行ってきました。しかし、2015年までの8年間で実際に執行された金額はそれを大幅に下回る45億円に留まり、工事が計画通り進まない事態となりました。野田市は2003年に関宿町と合併しており、高架化の事業費のうち野田市の負担分に関しては合併特例債※1の制度を使って資金を調達することを計画していました。合併特例債の利用期間は市町村合併後20年(2023年まで)と定められていることから、このまま資金不足が続くと特例債の期限内に工事が完成しないことが危惧されました。
 そのような事態を回避するべく、野田市では2016年以降国や県に対し高架化工事の予算増額を強力に求め、翌年以降はようやく要求通りに予算が執行されるようになりました。これにより一時ストップしていた工事も再始動し、事業開始から14年目となる2021(令和3)年3月28日に工事区間の高架化が実現しました。

▼脚注
※1:合併特例債:市町村の合併後に必要となる公共施設の整備などに使える債務。対象となる事業費の95%までをこの債務で賄うことができ、債務のうち7割を地方交付税の形で国が肩代わりして償還する。市町村合併促進に向けた実質的な補助金制度。当初は合併後15年間を期限としていたが、東日本大震災をはじめとする大規模災害の影響を考慮し、20年間に延長された。




高架化された各駅の様子

2021年の高架化後は諸事情により一度も弊サイトではレポートを作成していなかったため、今回は対象区間全体について現地の様子を解説します。調査日は2021年4月24日、2021年9月22日(愛宕駅)、2022年3月31日(野田市駅)、2023年2月17日(野田市駅)の4回です。

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清水公園駅

清水公園駅のホームから柏方面の高架橋取り付け部分を見る。本来の位置より右側に寄せて敷設しているため、ホームの一部を拡幅・削っている。
清水公園駅のホームから柏方面の高架橋取り付け部分を見る。本来の位置より右側に寄せて敷設しているため、ホームの一部を拡幅・削っている。2021年4月24日撮影

 清水公園駅は上り線(春日部・大宮方面)側が片面ホーム(1番線)、下り線(柏・船橋方面)側が島式ホーム(2・3番線)の2面3線のレイアウトです。高架化区間は清水公園駅の柏寄りの端から始まっており、2021年3月の高架化までは仮線の位置に合わせて1番線を使用停止にしていました。高架化後は線路が元の位置に戻ったため、1番線の使用を再開し、代わりに3番線が使用停止となりました。
 この高架橋へ向かう接続部分は、地上に残っている線路を避けるため本来の位置よりも西にオフセットして線路を敷設しており、清水公園駅のホーム端の一部を拡幅・撤去しています。現在はこの接続部分の盛土を拡幅する工事が進められており、2023年度中に工事が完了する予定となっています。完成後はポイントを増設して3番線の使用を再開する予定です。なお、取り付け部分にあった踏切については現在迂回路を築造中となっており、2024年3月まで長期通行止めの扱いとなっています。

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愛宕駅

西口から見た愛宕駅。手前は駅前広場予定地。 東口から見た愛宕駅。仮地上ホームの撤去が完了したことから、跡地を横断する東口(右手前)が新設された。
左:西口から見た愛宕駅。手前は駅前広場予定地。2021年4月24日撮影
右:東口から見た愛宕駅。仮地上ホームの撤去が完了したことから、跡地を横断する東口(右手前)が新設された。2022年9月22日撮影
上:西口から見た愛宕駅。手前は駅前広場予定地。2021年4月24日撮影
下:東口から見た愛宕駅。仮地上ホームの撤去が完了したことから、跡地を横断する東口(右手前)が新設された。2022年9月22日撮影

 地上時代の愛宕駅は、対向式ホーム2面2線でした。高架化工事中は東側の駅前広場予定地の一部に仮設ホームを設置していました。
 高架化後の愛宕駅は地上時代と同じ対向式ホーム2面2線となりました。駅の外観は、近隣を流れる江戸川を行く高瀬船をイメージしており、1階のコンコース部分は船底の形をした茶色いパネル、2階のホーム部分は帆船の帆をイメージさせる白色の大きなパネルとなっています。

愛宕駅の改札口。天井は船底をイメージした形状となっている。 改札口を入った先のコンコース。
左:愛宕駅の改札口。天井は船底をイメージした形状となっている。
右:改札口を入った先のコンコース。2021年4月24日撮影
上:愛宕駅の改札口。天井は船底をイメージした形状となっている。
下:改札口を入った先のコンコース。2021年4月24日撮影

 愛宕駅の改札口は地上時代とは異なりホーム中央付近の直下に設けられており、そこから東西に出入口の通路が伸びています。高架化直後の東口は旧仮設ホームの一部を通路として使用していましたが、仮設ホームの撤去が進んだことから2021年6月24日以降直接駅前広場に出られるようになっています。改札口付近も天井が船底型になっており、照明は形状が変わる境目に配することで明るさを抑えたデザインとなっています。

愛宕駅のホーム。近年高架化された駅の標準的なデザイン。
ホームと改札口をつなぐエスカレーター。上下とも1人幅。
駅の両端は将来の複線化を考慮した線形になっている。
左:愛宕駅のホーム。近年高架化された駅の標準的なデザイン。
右上:ホームと改札口をつなぐエスカレーター。上下とも1人幅。
右下:駅の両端は将来の複線化を考慮した線形になっている。2021年4月24日撮影
上:愛宕駅のホーム。近年高架化された駅の標準的なデザイン。
中:ホームと改札口をつなぐエスカレーター。上下とも1人幅。
下:駅の両端は将来の複線化を考慮した線形になっている。2021年4月24日撮影

 2階のホームはアスファルト舗装の床面に波型の金属板の屋根という一般的な構成です。1階の改札口との間にはエスカレーターやエレベーターも完備され、バリアフリー化が実現しました。
 先述の通り、野田線では現在も単線区間の複線化が継続していますが、連続立体交差事業と複線化は資金調達のシステムが異なるため、今回は単線のままでの高架化となりました。愛宕駅前後は上下線が同じ角度で分岐する両開きポイントで敷設されていますが、高架橋自体は上り線側が直線にできるような形状で作られています。また、ポイント周囲の線路は直線に戻る部分までバラスト軌道で敷設されており、明らかに将来の複線化を意識した設計となっていることがわかります。現在のところ野田線複線化の追加発表はされていませんが、今回高架化された区間以外も含め多数の準備構造が見られることから、長期計画として春日部~運河間の完全複線化も考えている模様です。

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野田市駅

野田市駅の高架駅舎。左側では駅前広場の工事が始まっている。 高架下の駅入口はレンガアーチ風のデザインとなっている。
左:野田市駅の高架駅舎。左側では駅前広場の工事が始まっている。2023年2月17日撮影
右:高架下の駅入口はレンガアーチ風のデザインとなっている。2021年4月24日撮影
上:野田市駅の高架駅舎。左側では駅前広場の工事が始まっている。2023年2月17日撮影
下:高架下の駅入口はレンガアーチ風のデザインとなっている。2021年4月24日撮影

 地上時代の野田市駅は駅舎と直結した上り線の片面ホームと、下り線の島式ホームの2面3線でした。当駅周辺にはキッコーマン野田工場があり、東武野田線経由で貨物輸送を行なっていたことから構内が広く、そのスペースを利用して保守機材用の基地が設けられていました。
 高架化後の野田市駅は島式ホーム2面4線となり、地上時代と同じく折り返しや追い抜きが可能となります。駅舎は高架化工事着工まであった昭和初期建設の旧駅舎のイメージを継承しており、1階のコンコース部分はレンガ調の連続アーチ、2階のホーム部分は旧駅舎の象徴である三角屋根がデザインされています。

高架化された野田市駅。右側は今後下りホームが増設される。
駅の両端には下りホームへの向けて分岐するポイントが敷設済み。
高架下のコンコースは未完成
左:高架化された野田市駅。右側は今後下りホームが増設される。
右上:駅の両端には下りホームへの向けて分岐するポイントが敷設済み。
右下:高架下のコンコースは未完成。2021年4月24日撮影
上:高架化された野田市駅。右側は今後下りホームが増設される。
中:駅の両端には下りホームへの向けて分岐するポイントが敷設済みとなっている。
下:高架下のコンコースは未完成。2021年4月24日撮影

 2021年3月の高架化時点では、下りホームの予定地に地上時代のホームが残っているため、上り線ホームの1面のみが使用が開始されています。下りホームの完成まではそれほど時間がかからない予定であるため、駅の両端には下りホームへ入線するためのポイントが敷設済みとなっています。高架下のコンコースについてもほとんどが未完成となっているため、改札口は地上時代に使用していた仮設駅舎をそのまま使用しています。

野田市駅下りホームの建設状況(2022年3月31日) 野田市駅下りホームの建設状況(2023年2月17日)
野田市駅下りホームの建設状況。左が2022年3月31日、右が2023年2月17日。
野田市駅下りホームの建設状況。左が2022年3月31日、右が2023年2月17日。

 高架化後は突貫工事で地上ホームの撤去が行われ、同年末以降は下りホームの高架橋建設が本格化しています。現在はホームの床面までは完成し、屋根の設置が進められています。また、地上の駅舎横では駅前広場の工事も開始されています。

野田市駅高架化前配線
野田市駅高架化後配線。保守機材線の一部は七光台へ機能を移転し、設置中止となった。
野田市駅の高架化前(上)と高架化後(下)の配線比較。保守機材線の一部は七光台へ機能を移転し、設置中止となった。

 なお、高架化着工前の計画では野田市駅構内にあった保守機材用の基地についても高架化することになっており、下りホームに隣接する1線に加えて、春日部寄りにも2線機材用の留置線が設置される計画となっていました。しかし、当駅から春日部方面に2駅隣の七光台駅構内にある車両基地周辺で道路整備が進んだことから、野田市駅から搬入していた資材をそちらで搬入することが可能となりました。そこで、当駅の保守基地の機能の一部を七光台駅へ移転し、代わりに当駅春日部寄りに計画されていた機材線2線の設置を取りやめることになりました。これにより約9,000万円※2のコストダウンが可能となる見込みです。

▼脚注
※2:野田市駅の高架橋新設とりやめにより-6.8億円、七光台駅への保守基地移転により+5.9億円


下り列車から見た野田市~梅郷間の地上接続地点。線路が直線に戻った。
下り列車から見た野田市~梅郷間の地上接続地点。線路が直線に戻った。2021年4月24日撮影

 野田市駅の先で線路は地上へ戻ります。高架線は着工前に線路があった位置に敷設されており、S字にカーブしていた線路が直線に戻りました。写真は2021年に撮影したもので、地上ホームへ通じていた線路が残っていますが、現在は撤去が完了しています。

完成は3年延期、コストも大幅増

 昨年12月21日に千葉県県土整備部道路整備課より、東武野田線連続立体交差事業の再評価データが発表されました。これにより、本事業の完成が2026(令和8)年度へ約3年延期されること、事業費についても約442億円へ約89億円の増加となることが明らかとなりました。
 事業期間の延長は、工事の過程で判明した軟弱地盤対策に時間を要したことや、高架線への切り替えを優先したため、愛宕駅を中心に高架化後も継続する工事が多いことが理由となっています。また事業費については、上記の軟弱地盤対策に加えて、工事期間中の近隣への騒音・振動被害低減のため低騒音の工法に変更したこと、昨今の建設費・資材費の大幅な高騰が増加の理由となっています。
 野田市駅の工事の状況から、高架橋本体の工事については当初計画通り2023年度中の完成が確実となっています。一方周辺整備についてはしばらく時間を要するものと思われ、今後も様々な変化が見られると期待されます。引き続き調査を継続してまいります。

▼参考
高架化工事他の現状|東武鉄道公式サイト
東武野田線(野田市)の連続立体交差事業について/千葉県
令和4年度第2回千葉県県土整備公共事業評価審議会の開催結果/千葉県
→3番目に東武野田線連続立体交差事業の再々評価データ
公共交通(鉄道・バス)|野田市ホームページ
→「鉄道高架事業」に東武野田線高架化事業に関する情報

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東武野田線高架化工事(2020年10月2日取材)(2020年11月7日作成)
東武野田線高架化工事(2014年11月29日取材)(2015年1月18日作成)
東武野田線高架化工事(2012年7月28日取材)(2012年8月10日作成)
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