カテゴリ:鉄道:建設・工事
西武新宿線中井~野方間地下化工事(2014年11月24日取材)
公開日:2015年04月02日22:22

大変お待たせいたしました。
コミケットスペシャル6はおかげさまで大盛況のうちに終了いたしました。これにより当面の間スケジュールに余裕ができましたので、ブログサイト本体の方の更新を再開いたします。
更新再開1記事目の今回は、昨年11月に調査した西武新宿線中井~野方間の地下化工事についてお伝えします。調査から半年近くが経過してしまったため、現状と異なる点が多々あると予想されます。参考程度と考えて頂ければと思います。
西武新宿線の連続立体交差事業の歴史


西武新宿線の通勤電車の主力車両2000系(左・1)と特急「小江戸」に使用される10000系(右・2)。2007年5月4日、小平駅で撮影
西武新宿線は、JR新宿駅から北に400mほど離れた西武新宿駅を起点に、中央線の北側3kmをほぼ西に進み、小平市からは北に進路を変えて埼玉県の本川越駅に至る、全長47.5kmの西武鉄道の路線(民鉄線)です。東京都心と、東京都西部の住宅地を結ぶ通勤路線である他に、伝統的建築物が残る川越への観光路線としての性格も持っており、各駅停車・準急・急行の3種類の通勤列車に加え、座席指定制の有料特急「小江戸」が毎時1~3本運行されています。
西武新宿線のうち、東京都心の区部を走行する区間は都内の他の地域と同様人口密度が高く、道路と交差する地点では1時間に最大で40~50分閉まったままとなる「開かずの踏切」による地域の分断などが大きな問題となっていました。この解決策として、昭和末期より地下化を基本とする連続立体交差事業が検討されてきました。
昭和60年代に検討された最初の計画は、西武新宿駅から上石神井駅までの間で現在線の直下に線増線を建設、複々線化を行うというものでした。この複々線化計画は、1993(平成5)年に都市計画決定が行われ、西武鉄道でも特定都市鉄道整備積立金制度を利用した事業費の調達も開始していました。しかし、同時期に到来したバブル経済崩壊と乗客数の減少、地下水対策によるコスト増大等が発生し、2年後に中止が決定、積立金も一時的な運賃値下げにより返還されるなど完全に頓挫してしまいました。

西武新宿線と中野通りが交差する新井薬師前2号踏切。春は街路樹の桜が見事な花を咲かせることで有名。
続いて1997(平成9)年には代案として、中野区と西武鉄道の間で特に渋滞の激しい新井薬師前~沼袋間にある新井薬師前2号踏切(中野通り)について、道路のアンダーパス化による単独の立体化が検討されました。しかし、中野通りの有名な桜並木が失われることから、周辺住民の同意が得られず、またしても計画は撤回されてしまいました。
その後しばらく計画は進展を見せませんでしたが、2005(平成17)年3月に足立区の東武伊勢崎線竹ノ塚駅で手動式踏切の誤操作により通行人が列車に撥ねられ死傷する事故が発生し、開かずの踏切による危険性が一気に注目を浴びるようになりました。これに呼応して中野区では、地域住民と西武新宿線の連続立体交差化に関する勉強会を設立するとともに、東京都と連携し国に対し連続立体交差事業の新規着工準備採択を求める要望を行いました。その結果、2007(平成19)年12月に西武新宿線中井~野方間について、連続立体交差事業の新規着工準備採択が認定されました。さらに翌年、東京都では鉄道立体化検討対象区間として20箇所を選定し、うち7箇所を事業候補区間として具体的な検討を進めていくことを決定しました。7箇所の内訳は以下の通りです。
1:JR埼京線十条駅付近(現在都市計画決定に向けた準備中)
2:京王電鉄京王線代田橋~八幡山間(対象区間をつつじヶ丘まで延長し現在着工準備中)
3:京成電鉄京成本線京成高砂~江戸川間
4:西武鉄道新宿線中井~野方間(着工)
5:西武鉄道新宿線野方~井荻間
6:西武鉄道新宿線井荻~東伏見間
7:西武鉄道新宿線東村山駅付近(まもなく着工)
その後は環境アセスメント、都市計画決定、用地買収等の手続きが順調に進められ、2013(平成25)年4月、ついにこの区間の連続立体交差事業が着工しました。
西武新宿線中井~野方間連続立体交差事業の概要
※Googleマップの仕様が変更になりました。地図を別ウィンドウで拡大表示したい場合は右上のフレームアイコンをクリック(タップ)してください。
西武新宿線中井~野方間連続立体交差事業の事業区間は、中井~新井薬師前間にある第三妙正寺川橋梁※1付近から野方駅直前までの約2354mです。全区間地下化で計画されており、途中にある新井薬師前駅と沼袋駅についても地下化されます。これにより区間内にある7箇所の踏切が解消されます。

西武池袋線中井~野方間の縦断面図
※クリックで拡大(PNG/1200×400px/31KB)
トンネルは駅間が上下線別の単線シールド工法、駅部分が箱型の開削工法※2となり、駅のホームはいずれも島式で有効長は8両編成対応の170mとなります。シールドトンネルについては、コスト低減のためシールドマシンを上下線1機ずつ製作し、新井薬師前駅手前から発進したシールドマシンが、新井薬師前・沼袋の各駅を通過して野方駅手前までの駅間トンネル3区間(計6本)を一気に掘削する計画です。また、新井薬師前駅構内は急カーブとなっており、通過列車の高速化の
総事業費は約726億円で、完成は東京オリンピックが開催される2020(平成32)年度を予定しています。
▼脚注
※1:妙正寺川は大きく蛇行しながら西武新宿線と並行して流れているため、下落合~中井(第二)、中井~新井薬師前(第三)、新井薬師前~沼袋(第四)の3箇所で交差している。(かつては高田馬場~下落合間(第一)でも交差していたが、神田川合流部の洪水対策を目的とした流路変更により現存しない。)
※2:初期の計画では、駅は線路部分のみシールド工法で建設することも検討されていた。
現地は掘削の準備作業が進行中(2014年11月24日取材)
2013年の着工以降、現地では掘削に向けた準備作業が進められています。今回は、専門誌の記事で明らかになっている各地点の詳細計画とともに現地の様子を見てまいりたいと思います。
●中井~新井薬師前間


左(1):中井~新井薬師前間にある中井5号踏切。この踏切は地下化後も残る予定。
右(2):新井薬師前駅方向を見る。20‰前後の急勾配になっている。
中井~新井薬師前間は、第三妙正寺川橋梁を過ぎると20パーミル前後の急勾配で台地上にある新井薬師前駅まで上昇する線形となっています。地下線の入口はこの上り勾配を利用して新設されます。坑口は現在線の直下に設けられることから、将来の切替時は京王線調布駅の地下化時や東急東横線代官山駅付近の地下化時と同様に、地上線を仮設桁化しておき、切替当日に桁をジャッキダウン・ジャッキアップすることで一晩で工事を完了させる計画です。なお、第三妙正寺川橋梁のすぐ先には中井5号踏切がありますが、この踏切は地下化の対象ではなく、今後も残される予定です。

軌道がわずかに移設された中井7号踏切付近。踏切から西武新宿方面を見たところで、上下線とも左側に1mほど軌道を寄せている。
新井薬師前駅手前にある中井7号踏切付近では、地下掘削に向けた土留め壁の打ち込み準備のため、昨年9月~10月にかけて上下線の軌道が北側に1mほど移設されました。移設範囲は現状の用地内で完結しているため、列車内からではほとんどわかりません。南側の土留め壁の構築完了後は、軌道を逆側に再移設して北側についても土留め壁の構築が行われます。
●新井薬師前駅


新井薬師前駅の駅舎とホーム
新井薬師前駅は、対向式ホーム2面2線で、上下線ともに本川越方のホーム端に駅舎があるレイアウトとなっています。双方のホームは跨線橋で連絡されています。駅構内は半径300mの急カーブとなっており、通過列車は下り線は45km/h、上り線は60km/hまで減速します。

新井薬師前駅の地下化後の断面図
※クリックで拡大(PNG/1400×1050px/106KB)
地下化後の新井薬師前駅は地下2層構造となり、ホームは島式ホーム1面2線となる予定です。また、上述の通り現行の線形では通過列車の高速化の大きな妨げになっていることから、地下化に合わせて線路を全体的に北側に移設してカーブ区間を駅の前後に延長し、半径を500mまで拡大する計画となっています。
新井薬師前駅構内は現在のところ工事は行われていません。
●新井薬師前~沼袋間


左(1):新井薬師前~沼袋間で交差する中野通りの踏切(新井薬師前2号踏切)から西武新宿方面を見る。
右(2):同じ踏切から本川越方面を見る。奥の赤く点灯している信号機が沼袋駅の場内信号機。
新井薬師前~沼袋間はほぼ直線で、第四妙正寺川橋梁付近まで若干の下り勾配になる線形になっています。この区間は全てシールド工法によりトンネルが建設されるため、現在のところ地上では特に工事は行われていません。


左(1):新井薬師前~沼袋間で交差する第四妙正寺川橋梁。
右(2):第四妙正寺川橋梁と妙正寺川河床の受け替えのイメージ。
途中交差する第四妙正寺川橋梁は、橋台と河床が一体になったコンクリートの構造物になっており、河床の下にはコンクリート製の杭が複数本打ちこまれています。シールドトンネルは河床の下5mの位置を通過するため、この杭がシールドトンネルの断面に重なっており、撤去が必要となっています。計画では、現在の橋台の外側に仮設の橋台を設置して橋梁の重量を受け替え、河床の下にある杭はシールドマシンが直接切削して支障する部分のみ撤去することになっています。従って、トンネル完成後は河床や護岸のコンクリートはトンネルの天井により支持されることになります。
●沼袋駅


沼袋駅の駅舎とホーム。駅構内は工事が始まっており、重機が乗り入れられるよう軌道上に木材が敷き詰められている。
沼袋駅は対向式ホーム2面2線の内側に上下線1線ずつ通過線が挟まるレイアウトになっています。駅舎は新井薬師前駅と同様本川越寄りのホーム端にあり、双方のホームが跨線橋で連絡されている点も同一です。

沼袋駅の地下化後の断面図
※クリックで拡大(PNG/1200×400px/120KB)
地下化後の沼袋駅は地下2層構造になり、通過線側にもホームがある島式ホーム2面4線のレイアウトになります。工事にあたっては用地幅に余裕が無いことから、今後は2線ある通過線のうち1線を撤去して空いたスペースに下り線と下りホームを移設し、南側に作業用のスペースを確保する計画となっています。現在は駅構内で地下掘削に向けた仮設杭の打ち込み作業などが行われており、通過線の軌道上には夜間に重機がの乗り入れられるよう木材が敷き詰められています。
●沼袋~野方間


左(1):沼袋~野方間にある沼袋3号踏切。
右(2):駅間中央付近の公園に設けられた資材置き場。
沼袋~野方間は短い直線区間を挟んだS字カーブになっています。前半はシールド工法によりトンネルが建設されるため、地上での作業はありません。駅間のほぼ中央地点の南側にあった公園は工事用の資材置き場になっており、樹木の一部が伐採され白い柵で覆われています。


左(1):野方駅手前は掘削準備のため背の高い柵で覆われている。
右(2):野方駅のホーム端から西武新宿方面を見る。ここに地下線の出口が設けられる。
沼袋3号踏切手前からトンネルは開削工法となり、ほどなくして坑口が設けられ、野方駅の直前までに線路は地上まで上昇する線形になります。この付近は線路に並行して狭いながらも一応道路があるため、将来の地下線切替時は道路上にクレーン車を乗り入れ、仮設桁を直接取り去ることになっています。この付近は現在地下掘削準備が進められており、線路と道路の境目には背の高い柵が設置されています。
西武新宿線に関しては、東村山駅においても高架化工事がまもなく始まろうとしており、今年1月には施工業者が決定するなどの動きがありました。今回お伝えした中井~野方間の地下化工事と並行して、こちらについても今後調査を行ってまいりたいと思います。
▼参考
新宿線中井~野方駅間連続立体交差事業のご案内:西武鉄道Webサイト
西武新宿線沿線まちづくり | 中野区公式ホームページ
西武新宿線でも連続立体化が始まった|日経BP社 ケンプラッツ
西武新宿線中井~野方間連続立体交差事業の概要 - JREA 2014年9月号54~57ページ
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